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3学年 前期

第202話

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「こいつ!」

「落ち着きな!」

「カサンドラ様……」

 仲間の魔人が柊家に潜入していることに気付かれ、エラズモは牙をむきだして怒りの表情に変わる。
 潜入者は魔人の中でも戦闘力が低いものが多い。
 もしも柊家の人間に気付かれれば、殺される可能性が高い。
 そのため、潜入者の存在を気づいた伸が、柊家へ報告する前に殺そうと慌てて襲い掛かろうとした。
 しかし、カサンドラはそんなエラズモを止める。
 ここまでの戦いで、伸に慌てて攻撃をしたらしっぺ返しを食らうことが予想できたからだ。

「知られたからって、この場で仕留めればいいだけよ」

「そうですね……」

 ここまでの戦いで、伸は防戦一方。
 2対1なのだから当然だ。
 というより、自分たちを相手に瞬殺されない時点で、伸の実力は相当なものだと理解できる。
 それだけに、冷静に対応しなければならないため、カサンドラはエラズモを落ち着かせた。

「これまで通り、近距離はあなた。遠距離から私よ」

「了解しました!」

 防戦一方ということは、反撃の機会がないということ。
 こちらはこのまま続け、伸が判断を間違うのを待てばいいと考えたカサンドラは指示を送り、エラズモはそれに返事をした。 

「ハッ!!」

“バッ!!”

 カサンドラの魔力ブーメランの攻撃を合図に、エラズモが動く。

「チッ! またか……」

 飛んできたブーメランを弾き、またも距離を詰めてきたエラズモに舌打ちをする。
 またカサンドラの攻撃に警戒しながら、エラズモの攻撃に対処しなけらばならないと思うと、面倒でしかないからだ。
 移動速度だけなら、以前倒したティベリオというチーターの魔人の方が速いのだが、接近戦の技術で言えばエラズモの方が上手かもしれない。

「ハッ!!」

「……っ!!」

 エラズモの相手をするうえで、特に問題なのがリズムだ。
 こちらのカウンターをしようとしたタイミングを、見事に外してくるからだ。
 今も、反撃のチャンスと思って手を出そうと考えたところで、エラズモはその動きに合わせて攻撃をしてこようとした。
 そのおかしなリズムに翻弄され、伸はなかなかエラズモを攻略できないでいた。

「っ!?」

“ガキンッ!!”

「くっ!?」

 接近戦で倒すより、距離を取って攻撃をすれば攻撃の機会は訪れる。
 そう考え、伸が少しでもエラズモから距離を取ると、カサンドラのブーメランが襲い掛かってくる。
 そのブーメランを防ぐと、またエラズモが距離を詰めて襲い掛かってくる。
 その繰り返しに、伸は動きまわされていた。

「ガキの割には強いようだが、所詮は人間。逃げ回っていてもそのうち私かエラズモの攻撃を受けるだけよ!」

 カサンドラとエラズモの攻撃を防ぎ・躱し、伸は防戦一方のまま動きまわされている。
 いくら防御が上手くても、体力がいつまでも続くわけがない。
 人間と魔人では、そもそもの身体能力が違う。
 体力勝負になれば、勝つのは自分たちだ。
 その自信から、カサンドラは伸に逃げ回っていても無駄だということを伝える。
 このまま続けても勝ち目がないということを教えて、伸の戦意を失わせるためだ。

「……フゥ~、そろそろか……」

「っ!? 何がだ!?」

 カサンドラの言うことなんて気にしていないかのように、伸は表情を変えない。
 そして、何かを確認するかのように小さく呟く。
 その反応が気に入らず、エラズモは少し荒い声で問いかけた。

「……反撃開始がだ」

「……何っ?」

 平坦な声で返答する伸。
 何を考えているのか分からないその返答に、エラズモは訝し気に声を上げる。

「フンッ!」

「っ!? うぐっ!?」

 伸が何を考えているのか分からないが、反撃の機会なんて与えるつもりはない。
 その思いから、エラズモは両手の爪による攻撃を放つ。
 これまで通りなら、伸は自分の独特なリズムの攻撃に反撃することができず、距離を取るような反応をするはずだ。
 しかし、そのエラズモの考えは覆される。
 攻撃に飛び込むように接近した伸は、ギリギリのところでしゃがみ込み、攻撃を躱すとすぐさま蹴りをエラズモの腹へと打ち込んだ。

「ハッ!!」

「グッ! このっ!!」

 たたらを踏むように2歩退くエラズモ。
 その隙を付き、伸は刀を上段から振り下ろす。
 攻撃に気付いたエラズモは、両手の爪をクロスするようにして受け止める。

「セイッ!!」

「がっ!?」

 上に意識を向けさせたことで隙ができた。
 その隙を逃さず、伸は足を振り上げ、エラズモの顎にアッパーのように蹴りを打ち込んだ。

「……ムッ!?」

 追撃を加えるチャンス。
 そう判断した伸は、エラズモに向かって斬り込もうとする。
 だが、一歩踏み出したところで足を止めざるを得なかった。
 というのも、エラズモに近づけさせまいと、カサンドラが得意のブーメランで邪魔をしてきたからだ。

「……も、申し訳ありません。カサンドラ様……」

 蹴りを受けたエラズモは、カサンドラの近くまで後退させられる。
 そして、口から流れる血を拭いつつ、エラズモはカサンドラに向かって伸の追撃から自分を救ってもらったことを感謝する。

「……とんでもない小僧ね。あんたのリズムにこんな短期間で慣れるなんて……」

「左様ですね……」

 人へのいたずらを得意とするブルベガーと呼ばれる魔物。
 その中でも、エラズモは人間の反応を先読みすることが得意な魔人だ。
 それが、戦闘面においては相手のリズムを狂わせ、反撃のタイミングを取り辛くさせていた。
 しかし、伸はそんな自分のタイミングずらしにこの短時間で慣れたらしく、攻撃を与えるようになってきた。
 まだ打撃だからいいが、もしも刀による攻撃が当たるようになったら、致命傷を受けて戦闘不能になりかねない。
 そう考えると、完全に慣れる前に潰すしかない。

「……カサンドラ様。もしもの時には私ごと……」

「……分かったわ」

 エラズモは何かを決意したような表情で呟く。
 全てを言いきらない言葉だが、表情から言いたいことは分かる。
 そのため、カサンドラはその決意を尊重するように、エラズモの言葉を受け入れた。

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