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3学年 後期

第238話

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“スタッ!”

「やあっ!」

「…………」

 上空の転移魔法陣から出現し、武舞台上に降り立った1人の少年。
 周囲をキョロキョロと見渡し、伸のことを見ると軽い口調で挨拶をしてきた。
 体から洩れる嫌な雰囲気とは違う態度に、拍子抜けした伸はどう返していいか分からず無言になる。

「君が新田伸だね?」

「あぁ……」

「やっぱり!」

 問いかけに伸が答えると、少年は嬉しそうに声を上げる。

「僕はバルタサール。魔人の王……魔王だ」

「………………はっ?」

 この少年が只者ではないことは、身に纏う雰囲気から嫌でも理解できる。
 様々な魔人や魔物を倒してきた伸でも、戦う前からここまで脅威に感じる相手は存在したことがない。
 だからと言って、太平洋に浮かぶ魔人島に存在していると真しやかに言われていた魔人の王。
 それが、こんな12・3歳の少年の姿をしており、公の前に姿を現すなんて想像もしていなかった。
 少年の言うことが信じられない伸は、思わず素っ頓狂な声を漏らすことになった。

「いや~……、会いたかったよ!」

 両手を広げて嬉しそうに声を上げるバルタサール。

「実は僕は世界への侵攻を目指していたんだけど、実力の有る魔人たちが君にやられて遅れることになってしまった」

 腕を組み、バルタサールは思い出すかのように話始める。

「こう見えても、そのことは結構ムカついていてね。その報いを君の命で贖ってもらおうと、僕自ら出向くことにしたんだ」

 顔は笑っているが、言葉の通り怒りを覚えているのだろう。
 バルタサールから少しずつ伸に向かって殺気が放たれ始めた。

「まぁ、これを機に大和皇国を奪い取るのもいいかもと思ってね。つまり……」

 小さな島である魔人島にいつまでも潜んでいるのは飽きた。
 自分たち魔人が、どうして身を隠すように生きなければならないのか。
 この世界は弱肉強食。
 魔物でも理解しているであろうこの言葉通り、人間などではなく、自分たち魔人が繫栄する世界に変えてしまえば良い。
 どうせそれを始めるのなら、この大和皇国からにしてしまおうと、バルタサールはそう考えたようだ。
 そして、次の言葉を一旦切り、バルタサールは上空を指さす。

「暴れさせてもらうよ!」

 バルタサールが指さした先には、自身が出現した転移の魔法陣が残っている。
 その魔法陣から、次々と魔人たちが姿を現し始めた。

「っっっ!!」

「おっと! 君は行かない方がいい。じゃないと、僕が好き勝手に動き回ってしまうからね」

「……このガキッ!」

 出現する魔人の数は尋常じゃない。
 こんな数を相手にできるほどの魔闘師はこの場にいない。
 応援が来るまでの間、少しでも数を減らそうと伸が動こうとするが、バルタサールはそれを制止する。
 言っていることが嘘でないことを証明するかのように、バルタサールは周囲に殺気をまき散らす。
 それを見た伸は魔人たちの始末に動けず、バルタサールに悪態を吐く。

「失礼な! こんなナリだけど、君より200年以上年上だぞ!」

「っ!? 何っ!?」

 見た目、小学生高学年~中学生くらいのバルタサール。
 しかし、その見た目に反し、どうやらかなり長い年月を生きているようだ。
 バルタサールからの意外な返答に、伸は思わず驚きの声を上げた。

「魔人は食べた人間の姿にしかなれないんだけど、この姿は結構気に入っているんだよね」

「…………」

 バルタサールはなんてことないように話すが、人間にとっては重要なことを言っている。
 言語を話し、人間の姿になれるからこそ魔人と言われている。
 しかし、バルタサールの言い方だと、人間を食べたから姿を変化させることができると言っているかのようだ。
 人間をどれくらい食べれば姿を変化させることができるのか。
 今後のことを考えたら気になるところだが、今はそれどころではない。
 文康が魔人だと知り、観客たちは逃げ始めたばかりで、かなりの人数がまだ残っている。
 全員が逃げ切るまで、バルタサールを相手にしつつ他の魔人の相手をするなんて不可能だ。
 この状況をどうするべきか、伸は無言で頭をフル回転させた。

「……何でそんな姿をしているんだ?」

 バルタサールの身長は、150cm前後と背が低い。
 背が低いと間合いが狭くなり、戦闘においては不利になる事がある。
 200年以上生きる魔人の王なら、相当な数の人間に手をかけているはず。
 それなのに、今の少年の姿をしている理由が気になった伸は、思わずその理由を問いかけた。

「教えてあげよう! それはね……」

 聞かれなくても話すつもりだったのだろう。
 伸の問いかけに、バルタサールは嬉しそうに話し始めた。

「魔王の僕でも魔人になりたての時は弱かった。とある国の魔闘師と戦うことになって殺られそうになった時、その魔闘師の息子を人質に取ったのさ。そうしたら面白いようにその魔闘師は僕の言いなりになり、親子共々僕に殺されましたとさ……」

「…………」

 人間の心を弄ぶような話に、伸は胸糞悪くなってくる。

「何とか生き残った僕は、ある意味命の恩人であるその息子を取り込んで、その時のことを忘れないようにしようと思ったのさ」

『こいつ……』

 今にも殺してやりたいが、感情に任せて斬りかかるのはバルタサールの思うつぼ。
 そのため、伸は努めて冷静を保った。

「……さて、始めようか?」

 もしかしたら、自分の話を不愉快に思って伸が襲い掛かってくるとでも思っていたのだろうか。
 思った通りの反応をしない事につまらなそうな顔をしたバルタサールは、腰に差していた剣を抜き、伸に向かって構えを取った。

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