上 下
95 / 281
1学年 後期

第95話

しおりを挟む
「「「ハッ!!」」」

 武器を構え、魔族のカルミネと向かい合う柊家当主の俊夫、鷹藤家当主の康義、鷹藤家次期当主の康則。
 先に動いたのは3人の方だった。
 康義を先頭に走り、他の2人が付いて行く。
 先程のやり取りで、この3人の連携ならカルミネに対抗できるという考えがあったからだろう。

「ハッ!」

「……?」

 先頭を走る康義は、接近を続けながらカルミネに魔術を放つ。
 手の平大の魔力球。
 当たった所で、たいしてダメージを負うことはないだろう。
 そのことを分かっていながら、何でそんな攻撃をしてくるのかとカルミネは不思議に思う。

「……!!」

「っ!?」

 速度以外何の特徴もない小さな魔力球に、カルミネは何か細工でもされているのかと訝しむ。
 しかし、特に何もない様子の魔力球を武器で弾こうと考えた所で、康義は魔力球を放った手の指を地面に向けて動かす。
 その動きに反応するように、カルミネに迫っていた魔力球の軌道が変化し、カルミネの足下へと落下した。

「くっ!」

 地面へと落下した魔力球は、土煙を巻き上げる。
 それにより、カルミネの視界は奪われ、康義たちの姿を見失った。

「ムッ!?」

 視界を奪われたカルミネは、周囲の気配に集中する。
 すると、左から向かって来る気配を感じ、咄嗟に左手に持った短刀を動かす。
 その反応は正しく、甲高い音が鳴る。
 左から康則が無言で斬りかかって来ていたのだ。

「っ!!」

 康則の攻撃を防いだのも束の間、今度は反対側から気配を感じ、カルミネは右手の短刀を動かす。
 またも甲高い音が鳴る。
 右から俊夫が斬りかかって来ていたのだ。

「折角の攻撃も失敗だったな……」

「「…………」」

 視界を遮っての攻撃。
 その狙いが無駄になった俊夫と康則に向かって、カルミネは笑みを浮かべて話しかける。
 しかし、俊夫と康則は反応を示さず、攻撃を受け止められて鍔迫り合いの状態の刀を押し込むことに集中する。

「……もう1人はどこだ?」

 視界を遮るように巻き上げられた土煙。
 それも治まり、周囲を見渡せるようになったのだが、その土煙を作り出した張本人である康義がいなくなっている。
 そのことに気付いたカルミネは、表情を僅かに強張らせる。

「チッ!!」

 視界を遮り、左右からの攻撃。
 本命は最後に襲ってくると思ったが、姿が見えない所から攻撃されては危険と判断したカルミネは、舌打をして体に纏う魔力を操作する。

「「っ!?」」

 周囲の者を吹き飛ばすように、カルミネは体内の魔力を外へ放出する。
 それを見た俊夫と康則は、吹き飛ばされる前に自分から後方へと跳び退くことにより、ダメージを受けないように対処した。
 
「もう1人は……」

 鍔迫り合いの状態になってその場から動けなくなっていたカルミネは、2人が離れたことで動けるようになり康義の行方を捜す。

「っ!!」

 首を振り周囲を見渡すと、康義は背後にいた。
 そして、その姿を確認したカルミネは目を見開く。

「喰らえ!!」

 少し離れた場所にいた康義は、一言呟くと共に強力な魔術をカルミネに向けて放出した。
 龍を模したような強力な水の魔術がカルミネに迫る。

「くっ!!」

 目隠しのような土煙。
 視界を遮っての直接攻撃と思わせるために、俊夫と康則が襲い掛かる。
 自分が2人の相手をしている時間を使って、康義はこの魔術を放つための時間を稼いでいたようだ。
 迫り来る魔術の速度からいって、とても避けられるとは思えない。
 そのため、カルミネは少しでもダメージを軽減するために、これまで以上に全身に纏う魔力の量を増やした。

「ぐうっ!!」

 康義の放った水龍の魔術が直撃するが、カルミネは水龍に喰われるのを拒否するように顎を抑えて受け止める。
 しかし、完全に抑え込むことはできず、カルミネはジリジリと後方へ後退させられていった。

「っ!? まさか……」

 押されながらも懸命に耐えるカルミネだが、相手は康義だけでないことを思いだす。
 そして、俊夫と康則のことを探すと、2人が魔力を練っている姿が目に映った。
 その練った魔力で何をしてくるのかを悟り、カルミネは顔を青くした。

「「ハッ!!」」

「おのれっ!!」

 カルミネが2人の狙いに気付いた時にには、俊夫と康則の魔術は完成していた。
 俊夫と康則が同時に火球を放つ。
 自分は康義が放った水龍の魔術に手一杯で、2人の魔術には完全に無防備な状態だ。
 いくらなんでも、そんな状態でこれほどの魔術を食らえばただでは済まない。
 放たれた魔術を見て、カルミネは焦りの色を見せた。

“ドーーーンッ!!”

「よしっ!」

 康義の魔術と俊夫と康則の魔術がぶつかり爆発を起こす。
 大会用の舞台が吹き飛ぶほどの威力。
 いくら魔族が強力な強さを持っていると言っても、これほどの威力の攻撃が直撃すれば生きているわけがない。
 そう考えた康則は、思わず拳を握って小さくガッツポーズをとった。

「「………………」」

 ガッツポーズをとった康則とは違い、俊夫と康義は無言で爆発によって巻き起こった土煙が治まるのを待った。
 魔族が一筋縄では済まないと分かっているからだ。
 さすがに直撃してダメージがないとは思わないが、死んでいない可能性もある。
 生きているのならきちんと止めを刺さないとならないため、警戒心を解かないでいた。

「…………」

 2人と康則の違いは、魔族と戦ったことのある経験から来るものだろう。
 自分と違い警戒心を解かない2人を見た康則も、喜ぶのは速いと意識を改め、2人と同様に土煙が治まるのを待った。

「危ない危ない……」

「「「なっ!!」」」

 結果は土煙が完全に治まる前に分かった。
 カルミネの呟きが聞こえたからだ。
 爆発を受けたと思われたはずのカルミネが、上空にいたことに俊夫たち3人は驚く。
 カルミネがの背中にある翼を見る限り、飛空能力がある可能性は考えられた。
 しかし、先程の攻撃に対処している様子から、とても上空へ回避できる隙など無かったはずだからだ。

「助かったぜ。ティ

「「「っっっ!!」」」

 攻撃を回避したカルミネは、安堵の笑みと共に地上へ降りる。
 そして、ある方向に話しかける。
 話しかけた方向に俊夫たち3人が目を向けると、そこには1人の人間が立っていた。
 人間といっても、獣耳に尻尾、黄色に黒い斑点のような毛が生えている。
 見た感じ、ファンタジーの物語に出てくるような獣人といった姿をしている。
 その獣人に対し、カルミネが感謝の言葉をかけた所を見ると、先程の攻撃を避けられたのはこの獣人が何かをしたからのようだ。

「ったく。自分1人で大丈夫とか言っていなかったか?」

「1対1なら大丈夫だけど、3人同時はさすがにきついようだ」

「そりゃそうだろ」

 俊夫たち3人のことなど気にせず、カルミネはティベリオと言った獣人と軽い口調で話し合う。
 それに反し、俊夫たちは顔色が悪い。

「魔族が2体だと……」

「最悪だ……」

 俊夫と康義が思わず呟く。
 その言葉のように、この現れた獣人が魔族であるからだ。
 1体でも危険な魔族が、2体も現れる。
 これまで無かった事ではないが、頻発するようなことでもない。
 柊家の人間と俊夫によって倒されたということになっているが、今年に入って2度目の出来事だ。
 しかも、今回は名前持ちが2体。
 ショックを受けるのも仕方がないことだろう。

「どうすれば……」

「2体相手でも、何とかするしかないだろう」

「そうですね……」

 あまりのことに康則が慌てたような声を上げる。
 それに対し、康義は厳しい表情をしながら答え、俊夫もそれに賛同した。
 魔族2体相手なんて、いくらこの3人が揃っていってもきつすぎる。
 それでも魔族を放置できないため、戦わずに逃げるという選択はできないのだ。

「さて、反撃と行きますか……」

「くっ!」

 ティベリオとの会話を終えたカルミネは、笑みを浮かべて3人に武器を構える。
 後から現れた獣人のティベリオも戦闘態勢に入った所を見ると、2体で自分たちと戦うということだろう。
 勝てる見込みの低い戦いに挑まなければならない俊夫は、歯噛みしつつ2体の魔族に武器を構えたのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でトラック運送屋を始めました! ◆お手紙ひとつからベヒーモスまで、なんでもどこにでも安全に運びます! 多分!◆

八神 凪
ファンタジー
   日野 玖虎(ひの ひさとら)は長距離トラック運転手で生計を立てる26歳。    そんな彼の学生時代は荒れており、父の居ない家庭でテンプレのように母親に苦労ばかりかけていたことがあった。  しかし母親が心労と働きづめで倒れてからは真面目になり、高校に通いながらバイトをして家計を助けると誓う。  高校を卒業後は母に償いをするため、自分に出来ることと言えば族時代にならした運転くらいだと長距離トラック運転手として仕事に励む。    確実かつ時間通りに荷物を届け、ミスをしない奇跡の配達員として異名を馳せるようになり、かつての荒れていた玖虎はもうどこにも居なかった。  だがある日、彼が夜の町を走っていると若者が飛び出してきたのだ。  まずいと思いブレーキを踏むが間に合わず、トラックは若者を跳ね飛ばす。  ――はずだったが、気づけば見知らぬ森に囲まれた場所に、居た。  先ほどまで住宅街を走っていたはずなのにと困惑する中、備え付けのカーナビが光り出して画面にはとてつもない美人が映し出される。    そして女性は信じられないことを口にする。  ここはあなたの居た世界ではない、と――  かくして、異世界への扉を叩く羽目になった玖虎は気を取り直して異世界で生きていくことを決意。  そして今日も彼はトラックのアクセルを踏むのだった。

薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ

柚木 潤
ファンタジー
 実家の薬華異堂薬局に戻った薬剤師の舞は、亡くなった祖父から譲り受けた鍵で開けた扉の中に、不思議な漢方薬の調合が書かれた、古びた本を見つけた。  そして、異世界から助けを求める手紙が届き、舞はその異世界に転移する。  舞は不思議な薬を作り、それは魔人や魔獣にも対抗できる薬であったのだ。  そんな中、魔人の王から舞を見るなり、懐かしい人を思い出させると。  500年前にも、この異世界に転移していた女性がいたと言うのだ。  それは舞と関係のある人物であった。  その後、一部の魔人の襲撃にあうが、舞や魔人の王ブラック達の力で危機を乗り越え、人間と魔人の世界に平和が訪れた。  しかし、500年前に転移していたハナという女性が大事にしていた森がアブナイと手紙が届き、舞は再度転移する。  そして、黒い影に侵食されていた森を舞の薬や魔人達の力で復活させる事が出来たのだ。  ところが、舞が自分の世界に帰ろうとした時、黒い翼を持つ人物に遭遇し、舞に自分の世界に来てほしいと懇願する。  そこには原因不明の病の女性がいて、舞の薬で異物を分離するのだ。  そして、舞を探しに来たブラック達魔人により、昔に転移した一人の魔人を見つけるのだが、その事を隠して黒翼人として生活していたのだ。  その理由や女性の病の原因をつきとめる事が出来たのだが悲しい結果となったのだ。  戻った舞はいつもの日常を取り戻していたが、秘密の扉の中の物が燃えて灰と化したのだ。  舞はまた異世界への転移を考えるが、魔法陣は動かなかったのだ。  何とか舞は転移出来たが、その世界ではドラゴンが復活しようとしていたのだ。  舞は命懸けでドラゴンの良心を目覚めさせる事が出来、世界は火の海になる事は無かったのだ。  そんな時黒翼国の王子が、暗い森にある遺跡を見つけたのだ。   *第1章 洞窟出現編 第2章 森再生編 第3章 翼国編  第4章 火山のドラゴン編 が終了しました。  第5章 闇の遺跡編に続きます。

勇者パーティーを追放された俺は腹いせにエルフの里を襲撃する

フルーツパフェ
ファンタジー
これは理不尽にパーティーを追放された勇者が新天地で活躍する物語ではない。 自分をパーティーから追い出した仲間がエルフの美女から、単に復讐の矛先を種族全体に向けただけのこと。 この世のエルフの女を全て討伐してやるために、俺はエルフの里を目指し続けた。 歪んだ男の復讐劇と、虐げられるエルフの美女達のあられもない姿が満載のマニアックファンタジー。

エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸
ファンタジー
 普通の高校生、松田啓18歳が、夏休みに海で溺れていた少年を救って命を落としてしまう。  海の底に沈んで死んだはずの啓が、次に意識を取り戻した時には小さな少年に転生していた。  その少年の記憶を呼び起こすと、どうやらここは異世界のようだ。  もう一度もらった命。  啓は生き抜くことを第一に考え、今いる地で1人生活を始めた。  前世の知識を持った生き残りエルフの気まぐれ人生物語り。 ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバ、ツギクルにも載せています

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

処理中です...