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1学年 後期
第81話
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「金井選手とセコンドの方。入場口までお願いします」
「「はい!」」
試合会場に入り、選手控室でウォーミングアップを終えた了。
選手控室に設置されたモニターには、終了した前の試合の選手たちが舞台から降りるのが映し出されていた。
それを眺めていた伸と了の所へ、大会関係者の腕章を付けた人が呼びに来てくれた。
「オッシャー!! やったるぜ!!」
「……朝の緊張は何だったんだ?」
ウォーミングアップによるものなのか、了はテンション高く声を上げる。
その様子を見た伸は、呆れるように呟いた。
朝起きた時は緊張で固まっていたというのに、今はそれを楽しんでいるように見えたからだ。
【次の試合、東口から八郷学園1年生の金井了選手の入場です!!】
「「「「「ワーーー!!」」」」」
『すげえ数だな……』
会場のアナウンスと共に了が入場すると、観客席から大きな声が上がる。
観客席は満員に近い。
人気が高い大会とはいえここまでだとは思っていなかったため、伸は内心で改めて感心していた。
【西口からは、洪武学園1年生の内藤幸司選手の入場です!!】
「「「「「ワーーー!!」」」」」
了の相手の選手が入場してきて、またも観客から歓声が上がった。
両者とも特に名門家の人間ではないが、それでもこの歓声となると、決勝はどんなことになるのか心配になってくる。
『まぁ、いくら了でも決勝は難しいかな……』
伸が夏に一時操ってから、了はかなり成長している。
しかし、それでも上の学年の選手を相手にして勝てるかは微妙なところだ。
なので、決勝がどんな雰囲気だろうと、関係ないので気にするのをやめた。
「相手は同じ1年。得意な形に持って行けば勝てるはずだ」
「了解!」
試合用の舞台に上がった了に、伸は試合前のアドバイスを送る。
言葉通り、初めて相手選手を見て魔力量なんかを計ってみたが、了とは大差はないように思える。
了の得意な接近戦に持ち込めば何とかなるはずだ。
伸のそのアドバイスに、了は元気に返事をする。
観客の前に出たら、また緊張するのではないかと心配していたが、その考えは杞憂だったようだ。
これなら実力を出し切ることができそうだ。
両者ある程度の距離を取って武器を構えると、審判が開始の合図を待つ。
試合のルールは学園の選考会の時とほぼ同様で、武器は基本木製の物で魔術は何でもあり、相手を降参させるか、セコンドのタオル投入、審判が勝負ありと認めた時に勝敗が決する。
当然、相手を死に至らしめたり、危険な目に遭わせるような攻撃を意図して行った場合は失格。
違う所といえば、舞台から出た場合、20秒以内に戻らなければ敗北するというルールが付いただけだ。
「それでは……始め!」
「ハッ!!」
「っ!?」
試合開始と共に動き出したのは了。
やはり緊張が解けていたのが良かったのか、開始早々伸の言う通り自分の得意な近接戦へと持ち込もうとする。
それに対し、内藤は少し反応が鈍い。
表情には出ていなかったが、もしかしたら緊張しているのかもしれない。
「セイッ!!」
「おわっ!!」
距離を詰めた了は、冗談に構えた木刀を振り下ろす。
開始早々襲い掛かってきた了に、内藤は慌ててその場から跳び退く。
少し大振りになってしまったせいか、了は少しバランスを崩す。
「了!! 逃がすな!!」
「おうよ!!」
あまりうるさくするのは注意されるが、セコンドのアドバイスは禁止されてはいない。
そのため、舞台下で試合を見ている伸は、セコンドとして了へとアドバイスを送る。
そのアドバイスを受けた了は、分かっていると言うかのように返事をし、距離を取ろうとする内藤を追いかけた。
「クッ!!」
追いかけてくる了に対し、内藤は左手を前に突き出して魔術を放つ。
左手から出た野球ボール大の火の玉が、了へと飛んで行く。
「っと!!」
飛んできた火の玉を躱し、了はまたも距離を詰めようと内藤へと向かって地を蹴った。
「ハッ!!」
「フッ!!」
『まるで追いかけっこだな……』
了が距離を詰めれば、内藤が魔術を放って距離を取ろうと動く。
そう言った構図の戦いになっていた。
まるで追いかけっこをしているように見え、伸は思わず笑ってしまいそうになった。
「逃げるな!!」
「う、うるさい!!」
追いかけっこも、ジワジワと変化が起きてくる。
内藤の魔術を放つタイミングが掴めてきたのか、了が少しずつ距離を詰められるようになってきた。
あと少し距離が縮められれば、了の木刀が届くだろう。
それが分かっているのか、あとちょっとが続くことに了がいら立ちの声を相手にかける。
止まれと言って止まる訳もなく、内藤は強めの口調で返事をして来た。
「いいぞ、了!」
内藤の動きを見ている限り、魔術の発動の速さはかなりのもの。
それから考えると、どうやら距離を取っての魔術戦闘が得意なのかもしれない。
『このままなら……了が勝てる!』
了の木刀が内藤選手の頬を掠める。
どうやら伸の思った通り、内藤は遠距離魔術タイプのようだ。
右手に木刀を持っているのにもかかわらず、防御の反応が鈍い。
「このっ!!」
「っ!?」
あと一歩という所でなかなか届かない。
その状況に、これまで身体強化だけで戦っていた了は初めて魔術を放つ。
属性変化をしないことで無駄な時間を削り、魔力をそのまま打ち出す。
それによって、内藤がまたも放とうとした魔術を阻止する。
「しまった!!」
左手目掛けて飛んできた相手選手の魔力球に、反射的に手を引っ込めてしまった。
そのため、内藤は了の足止めをできずに距離を詰められてしまう。
右手に持つ木刀で攻撃をしようとするが、魔術の実力で選手に選ばれた自分では基礎的な剣術しか訓練していない。
そのため、横に振った木刀をダッキングで躱され、あっという間に懐に入られてしまった。
「ハッ!!」
「…………くっ!! 参りました」
懐に入られたら、内藤にはどうしようもない。
しゃがみ込んだ状態から跳ね上がるようにして放たれた了の突きが、内藤の喉元へと迫り当たる寸前で止められた。
真剣なら完全に死んでいる。
それを理解した内藤は、悔しそうに降参の宣言をした。
「勝者! 金井!」
「「「「「ワーーー!!」」」」」
内藤の降参に、審判がすぐに反応する。
了の方を指差し、勝者の宣言をする。
それを聞いて、会場も一気に歓声が上がった。
「伸、やったぜ!」
「ナイスだ! 了!」
1年なら初戦突破するだけでも褒められたもの。
それができた了は、嬉しそうに伸へと駆け寄った。
そんな了を、伸は片手を上げて迎える。
“パンッ!!”
その意味を理解した了は、それに応えるように手を打ち付ける。
ハイタッチを交わして笑顔になった2人は、そのまま控室へと戻ていったのだった。
「「はい!」」
試合会場に入り、選手控室でウォーミングアップを終えた了。
選手控室に設置されたモニターには、終了した前の試合の選手たちが舞台から降りるのが映し出されていた。
それを眺めていた伸と了の所へ、大会関係者の腕章を付けた人が呼びに来てくれた。
「オッシャー!! やったるぜ!!」
「……朝の緊張は何だったんだ?」
ウォーミングアップによるものなのか、了はテンション高く声を上げる。
その様子を見た伸は、呆れるように呟いた。
朝起きた時は緊張で固まっていたというのに、今はそれを楽しんでいるように見えたからだ。
【次の試合、東口から八郷学園1年生の金井了選手の入場です!!】
「「「「「ワーーー!!」」」」」
『すげえ数だな……』
会場のアナウンスと共に了が入場すると、観客席から大きな声が上がる。
観客席は満員に近い。
人気が高い大会とはいえここまでだとは思っていなかったため、伸は内心で改めて感心していた。
【西口からは、洪武学園1年生の内藤幸司選手の入場です!!】
「「「「「ワーーー!!」」」」」
了の相手の選手が入場してきて、またも観客から歓声が上がった。
両者とも特に名門家の人間ではないが、それでもこの歓声となると、決勝はどんなことになるのか心配になってくる。
『まぁ、いくら了でも決勝は難しいかな……』
伸が夏に一時操ってから、了はかなり成長している。
しかし、それでも上の学年の選手を相手にして勝てるかは微妙なところだ。
なので、決勝がどんな雰囲気だろうと、関係ないので気にするのをやめた。
「相手は同じ1年。得意な形に持って行けば勝てるはずだ」
「了解!」
試合用の舞台に上がった了に、伸は試合前のアドバイスを送る。
言葉通り、初めて相手選手を見て魔力量なんかを計ってみたが、了とは大差はないように思える。
了の得意な接近戦に持ち込めば何とかなるはずだ。
伸のそのアドバイスに、了は元気に返事をする。
観客の前に出たら、また緊張するのではないかと心配していたが、その考えは杞憂だったようだ。
これなら実力を出し切ることができそうだ。
両者ある程度の距離を取って武器を構えると、審判が開始の合図を待つ。
試合のルールは学園の選考会の時とほぼ同様で、武器は基本木製の物で魔術は何でもあり、相手を降参させるか、セコンドのタオル投入、審判が勝負ありと認めた時に勝敗が決する。
当然、相手を死に至らしめたり、危険な目に遭わせるような攻撃を意図して行った場合は失格。
違う所といえば、舞台から出た場合、20秒以内に戻らなければ敗北するというルールが付いただけだ。
「それでは……始め!」
「ハッ!!」
「っ!?」
試合開始と共に動き出したのは了。
やはり緊張が解けていたのが良かったのか、開始早々伸の言う通り自分の得意な近接戦へと持ち込もうとする。
それに対し、内藤は少し反応が鈍い。
表情には出ていなかったが、もしかしたら緊張しているのかもしれない。
「セイッ!!」
「おわっ!!」
距離を詰めた了は、冗談に構えた木刀を振り下ろす。
開始早々襲い掛かってきた了に、内藤は慌ててその場から跳び退く。
少し大振りになってしまったせいか、了は少しバランスを崩す。
「了!! 逃がすな!!」
「おうよ!!」
あまりうるさくするのは注意されるが、セコンドのアドバイスは禁止されてはいない。
そのため、舞台下で試合を見ている伸は、セコンドとして了へとアドバイスを送る。
そのアドバイスを受けた了は、分かっていると言うかのように返事をし、距離を取ろうとする内藤を追いかけた。
「クッ!!」
追いかけてくる了に対し、内藤は左手を前に突き出して魔術を放つ。
左手から出た野球ボール大の火の玉が、了へと飛んで行く。
「っと!!」
飛んできた火の玉を躱し、了はまたも距離を詰めようと内藤へと向かって地を蹴った。
「ハッ!!」
「フッ!!」
『まるで追いかけっこだな……』
了が距離を詰めれば、内藤が魔術を放って距離を取ろうと動く。
そう言った構図の戦いになっていた。
まるで追いかけっこをしているように見え、伸は思わず笑ってしまいそうになった。
「逃げるな!!」
「う、うるさい!!」
追いかけっこも、ジワジワと変化が起きてくる。
内藤の魔術を放つタイミングが掴めてきたのか、了が少しずつ距離を詰められるようになってきた。
あと少し距離が縮められれば、了の木刀が届くだろう。
それが分かっているのか、あとちょっとが続くことに了がいら立ちの声を相手にかける。
止まれと言って止まる訳もなく、内藤は強めの口調で返事をして来た。
「いいぞ、了!」
内藤の動きを見ている限り、魔術の発動の速さはかなりのもの。
それから考えると、どうやら距離を取っての魔術戦闘が得意なのかもしれない。
『このままなら……了が勝てる!』
了の木刀が内藤選手の頬を掠める。
どうやら伸の思った通り、内藤は遠距離魔術タイプのようだ。
右手に木刀を持っているのにもかかわらず、防御の反応が鈍い。
「このっ!!」
「っ!?」
あと一歩という所でなかなか届かない。
その状況に、これまで身体強化だけで戦っていた了は初めて魔術を放つ。
属性変化をしないことで無駄な時間を削り、魔力をそのまま打ち出す。
それによって、内藤がまたも放とうとした魔術を阻止する。
「しまった!!」
左手目掛けて飛んできた相手選手の魔力球に、反射的に手を引っ込めてしまった。
そのため、内藤は了の足止めをできずに距離を詰められてしまう。
右手に持つ木刀で攻撃をしようとするが、魔術の実力で選手に選ばれた自分では基礎的な剣術しか訓練していない。
そのため、横に振った木刀をダッキングで躱され、あっという間に懐に入られてしまった。
「ハッ!!」
「…………くっ!! 参りました」
懐に入られたら、内藤にはどうしようもない。
しゃがみ込んだ状態から跳ね上がるようにして放たれた了の突きが、内藤の喉元へと迫り当たる寸前で止められた。
真剣なら完全に死んでいる。
それを理解した内藤は、悔しそうに降参の宣言をした。
「勝者! 金井!」
「「「「「ワーーー!!」」」」」
内藤の降参に、審判がすぐに反応する。
了の方を指差し、勝者の宣言をする。
それを聞いて、会場も一気に歓声が上がった。
「伸、やったぜ!」
「ナイスだ! 了!」
1年なら初戦突破するだけでも褒められたもの。
それができた了は、嬉しそうに伸へと駆け寄った。
そんな了を、伸は片手を上げて迎える。
“パンッ!!”
その意味を理解した了は、それに応えるように手を打ち付ける。
ハイタッチを交わして笑顔になった2人は、そのまま控室へと戻ていったのだった。
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