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3学年 後期
第243話
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「まぁ、魔力が無い者は鷹藤家の人間ではないって考えなのは分かるけど、一生あんなところに閉じ込められるなんて考えたら、脱走するのも当然だろうな」
鷹藤家の人間は、大和皇国においてトップに立つ一族だ。
そのため、その家に生まれたからには強さが求められる。
そんな一族の中に魔力のない人間が生まれれば、ブランドイメージを崩さないためにも秘匿したいと思うのも分からなくはない。
しかし、人間1人をいつまでも隠し通せるわけがない。
閉じ込められていた人間だって感情のある人間だ。
いつまでもそんな状況にいることに耐えられず、抜け出そうとするのも当然だ。
「俺もオレガリオに連れ出してもらえて良かったかもな……」
「……何っ!?」
魔人のオレガリオに攫われ、自分たちがどれほど心配したと思っているのか。
それなのに、当の本人である文康が攫われて良かったなんて聞き捨てならない。
攫われたことで魔人に成り下がったというのに、何が良かったというのだ。
「あのままあそこに居たら、俺も密かに始末されていたかもしれないからな」
「……えっ?」
文康のまさかの発言に、康則は驚きの声を上げる。
犯罪を犯し、鷹藤家の名前を汚した文康のことは許せない。
だからと言って、命を奪うようなことはしない。
しかし、文康の言いようだと、父の康義は自分にとって叔父である者のことを始末したということになる。
そこまで非情なことをしたのかと、康則は真偽を求めるため康義に顔を向けた。
「そんなことするわけなだろ!!」
疑いの目を向ける康則に対し、康義は完全に否定する。
たしかに、父は魔力が無い弟の義光を離れに閉じ込めていたが、手にかけるようなことはするはずがない。
「だって、その逃げ出した大叔父。分家の者を使って探させたけど、結局見つけ出せなかったって話じゃないか。きっと曾爺さんは密かに始末するように言たんだろ?」
「父はそんなこと言っていない!! むしろ、魔力が無いのに家を出てどうするつもりなのか弟の心配ばかりしていた!!」
鷹藤家の名のために、父が義光を閉じ込めていたのは事実だ。
しかし、それは義光を守るためでもあった。
この国の魔闘師業界のトップに立つために、昔の鷹藤家は多少強引な手法を取って他家を陥れたりもしたという話だ。
その分、恨みを買っている。
そんな人間からしたら、義光のような魔力無しの人間なんて恰好の標的だ。
鷹藤家から出ることは、義光には危険すぎる。
そうならないために、父は義光を家から出さないようにしていたのだ。
「でも、分家の連中は分かんないだろ? 変な忖度したかもよ?」
「それは……」
義光のことを知っているのは本家の者と分家の者だけだ。
その分家の中には、義光の存在を良く思っていない者もいたため、文康の言うように、義光のことを見つけ出した分家の者が人知れず始末したという可能性は絶対にないとは言い切れない。
そのため、康義は強く否定することができなかった。
「まぁ、人知れずどっかで魔物に殺されたって可能性もあるけどな……」
魔力が無い人間が魔物と遭遇した場合、弱い相手でも大怪我をする可能性が高い。
剣の稽古はしていたという話だが、所詮魔力が無ければ意味がない。
そのため、魔物に殺されて、捜索に当たった者たちが見つけられなかったという話が一番近い真実かもしれないと、文康はヘラヘラしながら呟いた。
「どっちにしろ、そう追い込んだのは鷹藤家。そして、兄でありながら弟を救えなかったあんたのせいだ!」
「………まれ」
捜索隊を出しても、結局義光を見つけだすことはできなかった。
父が危惧していたように、家を出た義光は人知れず命を落としたのかもしれない。
そして、そうなったのは鷹藤家のせいでもあるし、文康の言うように自分は弟を守れなかった。
そのことを孫に言指摘され、康義は俯き、小さく何かを呟く。
「そりゃあ、孫も平気で殺す覚悟はできるよな?」
「もう黙れ!!」
弟を守れずに死なせたのなら殺したも同然。
だからこそ、父の康則とは違って祖父の康義は自分を殺すことを覚悟できるのだ。
そのことを指摘した瞬間、康義が憤怒の表情で声を張り上げ、文康に向かって斬りかかって行った。
「図星でキレたか? 結構短気なジジイだな……」
昔から、戦闘時の激情は剣をに鈍らせることに繋がる。
そのため、できる限り感情をコントロールするように言っていたのは、康義本人のはずだ。
その本人がこんな表情をするということは、もしもの時のためとオレガリオから聞いていた通り、弟のことを言われることが祖父の逆鱗だったようだ。
魔人と化したことで魔力量が膨れ上がった。
そして、その魔力による身体強化で確実に自分は強くなった。
しかし、相手は祖父。
念には念を入れるために煽ってみたが、上手くいったようだ。
これでいつもの祖父の剣ではなくなった。
『あんたの言うように、勝つためには冷静でないとな……』
魔人になって力を手に入れたからか、文康の中には昔のような余裕が生まれていた。
そのため、冷静に勝率を上げるために、康義を煽って怒りを沸き上がらせることにしたのだ。
思い通りになったことに喜びたいところだが、向かってくる康義の攻撃に対処するため、文康は冷静に刀を構えた。
鷹藤家の人間は、大和皇国においてトップに立つ一族だ。
そのため、その家に生まれたからには強さが求められる。
そんな一族の中に魔力のない人間が生まれれば、ブランドイメージを崩さないためにも秘匿したいと思うのも分からなくはない。
しかし、人間1人をいつまでも隠し通せるわけがない。
閉じ込められていた人間だって感情のある人間だ。
いつまでもそんな状況にいることに耐えられず、抜け出そうとするのも当然だ。
「俺もオレガリオに連れ出してもらえて良かったかもな……」
「……何っ!?」
魔人のオレガリオに攫われ、自分たちがどれほど心配したと思っているのか。
それなのに、当の本人である文康が攫われて良かったなんて聞き捨てならない。
攫われたことで魔人に成り下がったというのに、何が良かったというのだ。
「あのままあそこに居たら、俺も密かに始末されていたかもしれないからな」
「……えっ?」
文康のまさかの発言に、康則は驚きの声を上げる。
犯罪を犯し、鷹藤家の名前を汚した文康のことは許せない。
だからと言って、命を奪うようなことはしない。
しかし、文康の言いようだと、父の康義は自分にとって叔父である者のことを始末したということになる。
そこまで非情なことをしたのかと、康則は真偽を求めるため康義に顔を向けた。
「そんなことするわけなだろ!!」
疑いの目を向ける康則に対し、康義は完全に否定する。
たしかに、父は魔力が無い弟の義光を離れに閉じ込めていたが、手にかけるようなことはするはずがない。
「だって、その逃げ出した大叔父。分家の者を使って探させたけど、結局見つけ出せなかったって話じゃないか。きっと曾爺さんは密かに始末するように言たんだろ?」
「父はそんなこと言っていない!! むしろ、魔力が無いのに家を出てどうするつもりなのか弟の心配ばかりしていた!!」
鷹藤家の名のために、父が義光を閉じ込めていたのは事実だ。
しかし、それは義光を守るためでもあった。
この国の魔闘師業界のトップに立つために、昔の鷹藤家は多少強引な手法を取って他家を陥れたりもしたという話だ。
その分、恨みを買っている。
そんな人間からしたら、義光のような魔力無しの人間なんて恰好の標的だ。
鷹藤家から出ることは、義光には危険すぎる。
そうならないために、父は義光を家から出さないようにしていたのだ。
「でも、分家の連中は分かんないだろ? 変な忖度したかもよ?」
「それは……」
義光のことを知っているのは本家の者と分家の者だけだ。
その分家の中には、義光の存在を良く思っていない者もいたため、文康の言うように、義光のことを見つけ出した分家の者が人知れず始末したという可能性は絶対にないとは言い切れない。
そのため、康義は強く否定することができなかった。
「まぁ、人知れずどっかで魔物に殺されたって可能性もあるけどな……」
魔力が無い人間が魔物と遭遇した場合、弱い相手でも大怪我をする可能性が高い。
剣の稽古はしていたという話だが、所詮魔力が無ければ意味がない。
そのため、魔物に殺されて、捜索に当たった者たちが見つけられなかったという話が一番近い真実かもしれないと、文康はヘラヘラしながら呟いた。
「どっちにしろ、そう追い込んだのは鷹藤家。そして、兄でありながら弟を救えなかったあんたのせいだ!」
「………まれ」
捜索隊を出しても、結局義光を見つけだすことはできなかった。
父が危惧していたように、家を出た義光は人知れず命を落としたのかもしれない。
そして、そうなったのは鷹藤家のせいでもあるし、文康の言うように自分は弟を守れなかった。
そのことを孫に言指摘され、康義は俯き、小さく何かを呟く。
「そりゃあ、孫も平気で殺す覚悟はできるよな?」
「もう黙れ!!」
弟を守れずに死なせたのなら殺したも同然。
だからこそ、父の康則とは違って祖父の康義は自分を殺すことを覚悟できるのだ。
そのことを指摘した瞬間、康義が憤怒の表情で声を張り上げ、文康に向かって斬りかかって行った。
「図星でキレたか? 結構短気なジジイだな……」
昔から、戦闘時の激情は剣をに鈍らせることに繋がる。
そのため、できる限り感情をコントロールするように言っていたのは、康義本人のはずだ。
その本人がこんな表情をするということは、もしもの時のためとオレガリオから聞いていた通り、弟のことを言われることが祖父の逆鱗だったようだ。
魔人と化したことで魔力量が膨れ上がった。
そして、その魔力による身体強化で確実に自分は強くなった。
しかし、相手は祖父。
念には念を入れるために煽ってみたが、上手くいったようだ。
これでいつもの祖父の剣ではなくなった。
『あんたの言うように、勝つためには冷静でないとな……』
魔人になって力を手に入れたからか、文康の中には昔のような余裕が生まれていた。
そのため、冷静に勝率を上げるために、康義を煽って怒りを沸き上がらせることにしたのだ。
思い通りになったことに喜びたいところだが、向かってくる康義の攻撃に対処するため、文康は冷静に刀を構えた。
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