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3学年 前期

第186話

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「「先輩!!」」

「……またか」

 後輩の森川家の正大と上長家の麻里が、伸たちの所に駆け寄ってくる。
 その姿を見て、伸は僅かに眉を顰める。

「先日のこともあって、余計についてくるようになっちゃったわね」

 ゴブリン討伐を終え、後輩2人はこれまで同様、というかそれ以上に時間があれば伸と綾愛につき纏ってきている。
 そのことを、伸たちは少しうんざりしている様子だ。

「まぁ、仕方ないけど……」

 2人は他の地区の名門の森川家と上長家の人間だ。
 跡継ぎではないとは言っても、魔闘師として強くなりたいという気持ちを持っているのは普通のこと。
 兄弟姉妹がいなくてもその気持ちは分からなくはないため、綾愛は諦めているようだ。

「お前ら勉強しなくて大丈夫なのか?」

 2人はいつも自分たちに付いてきて、戦闘訓練を指導してほしいと求めてくるが、もうすぐ前期末テストが始まる。
 断り続けるだけでは2人は止まらないため、たまには受けるようにしていたのだが、ゴブリン討伐をおこなってからはほぼ毎日のようになってしまった。
 確かに魔闘師なら戦闘能力が重要だが、学生の彼らには学問も重要だ。
 そのため、気になった伸は2人に問いかけた。

「全然大丈夫っす!」

「私もです!」

 問いかけられた正大と麻里は、自信ありげに返答する。
 むしろ、「なんでそんなことを聞いてくるのだろう?」とでも言うかのような表情だ。

「主席と次席だもんね……」

「そういえばそうだった……」

 2人は入学試験で主席と次席の成績で入学した。
 麻里が主席、正大が次席だ。
 しかも、2人の点数はほとんどないが、他の者を少し離しての点数だったそうだ。
 そんな2人なら、勉強もちゃんとやっているのだろう。
 奈津希の言葉に、伸は自分が無駄な質問をしたと気付いた。

「……門限までなら良いんじゃない?」

 期末テストも近いし、伸たちは今週末は柊家の仕事をしないことになっている。
 勉強ばかりで、体を動かさないのはストレスが溜まる。
 それを発散させるためにも、綾愛も体を動かしたいのだろう。
 2人の求めに応じる反応を見せた。

「……仕方ない。あんまり長くはダメだぞ」

「よしっ!」

「やった!」

 鷹藤家に実力を知られないために、伸はテストの点もセーブしていた。
 しかし、柊家の後ろ盾ができた今、そうする理由もなくなった。
 そのため、高校最後の年は無理にセーブするつもりはない。
 学力においても、戦闘能力においてもだ。
 とはいっても、ゴブリンの巣をほぼ1人で潰したことを知られると他の名家が綾愛との婚約を破棄させようとしてくるかもしれないので、正大と麻里には実家に報告しないように口止めをしている。
 その代わり、たまに指導を付けることを口止め料としてるため、伸も今回は2人の頼みを受けることにした。
 ここにいる人間は全員寮生活だ。
 柊家の管理している近くの道場を借りて、伸たちは寮の門限に間に合うまで2人の指導をすることになった。






「なあ……」

「うん? どうした?」

 正大と麻里に指導を付けた翌日、土曜日なので寮の自室でテスト勉強をしていたところ、友人の了が訪ねてきた。
 なんだか表情がすぐれないため、伸は持っていたペンの手を止めて問いかけた。

「勉強教えてくれ!」

「……嘘だろ?」

 何かと思えば、どうやらテスト勉強を見てほしいようだ。
 昨日は後輩の戦闘指導をすることになり、今日は了の勉強を見ないといけないなんて、ほとんど教師の仕事だろう。
 そう思った伸は、勘弁してほしいという思いで声を漏らす。

「頼むよ! 今回はいつもより分かんねんだよ!」

「……マジかよ?」

 期末のみならず、テストが近づくと了はいつも頭を抱えている。
 了だけでなく、良くつるんでいる石塚・吉井の2人も合わせてだ。
 その3人を見かねて、伸はちょこちょこ勉強を教えていた。
 そのお陰もあってか、3人はこれまで赤点を取らずに済んできた。
 とはいっても、いつもギリギリ。
 それなのにいつもよりということは、相当やばいことが窺える。
 そのため、伸は他人事ながら心配になってきた。

「なあ、頼むよ! 伸!」

「……しょうがねえな」

「マジか!? サンキュ!!」

 両手を合わせ深々と頭を下げてくる了。
 ずっと同じクラスでつるんできた友人がここまで頼み込んでくるということは、それだけ切羽詰まっているということだろう。
 赤点取っても追試を突破すれば問題ないだろうが、どうせならギリギリでもさっさと突破させて、いつものようにつるんでいる方が伸としても気が楽だ。
 そう考えた伸は、嫌々そうに言いながら、了の勉強を見てやることにした。
 伸の了承を得た了は、すぐさま頭を上げていくつもの教科書を持ってきた。

「……これ、テスト教科のほとんどじゃねえか?」

 教科書の量を見て、伸は少しの間固まる。
 そして、教科書の種類を見ると確認するように了に問いかける。
 まさかこれを全て教えろと言っているかのようだ。

「そう! だからやばいって言ったんだよ!」

「マジかよ……」

 まさかではなく、どうやらテスト教科のほぼ全てを教えてほしいようだ。
 さすがにそこまでとなると、教えるといった自分を恨みたくなる。
 信じられないという思いと共に、伸はいつの間にか心の声を漏らしていた。

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