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2学年 後期

第138話

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「フゥ、座りっぱなしで疲れた」

「だな……」

 バスを降り、伸は背伸びをして一息つく。
 隣に立つ了も、同意と共に背伸びする。

「今年も来れた」

「良かったな」

「あぁ」

 去年と違い、今年の八郷学園の学園祭は問題なく終了。
 そして、魔術師学園に通う学生にとって最大のイベントとなる対抗戦の日を迎えた。
 数時間のバス移動によってホテル前に到着した了は、どことなく安堵したように呟いた。
 対抗戦の代表選手に毎年選ばれるには、校内で実力を示さないとならない。
 更に同学年で優秀な生徒たちと戦い、勝利しないとならない。
 それを突破して毎年出場するというのは、かなりハードルが高いことだ。
 それを達成した了が、感慨深く思うのも分からなくもない。
 そのため、伸は了を労うような言葉をかけた。

「……ていうか、伸も2年連続だな」

「そう言えばそうだ。選手じゃないけどな」

 了の言うように、伸もこのホテルに2年連続の来泊だ。
 しかし、伸の場合は2年連続セコンドとしてだ。
 選手としてではないのだから、とてもではないが誇れるようなことではない。

「お~い! さっさと部屋に荷物を置きに行こうぜ!」

「おう!」「だな!」

 ホテルの玄関前で話していた伸たちに、先にロビーに入った吉井が声をかけてくる。
 それを受け、伸たちは話を切り上げ、返事と共にホテルに入って行った。

「おぉ! 官林タワーが見える!」

 部屋に入ると共に、吉井は窓の外に見える官林タワーに声を上げる。

「……了も去年同じことを言っていたな」

「……そうだっけ?」

 まるで去年と同じような光景に、伸は思わず呟く。
 吉井の姿を見て、自分もこんな反応をしていたのかと、了は思わず惚けるように返答した。

「今年は3人か……」

「柊と同じ部屋が良かったか?」

「……うるせえよ!」

 選手の中には、恋人をセコンドにする事がある。
 学園内では男女交際を否定はしていない。
 だからといって、恋人同士でも学生を同じ部屋で泊まらせるわけにはいかない。
 そのため、伸は了たちと一緒の部屋で寝泊まりするように割り当てられた。
 最近では他の地域にも広まっているが、八郷学園内で伸と綾愛は交際していると知られている。
 そのことから、了は伸に綾愛との同室が良かったのではないかと揶揄ってきた。
 伸の中では付き合っているという体のはずだったのだが、最近では外堀が埋められてきている気がしている。
 特に綾愛の母の静奈は乗り気のため、了の言ったことを実行してきそうだ。
 そんな嫌な予感が本物になりそうな気がして来たため、伸は若干強めに了にツッコミを入れた。

「なんかいつものメンバーだな……」

「だな」

 伸と了、石塚と吉井。
 この4人は、学園内でしょっちゅうつるんでいる。
 そのため、3人でいると学園にいる時と変わりがない気がして来た。
 伸がそのことを呟くと、了も同意する。

「石がいないけどな」

「ジャンケンに負けたから仕方ない」

 伸と了の会話に吉井が入ってくる。
 その表情は、どこかいやらしい。
 というのも、了が言うように石塚と吉井は了のセコンドの座をかけ、ジャンケン勝負をおこなった。
 それに勝利したのが吉井。
 負けた時の石塚の悔しがる姿を思いだし、いやらしい表情をしたのだろう。

「っと! あんまりゆっくりしていると開会式に遅れる」

「そうだな。行くか?」

「あぁ」

 伸と吉井は了と違いセコンドなので、別に開会式に出る訳ではない。
 しかし、今では年末の風物詩になりつつあるこの大会は、高校生だけでなく、魔術を使用して利益を得る企業に関連する者たちにとっても人気になっている。
 開会式でも、チケットは高額で取引されているという話だ。
 セコンドというだけで席が用意されているのだから、当然参加したい。
 そのため、3人は会場までのバスに乗るため、客室から出ていった。





「……文康だ」

「本当だ……」

 伸たちが会場に入ると、地元である官林学園の生徒たちが先に入っていた。
 その中に鷹藤家の文康がいるのを確認し、伸と綾愛は表情を僅かに歪める。
 セコンドとしているとは思えないため、恐らく選手として参加するのだろう。
 相変わらず周りに人を侍らせている所を見ると、化けの皮が剥がれていないようだ。
 本性を知っている伸と綾愛からすると、不愉快に思えて仕方がない。

「そりゃそうよね。弟も選ばれているし……」

 中身はともかく、魔闘師としての才能と実力は本物。
 それも仕方がないかと、綾愛は兄と同じく選手に選ばれるた道康をチラッと見た。

「何で転校しなかったんだろうな?」

「そうね」

 綾愛に接近し、魔人を倒して人気急上昇中の柊家との縁を結ぶ。
 それを目的として、道康はわざわざ地元の官林学園ではなく、隣の地区の八郷学園に入学したはずだ。
 しかし、もう伸という存在がいると知り、綾愛を賭けての仕合に持ち込んだ。
 結果は返り討ち。
 鷹藤家に恥をかかせることになった。
 更に、夏休み中に起こした事件もあり、柊家との関係は最悪だ。
 いつまでもいる意味もなくなり、伸と綾愛は夏休み中に八郷学園から官林学園に転校すると考えていた。
 ところが、道康は転校することもなく1年の選抜戦に勝利し、八郷学園の選手として出場することになった。
 八郷学園に残っている理由が分からず、伸と綾愛としてはモヤモヤした気分をしているというのが本音だ。

「もしかしたら、転校してすぐに官林学園の選抜戦に選ばれるか分からないとか、そんな程度の理由かもしれない。2年への進級と共に転校するんじゃないか?」

「う~ん……。まぁ、そうかもね」

 官林学園でも八郷学園でも、選抜戦に選ばれるのは結果を残している生徒だ。
 いくら鷹藤家の人間だと言っても、転校してきたばかりで選手にというのは虫が良すぎる。
 鷹藤家なら裏から手を回すこともできるだろうが、そんな事をするくらいなら八郷学園の代表に選ばれる方が何の軋轢もない。
 そんな理由から、伸は転校を延期した可能性に思い至った。
 そう言われると「たしかに」と思えた綾愛は、伸の考えに頷いた。

「いくらなんでも大会中に文康と道康が何かしてくるとは思えないが、念のため注意しといた方が良いぞ」

「うん。分かった」

 この大会で何かをしようものなら、バレた時は国民を敵にする事になるだろう。
 鷹藤家だろうと崩壊することになりかねない。
 いくら中身が腐っていても、文康と道康がそのことを理解していない訳がない。
 ただ、学力があっても馬鹿な2人のことだ。
 全く警戒しないでいると、どんな痛手を負うか分からないため、伸は綾愛に忠告しておいた。
 何かするとすれば、目的はまだ自分かもしれない。
 その思いがあるため、綾愛は素直に伸の忠告を受け入れた。

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