上 下
251 / 281
3学年 後期

第250話

しおりを挟む
 パワーアップを計り、魔石を飲み込んだ文康。
 その変化はすぐに訪れる。

「フフッ!! ガーハッハッ!!」

 自身の変化を確認した文康は、嬉しそうに笑い声をあげる。

「何だと……!!」

「なんて魔力だ!!」

 オレガリオとは違い、文康のパワーアップは成功したようだ。
 康義や康則が言うように、魔力が膨れ上がったのだ。

「これだけの魔力があれば、ジジイになんて負けるわけがねえ!!」

「……くっ!」

 これまで以上の量の禍々しい魔力を身に纏い、文康は上機嫌に話す。
 そんな文康を見つめる義康は、危険な魔力に当てられたのか、顔色が優れない。

「ハッ!!」

「っっっ!!」

 パワーアップによって膨れ上がった魔力で身体強化をした文康は地を蹴り、康義との距離を一気に詰める。
 これまで以上の速度で距離を詰めた文康は、康義に向かって突きを放つ。
 その攻撃を、康義はギリギリのところで躱す。
 目の前を通り抜けた刀の音から判断するに、相当な威力を含んでいることは容易に想像できる。
 もしも直撃したらと、康義は思わず嫌なイメージが頭に浮かんでいた。

「おらっ!!」

「グウッ!!」

 文康は、突きを躱されただけでは止まらない。
 攻撃を躱して体勢が崩れている康義に、左拳で殴り掛かる。
 躱しきれないと判断した義康は、左の二の腕部分で受けることでダメージを最小限に抑えた。
 しかし、文康の一撃はかなり重い。
 二の腕部分で受けたにもかかわらず、ビリビリと痺れるような感覚が義康に襲い掛かった。

「オラッ!!」

「がっ!?」

 腕の痺れで僅かに動きが止まった康義に対し、文康は更に攻撃を放つ。
 右手一本で持った刀で、力任せに振り抜いたのだ。
 その攻撃を、康義も右手一本で持った刀で防ごうとする。
 魔力が増えたことで文康のパワーが上がっているため、康義では抑えきれない。
 そのため、止められようとお構いなしに振り抜いた文康の攻撃によって、康義は吹き飛ばされた。

「くっ!」

 かなりの距離を吹き飛ばされた康義は、空中で体勢を整えて着地する。
 自分で後方に飛ぶことで威力を抑えたというのに、左腕だけでなく右手まで軽く痺れる。
 それだけ、纏う魔力を増やしたことで、文康の身体能力が上昇しているということだ。

「おぉ! まさか隣の武舞台まで飛ぶとはな!」

 吹き飛んだ康義の後を追って、文康も到着する。
 その言葉通り、康義が飛ばされたのは綾愛たちがいた武舞台の隣の会場となる武舞台上だった。
 伸とバルタサールが戦っている会場の反対側だ。

「大丈夫ですか!? 父さん!」

「あぁ、ちょっと痺れているだけだ」

 文康のすぐあと、康則が到着する。
 ブラブラと手を振る父を見て、腕に怪我でも負ったのかと心配そうに問いかけると、康義は軽く首を振って返答した。

「これなら他に気を取られなくて済むな」

 先程の場所だと、離れていたとはいっても柊家の親子もいた。
 康義と康則を追い込んだ時、もしかしたら邪魔をしてくる可能性もあった。
 しかし、ここならその心配をする必要はないため、文康は笑みを浮かべて話す。

「フンッ! 少し魔力が上がったからといって調子に乗りおって……」

 魔人に、短期間でパワーアップできる方法があるとは予想外だった。
 舐めていたわけではないが、こんなことなら早々に文康を仕留めておけば良かったと思わなくはない。
 心のどこかで、魔人になったとはいえ孫を手をかけることを躊躇っていたのかもしれない。

「ハハッ!! さっきまでの威勢はどこ行った?」

『あの魔力……、心まで魔に染めているかのようだ……』

 文康の体から溢れる禍々しい魔力。
 その禍々しさにより、文康の様子まで人の道から外れて行っているように康義には見える。
 とてもではないが、普通の人間に戻ることは無理だろう。
 もしかしたらという考えもなかった訳でなかったため、康義は残念に思えてしまう。

「ハッ!!」

「っっっ!!」

 文康が人間に戻ることはない。
 そう考えると、康義の集中力が一瞬切れてしまう。
 瞬きするような一瞬でしかないその隙を、今の文康は逃さない。
 一足飛びで康義との距離を詰めてきた。
 動かすことに問題はないが、まだ手と腕の痺れは完全に治っていない。
 この状態で文康のパワーを抑え込むのは難しい。

「ハァッ!!」

「っっっ!?」

「っと!!」

 振り上げた文康の刀が振り下ろされる。
 その攻撃を康義が受け止められるか分からない。
 もしかしたら、受けとめても押し込まれ、斬り伏せられる可能性が高い。
 そんな最悪なイメージが頭に浮かぶ康義だったが、横から飛んできた魔力の斬撃により、そのような結果になる事は回避された。
 魔力の斬撃を放ったのは康則だ。
 その斬撃を躱すため、文康は刀を振り下ろすのを中断してバックステップした。

「康則……」

 魔人から人間に戻れない以上、自分の息子を殺さなければならない。
 そんなことをさせないために手を出すことを禁じていたというのに、躊躇いなく殺傷能力の高い攻撃を文康に放ってきた。
 そんな康則を、康義は「どうして?」という気持ちで見つめた。

「父さん、こいつはもう文康ではない。私も戦います!」

「そうか……」

 文康が人間に戻ることはない。
 そう康義が思ったように、康則も同じ考えに至ったようだ。
 それならば、自分の手で引導を渡してやるべきだと覚悟を決めたのだろう。
 康則のその決意に、康義は頷くしかなかった。

「クソ親父が……」

 祖父だけでなく父までも自分と戦うつもりだ。
 自分に殺意を向けてくる康則を見て、文康は不機嫌そうに呟いたのだった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

王国の女王即位を巡るレイラとカンナの双子王女姉妹バトル

ヒロワークス
ファンタジー
豊かな大国アピル国の国王は、自らの跡継ぎに悩んでいた。長男がおらず、2人の双子姉妹しかいないからだ。 しかも、その双子姉妹レイラとカンナは、2人とも王妃の美貌を引き継ぎ、学問にも武術にも優れている。 甲乙つけがたい実力を持つ2人に、国王は、相談してどちらが女王になるか決めるよう命じる。 2人の相談は決裂し、体を使った激しいバトルで決着を図ろうとするのだった。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。 そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。 その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する! 底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる! 第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

追放された最弱ハンター、最強を目指して本気出す〜実は【伝説の魔獣王】と魔法で【融合】してるので無双はじめたら、元仲間が落ちぶれていきました〜

里海慧
ファンタジー
「カイト、お前さぁ、もういらないわ」  魔力がほぼない最低ランクの最弱ハンターと罵られ、パーティーから追放されてしまったカイト。  実は、唯一使えた魔法で伝説の魔獣王リュカオンと融合していた。カイトの実力はSSSランクだったが、魔獣王と融合してると言っても信じてもらえなくて、サポートに徹していたのだ。  追放の際のあまりにもひどい仕打ちに吹っ切れたカイトは、これからは誰にも何も奪われないように、最強のハンターになると決意する。  魔獣を討伐しまくり、様々な人たちから認められていくカイト。  途中で追放されたり、裏切られたり、そんな同じ境遇の者が仲間になって、ハンターライフをより満喫していた。  一方、カイトを追放したミリオンたちは、Sランクパーティーの座からあっという間に転げ落ちていき、最後には盛大に自滅してゆくのだった。 ※ヒロインの登場は遅めです。

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...