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3学年 後期
第220話
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「……本当に良いのか?」
「えぇ、私は本気よ!」
柊家に仕えている家の娘ということもあり、奈津希はいつも綾愛と行動を共にしている。
まあ、家の関係がなくても、幼馴染の親友として一緒にいるという思いの方が強いかもしれないが。
そのこともあって、綾愛と共に伸から戦闘訓練を受ける機会はかなり多い。
だからこそ、奈津希は分かっているはず。
自分が伸に勝てないということを。
綾愛と了の決勝戦後、少しの時間を空けて開始されることになった決闘の場で向かい合った時、伸が最後の確認をするために問いかけると、奈津希は何のためらいもなく返答してきた。
「言っておくけど、わざと負けるなんて絶対にやめてね」
1、2年の頃、伸は実力が知られるのを嫌っている節があった。
柊家当主の俊夫も、配下の者たちに伸のことを広めることを良しとはしなかった。
しかし、3年になってから、というよりも綾愛との婚約という報道が出てから伸はそこまで実力を隠そうとしなくなった。
ならば、いっそのこと開放してしまおう。
そう考えたからこそ、奈津希は負けると分かっていても伸に決闘を申し込んだのだ。
対抗戦の出場権なんて、魔闘師で名を上げたいと思う者にとって垂涎物の権利を懸けて決闘を申し込んだからこそ、わざと負けるようなことはしてほしくない。
そうしないように、奈津希は念を押した。
「……分かった。お前がそう言うなら遠慮はしない」
ここまでのことをして本気を見せた奈津希に、こちらも本気で向き合わないのは男や女という前に人間として欠陥していると言わざるを得ない。
そのため、伸は奈津希の思いに本気でこたえることにした。
「それに、柊や了にも同じようなことを言われているからな」
「綾愛ちゃんに、金井君まで?」
いつも一緒にいる綾愛なら、もしかしたら何か感じ取っていた可能性はある。
そして、伸に決闘を申し込んだ理由もだ。
しかし、了に関しては心当たりがないため、奈津希は伸の言葉に目を見開く。
「2人とも杉山と同じことをやろうと考えていたらしい」
「……なるほど。そうなんだ……」
決勝の終了後、伸は綾愛と了に話しかけられた。
その時、綾愛と了も奈津希と同じように、対抗戦の出場権を懸けて伸に決闘を申し込むつもりだったと告げられた。
しかし、先に奈津希に言われてしまったため、言い出だせなくなってしまったとのことだ。
だから負けてやってくれというのかと言うのかと思ったが、2人は伸以上に奈津希の思いを理解していたらしく、わざと負けるようなことだけはしないでくれと言ってきた。
何故なら、自分たちが伸に決闘を申し込んだときに、わざと負けられたと分かったら、一生恨んでいたかもしれないと思ったからだそうだ。
元々、決闘を受けた以上負けないようにするつもりでいたため、どうやって勝とうかと考えていたが、2人にそんなことを言われたら程よい勝ちなど失礼になるのだと理解した。
そのため、奈津希に言われるまでもなく、わざと負けるつもりなど伸にはなかった。
そのことを告げると、奈津希は同じ思いの2人の顔が浮かんで、自然と笑みを浮かべた。
「それでは始めるぞ……」
「「はい」」
二人の会話が終わったと、空気を読んだ審判役の三門は声をかける。
それに対し、伸と奈津希は同時に返事をした。
「先生……」
「何だ?」
「見逃さないで下さい」
「……分かった」
ある程度の距離を取り合い、伸と奈津希が武器を構えて向かい合う。
あとは、三門から開始の合図を待つだけだ。
その開始の合図が出される前に、伸は三門の話しかける。
まるで、自分が気を抜かないように促すような発言。
短気な人間なら、「舐めたことを言うなと!」と言いたくなるところだろう。
しかし、三門は伸から放たれる得体のしれない圧に気付いたのか、反論などすることなく返答した。
「それでは……、始め!!」
「「「「「っっっ!?」」」」」
審判役である三門の合図と共に、伸と奈津希の決闘が開始される。
その次の瞬間、会場中が声を失う。
何故なら、開始の合図と同時に、伸が奈津希の背後に立っていたからだ。
「くっ!」
会場の観客とは違い、奈津希はこの程度のことは予想していた。
そのためか、すぐさま手に持つ短木刀で、背後に向かって攻撃を繰り出す。
「「「「「っっっ!?」」」」」
何の予兆もなく、自分のは後に立った伸に対して攻撃を放った時点で、奈津希は観客の自分たちよりも察知能力が高いことが窺える。
しかし、その攻撃が当たる瞬間に姿を消し、再度奈津希の背後に立っている伸を見て、観客たちはどうなっているのか理解できないでいた。
「……フフッ、もう2回も負けていますか……」
奈津希は、伸に勝てるとは思っていない。
だが、だからと言って何もせずに負けるつもりはなかった。
それなのに、決闘を開始して1分もかからないうちに、本当なら負けを認めなければならない状況に追い込まれていた。
実力差があるとはいっても、度が過ぎる。
それを目の当たりにし、奈津希は思わず笑うしかなかった。
「えぇ、私は本気よ!」
柊家に仕えている家の娘ということもあり、奈津希はいつも綾愛と行動を共にしている。
まあ、家の関係がなくても、幼馴染の親友として一緒にいるという思いの方が強いかもしれないが。
そのこともあって、綾愛と共に伸から戦闘訓練を受ける機会はかなり多い。
だからこそ、奈津希は分かっているはず。
自分が伸に勝てないということを。
綾愛と了の決勝戦後、少しの時間を空けて開始されることになった決闘の場で向かい合った時、伸が最後の確認をするために問いかけると、奈津希は何のためらいもなく返答してきた。
「言っておくけど、わざと負けるなんて絶対にやめてね」
1、2年の頃、伸は実力が知られるのを嫌っている節があった。
柊家当主の俊夫も、配下の者たちに伸のことを広めることを良しとはしなかった。
しかし、3年になってから、というよりも綾愛との婚約という報道が出てから伸はそこまで実力を隠そうとしなくなった。
ならば、いっそのこと開放してしまおう。
そう考えたからこそ、奈津希は負けると分かっていても伸に決闘を申し込んだのだ。
対抗戦の出場権なんて、魔闘師で名を上げたいと思う者にとって垂涎物の権利を懸けて決闘を申し込んだからこそ、わざと負けるようなことはしてほしくない。
そうしないように、奈津希は念を押した。
「……分かった。お前がそう言うなら遠慮はしない」
ここまでのことをして本気を見せた奈津希に、こちらも本気で向き合わないのは男や女という前に人間として欠陥していると言わざるを得ない。
そのため、伸は奈津希の思いに本気でこたえることにした。
「それに、柊や了にも同じようなことを言われているからな」
「綾愛ちゃんに、金井君まで?」
いつも一緒にいる綾愛なら、もしかしたら何か感じ取っていた可能性はある。
そして、伸に決闘を申し込んだ理由もだ。
しかし、了に関しては心当たりがないため、奈津希は伸の言葉に目を見開く。
「2人とも杉山と同じことをやろうと考えていたらしい」
「……なるほど。そうなんだ……」
決勝の終了後、伸は綾愛と了に話しかけられた。
その時、綾愛と了も奈津希と同じように、対抗戦の出場権を懸けて伸に決闘を申し込むつもりだったと告げられた。
しかし、先に奈津希に言われてしまったため、言い出だせなくなってしまったとのことだ。
だから負けてやってくれというのかと言うのかと思ったが、2人は伸以上に奈津希の思いを理解していたらしく、わざと負けるようなことだけはしないでくれと言ってきた。
何故なら、自分たちが伸に決闘を申し込んだときに、わざと負けられたと分かったら、一生恨んでいたかもしれないと思ったからだそうだ。
元々、決闘を受けた以上負けないようにするつもりでいたため、どうやって勝とうかと考えていたが、2人にそんなことを言われたら程よい勝ちなど失礼になるのだと理解した。
そのため、奈津希に言われるまでもなく、わざと負けるつもりなど伸にはなかった。
そのことを告げると、奈津希は同じ思いの2人の顔が浮かんで、自然と笑みを浮かべた。
「それでは始めるぞ……」
「「はい」」
二人の会話が終わったと、空気を読んだ審判役の三門は声をかける。
それに対し、伸と奈津希は同時に返事をした。
「先生……」
「何だ?」
「見逃さないで下さい」
「……分かった」
ある程度の距離を取り合い、伸と奈津希が武器を構えて向かい合う。
あとは、三門から開始の合図を待つだけだ。
その開始の合図が出される前に、伸は三門の話しかける。
まるで、自分が気を抜かないように促すような発言。
短気な人間なら、「舐めたことを言うなと!」と言いたくなるところだろう。
しかし、三門は伸から放たれる得体のしれない圧に気付いたのか、反論などすることなく返答した。
「それでは……、始め!!」
「「「「「っっっ!?」」」」」
審判役である三門の合図と共に、伸と奈津希の決闘が開始される。
その次の瞬間、会場中が声を失う。
何故なら、開始の合図と同時に、伸が奈津希の背後に立っていたからだ。
「くっ!」
会場の観客とは違い、奈津希はこの程度のことは予想していた。
そのためか、すぐさま手に持つ短木刀で、背後に向かって攻撃を繰り出す。
「「「「「っっっ!?」」」」」
何の予兆もなく、自分のは後に立った伸に対して攻撃を放った時点で、奈津希は観客の自分たちよりも察知能力が高いことが窺える。
しかし、その攻撃が当たる瞬間に姿を消し、再度奈津希の背後に立っている伸を見て、観客たちはどうなっているのか理解できないでいた。
「……フフッ、もう2回も負けていますか……」
奈津希は、伸に勝てるとは思っていない。
だが、だからと言って何もせずに負けるつもりはなかった。
それなのに、決闘を開始して1分もかからないうちに、本当なら負けを認めなければならない状況に追い込まれていた。
実力差があるとはいっても、度が過ぎる。
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