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3学年 後期

第251話

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 柊家がオレガリオと、鷹藤家が文康と戦っている中、伸はバルタサールと別の場所で戦っていた。

「ハッ!!」

「フンッ!!」

 お互いに距離を詰めた伸とバルタサール。
 上段から振り下ろしたバルタサールの攻撃を、伸は刀で弾いて回避して距離を取る。

「どうした? このまま様子見を続ける気か?」

「そりゃお互い様だろ?」

 戦い始めてから何度も交錯をしているが、お互い攻撃が当たることはなく、全く無傷の状態だ。
 このまま続けていたら、どれだけの時間戦うことになるのか分かったものではない。
 そのことに気付いたバルタサールは、伸に向かって問いかける。
 それは同じ思いのため、伸はその問いをそのまま返した。

「こちらが本気を出さないとそっちも出さないってことか?」

 伸が本気を出さないのは、自分が本気を出さないから。
 時間をかけて得をするのは、どちらかといえば伸の方だ。
 何故なら、時間をかければ仲間となる魔闘師たちが集合してくるからだ。
 その魔闘師たちが、名門家の魔闘師たちの援護をすれば、魔人たちを倒すことは難しくないからだ。
 魔王であるバルタサール率いる魔人軍の方が不利なのは、奇襲攻撃が失敗した時点で決定しているのだ。
 バルタサールとしては、自分だけでもこの国を潰すことは問題ないと思っているため、別に焦るつもりはないが、伸との戦いを楽しむためには本気を出した方が良いのかもしれないと思い始めた。

「ならば仕方な……いっ!?」

 バルタサールが本気を出そうとしたところで、伸がいきなり襲い掛かる。
 予想外のタイミングで飛んできた伸の突きに、バルタサールは慌てて上半身を仰け反ることで回避した。

「何をする!?」

 自分が本気を出さないと伸が本気を出さない。
 そう判断したから本気を出そうとしたというのに、それをさせる暇を与えないかのように攻撃してきたため、バルタサールは伸に抗議の声を上げる。

「いや、お前変身する気だろ?」

「……そうだ」


 抗議の言葉に対して伸は真面目な顔で問いかけると、バルタサールが返答する。
 バルタサールの本気といったら、魔人にとっての本気と言うことになる。
 そうなると、魔物の本性を出した姿へと変身するということだ。

「面倒になりそうなのに、変身させるわけにはいかないだろ?」

「……なるほど」

 そもそも、バルタサールに本気を出されるのは、伸にとっては迷惑な話し、その変身した姿が、場合によっては自分が不利になるかもしれない。
 これまで多くの魔物と戦ってきた経験があるため、自分にとって不利な状況と言うのがあるのか不確かだが、未知の相手ならばどうなるか分からない。
 そうならないためには、変身させないことが一番の解決策だと伸は判断した。
 そのことを告げると、バルタサールは納得したらしく頷いた。

「しかし……」


 伸の言いたいことは分かった。
 たしかに、伸の立場なら変身されて不利な状況になるようなリスクは控えたい。
 立場が同じなら、自分も同じようにしていたかもしれないとバルタサールは思った。
 ただ、伸は当然ながら自分のことを理解していない。
 阻止しようとしても無駄だということを……。

「…………?」

「フンッ!!」

「っっっ!?」

 途中で言葉を止めたことに伸が首を傾げていると、バルタサールは一瞬にして肉体を変化させる。
 あまりにもあっという間だったため、伸はそれを止めることができなかった。

「他の魔人と一緒にされては困るな」

「……ハハッ! なるほど……」

 他の魔人なら変身するのに少しの時間を要するかもしれないが、そんな隙を作るようなことに対策をしないわけがない。
 曲がりなりにも、自分は魔王を名乗っているのだから。
 バルタサールがそのことを告げるように話しかけると、伸は乾いた笑いをするしかなかった。
 変身したバルタサールの姿は、魔物の中でも鬼の一種。
 肌は赤黒く、頭には二本の角が生えている。
 少し大きめのゴブリンとも言えるかもしれないが、僅かに体外へ漏れている魔力は、伸でも寒気のするような雰囲気を醸し出している。

『これで援軍は期待できないな……』

 そこいらの魔闘師がバルタサールから漏れ出るこの魔力に触れでもしたら、恐怖で全く動けなくなるだろう。
 つまり、時間稼ぎをして魔闘師の援軍を待ち、数の力で仕留めようとしても、この魔力を前には何もできないただの足手まといが増えるだけになってしまう。
 そのため、伸は援軍を期待するような戦いができないことを悟った。

「援軍は期待できないな? に……」

「……あぁ、そうだな……」

 バルタサールの言葉に、伸は少しの間考える。
 そして、その意味を理解した。
 バルタサールの魔力によって動けなくなるのは、人間だけではない。
 オレガリオ以外の魔人も、恐らく何もできなくなるだろう。
 つまり、伸が人間の援軍を期待できないように、バルタサールも仲間の援護を期待することができないのだ。

「戦えるのはお前だけだ! 全力でかかって来い! 新田伸!」

「……ハァ~、分かったよ……」

 バルタサールが言うように戦える人間は、恐怖で動けなくなるようなことのない自分しかいない。
 危険なことは間違いないが、他にいないのだから仕方がない。
 嫌々ながらも決意を決めた伸は、バルタサールと本気で戦うことにした。

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