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3学年 前期

第200話

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「……たしか貴様は、柊の娘の婚約者の……」

「いつの間に……」

 カサンドラと背の低い細身の男の魔人が呟く。
 こちらからなら綾愛たちの動向を把握することができるが、綾愛たちの探知魔術の範囲内に入らないようにかなりの距離を取っていたため、奇襲を受けることなんて考えてもいなかった。
 そのため、全くの無警戒で攻撃を受け、あっという間に魔人の2人が殺されてしまった。
 カサンドラは動揺を表情に出さないようにしているが、背の低い細身の魔人は驚きの表情で伸を見つめていた。

「こいつ!!」

「バカッ! 待てっ!」

 伸の出現に警戒しているカサンドラと背の低い細身の魔人以外の2人のうち、片方が仲間の敵討ちとばかりに両手に持った短剣で伸に斬りかかる。
 カサンドラがその軽率な行動を止めようとするが、それが届く時には、もう伸の目の前に迫っていた。

「シッ!!」

「ガッ!?」

 魔人の短剣が伸に届くことはなかった。
 短剣が伸に刺さるよりも早く、伸の刀が魔人の胴を上下に斬り飛ばしたからだ。

「こっ……!!」

「待ちな!!」

「っ!?」

 3人目が殺されたことで、もう1人の魔人も持っている槍で伸に襲い掛かろうとした。
 しかし、その魔人が動く前に、カサンドラがそれを止めた。

「こいつは私とエラズモで相手する。あんたはあの4人を相手しな!」

 自分たちに悟られることなく奇襲を成功し、更にもう1人の魔人を一刀のもとに斬り捨てた。
 その実力を見たカサンドラは、下っ端の魔人では伸の相手にならないことを察知し、背の低い細身の魔人ことエラズモと共に相手をすることを決めた。
 そして、残った下っ端の魔人には、今回の標的である綾愛と周囲にいる者たちの始末を命じた。

「……ハッ!」

 魔人にも仲間意識があるらしく、仲間をやられて気が立っている。
 そのため、指示を受けた魔人は、上司であるカサンドラの命令に渋々といった様子で頷いた。

「行かせるかよ!」

「っっっ!?」

 綾愛たちのことを考えれば、伸としては1体でも魔人を近づけるようなことはしたくない。
 そのため、カサンドラの指示に従って綾愛たちの所へ向かおうとする魔人を好きにさせるわけにはいかないため、その魔人を抑えるために攻撃を加えようと動く。

「それはこっちの台詞よ!」

「チッ!」

 綾魔たちの所に行かせまいと、下っ端らしき魔人を斬り捨てようと考えていた伸だったが、カサンドラが持っていた剣で受け止める。
 そのせいで、1体の魔人が綾愛たちの方へと向かって行ってしまったため、伸は思わず舌打ちをした。
 奇襲攻撃が成功したからあっさりと仕留めることはできたが、魔人たちはまだ人の姿をしていたからだ。
 その姿を解いて魔人としての本性を現した時、綾愛たちが勝てるかどうか分からない。
 かといって、目の前にいる女と男の魔人を放っておくわけにはいかない。
 先ほど倒した3人の魔人より桁が違うと、漏れている魔力を見ただけで察しが付くからだ。

「ガァーーッ!!」

 雄たけびを上げつつ、エラズモが長い爪で伸に襲い掛かる。
 伸がカサンドラと鍔迫り合いをしているうちに、魔人としての本性を現したようだ。

「その姿、ブルベガーか!?」

「……正解だ!」

 全身が黒い毛に覆われ、赤い目をした2足歩行の犬のような頭部。
 その特徴は、ブルベガーという魔物の特徴そのものだ。
 伸がそのことを呟くと、エラズモは返答した。

「ハアッ!!」

「っ!!」

 本性を現したことで伸びた両手の爪を武器にし、エラズモは伸に向かって振り回してきた。
 回転の速い、まるで短剣の二刀流のような攻撃を、伸は刀を使用して防御する。

「ハッ!!」

「っと!」

 左右から振り回す攻撃に目が慣れたところで、下からの攻撃が飛んでくる。
 エラズモの右足が、伸の顎に向かって振り上げられる。
 その攻撃に気付いた伸は、バク転をすることで回避した。

「ガーーッ!!」

「……なかなか速いな」

 大きな声を上げたエラズモは、伸を中心とするように円を描くように走り回る。
 魔人特有の身体能力に加え、魔力による身体強化を図っているのだろう。
 残像でもできそうなくらいの速度で、動き回るエラズモを見て、伸は感心したように呟く。

「ハーーッ!!」

「来るか!?」

 少しずつ円を狭め、伸との距離を詰めてくるエラズモ。
 そして、ある程度の距離まで近づいた瞬間、伸に向かって一直線に向かってきた。
 エラズモは確かに速いが、伸の目には捕えられていた。
 そのため、伸は慌てることなく刀をエラズモに向けた。

「フッ!!」

「っ!?」

 あと数歩で自分の刀の間合いに入る。
 その瞬間に薙ぎ払おうと考えていた伸だったが、そこで意表を突くようにエラズモが急に飛び上がった。

「っっっ!?」

“ガキンッ!!”

「チッ!!」

 伸がエラズモを目で追った瞬間、左側から嫌な気配を感じた。
 その感覚に従って伸が刀を左へと向けると、魔力でできたブーメランが高速で飛んできていた。
 勘に近い反応だったが、それによって伸は飛んできたブーメランを弾くことに成功した。

「ワイバーン……いや、ウングルか……?」

 一瞬ワーバーンに見えたが羽がない。
 それに虹色に見えるその体から、伸はその魔物の種類に気が付いた。
 ウングルと呼ばれる蛇だと。

「良い反応するわね……」

 どうやら、伸がエラズモと闘っているうちにカサンドラが魔物としての本性を現したようだ。
 エラズモの視線誘導を受けていながら、死角からの攻撃の防御に成功した伸を見て、カサンドラは忌々しそうに呟いたのだった。

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