上 下
101 / 281
1学年 後期

第101話

しおりを挟む
「ハアァーー!!」

「…………」

 全魔力による脚力強化。
 それによって、元々高速移動を得意とするティベリオは、更なる加速を生み出した。
 生身の人間なら耐えきれないような高速移動。
 魔族としての強靭な肉体による1撃が、俊夫へと迫る。
 そのティベリオに対し、俊夫は抜刀術の構えをとったまま無言で待ち受ける。

『おいおい、頼むぞ新田君……』

 内心、俊夫は気が気じゃない。
 ティベリオとのここまでの戦いは、話す言葉以外は全部伸に任せている。
 魔力を使用して伸に動かされるのは、自分にとっての限界の扉を開かれるような感覚だ。
 それによって、最初見えなかったティベリオの動きも辛うじてだが見えるようになっている。
 しかし、この攻撃に関しては別。
 ティベリオの姿が一瞬にして自分の間合いに迫ってきた。
 自分で対応していたら、合わせる自信がない。
 そのため、俊夫は一瞬このまま死ぬイメージが浮かんだ。

“ズバッ!!”

 俊夫とティベリオの戦いは、その一瞬で勝負がついた。
 接近したティベリオが俊夫と交錯し、そのまま通り抜けた。

「……ど、どっちだ?」

「……知らねえよ」

 俊夫は刀を振り切った状態で、ティベリオは右手の爪で突きを出した状態で、交錯した2人はそのまま停止して動かない。
 周囲で見ていることしかできないでいた魔闘師たちは、どうなったのか話し合う。
 しかし、誰も2人の動きを目で捉えきれておらず、どっちが勝者なのか分かる訳がない。
 ただ、この後どうなるかを待つしかなかった。

「ぐっ……!」

 交錯から少し経ち、俊夫の脇腹から血が噴き出し、痛みにより膝をついた。
 しかも、刀も折れてしまった。

「柊殿……」

「負けたのか……」

 それを見て、周囲の魔闘師たちは俊夫がやられたのだと理解した。
 あれほどの強さをしている俊夫がやられたことに、誰もが驚きと落胆と共に戸惑った。
 しかし、次の瞬間、

「ガハッ……!!」

 動かないでいたティベリオが、大量の血を吐きだす。
 そして、胴体が斜めに斬り離され、崩れ落ちた。 

「ハァ、ハァ……、危ねえ……」

 腹を抑えながら立ち上がった俊夫は、イメージ通りに本当に死ぬかと思い、どっと汗が吹き出して息が荒くなった。
 脇腹を斬られて結構な量の出血をしたが、内臓に届くほどではない。
 回復薬を飲めばすぐに治る程度だ。

「結構気に入っていた刀だったんだがな……」

 刀身が折れた刀を見て、俊夫は残念そうに呟く。
 柊家の当主という立場から、部下や他の魔闘師に示しがつかないため安物の刀を持つわけにはいかない。
 なので、結構な値段をかけて作り上げた業物だったのだが、半分からポッキリ折れてしまった。
 折角の刀だったというのに、また新しく作り直さないといけないようだ。
 それでも、魔族を倒すことができたのだから、刀の1本くらい安いものと割り切るしかない。

「……っ、ぐうっ……」

「……おいおい、体真っ二つにされて即死じゃないのかよ。まぁ、もう虫の息のようだがな……」

 呻き声を聞いて、俊夫は焦る。
 一応警戒はしていたが、この状態で生きているなんて脅威の生命力だ。

「あ…あの速度に……合わせる…なんて……、この…俺が……人間ごとき…に……」

 自分を倒した俊夫の技術に、ティベリオは息も絶え絶え呟く。
 そして、負けるはずがないと思っていた相手に負け、恨み節のような言葉と共に動かなくなった。
 先程交錯した時、俊夫はティベリオの高速接近に対し、一歩踏み込みによって僅かに体を横へとずらした。
 そして、ティベリオの高速の突きを完全ではないまでも躱し、その踏み込みを利用した居合斬りを放った。
 ティベリオの速さはとんでもないが、その速度から急激な方向転換はできないため、タイミングを合わせて斬りつけるだけで大ダメージを与えることができる。
 その予想通り、ティベリオはこのような結果になったのだ。

「だろうな……」

 ティベリオの呟きに対し、俊夫は他人事のように返す。
 たしかに、超高速のティベリオの攻撃に合わせるなんて至難の業だ。
 本人ですら細かいコントロールができないであろう速度に、抜刀術を合わせることができれば倒せることはできるだろう。
 しかし、それを実行するのは至難の業。
 それをおこなった伸の技術の高さに、俊夫は改めて恐れいっていた。

「あのことをちゃんと考えた方が良いかもな……」

 以前、妻の静奈は、伸を手に入れるために娘の綾愛を近付けると言っていた。
 親ばかと言われるかもしれないが、綾愛は器量も良い。
 綾愛がその気になりさえすれば、それほど難しくないことだと思っている。
 娘婿に伸が来れば、柊家は一気に鷹藤家を越える存在になれるかもしれない。
 そんな打算から、俊夫は真面目に考えた方が良いのではないかと思い始めていた。

「フゥ~……! ……んっ?」

 ティベリオが死んだことを確認した俊夫は、自分で動いたわけでもないのに、どっと疲労を感じてその場へと座り込み、伸と別れた方向へ視線を向ける。
 すると、伸が手で合図を送ってきた。
 その手の動きから察するに、伸はスタジアム内に残してきた鷹藤の方に向かうつもりのようだ。

「了解!」

 今回襲ってきた魔族は、ティベリオだけではない。
 まだカルミネが残っている。
 そっちも倒さないと、せっかくティベリオを倒したというのに安心することができない。
 カルミネの相手を任せてきた鷹藤家の2人がそう簡単に倒されないと思うが、逆に倒せているとも断言できない。
 しかし、伸が行けば何とかなるはず。
 そのため、座り込んだ俊夫は、伸に向かって親指を立てる合図を送った。

「柊殿!!」

 俊夫の合図を見た伸は、すぐさま姿を消す。
 そのすぐ後に、何人もの魔闘師が俊夫へと駆け寄ってきた。
 自分とティベリオとの戦いを、離れた位置で見ていた魔闘師たちだ。
 戦いが終わったことで姿を現したのだろう。

「お疲れ様です!」

「素晴らしい戦いでした!」

「……どうも!」

 先程の戦闘を見て、感銘を受けたのだろう。
 彼らは口々に称賛の言葉をかけてくる。
 たしかに先程のような戦いを見れば、感動するのも不思議ではない。
 その彼らの言葉に対し、俊夫は内心ためらいつつも返事をする。
 と言うのも、勝利したのは自分だが、正確に言えば自分を操って戦った伸の勝利だからだ。

「魔族の死体の処理は我々にお任せください。責任をもって対処させていただきます」

「お願いします」

 集まってきた魔闘師たちは、みんな鷹藤家の手の者と分かるバッジを付けている。
 その彼らが、後始末を請け負ってくれるようだ。
 その言葉を受けた俊夫は、安心して後を任せることにした。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸
ファンタジー
 普通の高校生、松田啓18歳が、夏休みに海で溺れていた少年を救って命を落としてしまう。  海の底に沈んで死んだはずの啓が、次に意識を取り戻した時には小さな少年に転生していた。  その少年の記憶を呼び起こすと、どうやらここは異世界のようだ。  もう一度もらった命。  啓は生き抜くことを第一に考え、今いる地で1人生活を始めた。  前世の知識を持った生き残りエルフの気まぐれ人生物語り。 ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバ、ツギクルにも載せています

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

最弱の荷物持ちは謎のスキル【証券口座】で成り上がる〜配当で伝説の武器やスキルやアイテムを手に入れた。それでも一番幸せなのは家族ができたこと〜

k-ing ★書籍発売中
ファンタジー
※以前投稿していた作品を改稿しています。  この世界のお金は金額が増えると質量は重くなる。そのため枚数が増えると管理がしにくくなる。そのため冒険者にポーターは必須だ。  そんなポーターであるウォーレンは幼馴染の誘いでパーティーを組むが、勇者となったアドルにパーティーを追放されてしまう。  謎のスキル【証券口座】の力でお金の管理がしやすいという理由だけでポーターとなったウォーレン。  だが、その力はお金をただ収納するだけのスキルではなかった。  ある日突然武器を手に入れた。それは偶然お金で権利を購入した鍛冶屋から定期的にもらえる配当という謎のラッキースキルだった。  しかも権利を購入できるのは鍛冶屋だけではなかった。  一方、新しいポーターを雇った勇者達は一般のポーターとの違いを知ることとなる。  勇者達は周りに強奪されないかと気にしながら生活する一方、ウォーレンは伝説の武器やユニークスキル、伝説のアイテムでいつのまにか最強の冒険者ポーターとなっていた。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

処理中です...