主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸

文字の大きさ
上 下
211 / 281
3学年 前期

第210話

しおりを挟む
「……あっちは終わったみたいだな」

「っっっ!?」

 伸がカサンドラとの戦いを続けているうちに、綾愛たちの戦いが結末を迎えた。
 そのことに気付いた2人は、別々の反応をしていた。
 笑みを浮かべた伸と、驚きの表情で固まるカサンドラにだ。

「そんなバカな……」

 この日のために準備を重ねてきた。
 ゴブリンクイーンの失敗もあり、魔人たちも数よりも質を選んだというのに、こんな結果になることは想定していなかった。
 そのため、カサンドラはこの現状を受け入れきれずにいた。

「何のためにあいつらをと思っているのよ……」

 混乱しているからか、カサンドラは思っていることを口から出ていた。

『っ!? ?』

 カサンドラの呟きはごく小さいものだったが、伸はそれを聞き洩らさなかった。

「どういうことだ? 作り出したってのは……」

「…なんのことよ?」

 カサンドラが呟いた言葉が気になり、伸は直接問いかけることにした。
 動揺していることがバレ、その理由に伸の思考が向いてしまうと、知られては困ることに気付かれてしまうかもしれない。
 そう考えたカサンドラは、必死に声を詰まらせないように問い返したつもりだったが、僅かにできた間を伸は見逃さなかった。

「……まさか、魔人を作り出しているのか?」

「っっっ!!」

「やっぱりそうか……」

 仲間が殺されたことで呟いたことから、作り出したというのは魔人のことなのではないか。
 そう考えた伸が問いかけると、カサンドラの表情が固まる。
 その反応から、伸は自分の考えが間違っていないことを確信した。

『だとしたらマズいな……』

 魔人を作り出す方法がある。
 その知識を魔人側が所持している。
 それが本当なら、これからも魔人が何体も生み出されるということになる。
 相手にできる魔闘師はかなり少ないというのに、魔人の数が増えたら手に負えなくなる。
 
『なんとか捕縛をしたいところだが……』

 魔人の作り方を知らないと、阻止する方法も思いつかない。
 そのためには、作り方を知っているカサンドラを捕まえて尋問するしかないが、そんな簡単な相手ではない。
 倒すよりも難しいことになってしまったと、伸は心の中で思っていた。

「目聡いわね。知られた以上、始末しなければならなくなってしまったわ」

 自分のせいとはいえ、魔人を作り出せる方法があるということを知られてしまった。
 秘匿とすべき情報を知られてしまった以上、伸をこの場で倒さなければならない。
 そのため、カサンドラは両手に魔力で作り出したブーメランを手に持ち、伸に向けて構えた。

「そいつは無理だ。お前じゃ俺には勝てないからな」

「何っ!?」

 伸は余裕を見せるように刀の背で肩を叩きつつ、カサンドラの言葉を否定する。
 勝利を確信しているかのような舐めた態度に、カサンドラは顔を赤くした。

「柊家にダメージを与えるつもりだったようだが、狙う人間を間違えたな」

 綾愛を狙ったということは、柊家の弱体化を狙ったためだろう。
 しかし、その企みは完全に失敗だ。

「……どういうこと?」

「娘の方じゃなく、当主の方を狙っていたら今回の人数でもなんとかなったかもしれないということだ」

「……なるほど、そういうこと……」

 言っている意味が分からず、カサンドラは首を傾げる。
 すると、伸はその理由を説明した。
 それを受けて、カサンドラは何が言いたいのかを理解した。

「年末に襲い掛かったナタニエルたちを葬り去ったのは鷹藤家や柊家の当主によるものではなく、あなただったのね?」

「その通り」

 去年の年末の対抗戦終了後、ナタニエルという魔人をトップとした魔人たちが会場を襲撃した。
 そのナタニエルを柊家当主の俊夫と鷹藤家当主の康義が、それ以外の魔人たちを大会の観戦に来ていた名門家の者たちが討伐することに成功した。
 世間にはそう伝えられているが、俊夫や康義の実力でナタニエルを倒せるかは微妙だと、カサンドラは思っていた。
 しかし、目の前の人間離れした強さを持つ伸を見て合点がいった。
 伸も加われば、ナタニエルを倒すことも可能だと。

「そんな情報を口にして良かったの? 私の仲間が他にいると思わないの?」

 魔人にとってこの大和皇国で一番危険なのは、柊家や鷹藤家の当主などではない。
 目の前にいる伸だ。
 本人もナタニエルを倒したと言っていることだし間違いない。
 自分たち魔人にとっては貴重な情報だ。
 それを軽々に口にした伸に、自分の仲間が聞いている可能性を示して、カサンドラは動揺を誘うことにした。

「戦う前に周辺10kmの探知は済んでいる。他の魔人が潜んでいる可能性はない」

「っっっ!?」

 動揺させるつもりだったカサンドラだが、逆に自分が動揺することになった。
 周辺10kmというとんでもない範囲の探知能力だ。
 それだけの範囲を探知するには、相当な魔力と魔力操作力が高いということだ。
 それを、成人していない人間ができるなんて思いもしなかったからだ。

「……とんでもない化け物ね」

「魔人に言われるのは何とも言えないが、誉め言葉として受け取っておくよ」

 大半の人間からしたら、魔人こそが化け物だ。
 しかし、そんな魔人から化け物扱いされたことに、伸は笑みを浮かべて受け入れ、刀をカサンドラに向けて構えを取った。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...