主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸

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2学年 後期

第159話

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「に、新田君っ!!」

 待ち望んでいた伸の登場に、綾愛は先程までの悲壮感が嘘だったように笑顔へと変わった。
 チョロいと言われようが、ピンチに颯爽と現れたら惚れ直しても仕方がない。
 綾愛からしたら、何ならこのまま抱きつきたい気持ちだ。
 しかし、そんな事をしている状況ではないという理性が残っているため、損気持ちを何とか堪えた。

「大丈夫か? ……っと!」

 魔人の相手をしたせいで、細かい傷が幾つも付いている。
 重傷を負っていないか確認しようと綾愛近寄るが、伸は途中で足を止めて視線を外し、着ていた上着を渡した。 

「……あっ! ありがと……」

 どういうことかと思ったが、綾愛はすぐに自分の服がボロボロになっていることに気付いた。
 動いたら下着が見えてしまいそうなため、綾愛は顔を赤くして受け取った服で身を隠した。

「……何だ貴様は?」

 伸と綾愛のやり取りをひとまず黙って見ていたが、戦闘の邪魔をされた兎の魔人は内心イラ立っていた。
 しかも、そのやり取りをする伸の態度が、まるで自分のことを警戒していない様子。
 それが尚更不愉快にさせる。

「……おいおい、数多いな……」

 綾愛との会話を終えた伸は、観客席に目を向ける。
 名家の当主やその関係者たちが、数体の魔人と戦っている。
 その魔人の数を見て、伸は意外そうに呟いた。

「魔人って滅多に出現しないはずじゃなかったのかよ……」

 数十年前、この大和皇国に1体の魔人が出現し、大きな被害が生まれた。
 その時に魔人討伐に活躍したのが、鷹藤家の現当主の康義だ。
 魔人がそれから出現するようなことはなかったというのに、去年に入ってからは頻出していると言って良い。
 しかも、今回は何体もの魔人が出現したというのだから、伸がこう言いたくなるのも分からなくもない。

「……おいっ! 質問に答えろ!」

「んっ? 兎……?」

 話しかけているというのに、まだ自分を無視するような態度をしている。
 そんな伸に、兎の魔人は更にイラ立ちを募らせ、放す言葉も荒くなり始めた。
 相手のイラ立ちなど気にする様子もなく、伸は今更前にいるのが兎の魔人だということに気付いた。

「貴様は何者だ!? というか、会場周辺には数体の魔人がいて入れないはずだ! どうやって入った!?」

 この場には、邪魔が入らないよう数体の魔人を配備していた。
 下っ端の魔人だからと言って、そう簡単にやられるようなことはないはず。
 そんな連中がいたにもかかわらず、どうやって伸が入ってきたのか気になった兎の魔人は、荒い口調で矢継ぎ早に問いかけた。

「あぁ……」

 兎の魔人の質問に対し、伸は少し考える素振りをする。

「外の魔人は全部倒した」

「………………何だと?」

 伸はあっさりと答える。
 その答えを予想していなかったのか、兎の魔人は怒りを忘れ、少しの間無言になった。
 そして、伸の発した言葉を理解すると、自然と頭に浮かんだ質問が口から出ていた。

「だから、全部倒した」

 聞かれたから答えた。
 くらいの感覚で、伸は再度同じ返答をする。

「……き、貴様のような無名のガキに、そんなことができるわけないだろ!?」

「お前が信じる信じないはどうでもいい。夏に現れたのに毛が生えた程度の実力しかない魔人なんて、俺の邪魔をする事なんてできないっての」

 伸の答えを信じられないらしく、兎の魔人は整理できていないのか言葉を噛みつつ発する。
 そんな兎の魔人のことなどお構いなしという感じで、伸は会場外の魔人のことを話した。
 たしかに会場にたどり着いた時、数体の魔人が向かってきたが、そんな魔人たちを、伸はまるで紙かのように刀で斬り倒した。
 全員を倒すのに使用した時間は、分にも満たなかっただろう。
 外で待機していた鷹藤家の援軍たちも、何が起きたのか気付いている人間は少ないはずだ。

「……まぁいい、俺はその女の首を取って、ナタニエル様に捧げるんだ。お前もついでに殺してやる」

 会場の外に配置した魔人が、本当に殺されたかはどうでもいい。
 それが本当だったとしても、自分がやるべきことをやれば良いだけの話だ。
 そう考えた兎の魔人は、一気に冷静になった。

「……いや、そんなこと聞いたら余計見過ごせないな。こいつは俺の……」

「俺の!?」

 魔人だろうが何だろうが、人を殺そうとしているの黙って診過ごせるわけはない。
 しかも、綾愛は伸にとって同じ学園に通う間柄というだけではない。
 どんな間柄というのか気になったのは、兎の魔人ではなく綾愛の方だ。
 そのため、伸の言葉の続きが気になり、綾愛が強く反応する。

「……弟子なんでな」

「あぅ……」

 伸からすると、綾愛が何を期待していたのか分からないが、彼女は自分が指導した相手だ。
 言わば弟子のようなもの。
 そう素直に口にすると、綾愛は期待していたのとは違ったらしく若干落ち込んだ。

「弟子だかなんだか知らないが、俺はお前たちを殺すだけだ!」

「…………」

 伸とこれ以上話しても時間の無駄だと考えたのか、兎の魔人は短刀を構える。
 そんな兎の魔人に対し、伸も無言で刀を構えた。

「シッ!!」

 綾愛と戦っていた時のように、兎の魔人は跳躍力を利用しての高速接近をおこなう。
 そして、距離を詰めると、伸の首を狙って短刀を振った。

“ガキンッ!!”

「なっ!?」

 短刀が伸の首に当たると兎の魔人が思ったところで、硬質音が鳴り響く。
 伸の刀が兎の魔人の担当を防いだ音だ。
 その音を聞いた兎の魔人は、すぐさま先程立っていた位置へと戻る。

「チッ! 運の良い奴め。良く今のを防げたな……」

「何言ってんだ? そんな攻撃が俺に通用するわけないだろ?」

「……何?」

 その言葉の通り、兎の魔人は伸が首を狙われていることに気付き、運良く防いだと判断したようだ。
 それを聞いて、伸はため息でも吐くかのように言葉を返す。
 返ってきた言葉に、兎の魔人は抑えたはずの怒りが再燃してきた。

「さっきの言葉からして、お前魔人の中でも下っ端だろ? そんな奴が俺の相手になる訳ないじゃないか」

「下っ端…だと……?」

 今のを偶然なんて考えるなんて、実力差が分かっていないとしか言いようがない。
 そのことから、伸はこの兎の魔人が魔人の中でたいした地位にいないのだと判断した。
 それを口にすると、兎の魔人は怒りの限界に達したのか、歯ぎしりするように呟く。

「俺を舐めるな!!」

 伸に舐められていることが我慢ならなくなったのか、兎の魔人は怒号と共に、腰に差していたもう一本の短刀を抜いた。

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