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2学年 後期
第151話
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「なるほど……」
短髪で、少し乱れた髪型をした壮年男性が頷く。
伸の通報を聞いて、数人の部下と共に臨場した刑事だ。
他の刑事たちの呼び方から、どうやら階級は警部で、名前は鈴木というらしい。
「睡眠薬を嗅がされ、眠らされている間にここに連れて来られたと……」
「はい……」
町はずれの倉庫に臨場して見れば、通報通り犯人と思わしき2人組が気を失っていた。
捜査を開始するにあたり、伸は鈴木に事件の詳細を聞かれていた。
「君たちは証拠がないか探してくれ」
「「「「「はい!」」」」」
鈴木の指示を受け、部下らしき刑事たちは証拠の捜索を開始する。
「警部! 外に止められた自動車の中に、このような物が見つかりました」
「そうか。鑑定に回してくれ」
「はい!」
証拠はあっさりと見つかる。
倉庫外に止められていた2人組の物らしき自動車の中を捜索した所、睡眠薬のビンが発見されたのだ。
もちろん指紋が取れた場合の話だが、照合して合致すれば、2人組は被疑者から容疑者に格上げだ。
そうなることを期待して、鈴木は袋に入れられた睡眠薬のビンをすぐに鑑定に回すように指示を出した。
「うぅ……」「ぅん……」
「目を覚ましたようだな。そいつらを署に連れて行ってくれ」
「はい!」
刑事たちが他にも証拠となる物がないか探していると、伸に殴られて気を失っていた犯人たちが目を覚ました。
それに気付いた鈴木は、部下に2人を警察署に送ることを指示した。
目を覚ましたら刑事に囲まれていたためか、犯人の2人組は観念したらしく、パトカーに乗せられて運ばれて行った。
「それにしても……」
被疑者を乗せた車が去ったのを確認して、鈴木は再度伸に話を聞こうとする。
「君はよくその手錠を外せたな?」
伸の付けていた手錠を指差し、警部の男性は問いかける。
2人組が伸に使用した手錠は、警察なども使用する魔闘師用のものと同様の手錠だ。
専用のカギを使用しないと外せない手錠を、伸がどうやって外したのか気になったようだ。
「……あぁ、寝たふりしてカギをあいつらからスッていたので……」
鈴木の質問に、伸は僅かに言い淀む。
そして、手錠を外した方法を返答した。
「……そっちの道に進むんじゃないぞ」
「分かってます」
この倉庫に着く少し前に睡眠薬が切れて目を覚ましていたが、すぐに手錠がかけられていることに気付いた。
そのため、寝たふりをしながら犯人からカギをスリ、脱出する機を窺っていた。
それが成功して、対抗戦の映るモニターに気を取られていた犯人2人を気絶させた。
そう説明すると、鈴木は何とも言えない表情に変わり、冗談を含んだ忠告をして来た。
犯人に気付かれないようにカギをスルなんて、あまりにも手際が良すぎる。
もしかしたら、スリ師として食っていけるかもしれない。
それを懸念しての忠告だろう。
当然伸もスリ師なんかになるつもりはないため、きっぱりと返事をした。
『まぁ、カギを使ったなんて嘘だし……』
鈴木に言ったことは、実は嘘も紛れている。
自分は手錠を外すために、カギを使用したりしていない。
カギは、気絶させた後に犯人のポケットから奪い取ったものだ。
初めて魔闘師用の手錠をかけられたことで、伸はそれがどういう原理で魔術を使用できないようにしているのか理解した。
手錠は魔道具となっており、魔力を乱すことで魔術を使えないようにしている代物だった。
たしかにこの手錠を着けられたら、まともに魔術を発動させることなどできないだろう。
『こんな手錠俺には通用しないけどな……』
魔力を乱されたとしても、それをコントロールしてしまえば良いだけの話だ。
伸の中では簡単なことだったが、本来はそこまでの魔力コントロール能力を持っている者などいない。
他人すら魔力で操れる、伸だからこそできることと言って良いのかもしれない。
「う~ん、精神的な面を気にしていたんだが、君は問題なさそうだな」
鈴木は顎に手を当てて、伸のことを見る。
そして、何だか拍子抜けしたような表情で呟く。
誘拐事件の被害者。
高校生とは言っても成人していない少年だ。
トラウマになるような目に遭っていないか不安に思っていたが、伸を見る限りそんな様子はない。
拍子抜けしたのはたしかだが、鈴木としては安心した。
「……そうですね。これでも魔闘師の卵なんで……」
捕まってすぐ魔術で睡眠薬の効能を消し、いつでも逃げ出せる状態だったので、恐怖なんて全く感じていなかった。
しかし、よく考えたら普通は恐怖を感じるものなのかもしれない。
そのことを失念していた伸は、返事に一瞬間を空けてしまった。
「心強いな。最近は魔人が世界中に出現しているからね」
誘拐事件が発生し、その人質から犯人確保の知らせを受けた。
そんな事があるのかと不思議に思いつつ臨場して見れば、魔術学園の生徒だという話だ。
対抗戦のセコンドとして皇都に来ており、ホテル近くのコンビニに出た所で誘拐されたらしい。
魔術学園の生徒と言えば、魔闘師の見習いの集まりと言ってもいい。
人質にされても問題なく済んだのは、伸が魔闘師として有望だからなのだろうと、鈴木は本心から感心した。
「また話を聞かなければならないかもしれないが、今日はホテルの方に送ろう」
「お願いします」
犯人も確保しているし、伸が大丈夫そうならホテルに送って行き、後は学園の教師たちに任せた方が良いだろう。
そのため、鈴木は部下にパトカーで伸をホテルに送ることを指示した。
パトカーで送られるなんてなんかソワソワするが、伸はその申し出に甘えることにした。
◆◆◆◆◆
「ぐえっ!!」
伸がパトカーで倉庫から移動を開始した時、対抗戦の方は佳境を迎えていた。
綾愛の攻撃によって、文康はボロボロの状態。
いつ気を失っても良い状況なのだが、変なプライドによっていまだに負けを認めないでいた。
セコンドも文康からきつく言われているからだろう。
こんな状況でも、試合を止めようとしていない。
「これじゃあ私が痛めつけているように見えちゃうわね……」
「ぐぅ……」
この大会で文康がやっていたことが、そのまま返ってきているかのようだ。
別に綾愛はやりたくてやっている訳ではないので、さっさと負けを認めて欲しいところだ。
「この…やろ…う!」
文康はボロボロで、魔力も残り少ない状況だろう。
そんな状態で綾愛に勝てる訳がない。
観客の誰もが分かっている状況だというのに、文康はそれでも向かってきた。
「しょうがないわね……」
ヨロヨロ向かって来る文康。
いくら嫌いな奴でも、いつまでも長引かせてこれ以上痛めつけるのは綾愛の趣味じゃない。
そのため、綾愛は次の一撃で終わらせようと腰を落とした。
「ハッ!!」
「ガッ!!」
腰を落として力を溜めた綾愛は、ゆっくり近づいてきた文康に木刀を振る。
意識があっても立ち上がれないよう、文康の足の骨を折る。
脚が折られた文康は、そのまま前のめりに倒れて動かなくなった。
倒れると同時に意識を失ったらしい。
こんなことなら、綾愛が気を使う必要なかったのかもしれない。
「勝者! 柊!」
「「「「「おぉーーー!!」」」」」
文康が気を失ったことを確認した審判は、すぐさま綾愛の勝利を宣言する。
それにより、観客は待っていたかのように大きな歓声を上げた。
「担架!!」
審判は文康を医務室へ運ぶために、医療班に担架を持ってくるように手振りで伝えていた。
それにより、医療班たちが担架を持って文康のもとへと向かってきた。
「そいつは置いて行ってもらおうか……」
文康が運び出されたら、綾愛の連覇という結果と共に閉会式へと向かうと思われていたところで、どこからともなく声が聞こえてきた。
短髪で、少し乱れた髪型をした壮年男性が頷く。
伸の通報を聞いて、数人の部下と共に臨場した刑事だ。
他の刑事たちの呼び方から、どうやら階級は警部で、名前は鈴木というらしい。
「睡眠薬を嗅がされ、眠らされている間にここに連れて来られたと……」
「はい……」
町はずれの倉庫に臨場して見れば、通報通り犯人と思わしき2人組が気を失っていた。
捜査を開始するにあたり、伸は鈴木に事件の詳細を聞かれていた。
「君たちは証拠がないか探してくれ」
「「「「「はい!」」」」」
鈴木の指示を受け、部下らしき刑事たちは証拠の捜索を開始する。
「警部! 外に止められた自動車の中に、このような物が見つかりました」
「そうか。鑑定に回してくれ」
「はい!」
証拠はあっさりと見つかる。
倉庫外に止められていた2人組の物らしき自動車の中を捜索した所、睡眠薬のビンが発見されたのだ。
もちろん指紋が取れた場合の話だが、照合して合致すれば、2人組は被疑者から容疑者に格上げだ。
そうなることを期待して、鈴木は袋に入れられた睡眠薬のビンをすぐに鑑定に回すように指示を出した。
「うぅ……」「ぅん……」
「目を覚ましたようだな。そいつらを署に連れて行ってくれ」
「はい!」
刑事たちが他にも証拠となる物がないか探していると、伸に殴られて気を失っていた犯人たちが目を覚ました。
それに気付いた鈴木は、部下に2人を警察署に送ることを指示した。
目を覚ましたら刑事に囲まれていたためか、犯人の2人組は観念したらしく、パトカーに乗せられて運ばれて行った。
「それにしても……」
被疑者を乗せた車が去ったのを確認して、鈴木は再度伸に話を聞こうとする。
「君はよくその手錠を外せたな?」
伸の付けていた手錠を指差し、警部の男性は問いかける。
2人組が伸に使用した手錠は、警察なども使用する魔闘師用のものと同様の手錠だ。
専用のカギを使用しないと外せない手錠を、伸がどうやって外したのか気になったようだ。
「……あぁ、寝たふりしてカギをあいつらからスッていたので……」
鈴木の質問に、伸は僅かに言い淀む。
そして、手錠を外した方法を返答した。
「……そっちの道に進むんじゃないぞ」
「分かってます」
この倉庫に着く少し前に睡眠薬が切れて目を覚ましていたが、すぐに手錠がかけられていることに気付いた。
そのため、寝たふりをしながら犯人からカギをスリ、脱出する機を窺っていた。
それが成功して、対抗戦の映るモニターに気を取られていた犯人2人を気絶させた。
そう説明すると、鈴木は何とも言えない表情に変わり、冗談を含んだ忠告をして来た。
犯人に気付かれないようにカギをスルなんて、あまりにも手際が良すぎる。
もしかしたら、スリ師として食っていけるかもしれない。
それを懸念しての忠告だろう。
当然伸もスリ師なんかになるつもりはないため、きっぱりと返事をした。
『まぁ、カギを使ったなんて嘘だし……』
鈴木に言ったことは、実は嘘も紛れている。
自分は手錠を外すために、カギを使用したりしていない。
カギは、気絶させた後に犯人のポケットから奪い取ったものだ。
初めて魔闘師用の手錠をかけられたことで、伸はそれがどういう原理で魔術を使用できないようにしているのか理解した。
手錠は魔道具となっており、魔力を乱すことで魔術を使えないようにしている代物だった。
たしかにこの手錠を着けられたら、まともに魔術を発動させることなどできないだろう。
『こんな手錠俺には通用しないけどな……』
魔力を乱されたとしても、それをコントロールしてしまえば良いだけの話だ。
伸の中では簡単なことだったが、本来はそこまでの魔力コントロール能力を持っている者などいない。
他人すら魔力で操れる、伸だからこそできることと言って良いのかもしれない。
「う~ん、精神的な面を気にしていたんだが、君は問題なさそうだな」
鈴木は顎に手を当てて、伸のことを見る。
そして、何だか拍子抜けしたような表情で呟く。
誘拐事件の被害者。
高校生とは言っても成人していない少年だ。
トラウマになるような目に遭っていないか不安に思っていたが、伸を見る限りそんな様子はない。
拍子抜けしたのはたしかだが、鈴木としては安心した。
「……そうですね。これでも魔闘師の卵なんで……」
捕まってすぐ魔術で睡眠薬の効能を消し、いつでも逃げ出せる状態だったので、恐怖なんて全く感じていなかった。
しかし、よく考えたら普通は恐怖を感じるものなのかもしれない。
そのことを失念していた伸は、返事に一瞬間を空けてしまった。
「心強いな。最近は魔人が世界中に出現しているからね」
誘拐事件が発生し、その人質から犯人確保の知らせを受けた。
そんな事があるのかと不思議に思いつつ臨場して見れば、魔術学園の生徒だという話だ。
対抗戦のセコンドとして皇都に来ており、ホテル近くのコンビニに出た所で誘拐されたらしい。
魔術学園の生徒と言えば、魔闘師の見習いの集まりと言ってもいい。
人質にされても問題なく済んだのは、伸が魔闘師として有望だからなのだろうと、鈴木は本心から感心した。
「また話を聞かなければならないかもしれないが、今日はホテルの方に送ろう」
「お願いします」
犯人も確保しているし、伸が大丈夫そうならホテルに送って行き、後は学園の教師たちに任せた方が良いだろう。
そのため、鈴木は部下にパトカーで伸をホテルに送ることを指示した。
パトカーで送られるなんてなんかソワソワするが、伸はその申し出に甘えることにした。
◆◆◆◆◆
「ぐえっ!!」
伸がパトカーで倉庫から移動を開始した時、対抗戦の方は佳境を迎えていた。
綾愛の攻撃によって、文康はボロボロの状態。
いつ気を失っても良い状況なのだが、変なプライドによっていまだに負けを認めないでいた。
セコンドも文康からきつく言われているからだろう。
こんな状況でも、試合を止めようとしていない。
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「ぐぅ……」
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「この…やろ…う!」
文康はボロボロで、魔力も残り少ない状況だろう。
そんな状態で綾愛に勝てる訳がない。
観客の誰もが分かっている状況だというのに、文康はそれでも向かってきた。
「しょうがないわね……」
ヨロヨロ向かって来る文康。
いくら嫌いな奴でも、いつまでも長引かせてこれ以上痛めつけるのは綾愛の趣味じゃない。
そのため、綾愛は次の一撃で終わらせようと腰を落とした。
「ハッ!!」
「ガッ!!」
腰を落として力を溜めた綾愛は、ゆっくり近づいてきた文康に木刀を振る。
意識があっても立ち上がれないよう、文康の足の骨を折る。
脚が折られた文康は、そのまま前のめりに倒れて動かなくなった。
倒れると同時に意識を失ったらしい。
こんなことなら、綾愛が気を使う必要なかったのかもしれない。
「勝者! 柊!」
「「「「「おぉーーー!!」」」」」
文康が気を失ったことを確認した審判は、すぐさま綾愛の勝利を宣言する。
それにより、観客は待っていたかのように大きな歓声を上げた。
「担架!!」
審判は文康を医務室へ運ぶために、医療班に担架を持ってくるように手振りで伝えていた。
それにより、医療班たちが担架を持って文康のもとへと向かってきた。
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