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3学年 後期
第240話
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「……やれやれ、どうやら潜り込ませたスパイを逆に利用されてしまったようだな」
柊家や鷹藤家のみならず、他の名家の魔闘師たちまで会場近くに配備されているとは分からなかった。
もしも、会場近くに配備されていることが分かっていれば、やり方を変更していただろう。
分からなかった理由。
それは、人間に化けて名家に潜り込ませていた魔人たちが、看破されたか捕縛され、なおかつ利用された可能性が高い。
でなければ、こんなことにはならなかったはずだ。
予想外の状況に、バルタサールは溜め息交じりに愚痴をこぼした。
「……どうする?」
「んっ? 何が?」
予想外だったのは、バルタサールだけでなく伸も同じだ。
しかし、伸の場合は嬉しい誤算だ。
多くの魔闘師が集まってくれたおかげで、自分はバルタサールにだけ集中すれば良くなったからだ。
少し余裕ができた伸は、バルタサールに問いかける。
その問いの意味が分からないバルタサールは、伸の質問に問い返した。
「作戦失敗したんだ。逃げかえるなら今のうちだぞ?」
多くの魔人たちをこの場に出現させることに成功したオレガリオの転移魔法陣は、まだ消えずに上空に存在している。
それなら、逆に転移魔法陣を使用して逃げることも不可能ではない。
こちらの被害を少しでも減らすために、伸はバルタサールにこのまま帰ってくれることを期待して問いかける。
「ハハッ! 面白い冗談だ! 魔王の僕がわざわざ出てきたというのに逃げるわけないだろ?」
「そうかよ……」
大して期待していなかったが、やはりバルタサールは帰る気はないようだ。
予想していた反応なだけに、伸は仕方ないかとしか思わなかった。
「それにしても……」
「……?」
周囲を見渡し、途中で言葉を止めるバルタサール。
何を言いたいのか分からない伸は、続きの言葉を待った。
「敵、味方がこれだけいると狭く感じるな」
「……あぁ、そうだな……」
かなりの数の魔人たちを倒すために、多くの魔闘師たちが集まっている。
そのため、伸とバルタサールが戦うとなると、どちらも味方を巻き添えにしてしまう可能性がある。
そのため、伸はバルタサールの言葉に同意した。
「隣の会場に移ろうか?」
「そうだね」
ここで戦うのは、お互いにとって都合が悪い。
ならば、別の場所で戦えばいい。
この競技場は、ここ以外にもいくつかの武舞台が存在しているため、伸は移動することをバルタサールに提案する。
それを、バルタサールはあっさりと受け入れた。
「おっと!」
「んっ?」
意見が合ったところで、伸とバルタサールは移動を開始しようとした。
だがそこで、バルタサールが待ったをかける。
「君の武器がそれじゃあつまらない。ちゃんとした武器を取って来たら良い」
試合途中であったこともあり、伸が持っている武器は木刀だ。
バルタサールはそれを指摘し、武器を取ってくることを勧めてきた。
「ずいぶん余裕だな……」
「まあね」
魔王と呼ばれるだけあり、相当自分の実力に自信があるのだろう。
その余裕の態度が気に入らないが、たしかに木刀で戦うのは不利でしかない。
そのため、伸はバルタサールの提案を受け入れることにした。
「俺がこのまま逃げるって考えはないのか?」
はっきり言って、自分がバルタサールと戦わないといけない理由なんてない。
この国で一番強いと思っているが、自分はまだ高校生だ。
国を背負って魔王と戦わなければならないなんて、超危険な罰ゲームでしかない。
そのため、伸は自分がこのまま逃げた時のことを尋ねた。
「……なるほど、それは考えなかったな。しかし、君が逃げて困るのはそっち側だけだ。僕は一向に構わないよ」
たしかに、強いと言ってもまだ魔闘師になっていない伸が国を背負って戦ういわれはない。
伸が逃げるなんて考えもしなかった。もしそうしたとしたとしても、彼を責めるような人間は、数少ない彼の実力を知っている者だけだろう。
その者たちのことを無視すれば、逃げたとしても伸が気にする必要はないかもしれない。
ただ、伸が逃げたらこの国は自分によって壊滅的なダメージを受けることになり、世界を魔人が牛耳る足掛かりの場となるだけだ。
そのため、バルタサールは本気で伸が逃げても構わないと考えた。
むしろ、逃げてくれた方が無駄な労力を消費しなくて済むだけに、勧めたいくらいだ。
「……そりゃそうか」
戦う前なので全てを理解しているわけではないが、自分を除いたこの国の魔闘師たちでバルタサールを倒すとなると、ここに集まった魔闘師だけでは全然足りない。
それならば、可能性がある自分が戦うしかないだろう。
元々逃げる気なんてなかったが、伸はその考えを完全に頭から消し去ることにした。
「新田君っ!!」
「っ!? ……悪いな! すぐに逃げろよ!」
名前を呼ばれた方向に目を向けると、伸に向かって刀が飛んできた。
控室に置いてあった刀を、持ってきてくれたようだ。
鞘に入った刀を受け取った伸は、腰に差して奈津希に感謝の言葉と退避の指示を出した。
「あいつ危ない真似しやがって……」
恐らく綾愛の刀を取りに行ったついでなのだろうが、多くの魔人がいる場所に戻ってくるなんて危険すぎる。
何にしても、欲しかった武器が手に入り、伸はこれで全力を出せると安堵した。
「じゃあ、行こうか?」
「あぁっ!」
武器が手に入れば、後はこの場から移動するだけだ。
そう考えた伸が促すと、バルタサールは嬉しそうに頷き返事をしたのだった。
柊家や鷹藤家のみならず、他の名家の魔闘師たちまで会場近くに配備されているとは分からなかった。
もしも、会場近くに配備されていることが分かっていれば、やり方を変更していただろう。
分からなかった理由。
それは、人間に化けて名家に潜り込ませていた魔人たちが、看破されたか捕縛され、なおかつ利用された可能性が高い。
でなければ、こんなことにはならなかったはずだ。
予想外の状況に、バルタサールは溜め息交じりに愚痴をこぼした。
「……どうする?」
「んっ? 何が?」
予想外だったのは、バルタサールだけでなく伸も同じだ。
しかし、伸の場合は嬉しい誤算だ。
多くの魔闘師が集まってくれたおかげで、自分はバルタサールにだけ集中すれば良くなったからだ。
少し余裕ができた伸は、バルタサールに問いかける。
その問いの意味が分からないバルタサールは、伸の質問に問い返した。
「作戦失敗したんだ。逃げかえるなら今のうちだぞ?」
多くの魔人たちをこの場に出現させることに成功したオレガリオの転移魔法陣は、まだ消えずに上空に存在している。
それなら、逆に転移魔法陣を使用して逃げることも不可能ではない。
こちらの被害を少しでも減らすために、伸はバルタサールにこのまま帰ってくれることを期待して問いかける。
「ハハッ! 面白い冗談だ! 魔王の僕がわざわざ出てきたというのに逃げるわけないだろ?」
「そうかよ……」
大して期待していなかったが、やはりバルタサールは帰る気はないようだ。
予想していた反応なだけに、伸は仕方ないかとしか思わなかった。
「それにしても……」
「……?」
周囲を見渡し、途中で言葉を止めるバルタサール。
何を言いたいのか分からない伸は、続きの言葉を待った。
「敵、味方がこれだけいると狭く感じるな」
「……あぁ、そうだな……」
かなりの数の魔人たちを倒すために、多くの魔闘師たちが集まっている。
そのため、伸とバルタサールが戦うとなると、どちらも味方を巻き添えにしてしまう可能性がある。
そのため、伸はバルタサールの言葉に同意した。
「隣の会場に移ろうか?」
「そうだね」
ここで戦うのは、お互いにとって都合が悪い。
ならば、別の場所で戦えばいい。
この競技場は、ここ以外にもいくつかの武舞台が存在しているため、伸は移動することをバルタサールに提案する。
それを、バルタサールはあっさりと受け入れた。
「おっと!」
「んっ?」
意見が合ったところで、伸とバルタサールは移動を開始しようとした。
だがそこで、バルタサールが待ったをかける。
「君の武器がそれじゃあつまらない。ちゃんとした武器を取って来たら良い」
試合途中であったこともあり、伸が持っている武器は木刀だ。
バルタサールはそれを指摘し、武器を取ってくることを勧めてきた。
「ずいぶん余裕だな……」
「まあね」
魔王と呼ばれるだけあり、相当自分の実力に自信があるのだろう。
その余裕の態度が気に入らないが、たしかに木刀で戦うのは不利でしかない。
そのため、伸はバルタサールの提案を受け入れることにした。
「俺がこのまま逃げるって考えはないのか?」
はっきり言って、自分がバルタサールと戦わないといけない理由なんてない。
この国で一番強いと思っているが、自分はまだ高校生だ。
国を背負って魔王と戦わなければならないなんて、超危険な罰ゲームでしかない。
そのため、伸は自分がこのまま逃げた時のことを尋ねた。
「……なるほど、それは考えなかったな。しかし、君が逃げて困るのはそっち側だけだ。僕は一向に構わないよ」
たしかに、強いと言ってもまだ魔闘師になっていない伸が国を背負って戦ういわれはない。
伸が逃げるなんて考えもしなかった。もしそうしたとしたとしても、彼を責めるような人間は、数少ない彼の実力を知っている者だけだろう。
その者たちのことを無視すれば、逃げたとしても伸が気にする必要はないかもしれない。
ただ、伸が逃げたらこの国は自分によって壊滅的なダメージを受けることになり、世界を魔人が牛耳る足掛かりの場となるだけだ。
そのため、バルタサールは本気で伸が逃げても構わないと考えた。
むしろ、逃げてくれた方が無駄な労力を消費しなくて済むだけに、勧めたいくらいだ。
「……そりゃそうか」
戦う前なので全てを理解しているわけではないが、自分を除いたこの国の魔闘師たちでバルタサールを倒すとなると、ここに集まった魔闘師だけでは全然足りない。
それならば、可能性がある自分が戦うしかないだろう。
元々逃げる気なんてなかったが、伸はその考えを完全に頭から消し去ることにした。
「新田君っ!!」
「っ!? ……悪いな! すぐに逃げろよ!」
名前を呼ばれた方向に目を向けると、伸に向かって刀が飛んできた。
控室に置いてあった刀を、持ってきてくれたようだ。
鞘に入った刀を受け取った伸は、腰に差して奈津希に感謝の言葉と退避の指示を出した。
「あいつ危ない真似しやがって……」
恐らく綾愛の刀を取りに行ったついでなのだろうが、多くの魔人がいる場所に戻ってくるなんて危険すぎる。
何にしても、欲しかった武器が手に入り、伸はこれで全力を出せると安堵した。
「じゃあ、行こうか?」
「あぁっ!」
武器が手に入れば、後はこの場から移動するだけだ。
そう考えた伸が促すと、バルタサールは嬉しそうに頷き返事をしたのだった。
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