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3学年 後期
第230話
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「またかよ……」
官林地区はこの国で一番人口が多く、毎年受験生が多いため、それだけ逸材が集まる傾向にある。
なので、対抗戦でも上位に入る人間が多いのも分かるが、どうして自分だけと伸が言いたくなるのも仕方がないだろう。
何故なら、伸の対戦相手がまたも官林学園の選手との対戦になったからだ。
『こっちも嫌だよ。鷹藤や伊角を圧倒した相手なんて……』
官林学園でもトップ3の鷹藤と伊角。
2年でありながら3位の鷹藤、3年2位の伊角。
そんな2人を余裕をもって倒した伸を相手にしなければならないなんて、この準々決勝どまりで諦めるしかなさそうだ。
そのため、伸のぼやきに、対戦相手の松田も言い返したい思いだ。
『勝てないだろうが、やるだけやってみないとな……』
鷹藤との戦いを見ただけでも、伸がとんでもない実力を有していることは理解できた。
そして、伊角が試合後、伸と対戦する可能性のある自分に対して言った言葉が忘れられない。
「あんなの勝てるわけない……」
去年事件を起こして文康がいなくなったことで、官林学園の中で2位の存在となった伊角がこうまで言うのだから相当強いのだろう。
「始め!!」
「…………」
「…………」
審判の合図を受けて、伸と松田は木刀を構えたまま睨みあう。
「ハッ!!」
「…………」
沈黙の睨み合いから先に動いたのは松田。
距離を詰めて上段から斬りかかるが、伸がそれを木刀で弾いて回避した。
「…………」
「…………」
最初の攻防後に距離を取った両者は、またも睨み合いの状態になる。
「ハッ!!」
「…………」
またも先に動いたのは松田。
今度は胴へ向かって薙ぎ払いを放つ。
その攻撃を、伸はまたも木刀で受け流した。
「…………」
「…………」
またも睨みあう2人。
試合開始から特に変わりないように見えるが、内心の方は違った。
『なんだこいつ? 全く勝てる気がしないぞ……』
試合が開始して、松田も伊角が言っていたように、勝てる相手ではないと感じていた。
相手から隙が見当たらない。
しかし、睨みあっているだけで何もせずに負けを宣言するわけにはいかない。
そのため、様子見をするために攻撃をしてみたのだが、難なく受け流されてしまった。
一度では判断できないと再度攻撃をしてみたが、それも通用しなかった。
その時点で、松田は自分と相手選手には相当な実力差があるということを理解した。
『結構本気の攻撃だったのに一歩も動かないって……』
実力差を感じ取った理由がこれだ。
攻撃を受け流される可能性は予想していたが、伸は開始線から全く動いていないのだ。
官林学園で実力1位になった自分の攻撃に対してだ。
それだけ、その程度の攻撃を受け流すのは余裕だと言っているようなものだ。
「……全力で来いって言いたいのか?」
「……そうだな。中途半端より、全力を出して負けたと思いたいだろ?」
「よく分けんねえ奴だな……」
この大会は、テレビを通じて多くの国民に見られている。
それだけ人気の大会のため、去年の文康は度が過ぎた犯罪だが、魔闘師学園の生徒なら出場して何としてでも勝利して自分をアピールしたいと思うものだ。
もちろんお互い全力を出して勝ちたいと思ってはいるが、勝利するためなら相手が嫌がることをするくらいなら問題ない範囲だし、実力を出させないように勝利するのも普通のことだ。
それなのに、相手の全力を出させるなんて優しいのか、それとも全力の相手をねじ伏せて完敗を酷なのか分からない。
そんな伸のことが、松田には異質な存在に思えた。
「じゃあ、全力でいくか……」
喋っている間も伸から攻めてくる気配を感じないことから、本気で全力を出すことを待ってくれているようだ。
そこまでされたら全力を出すしかない。
そう考えた松田は、全身の魔力を練り始めた。
「ハアァ~……」
3回戦で戦った伊角と同じようにゆっくりと魔力が練られ、全身が強化されていく。
「……ハッ!!」
コントロールできる限界まで来たところで松田が動く。
伊角と違うのは、全速力で一気に迫るのではなく、ゆっくりと歩いて伸との距離を詰めてきた。
「そっちに集めたか……」
伊角が下半身を重点的に身体強化し、相手が反応できないくらいの速度で斬ることを選んだ攻撃だったのに対し、松田は上半身を強化して力でねじ伏せることを選んだようだ。
そのことを察した伸は、何もせずに松田が来るのを待ち受けた。
「オラーーー!!」
それだけの時間をかけていれば、伸が躱そうと思えば簡単だろう。
しかし、伸は動かないことで実力差を見せる気でいるのだから、躱すことなどしないだろう。
そんな心理を読んだ松田は、伸が自分の間合いに入ったところで上段に構えた木刀を振り下ろした。
“カンッ!”
「マジかよ……」
全身全霊を込め、力でねじ伏せるような松田の攻撃。
受け止めれば木刀をへし折り、伸をねじ伏せるはず。
そんな淡い期待をしつつ放った攻撃だったのに、木と木がぶつかった時の音が返ってきただけだった。
「お前も伊角同様かなりの実力だったぞ」
“トンッ!”
「……勝者新田!!」
松田の一撃は、自分以外だったら受け止めるのはかなり難しいだろう。
それだけ魔力操作の技術が高かったが、自分には及ばない。
攻撃を受け止めた伸は、伊角の時と同様に肩を軽く叩く。
それを見た審判は、一拍置いて勝者の名を叫んだ。
官林地区はこの国で一番人口が多く、毎年受験生が多いため、それだけ逸材が集まる傾向にある。
なので、対抗戦でも上位に入る人間が多いのも分かるが、どうして自分だけと伸が言いたくなるのも仕方がないだろう。
何故なら、伸の対戦相手がまたも官林学園の選手との対戦になったからだ。
『こっちも嫌だよ。鷹藤や伊角を圧倒した相手なんて……』
官林学園でもトップ3の鷹藤と伊角。
2年でありながら3位の鷹藤、3年2位の伊角。
そんな2人を余裕をもって倒した伸を相手にしなければならないなんて、この準々決勝どまりで諦めるしかなさそうだ。
そのため、伸のぼやきに、対戦相手の松田も言い返したい思いだ。
『勝てないだろうが、やるだけやってみないとな……』
鷹藤との戦いを見ただけでも、伸がとんでもない実力を有していることは理解できた。
そして、伊角が試合後、伸と対戦する可能性のある自分に対して言った言葉が忘れられない。
「あんなの勝てるわけない……」
去年事件を起こして文康がいなくなったことで、官林学園の中で2位の存在となった伊角がこうまで言うのだから相当強いのだろう。
「始め!!」
「…………」
「…………」
審判の合図を受けて、伸と松田は木刀を構えたまま睨みあう。
「ハッ!!」
「…………」
沈黙の睨み合いから先に動いたのは松田。
距離を詰めて上段から斬りかかるが、伸がそれを木刀で弾いて回避した。
「…………」
「…………」
最初の攻防後に距離を取った両者は、またも睨み合いの状態になる。
「ハッ!!」
「…………」
またも先に動いたのは松田。
今度は胴へ向かって薙ぎ払いを放つ。
その攻撃を、伸はまたも木刀で受け流した。
「…………」
「…………」
またも睨みあう2人。
試合開始から特に変わりないように見えるが、内心の方は違った。
『なんだこいつ? 全く勝てる気がしないぞ……』
試合が開始して、松田も伊角が言っていたように、勝てる相手ではないと感じていた。
相手から隙が見当たらない。
しかし、睨みあっているだけで何もせずに負けを宣言するわけにはいかない。
そのため、様子見をするために攻撃をしてみたのだが、難なく受け流されてしまった。
一度では判断できないと再度攻撃をしてみたが、それも通用しなかった。
その時点で、松田は自分と相手選手には相当な実力差があるということを理解した。
『結構本気の攻撃だったのに一歩も動かないって……』
実力差を感じ取った理由がこれだ。
攻撃を受け流される可能性は予想していたが、伸は開始線から全く動いていないのだ。
官林学園で実力1位になった自分の攻撃に対してだ。
それだけ、その程度の攻撃を受け流すのは余裕だと言っているようなものだ。
「……全力で来いって言いたいのか?」
「……そうだな。中途半端より、全力を出して負けたと思いたいだろ?」
「よく分けんねえ奴だな……」
この大会は、テレビを通じて多くの国民に見られている。
それだけ人気の大会のため、去年の文康は度が過ぎた犯罪だが、魔闘師学園の生徒なら出場して何としてでも勝利して自分をアピールしたいと思うものだ。
もちろんお互い全力を出して勝ちたいと思ってはいるが、勝利するためなら相手が嫌がることをするくらいなら問題ない範囲だし、実力を出させないように勝利するのも普通のことだ。
それなのに、相手の全力を出させるなんて優しいのか、それとも全力の相手をねじ伏せて完敗を酷なのか分からない。
そんな伸のことが、松田には異質な存在に思えた。
「じゃあ、全力でいくか……」
喋っている間も伸から攻めてくる気配を感じないことから、本気で全力を出すことを待ってくれているようだ。
そこまでされたら全力を出すしかない。
そう考えた松田は、全身の魔力を練り始めた。
「ハアァ~……」
3回戦で戦った伊角と同じようにゆっくりと魔力が練られ、全身が強化されていく。
「……ハッ!!」
コントロールできる限界まで来たところで松田が動く。
伊角と違うのは、全速力で一気に迫るのではなく、ゆっくりと歩いて伸との距離を詰めてきた。
「そっちに集めたか……」
伊角が下半身を重点的に身体強化し、相手が反応できないくらいの速度で斬ることを選んだ攻撃だったのに対し、松田は上半身を強化して力でねじ伏せることを選んだようだ。
そのことを察した伸は、何もせずに松田が来るのを待ち受けた。
「オラーーー!!」
それだけの時間をかけていれば、伸が躱そうと思えば簡単だろう。
しかし、伸は動かないことで実力差を見せる気でいるのだから、躱すことなどしないだろう。
そんな心理を読んだ松田は、伸が自分の間合いに入ったところで上段に構えた木刀を振り下ろした。
“カンッ!”
「マジかよ……」
全身全霊を込め、力でねじ伏せるような松田の攻撃。
受け止めれば木刀をへし折り、伸をねじ伏せるはず。
そんな淡い期待をしつつ放った攻撃だったのに、木と木がぶつかった時の音が返ってきただけだった。
「お前も伊角同様かなりの実力だったぞ」
“トンッ!”
「……勝者新田!!」
松田の一撃は、自分以外だったら受け止めるのはかなり難しいだろう。
それだけ魔力操作の技術が高かったが、自分には及ばない。
攻撃を受け止めた伸は、伊角の時と同様に肩を軽く叩く。
それを見た審判は、一拍置いて勝者の名を叫んだ。
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