主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸

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2学年 前期

第122話

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「どうも綾愛さん。それと奈津希さんだったかな?」

 2泊3日の合宿の2日目が終わり、伸は合宿中柊家の手配したホテルに向かうため、綾愛と奈津希に合流する。
 そして、稽古場からホテルへを向かおうとしたところで、鷹藤家の文康が弟の道康を引き連れて話しかけて来た。

「……どうも文康さん、道康君」

「どうもです」

 同じ名門の一族。
 綾愛は文康と何度か顔を合わせたことがある。
 柊家に仕える奈津希も昔から綾愛と一緒にいるため、文康は覚えていたようだ。
 しかし、昔と違い、柊家の人気は上がっている状況。
 魔術師界で常にトップに立ってきた鷹藤家からすると、あまり好ましくない相手と思われているはずだ。
 そのため、綾愛と奈津希は若干警戒しながら文康への挨拶を返した。

「もっと早く挨拶するべきだったのだけど、男女で分かれていたのでね」

「気にしないで。こちらも挨拶に行けなかったから」

 男性よりも、女性は武術より魔術の方が得意な傾向にあるため、昨日・今日と男女で分かれて訓練がおこなわれた。
 少数ずつとはいえ結構な人数が集まっているので、全員と挨拶を交わしている時間など無かった。
 それでなくても、綾愛たちは鷹藤の人間とは距離を取っていたため、文康とは今ようやく挨拶を交わしたと言ったところだ。

「……彼は?」

「あぁ、彼は新田伸君。同じ八郷学園の同級生よ」

 綾愛たちの側に立つ伸のことが気になったらしく、文康は問いかけてくる。
 その問いに対し、綾愛は簡単に紹介した。

「……新田? 失礼。年末の大会に出ていたかな?」

「セコンドにはついていたけど、出場はしてないわ」

 綾愛たちと共にこの合宿に来ているということは、柊家から実力があると判断されていること。
 今人気急上昇中の柊家が認めた人間なら、年末の大会に出ているのではないかと考える。
 しかし、新田という選手の記憶がないため、文康は確認するように綾愛へ問いかける
 その問いに対し、綾愛は首を横に振りつつ返答した。

「それならどうして……」

「兄さん……」

 大会にも出られない人間が、どうしてこの合宿に来ているのか。
 そう思った文康は、不思議そうに呟く。
 その呟きが言い終わる前に、文康の弟の道康が話しかけた。

「んっ? どうした道康」

「新田先輩は、俺が……」

「……あぁ、彼がそうか……」

 弟の道康は、綾愛たちと同じ八郷学園に通っている。
 そのことから、何か伸のことを知っているのだと、話の続きを促す。
 道康の表情がバツの悪いものへと変わり、言い淀む。
 兄弟だからそれだけで察したらしく、文康は納得したように頷いた。

「弟が迷惑かけたようだね?」

「いや、別に。油断をついただけだから……」

「それでも負けは負けだからね」

 道康が綾愛の交際相手と試合したという話は、当然鷹藤家に伝わっている。
 その負けた相手が、目の前にいる伸だということだ。
 そのことを理解した文康は、軽い謝罪のつもりなのか、申し訳なさそうに話しかける。
 それを受けた伸は、謙遜した態度で返した。
 超小型のピグミーモンキーを使用しての戦闘なんて、受けた方からすると、いつの間に接近されたのかなんて意識していないと気付けないため、道康が負けたのも理解できる。
 しかし、鷹藤家の本家の人間がどんな理由でも負けることは恥でしかない。
 文康が負けは認めつつも、内心伸に対してはらわた煮えくりかえっているのが読み取れた。

「あの? それで何か?」

 詳しい理由は分からないが、父の俊夫から伸は鷹藤家と距離を取りたいのだと知らされているため、余計な時間をかけたくない。
 もしも挨拶だけなら、もう用がないので立ち去りたい。
 そのため、綾愛は文康にまだ用があるのか尋ねた。

「あぁ、実は綾愛さんに相談がありまして……」

「相談……ですか?」

 鷹藤家の人間が柊家の人間に相談事なんて、珍しいこともあるものだ。
 とりあえず、綾愛はその相談事を聞いてみることにした。

「明日の魔物退治ですが、我々兄弟も皆さんに同行させてもらえませんか?」

「えっ?」

 合宿の最終日は、数人組で魔物との戦闘訓練を予定している。
 伸、綾愛、奈津希の3人は、昨日挨拶を交わした森川とその知り合いの5人で行動する予定になっている。

「でも、いいのかしら?」

「えぇ、他の方にも許可を得ています」

「でしたら私たちは構いません」

 急にメンバーが増えるとなると、森川たちの許可も必要となってくる。
 そのことが気になった綾愛が問いかけると、文康はもう許可を得ていたらしい。
 それならば文句を言えないため、綾愛は文康たちの同行を許可した。

「では明日」

「では……」

 用事が済んだ文康と道康は、綾愛と奈津希に一礼してその場から立ち去っていった。
 口では負けを認めていたが、伸はあくまでも従魔によって勝利を得ただけの人間としか見ていないのだろう。
 眼中にないと遠回しに告げているような態度だ。

「鷹藤家からなら断れないでしょうに……」

「だな……」

 柊家の人気が急上昇中だからといって、まだ魔術師界では鷹藤のネームバリューは大きい。
 他の家の人間が、鷹藤家から相談事と言われては、なかなか断りづらい。
 森川たちもそう考えて、仕方なく受け入れたのだろう。
 他が受け入れているのに、柊の人間が断ることも出来ない。
 それが分かっていて文康たちは許可を求めて来たのだと、綾愛と伸は思わず愚痴る。

「……何か新田君に企んでいるのかしら?」

「どうだろうな。標的が俺なら問題ないだろ」

 文康の頭の中で、伸のことは鷹藤家に恥をかかせた人間だとインプットされたことだろう。
 帰り際の態度からしても、それが透けて見えた。
 明日の同行も、その恥をすすぐためのものではないかと疑念を抱く。
 そんな綾愛の心配を余所に、伸は特に心配していない。
 文康と道康は、たしかに才能ある魔術師だが、伸からすればまだまだ大したレベルではない。
 そんな2人が何か仕掛けて来ても、それを打ち払うだけの余裕があるからだ。

「それよりも、柊が狙いかもしれないぞ?」

「私もその可能性を感じている」

 鷹藤家の意向なのか分からないが、道康は綾愛を手に入れるために八郷学園に入学したようだ。
 それも伸との試合で失敗し、夏休み後には官林学園に転校するのではないかと校内では噂が立っている。
 もしもその企みが残っているとなると、標的は伸ではなく綾愛かもしれない。
 伸がそのことを指摘すると、奈津希も同意した。

「もしもの時にはよろしくね?」

「あぁ、分かった」

 今回の合宿に伸を参加させたのも、俊夫が娘の綾愛を心配して伸をねじ込んだのだろう。
 柊家には隠れ蓑になってもらっているし、結構割の良いバイトを融通してもらっている。
 身を護るくらい大したことないと、伸はあっさりと綾愛の頼みを受け入れた。

「ついでに私もよろしく」

「……あぁ、分かった」

 綾愛が狙われるなら、ついでに自分も狙われるかもしれない。
 そのため、奈津希も便乗して頼んで来た。
 本人に言えないが、奈津希に手を出そうなんて完全にロリコンでしかない。
 身を護る必要がない気もするが、あの2人がロリコンである可能性がないとも言い切れないため、伸は1拍間をおいて返答したのだった。

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