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3学年 後期

第241話

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「おぉ! やっぱりこっちは空いてるね」

 伸と綾愛が決勝戦を行っていた場所。
 その隣にある武舞台上に降り立ったバルタサールは、誰一人としていない観客席を見て満足そうに頷く。

「当たり前だろ……」

 ここは大会の1、2回戦で使用する競技場。
 観客がいないのは当然だし、魔人が出たと聞いて退避していないなんて、自殺志願者くらいだろう。
 そのため、伸は観客がいないのは当然とツッコミを入れる。

「さてと、これでひとまず周りを気にせず戦えるね?」

「あぁ……」『魔術攻撃は方向を気を付けないとならない。剣術中心の戦闘が良いな……』

 見える範囲に誰もいなくなった。
 これで自分たちの戦いの巻き添えを出さなくて済む。
 しかし、所詮は隣の会場というだけで、魔術系統の攻撃を放つ場合、威力を間違えたら巻き添えにしてしまう可能性がある。
 そのため、気を使って戦わなければならないということは変わりはない。
 そのことを頭に入れつつ、伸は腰に差した鞘から刀を抜いてバルタサールに向けて構えた。

「おぉ、良いね! ゾクゾクする殺気だ!」

 刀を向け、殺気を放つ伸。
 その殺気を受けてもバルタサールは笑みを崩さず、嬉しそうに伸へ向かって刀を構えた。

「…………」

「…………」

 お互い刀を向け、伸とバルタサールは無言で見合う。

「ハッ!!」「シッ!!」

“ガキンッ!!”

 合図はないというのに、両者同時に動く。
 お互い一直線に突き進み、間合いに入った瞬間斬りかかる。
 伸は逆袈裟、バルタサールは上段からの振り下ろしだ。
 その攻撃がぶつかり合い、甲高い金属音が鳴り響いた。

「「…………」」

 攻撃がぶつかり合い、2人は鍔迫り合いの状態になる。
 そして、無言で押し合う形になる。

「……へぇ~!」

 少しの間押し合っていると、バルタサールが感心したように声を上げる。
 ジリジリと伸が押し始めていたからだ。
 まだ様子見の段階で本気を出していないが、魔王の自分を相手に力で上回る人間が存在しているなんて考えたこともなかった。
 長い年月を生きてきたが、ここ数年で一番の驚きかもしれない。
 久々の驚きという感情に、バルタサールは気分が高揚していた。

「ムンッ!!」

「っと!」

 このまま押し込まれる訳にはいかない。
 そのため、バルタサールは伸の押す力を利用するようにして後ろに飛び退き、伸から距離を取った。
 そんなバルタサールを追いかけようとしたが、体勢が整っていたので、伸は追撃をやめた。

「ハッ!!」

「っ!?」

 次はどう動くのか考えようとした伸。
 そんな伸の考えを読んだのか、バルタサールが先に動く。
 左手で手のひら大の魔力球を作り、伸に向かって放ってきた。

「フンッ!!」

 あくまでも牽制のつもりなのだろうが、飛んでくる魔力球は大きさの割にはかなりの魔力が込められているため、相当な威力を持っていることは分かる。
 その攻撃を、伸は横に飛ぶことで回避する。

「ハァッ!!」

「っ!!」

 魔力球による攻撃は囮だったらしく、バルタサールは攻撃を躱した伸に斬りかかる。
 そんなバルタサールの薙ぎ払いを、伸は体をくの字にして回避した。

「シッ!!」

「っ!!」

 薙ぎ払いを回避されたが、狙いは伸の体勢を崩すこと。
 体をくの字にするため、上半身を前に倒したことで顎が空いた。
 バルタサールは攻撃途中だった右手を刀から外し、伸の顎へアッパーカットを放った。

「ふぅ~……」

 顎に飛んでくるアッパーに対し、伸は仰け反り、そのままバック転をすることで回避する。
 ものすごい高速で目の前を通り抜けたアッパー。
 その風切り音から、当たったらかなりのダメージを追っていたことが分かる。
 それが予想できただけに、躱すことができた伸は安堵のため息を吐いた。

「よく躱したね?」

「まあな……」 

 伸の反応に合わせ、臨機応変に攻撃を放ってくるバルタサール。
 咄嗟に動いているというのに、淀みがないため速く感じる。
 実際、その攻撃速度はかなりのものだ。
 しかも、威力があるから面倒臭い。

『奴が面倒なのは先読み……洞察力だな』

 バルタサールが臨機応変に攻撃をしてくるのは、自分の動きをよく見ているからだ。
 長い年月を生きてきたその経験から、相手の表情や体勢から、次の動きを読んでいるのだろう。
 先を読む洞察力を利用した攻撃により、僅かだがバルタサールの方が動きは速いかもしれない。
 はっきり言って、力で優っていても、何のアドバンテージにもならないように伸には思えた。

「力と速度は分かった。あとは魔力量だな……」

 ここまでの攻防で、お互い相手の実力がどれくらいなのかを予想する。
 力では伸が、速度ではバルタサールが優っているように思える。
 そんななか、残る魔力量を比べるために、バルタサールは魔力による身体強化をし始めた。

「ここからが本番と言ったところか……」

 今まで両者共に身体強化をせず、生身の体での攻防を繰り広げていた。
 しかし、バルタサールが身体強化をおこなった以上、自分もここからは実力を発揮していかなくてはならない。

「「ハーーーッ!!」」

 眼が合った瞬間、伸とバルタサールは揃えたように魔力を放出し始める。
 その膨大な魔力を、両者共に身体強化へと使用した。

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