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3学年 前期
第189話
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「じゃあ、行こうか?」
「あぁ」
夏休みに入り、伸は今年も柊家の仕事をして小遣い稼ぎをすることにしている。
いつもの仕事と違うのは、八郷地区の中でも東側にあたる地域で魔物討伐をおこなうということだろう。
八郷地区の中でも東側と言うと、1年の夏休みの時に行った谷津代州を思い出させるが、今年はその北に位置する矢多州に来ている。
谷津代と同じく海に面しており、豊富な種類の魚介類の収穫で有名な州だ。
海に面している部分は海水浴場とかもあるため、多くの住民がいるために魔物が出現する頻度はかなり低い。
しかし、海から離れたところにある山には人の手が届いていない部分があり、魔闘師の調査期間が開いてしまう場合もある。
調査期間が開いてしまうと、以前のゴブリンの大量繁殖なんてことが起こりえるため、夏の間に矢多州の調査しにくい場所を徹底的に調べるのが伸たちの仕事なのだそうだ。
矢多州に着いた早々、最初の目的地付近に向かった伸たちは、綾愛の合図と共に調査を開始することにした。
「なあ、正大」
「はい? 何でしょう?」
車が入れないような山の中を進み、チラホラと出現する魔物を倒しながら、伸は今回の仕事に同行した森川家の正大に話しかける。
「どんなのを従魔にするのか決めているのか?」
「いえ……、どんな魔物がいいんでしょう?」
台藤地区で有名な森川家は、従魔と共に魔物を討伐することを得意としている。
その森川家の次男である正大も、高校就学中に従魔にする魔物を見つけたいと思っている。
今回の仕事に付いてきたのも、その従魔候補が見つかるのではないかという思いからだ。
その従魔候補を探すことにも協力するため、伸は正大にどんな従魔にするのかを問いかける。
しかし、正大の中にはこれと言ったのが決まっていないらしく、伸に聞き返してきた。
「まぁ、お前の兄さんの、哲也さんのような魔物はかなり良いよな」
「ですよね」
去年の夏に開かれた合宿の時、伸たちは正大の兄である哲也と知り合いになった。
伸は、その哲也が連れていた従魔のことを思い出した。
斬牙という名前の、狼系統の魔物だ。
正大としても兄の従魔である斬牙のことは好きだが、やはり兄弟としては兄に負けない従魔が欲しいのだろう。
斬牙のことは認めつつも、それに匹敵する、できるならそれ以上の魔物がいないか期待しているようだ。
「それにしても、狼系の魔物なんてよく従魔にできたよな?」
哲也の従魔である斬牙は、狼系の魔物だ。
犬系統の魔物だったら、実力の違いを分からせれば従わせることは難しくない。
しかし、狼系となるとプライドが高いのか、人に従うことを拒む傾向が強い。
そんな狼系の魔物を、哲也がどうやって従魔にできたのか伸には不思議に思えた。
「斬牙が子供だった時、怪我しているところを助けたことで懐いたって感じです」
「へ~、なるほどな」
正大の話だと、哲也が中学生の時に他の魔物によって親を殺され、自身も怪我していた子狼の斬牙を助けたことで、哲也に懐くことになったそうだ。
その境遇と、まだ子狼だったことが、人に従うことに抵抗がなかったのかもしれない。
成体だと無理でも、幼少期なら従魔にできるかもしれないという例を教えてもらえた気分だ。
「先輩はなんでピモを従魔にしたんですか?」
「……えっ?」
従魔にする条件を知るためにも、正大は伸がピグミーモンキーのピモを従魔にした理由が気になったため、ふと問いかける。
その問いに対し、伸は意表を突かれたといった様子で言葉に詰まった。
「な、何となく……」
「……そ、そうですか……」
ピモを従魔にした理由を思い出してみると、結構適当な理由だったため、伸は言いにくそうに返答する。
伸が最初ピモを従魔にしようと思った理由は、操作魔術の練習をすると共に、それによって及ぼす影響を確認するために猿型の魔物を探していたからだ。
あまり考えずに従魔にした様子の返答に、正大は何とも言えない対応しかできなかった。
「まぁ、理由はどうあれ、役に立っていることは確かだな」
本当は、その実験が終了したらさっさと始末するつもりでいた。
しかし、飼っていると情が生まれ、小さいからこそ敵に見つかることなく調査をおこなえるという利点があることにも気づいた。
そのため、今は従魔にして良かったと思っている。
「……思い付きも無視できないってことですかね?」
「俺のように完全に思い付きで選ぶのは微妙だが、それも必要かもな」
魔物にはまだ未知の部分が存在している。
ピモのように従魔にしたら思わぬ力を発見するかもしれない。
そのため、弱い魔物だからと言って最初から度外視するのは良くないのかもしれない。
そう考えると、正大は思い付きで従魔にするという選択もありなのではないかと思うようになり始めていた。
しかし、自分のように上手くいくとは限らないので、とてもではないが同じように選択することは勧められない。
『そもそも、ピモのように規格外な能力を得るには、操作魔術が必要になるからな……』
ピモの調査技術は、ピグミーモンキーらしからぬ魔力操作能力がなければできないことだ。
それを無理やり使えるようにしたのが、伸の身体操作魔術だ。
身体操作魔術が使えれば、どんな魔物を従魔にしてもある程度使えるように仕上げることはできるが、それができない正大は慎重に選ぶべきだ。
「おっと、とりあえず魔物を始末するか」
「はい!」
正大と話している最中だが、探知に魔物の存在が引っかかる。
それに気づいた伸たちは、話を中断して魔物を倒すことにした。
「あぁ」
夏休みに入り、伸は今年も柊家の仕事をして小遣い稼ぎをすることにしている。
いつもの仕事と違うのは、八郷地区の中でも東側にあたる地域で魔物討伐をおこなうということだろう。
八郷地区の中でも東側と言うと、1年の夏休みの時に行った谷津代州を思い出させるが、今年はその北に位置する矢多州に来ている。
谷津代と同じく海に面しており、豊富な種類の魚介類の収穫で有名な州だ。
海に面している部分は海水浴場とかもあるため、多くの住民がいるために魔物が出現する頻度はかなり低い。
しかし、海から離れたところにある山には人の手が届いていない部分があり、魔闘師の調査期間が開いてしまう場合もある。
調査期間が開いてしまうと、以前のゴブリンの大量繁殖なんてことが起こりえるため、夏の間に矢多州の調査しにくい場所を徹底的に調べるのが伸たちの仕事なのだそうだ。
矢多州に着いた早々、最初の目的地付近に向かった伸たちは、綾愛の合図と共に調査を開始することにした。
「なあ、正大」
「はい? 何でしょう?」
車が入れないような山の中を進み、チラホラと出現する魔物を倒しながら、伸は今回の仕事に同行した森川家の正大に話しかける。
「どんなのを従魔にするのか決めているのか?」
「いえ……、どんな魔物がいいんでしょう?」
台藤地区で有名な森川家は、従魔と共に魔物を討伐することを得意としている。
その森川家の次男である正大も、高校就学中に従魔にする魔物を見つけたいと思っている。
今回の仕事に付いてきたのも、その従魔候補が見つかるのではないかという思いからだ。
その従魔候補を探すことにも協力するため、伸は正大にどんな従魔にするのかを問いかける。
しかし、正大の中にはこれと言ったのが決まっていないらしく、伸に聞き返してきた。
「まぁ、お前の兄さんの、哲也さんのような魔物はかなり良いよな」
「ですよね」
去年の夏に開かれた合宿の時、伸たちは正大の兄である哲也と知り合いになった。
伸は、その哲也が連れていた従魔のことを思い出した。
斬牙という名前の、狼系統の魔物だ。
正大としても兄の従魔である斬牙のことは好きだが、やはり兄弟としては兄に負けない従魔が欲しいのだろう。
斬牙のことは認めつつも、それに匹敵する、できるならそれ以上の魔物がいないか期待しているようだ。
「それにしても、狼系の魔物なんてよく従魔にできたよな?」
哲也の従魔である斬牙は、狼系の魔物だ。
犬系統の魔物だったら、実力の違いを分からせれば従わせることは難しくない。
しかし、狼系となるとプライドが高いのか、人に従うことを拒む傾向が強い。
そんな狼系の魔物を、哲也がどうやって従魔にできたのか伸には不思議に思えた。
「斬牙が子供だった時、怪我しているところを助けたことで懐いたって感じです」
「へ~、なるほどな」
正大の話だと、哲也が中学生の時に他の魔物によって親を殺され、自身も怪我していた子狼の斬牙を助けたことで、哲也に懐くことになったそうだ。
その境遇と、まだ子狼だったことが、人に従うことに抵抗がなかったのかもしれない。
成体だと無理でも、幼少期なら従魔にできるかもしれないという例を教えてもらえた気分だ。
「先輩はなんでピモを従魔にしたんですか?」
「……えっ?」
従魔にする条件を知るためにも、正大は伸がピグミーモンキーのピモを従魔にした理由が気になったため、ふと問いかける。
その問いに対し、伸は意表を突かれたといった様子で言葉に詰まった。
「な、何となく……」
「……そ、そうですか……」
ピモを従魔にした理由を思い出してみると、結構適当な理由だったため、伸は言いにくそうに返答する。
伸が最初ピモを従魔にしようと思った理由は、操作魔術の練習をすると共に、それによって及ぼす影響を確認するために猿型の魔物を探していたからだ。
あまり考えずに従魔にした様子の返答に、正大は何とも言えない対応しかできなかった。
「まぁ、理由はどうあれ、役に立っていることは確かだな」
本当は、その実験が終了したらさっさと始末するつもりでいた。
しかし、飼っていると情が生まれ、小さいからこそ敵に見つかることなく調査をおこなえるという利点があることにも気づいた。
そのため、今は従魔にして良かったと思っている。
「……思い付きも無視できないってことですかね?」
「俺のように完全に思い付きで選ぶのは微妙だが、それも必要かもな」
魔物にはまだ未知の部分が存在している。
ピモのように従魔にしたら思わぬ力を発見するかもしれない。
そのため、弱い魔物だからと言って最初から度外視するのは良くないのかもしれない。
そう考えると、正大は思い付きで従魔にするという選択もありなのではないかと思うようになり始めていた。
しかし、自分のように上手くいくとは限らないので、とてもではないが同じように選択することは勧められない。
『そもそも、ピモのように規格外な能力を得るには、操作魔術が必要になるからな……』
ピモの調査技術は、ピグミーモンキーらしからぬ魔力操作能力がなければできないことだ。
それを無理やり使えるようにしたのが、伸の身体操作魔術だ。
身体操作魔術が使えれば、どんな魔物を従魔にしてもある程度使えるように仕上げることはできるが、それができない正大は慎重に選ぶべきだ。
「おっと、とりあえず魔物を始末するか」
「はい!」
正大と話している最中だが、探知に魔物の存在が引っかかる。
それに気づいた伸たちは、話を中断して魔物を倒すことにした。
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