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1学年 後期
第70話
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「なぁ、伸……」
「んっ? 何だ?」
テロを起こそうとした者たちが文化祭に侵入した事件は、選考会と文化祭の振り替え休日明けした日に生徒たちに報告された。
しかし、これだけの事件となると報道陣に漏れてしまい、翌日の新聞に掲載されていたため生徒たちは驚くようなことはなかった。
今回は柊家が未然に防いだため事なきを得たが、学園側は警備の薄さを謝罪することになり、来年からは来場者の持ち物を厳重に警戒することを約束することで一先ず収拾した。
とりあえずその件は治まり、元の授業に戻っていった。
そして、11月ももうすぐ終わりといったある日、了が伸へと話しかけてきた。
「本選のことなんだが……」
「あぁ、どうした?」
大和皇国にある8つの国立魔術師学園。
その代表たちが集められて、魔術師としての技術を競い合う対抗戦が年末におこなわれる。
伸たちが通う学園内の選考会で準優勝に終わった了。
とは言っても、1年は2位までが出場できるため、本選に参加することが決まっている。
その本選のことで何か話があるようなので、伸は了へと問いかけた。
「本選のセコンドもお前に頼みたいんだが……」
「……それは全然構わないが、剣道部の先輩とかに頼まなくていいのか?」
魔術師は、魔物や犯罪者と戦う時に接近戦も考慮に入れておかなければならない。
人によって色々な武器が選ばれるが、大和は刀による戦闘が特に好まれている。
そのため、どこの学園も毎年相当数の剣道部員が入部する。
そして毎年のように選考会に出るような選手を有し、今年も1、2、3年が1人ずつ選ばれるというかなり優秀な部だ。
毎年選手を出しているのだから、ある程度本選で戦うためのノウハウのようなものがあるはずなので、セコンドも剣道部の先輩に任せた方が良いような気がする。
「1年は優勝を狙うよりも初戦を勝つことに集中した方が良いから、仲の良い奴にセコンドを頼んだ方が良いって話だ。絶対緊張するからって……」
「ふ~ん。そんなもんなのか……」
たしかにどこの学園の代表でも、これまでの大会の歴史上1年での優勝は片手で数えるくらいしかいない。
学園の選考会で優勝できなかったのだから、優勝は期待されていないのだろう。
ならば、1回戦の勝利のために万全の状態を作るというのが一番という選択らしい。
大会は1回戦で負けても、出場しただけでこの業界では評価される。
それもあって、大体の初出場の選手は緊張で実力が出せないで終わってしまうことが多い。
了は緊張するとかそういうタイプではないように思えるが、先輩たちは念のために仲の良い者をセコンドに付けることを提案したらしい。
「宿泊費は?」
「学校が出してくれるって」
「マジで?」
大会は12月26日から31日までの6日間でおこなわれる。
隣の地区だからと言って、行き帰りしていてはちゃんとした休息を取れないため、勝ち進むことを考えて、学園側が宿泊施設を借りることになっている。
学園を代表して出場するのだから、滞在費は学園側がセコンドの分も合わせて出してくれるそうだ。
「1回戦で負けても、大みそかまで官林地区に滞在できるぞ」
「時間あったら、観光でもするか?」
「いいね!」
学園側が6日間の滞在費を出すので、負けたからと言ってすぐに帰ってくるということにはならない。
了が負けたとしても、他に出場している先輩たちの応援をしに行かなければならない。
しかし、八郷の選手の試合がなければ、多少観光に出てもいいことになっているそうだ。
大会会場となる朝本州は首都であるため、大和皇国で一番発展している。
官林地区からすると八郷地区は田舎のため、やはり都会がどのようになっているのか興味が湧く。
テレビや新聞などでしか見たことない都会の景色を想像すると、伸と了は大会のことを忘れて、思わずテンションが上がった。
「……って言ってても、勝つ気でいるんだろ?」
「まあな……」
たしかに負けた時は観光をするのが楽しみだ。
だからと言って、了は性格的にそう簡単に負けるようなことはしたくないはずだ。
そう思って問いかけると、伸が思った通り何か考えがあるようだ。
「実は魔物と戦ってみたいと思っていて……」
「魔物と? 何で?」
魔術師は魔物と戦うのが一番の仕事だ。
しかし、それはちゃんと魔闘組合に登録されてからおこなうことで、学園生は2、3年にならないと普通は経験できないものだ。
以前学園内に魔物が侵入してきたため、了は伸と共に戦闘することになったが、普通はあり得ない。
ましてや大会前だというのに魔物と戦いたがるのか、伸にはその意味が分からない。
「巨大イカを倒した時、何だか能力が解放された気がするんだ。もしかしたら大会までに同じようなことが起きるんじゃないかと思って……」
「……あぁ、なるほど……」
夏休みの時、海岸に巨大イカの魔物が出現した。
柊家の仕事を手伝うために近くに来ていた伸が倒そうと思っていたのだが、剣道部の合宿で来ていた了と偶然会うことになった。
その時に、了は巨大イカから攻撃を食らって意識を失った。
そして、目を覚ました時、何故か自分が巨大イカを倒したということになっていた。
夏休み後になって気付くことになったが、魔物と戦ったことで魔力のコントロールがスムーズにできるようになった。
どうやら。了はあの時のように魔物と戦えば、また成長できるのではないかと考えたようだ。
あの時は、伸が操ったことで了の魔力コントロールが上手くなっだけだ。
本当のことが言えない伸は、了の考えに曖昧に返事をする事しかできなかった。
「それで、伸の方から柊に取り持ってくれないか?」
「……危険の少ない魔物が相手になるだろうけど、それでもいいのか?」
「あぁ!」
魔物と戦うというなら、最近では人気上昇しまくりの柊家に頼むしかない。
そうなると、綾愛と話している姿を見た経験から、自分に頼むしかないと思ったようだ。
危険がつきものの魔物討伐に、高校生を連れて行くわけにはいかない。
当主の娘である綾愛は、魔物と戦う経験を積んでいるが、彼女の場合は家が名門であるが故のことだ。
伸が言ったところで、柊家当主の当主の許可が下りるか分からない。
例え許されたとしても、弱い魔物を相手の戦闘くらいしかさせてもらえないはずだ。
「……分かった。聞いてみるだけ聞いてみるよ」
「マジか!? ありがとう!」
本来は学園のカリキュラム通りに成長していけば良いと思うが、友人の頼みということで、聞いてみるくらいは聞いてみた方が良いと伸は思った。
駄目元で頼んでみたが、やはり伸に頼んで正解だった。
とりあえず、聞くだけ聞いてみることになり、了は嬉しそうに伸の手を握って無理やり握手をして来た。
まだ許可が下りたわけでもないのにあまりにも喜んでいるので、伸は苦笑いするしかなかったのだった。
「んっ? 何だ?」
テロを起こそうとした者たちが文化祭に侵入した事件は、選考会と文化祭の振り替え休日明けした日に生徒たちに報告された。
しかし、これだけの事件となると報道陣に漏れてしまい、翌日の新聞に掲載されていたため生徒たちは驚くようなことはなかった。
今回は柊家が未然に防いだため事なきを得たが、学園側は警備の薄さを謝罪することになり、来年からは来場者の持ち物を厳重に警戒することを約束することで一先ず収拾した。
とりあえずその件は治まり、元の授業に戻っていった。
そして、11月ももうすぐ終わりといったある日、了が伸へと話しかけてきた。
「本選のことなんだが……」
「あぁ、どうした?」
大和皇国にある8つの国立魔術師学園。
その代表たちが集められて、魔術師としての技術を競い合う対抗戦が年末におこなわれる。
伸たちが通う学園内の選考会で準優勝に終わった了。
とは言っても、1年は2位までが出場できるため、本選に参加することが決まっている。
その本選のことで何か話があるようなので、伸は了へと問いかけた。
「本選のセコンドもお前に頼みたいんだが……」
「……それは全然構わないが、剣道部の先輩とかに頼まなくていいのか?」
魔術師は、魔物や犯罪者と戦う時に接近戦も考慮に入れておかなければならない。
人によって色々な武器が選ばれるが、大和は刀による戦闘が特に好まれている。
そのため、どこの学園も毎年相当数の剣道部員が入部する。
そして毎年のように選考会に出るような選手を有し、今年も1、2、3年が1人ずつ選ばれるというかなり優秀な部だ。
毎年選手を出しているのだから、ある程度本選で戦うためのノウハウのようなものがあるはずなので、セコンドも剣道部の先輩に任せた方が良いような気がする。
「1年は優勝を狙うよりも初戦を勝つことに集中した方が良いから、仲の良い奴にセコンドを頼んだ方が良いって話だ。絶対緊張するからって……」
「ふ~ん。そんなもんなのか……」
たしかにどこの学園の代表でも、これまでの大会の歴史上1年での優勝は片手で数えるくらいしかいない。
学園の選考会で優勝できなかったのだから、優勝は期待されていないのだろう。
ならば、1回戦の勝利のために万全の状態を作るというのが一番という選択らしい。
大会は1回戦で負けても、出場しただけでこの業界では評価される。
それもあって、大体の初出場の選手は緊張で実力が出せないで終わってしまうことが多い。
了は緊張するとかそういうタイプではないように思えるが、先輩たちは念のために仲の良い者をセコンドに付けることを提案したらしい。
「宿泊費は?」
「学校が出してくれるって」
「マジで?」
大会は12月26日から31日までの6日間でおこなわれる。
隣の地区だからと言って、行き帰りしていてはちゃんとした休息を取れないため、勝ち進むことを考えて、学園側が宿泊施設を借りることになっている。
学園を代表して出場するのだから、滞在費は学園側がセコンドの分も合わせて出してくれるそうだ。
「1回戦で負けても、大みそかまで官林地区に滞在できるぞ」
「時間あったら、観光でもするか?」
「いいね!」
学園側が6日間の滞在費を出すので、負けたからと言ってすぐに帰ってくるということにはならない。
了が負けたとしても、他に出場している先輩たちの応援をしに行かなければならない。
しかし、八郷の選手の試合がなければ、多少観光に出てもいいことになっているそうだ。
大会会場となる朝本州は首都であるため、大和皇国で一番発展している。
官林地区からすると八郷地区は田舎のため、やはり都会がどのようになっているのか興味が湧く。
テレビや新聞などでしか見たことない都会の景色を想像すると、伸と了は大会のことを忘れて、思わずテンションが上がった。
「……って言ってても、勝つ気でいるんだろ?」
「まあな……」
たしかに負けた時は観光をするのが楽しみだ。
だからと言って、了は性格的にそう簡単に負けるようなことはしたくないはずだ。
そう思って問いかけると、伸が思った通り何か考えがあるようだ。
「実は魔物と戦ってみたいと思っていて……」
「魔物と? 何で?」
魔術師は魔物と戦うのが一番の仕事だ。
しかし、それはちゃんと魔闘組合に登録されてからおこなうことで、学園生は2、3年にならないと普通は経験できないものだ。
以前学園内に魔物が侵入してきたため、了は伸と共に戦闘することになったが、普通はあり得ない。
ましてや大会前だというのに魔物と戦いたがるのか、伸にはその意味が分からない。
「巨大イカを倒した時、何だか能力が解放された気がするんだ。もしかしたら大会までに同じようなことが起きるんじゃないかと思って……」
「……あぁ、なるほど……」
夏休みの時、海岸に巨大イカの魔物が出現した。
柊家の仕事を手伝うために近くに来ていた伸が倒そうと思っていたのだが、剣道部の合宿で来ていた了と偶然会うことになった。
その時に、了は巨大イカから攻撃を食らって意識を失った。
そして、目を覚ました時、何故か自分が巨大イカを倒したということになっていた。
夏休み後になって気付くことになったが、魔物と戦ったことで魔力のコントロールがスムーズにできるようになった。
どうやら。了はあの時のように魔物と戦えば、また成長できるのではないかと考えたようだ。
あの時は、伸が操ったことで了の魔力コントロールが上手くなっだけだ。
本当のことが言えない伸は、了の考えに曖昧に返事をする事しかできなかった。
「それで、伸の方から柊に取り持ってくれないか?」
「……危険の少ない魔物が相手になるだろうけど、それでもいいのか?」
「あぁ!」
魔物と戦うというなら、最近では人気上昇しまくりの柊家に頼むしかない。
そうなると、綾愛と話している姿を見た経験から、自分に頼むしかないと思ったようだ。
危険がつきものの魔物討伐に、高校生を連れて行くわけにはいかない。
当主の娘である綾愛は、魔物と戦う経験を積んでいるが、彼女の場合は家が名門であるが故のことだ。
伸が言ったところで、柊家当主の当主の許可が下りるか分からない。
例え許されたとしても、弱い魔物を相手の戦闘くらいしかさせてもらえないはずだ。
「……分かった。聞いてみるだけ聞いてみるよ」
「マジか!? ありがとう!」
本来は学園のカリキュラム通りに成長していけば良いと思うが、友人の頼みということで、聞いてみるくらいは聞いてみた方が良いと伸は思った。
駄目元で頼んでみたが、やはり伸に頼んで正解だった。
とりあえず、聞くだけ聞いてみることになり、了は嬉しそうに伸の手を握って無理やり握手をして来た。
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