213 / 281
3学年 前期
第212話
しおりを挟む
「グウゥ……」
「…………」
腹に深手を負い、呻き声を上げるカサンドラ。
そんな彼女に、伸は無言でゆっくりと近づいて行く。
「このっ!!」
何もしなければ更なる攻撃を受けることになる。
そのため、カサンドラは左手で出血する腹を抑えつつ、伸の接近を拒むように右手のブーメランを振り回した。
「…………」
「あっ!?」
距離を詰めた伸は、無言でブーメランを振り回すカサンドラの右手を蹴る。
それにより、カサンドラの手からブーメランが離れた。
「……すまんな」
武器を失い、左手は傷を抑えることに使っている。
完全に無防備の状態のカサンドラに対し、伸は小さく謝罪すると共に上段に構えた刀を振り下ろした。
「ギッ、ギャアーー!!」
振り降ろされた刀は右腕を斬り飛ばす。
腹以上に強力な痛みを受けたカサンドラは、大きな声で悲鳴を上げた。
「お前に勝ち目はない。諦めて大人しく捕まれ」
忠告と共に刀を向ける伸。
魔人とはいえ女性であるため、伸の中でこれ以上の痛みを与えることが躊躇われているための忠告だ。
先程の小さな謝罪も、その気持ちからこぼれた言葉なのだろう。
それに、腹の傷も斬り飛ばした腕も、自分なら回復させることは可能だ。
降参さえして大人しく捕まってくれれば、伸としては治してやることもやぶさかではない。
「……フッ!」
剣先が目の前にして、カサンドラは脂汗を掻きながら笑みを浮かべる。
「フェミニスト気取りか? 人間のガキが!」
「…………」
多くの人間の命を奪ってきた魔物。
その魔物が進化した存在である魔人。
いくら見た目が人間の女性に近いからと言って、どうして躊躇いを持っているのだろう。
そのため、カサンドラの言葉に、伸自身も若干自分らしくないことをしていると感じていた。
「魔人を……、私を舐めるな!!」
「っっっ!?」
カサンドラの言葉と共に、伸は危機感を覚える。
それが何かと分かる前に、その場か後方へ飛び退いた。
「っと!」
「チッ!!」
伸とカサンドラの間をブーメランが通り抜ける。
腕を斬り落とす前に落とした魔力ブーメランを操り、攻撃を計ったようだ。
感覚に従って回避したのは正解だった。
もしも、あのままあそこに立っていたら、大怪我を負っていたことだろう。
安堵している伸とは違い、カサンドラは舌打ちをした。
「さっきも言ったでしょ? 人体実験の末路なんてお断りよ!」
「っ!?」
先程の伸の言葉に対して、カサンドラはこう返答する。
魔人の自分は、捕まればいつ終わるか分からない人体実験に晒され続けることになる。
それが分かっているのに、おとなしく捕まるなんてありえない話だ。
例え、勝てない分かっていてもだ。
全力で抵抗するつもりなのだろう。
カサンドラは魔力で作り上げたブーメランを無数に作り出した。
「威力よりも手数か……」
魔人としての本性の時は、速度よりも範囲と威力を重視した攻撃を主体としていたようだが、今のような半魔の状態の時には、手数を重視した攻撃に切り替えたようだ。
半魔になった時の方が、魔力を操作する能力が高いからの選択なのだろう。
そのことを理解した伸は、出現したブーメランの数々を視界に入れて呟いた。
「くたばれっ!!」
「っ!!」
カサンドラが左手を少し動かすことで、空中に浮かぶ無数の魔力ブーメランが伸に向かって殺到する。
四方八方から迫りくるブーメランに、伸は逃げる隙間など存在していなかった。
「ハアァーー!!」
「っっっ!?」
ブーメランが迫る中、伸は気合を入れ、刀に纏う魔力の量を増やす。
そうして強化した刀を超高速で振り回し、ブーメランたちを斬って消し飛ばしていった。
「……くっ!!」
とても信じられないような伸の反応速度に、カサンドラは少し間戸惑う。
そして、全てのブーメランを消し去られたら、もう自分に勝ち目がないことは分かっている。
伸に大ダメージを与える、もしくは殺すにしても、自分が生き残るためには力を温存しておく必要はない。
そう考えたカサンドラは、全魔力を総動員するつもりで次々とブーメランを作り出し、伸に向かって放った。
「うおおぉぉーー!!」
更に数が増えてもお構いなしとでも言うかのように、伸は刀を振り続ける。
その表情はどことなく楽しそうにも見える。
「くっ! 化け物め……」
ミスをすれば大怪我を負うことは間違いないというのに、まるでスリルを楽しんでいるかのようだ。
しかも、これだけ高速で動き回っているというのに、スタミナ切れをする様子がない。
そんな伸を、カサンドラは恐ろしく思えてきた。
「…………くっ! チクショウ……」
段々と出現するブーメランの数が減少していく。
伸のスタミナ切れより早く、カサンドラの魔力切れの方が先に来たようだ。
そして、とうとうブーメランを作ることができなくなったカサンドラは、糸が切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。
「……フゥ~、終わりか……」
全てのブーメランが消え失せ、伸は何だか残念そうに呟き刀を鞘に納める。
「さて……」
心を折ることで捕縛しようと考えていたのだが、魔力切れで気を失わせることになった。
それを結果オーライと捉え、伸は倒れているカサンドラに向かって歩き出した。
「…………」
腹に深手を負い、呻き声を上げるカサンドラ。
そんな彼女に、伸は無言でゆっくりと近づいて行く。
「このっ!!」
何もしなければ更なる攻撃を受けることになる。
そのため、カサンドラは左手で出血する腹を抑えつつ、伸の接近を拒むように右手のブーメランを振り回した。
「…………」
「あっ!?」
距離を詰めた伸は、無言でブーメランを振り回すカサンドラの右手を蹴る。
それにより、カサンドラの手からブーメランが離れた。
「……すまんな」
武器を失い、左手は傷を抑えることに使っている。
完全に無防備の状態のカサンドラに対し、伸は小さく謝罪すると共に上段に構えた刀を振り下ろした。
「ギッ、ギャアーー!!」
振り降ろされた刀は右腕を斬り飛ばす。
腹以上に強力な痛みを受けたカサンドラは、大きな声で悲鳴を上げた。
「お前に勝ち目はない。諦めて大人しく捕まれ」
忠告と共に刀を向ける伸。
魔人とはいえ女性であるため、伸の中でこれ以上の痛みを与えることが躊躇われているための忠告だ。
先程の小さな謝罪も、その気持ちからこぼれた言葉なのだろう。
それに、腹の傷も斬り飛ばした腕も、自分なら回復させることは可能だ。
降参さえして大人しく捕まってくれれば、伸としては治してやることもやぶさかではない。
「……フッ!」
剣先が目の前にして、カサンドラは脂汗を掻きながら笑みを浮かべる。
「フェミニスト気取りか? 人間のガキが!」
「…………」
多くの人間の命を奪ってきた魔物。
その魔物が進化した存在である魔人。
いくら見た目が人間の女性に近いからと言って、どうして躊躇いを持っているのだろう。
そのため、カサンドラの言葉に、伸自身も若干自分らしくないことをしていると感じていた。
「魔人を……、私を舐めるな!!」
「っっっ!?」
カサンドラの言葉と共に、伸は危機感を覚える。
それが何かと分かる前に、その場か後方へ飛び退いた。
「っと!」
「チッ!!」
伸とカサンドラの間をブーメランが通り抜ける。
腕を斬り落とす前に落とした魔力ブーメランを操り、攻撃を計ったようだ。
感覚に従って回避したのは正解だった。
もしも、あのままあそこに立っていたら、大怪我を負っていたことだろう。
安堵している伸とは違い、カサンドラは舌打ちをした。
「さっきも言ったでしょ? 人体実験の末路なんてお断りよ!」
「っ!?」
先程の伸の言葉に対して、カサンドラはこう返答する。
魔人の自分は、捕まればいつ終わるか分からない人体実験に晒され続けることになる。
それが分かっているのに、おとなしく捕まるなんてありえない話だ。
例え、勝てない分かっていてもだ。
全力で抵抗するつもりなのだろう。
カサンドラは魔力で作り上げたブーメランを無数に作り出した。
「威力よりも手数か……」
魔人としての本性の時は、速度よりも範囲と威力を重視した攻撃を主体としていたようだが、今のような半魔の状態の時には、手数を重視した攻撃に切り替えたようだ。
半魔になった時の方が、魔力を操作する能力が高いからの選択なのだろう。
そのことを理解した伸は、出現したブーメランの数々を視界に入れて呟いた。
「くたばれっ!!」
「っ!!」
カサンドラが左手を少し動かすことで、空中に浮かぶ無数の魔力ブーメランが伸に向かって殺到する。
四方八方から迫りくるブーメランに、伸は逃げる隙間など存在していなかった。
「ハアァーー!!」
「っっっ!?」
ブーメランが迫る中、伸は気合を入れ、刀に纏う魔力の量を増やす。
そうして強化した刀を超高速で振り回し、ブーメランたちを斬って消し飛ばしていった。
「……くっ!!」
とても信じられないような伸の反応速度に、カサンドラは少し間戸惑う。
そして、全てのブーメランを消し去られたら、もう自分に勝ち目がないことは分かっている。
伸に大ダメージを与える、もしくは殺すにしても、自分が生き残るためには力を温存しておく必要はない。
そう考えたカサンドラは、全魔力を総動員するつもりで次々とブーメランを作り出し、伸に向かって放った。
「うおおぉぉーー!!」
更に数が増えてもお構いなしとでも言うかのように、伸は刀を振り続ける。
その表情はどことなく楽しそうにも見える。
「くっ! 化け物め……」
ミスをすれば大怪我を負うことは間違いないというのに、まるでスリルを楽しんでいるかのようだ。
しかも、これだけ高速で動き回っているというのに、スタミナ切れをする様子がない。
そんな伸を、カサンドラは恐ろしく思えてきた。
「…………くっ! チクショウ……」
段々と出現するブーメランの数が減少していく。
伸のスタミナ切れより早く、カサンドラの魔力切れの方が先に来たようだ。
そして、とうとうブーメランを作ることができなくなったカサンドラは、糸が切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。
「……フゥ~、終わりか……」
全てのブーメランが消え失せ、伸は何だか残念そうに呟き刀を鞘に納める。
「さて……」
心を折ることで捕縛しようと考えていたのだが、魔力切れで気を失わせることになった。
それを結果オーライと捉え、伸は倒れているカサンドラに向かって歩き出した。
1
お気に入りに追加
69
あなたにおすすめの小説
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。
彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。
そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。
洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。
さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。
持ち前のサバイバル能力で見敵必殺!
赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。
そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。
人々との出会い。
そして貴族や平民との格差社会。
ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。
牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。
うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい!
そんな人のための物語。
5/6_18:00完結!
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる