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3学年 後期
第250話
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パワーアップを計り、魔石を飲み込んだ文康。
その変化はすぐに訪れる。
「フフッ!! ガーハッハッ!!」
自身の変化を確認した文康は、嬉しそうに笑い声をあげる。
「何だと……!!」
「なんて魔力だ!!」
オレガリオとは違い、文康のパワーアップは成功したようだ。
康義や康則が言うように、魔力が膨れ上がったのだ。
「これだけの魔力があれば、ジジイになんて負けるわけがねえ!!」
「……くっ!」
これまで以上の量の禍々しい魔力を身に纏い、文康は上機嫌に話す。
そんな文康を見つめる義康は、危険な魔力に当てられたのか、顔色が優れない。
「ハッ!!」
「っっっ!!」
パワーアップによって膨れ上がった魔力で身体強化をした文康は地を蹴り、康義との距離を一気に詰める。
これまで以上の速度で距離を詰めた文康は、康義に向かって突きを放つ。
その攻撃を、康義はギリギリのところで躱す。
目の前を通り抜けた刀の音から判断するに、相当な威力を含んでいることは容易に想像できる。
もしも直撃したらと、康義は思わず嫌なイメージが頭に浮かんでいた。
「おらっ!!」
「グウッ!!」
文康は、突きを躱されただけでは止まらない。
攻撃を躱して体勢が崩れている康義に、左拳で殴り掛かる。
躱しきれないと判断した義康は、左の二の腕部分で受けることでダメージを最小限に抑えた。
しかし、文康の一撃はかなり重い。
二の腕部分で受けたにもかかわらず、ビリビリと痺れるような感覚が義康に襲い掛かった。
「オラッ!!」
「がっ!?」
腕の痺れで僅かに動きが止まった康義に対し、文康は更に攻撃を放つ。
右手一本で持った刀で、力任せに振り抜いたのだ。
その攻撃を、康義も右手一本で持った刀で防ごうとする。
魔力が増えたことで文康のパワーが上がっているため、康義では抑えきれない。
そのため、止められようとお構いなしに振り抜いた文康の攻撃によって、康義は吹き飛ばされた。
「くっ!」
かなりの距離を吹き飛ばされた康義は、空中で体勢を整えて着地する。
自分で後方に飛ぶことで威力を抑えたというのに、左腕だけでなく右手まで軽く痺れる。
それだけ、纏う魔力を増やしたことで、文康の身体能力が上昇しているということだ。
「おぉ! まさか隣の武舞台まで飛ぶとはな!」
吹き飛んだ康義の後を追って、文康も到着する。
その言葉通り、康義が飛ばされたのは綾愛たちがいた武舞台の隣の会場となる武舞台上だった。
伸とバルタサールが戦っている会場の反対側だ。
「大丈夫ですか!? 父さん!」
「あぁ、ちょっと痺れているだけだ」
文康のすぐあと、康則が到着する。
ブラブラと手を振る父を見て、腕に怪我でも負ったのかと心配そうに問いかけると、康義は軽く首を振って返答した。
「これなら他に気を取られなくて済むな」
先程の場所だと、離れていたとはいっても柊家の親子もいた。
康義と康則を追い込んだ時、もしかしたら邪魔をしてくる可能性もあった。
しかし、ここならその心配をする必要はないため、文康は笑みを浮かべて話す。
「フンッ! 少し魔力が上がったからといって調子に乗りおって……」
魔人に、短期間でパワーアップできる方法があるとは予想外だった。
舐めていたわけではないが、こんなことなら早々に文康を仕留めておけば良かったと思わなくはない。
心のどこかで、魔人になったとはいえ孫を手をかけることを躊躇っていたのかもしれない。
「ハハッ!! さっきまでの威勢はどこ行った?」
『あの魔力……、心まで魔に染めているかのようだ……』
文康の体から溢れる禍々しい魔力。
その禍々しさにより、文康の様子まで人の道から外れて行っているように康義には見える。
とてもではないが、普通の人間に戻ることは無理だろう。
もしかしたらという考えもなかった訳でなかったため、康義は残念に思えてしまう。
「ハッ!!」
「っっっ!!」
文康が人間に戻ることはない。
そう考えると、康義の集中力が一瞬切れてしまう。
瞬きするような一瞬でしかないその隙を、今の文康は逃さない。
一足飛びで康義との距離を詰めてきた。
動かすことに問題はないが、まだ手と腕の痺れは完全に治っていない。
この状態で文康のパワーを抑え込むのは難しい。
「ハァッ!!」
「っっっ!?」
「っと!!」
振り上げた文康の刀が振り下ろされる。
その攻撃を康義が受け止められるか分からない。
もしかしたら、受けとめても押し込まれ、斬り伏せられる可能性が高い。
そんな最悪なイメージが頭に浮かぶ康義だったが、横から飛んできた魔力の斬撃により、そのような結果になる事は回避された。
魔力の斬撃を放ったのは康則だ。
その斬撃を躱すため、文康は刀を振り下ろすのを中断してバックステップした。
「康則……」
魔人から人間に戻れない以上、自分の息子を殺さなければならない。
そんなことをさせないために手を出すことを禁じていたというのに、躊躇いなく殺傷能力の高い攻撃を文康に放ってきた。
そんな康則を、康義は「どうして?」という気持ちで見つめた。
「父さん、こいつはもう文康ではない。私も戦います!」
「そうか……」
文康が人間に戻ることはない。
そう康義が思ったように、康則も同じ考えに至ったようだ。
それならば、自分の手で引導を渡してやるべきだと覚悟を決めたのだろう。
康則のその決意に、康義は頷くしかなかった。
「クソ親父が……」
祖父だけでなく父までも自分と戦うつもりだ。
自分に殺意を向けてくる康則を見て、文康は不機嫌そうに呟いたのだった。
その変化はすぐに訪れる。
「フフッ!! ガーハッハッ!!」
自身の変化を確認した文康は、嬉しそうに笑い声をあげる。
「何だと……!!」
「なんて魔力だ!!」
オレガリオとは違い、文康のパワーアップは成功したようだ。
康義や康則が言うように、魔力が膨れ上がったのだ。
「これだけの魔力があれば、ジジイになんて負けるわけがねえ!!」
「……くっ!」
これまで以上の量の禍々しい魔力を身に纏い、文康は上機嫌に話す。
そんな文康を見つめる義康は、危険な魔力に当てられたのか、顔色が優れない。
「ハッ!!」
「っっっ!!」
パワーアップによって膨れ上がった魔力で身体強化をした文康は地を蹴り、康義との距離を一気に詰める。
これまで以上の速度で距離を詰めた文康は、康義に向かって突きを放つ。
その攻撃を、康義はギリギリのところで躱す。
目の前を通り抜けた刀の音から判断するに、相当な威力を含んでいることは容易に想像できる。
もしも直撃したらと、康義は思わず嫌なイメージが頭に浮かんでいた。
「おらっ!!」
「グウッ!!」
文康は、突きを躱されただけでは止まらない。
攻撃を躱して体勢が崩れている康義に、左拳で殴り掛かる。
躱しきれないと判断した義康は、左の二の腕部分で受けることでダメージを最小限に抑えた。
しかし、文康の一撃はかなり重い。
二の腕部分で受けたにもかかわらず、ビリビリと痺れるような感覚が義康に襲い掛かった。
「オラッ!!」
「がっ!?」
腕の痺れで僅かに動きが止まった康義に対し、文康は更に攻撃を放つ。
右手一本で持った刀で、力任せに振り抜いたのだ。
その攻撃を、康義も右手一本で持った刀で防ごうとする。
魔力が増えたことで文康のパワーが上がっているため、康義では抑えきれない。
そのため、止められようとお構いなしに振り抜いた文康の攻撃によって、康義は吹き飛ばされた。
「くっ!」
かなりの距離を吹き飛ばされた康義は、空中で体勢を整えて着地する。
自分で後方に飛ぶことで威力を抑えたというのに、左腕だけでなく右手まで軽く痺れる。
それだけ、纏う魔力を増やしたことで、文康の身体能力が上昇しているということだ。
「おぉ! まさか隣の武舞台まで飛ぶとはな!」
吹き飛んだ康義の後を追って、文康も到着する。
その言葉通り、康義が飛ばされたのは綾愛たちがいた武舞台の隣の会場となる武舞台上だった。
伸とバルタサールが戦っている会場の反対側だ。
「大丈夫ですか!? 父さん!」
「あぁ、ちょっと痺れているだけだ」
文康のすぐあと、康則が到着する。
ブラブラと手を振る父を見て、腕に怪我でも負ったのかと心配そうに問いかけると、康義は軽く首を振って返答した。
「これなら他に気を取られなくて済むな」
先程の場所だと、離れていたとはいっても柊家の親子もいた。
康義と康則を追い込んだ時、もしかしたら邪魔をしてくる可能性もあった。
しかし、ここならその心配をする必要はないため、文康は笑みを浮かべて話す。
「フンッ! 少し魔力が上がったからといって調子に乗りおって……」
魔人に、短期間でパワーアップできる方法があるとは予想外だった。
舐めていたわけではないが、こんなことなら早々に文康を仕留めておけば良かったと思わなくはない。
心のどこかで、魔人になったとはいえ孫を手をかけることを躊躇っていたのかもしれない。
「ハハッ!! さっきまでの威勢はどこ行った?」
『あの魔力……、心まで魔に染めているかのようだ……』
文康の体から溢れる禍々しい魔力。
その禍々しさにより、文康の様子まで人の道から外れて行っているように康義には見える。
とてもではないが、普通の人間に戻ることは無理だろう。
もしかしたらという考えもなかった訳でなかったため、康義は残念に思えてしまう。
「ハッ!!」
「っっっ!!」
文康が人間に戻ることはない。
そう考えると、康義の集中力が一瞬切れてしまう。
瞬きするような一瞬でしかないその隙を、今の文康は逃さない。
一足飛びで康義との距離を詰めてきた。
動かすことに問題はないが、まだ手と腕の痺れは完全に治っていない。
この状態で文康のパワーを抑え込むのは難しい。
「ハァッ!!」
「っっっ!?」
「っと!!」
振り上げた文康の刀が振り下ろされる。
その攻撃を康義が受け止められるか分からない。
もしかしたら、受けとめても押し込まれ、斬り伏せられる可能性が高い。
そんな最悪なイメージが頭に浮かぶ康義だったが、横から飛んできた魔力の斬撃により、そのような結果になる事は回避された。
魔力の斬撃を放ったのは康則だ。
その斬撃を躱すため、文康は刀を振り下ろすのを中断してバックステップした。
「康則……」
魔人から人間に戻れない以上、自分の息子を殺さなければならない。
そんなことをさせないために手を出すことを禁じていたというのに、躊躇いなく殺傷能力の高い攻撃を文康に放ってきた。
そんな康則を、康義は「どうして?」という気持ちで見つめた。
「父さん、こいつはもう文康ではない。私も戦います!」
「そうか……」
文康が人間に戻ることはない。
そう康義が思ったように、康則も同じ考えに至ったようだ。
それならば、自分の手で引導を渡してやるべきだと覚悟を決めたのだろう。
康則のその決意に、康義は頷くしかなかった。
「クソ親父が……」
祖父だけでなく父までも自分と戦うつもりだ。
自分に殺意を向けてくる康則を見て、文康は不機嫌そうに呟いたのだった。
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