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1学年 前期
第22話
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「えっ? 彼女と2人で?」
「えぇ、そうよ」
土曜日になり、伸は予定通り柊家の発見した魔物の討伐に参加することになった。
柊家へ向かうと、綾愛の母である静奈が伸へ話しかけてきた。
綾愛をそのまま大人にしたような雰囲気をしていて、伸は初めて会った時に少し年の離れたお姉さんなのかと問いかけそうになった。
その静奈が、伸は綾愛と2人で今回の魔物討伐をして欲しいと言ってきた。
「俺はともかく、彼女はまだ未熟な学生ですよ? 参加させるのは危険では?」
「だからあなたにお願いしたいのよ」
柊家当主の俊夫には実力をある程度見せたため、伸は単独でも危険性はないと判断しているのかもしれないが、綾愛は学園内では優秀だと言っても入学して間もない新入生でしかない。
今回は魔物の巣の殲滅が目標となっていて、結構な数の存在が確認されているという話だ。
洞窟内に造られたいくつもの坑道の1つ1つを潰していくのだが、どんな罠が仕掛けられているか分からない。
魔物との戦闘経験を積ませるにしては少々危険に思えたため、伸はやんわりと止めるような発言を静奈へした。
静奈はその問いが来るのが分かっていたようで、すぐに伸の問いに返答してきた。
「あなたなら綾愛を守りつつ魔物との戦闘経験を積ませることができるでしょう?」
「えぇ、まぁ……」
はっきり言って足手まといだが、別にできないことではないため、伸は静奈の問いに頷く。
綾愛を連れての行動となると、たいして動くことができない。
しかし、柊家の魔闘組合員が主に行動するので、伸は目立たない程度に動くはずだったため、そう考えると別に気にする事でもないように思えてきた。
「あなたを救ってくれた人のためにも、綾愛は今より強くなりたいでしょ?」
「……うん!」
伸の方は渋々ながら納得した。
しかし、綾愛の方も2人での行動というのが分からないでいた。
伸の実力は、意識が薄れ行くだったとは言ってもしっかり見ていた。
そのため、自分の護衛としては適任だが、実力があるからこそより多くの魔物を倒すことに動いてもらった方が綾愛としては良いと思っていた。
そんな綾愛に、静奈はヒソヒソ話のように耳元で問いかける。
母の言い方だと、今回はいつものようなほぼ見学でしかない魔物退治とは違い、実戦をさせるつもりのようだ。
強くなって名を上げれば、誘拐犯から自分を救い出してくれた人が知ってくれるかもしれない。
もしかしたら、名乗り出てくれるかもしれないという淡い期待もしている。
そうなると、実戦訓練は望むところのため、綾魔は頷きを返した。
「ならば、彼と共に行動して、何か掴んできなさい」
「うん、分かった!」
溺愛している俊夫と違い、静奈としてはちょっとくらい綾愛が危険な目に遭うのは仕方がないと思っている。
柊家の娘に生まれたのだから、魔物との戦闘で危険な目に遭うことはこれからいくらでもあるからだ。
今回調査した結果だと、数は多くてもたいした魔物の存在は確認できなかったという話のため、夫の俊夫以上かもしれない実力の持ち主の伸と一緒なら危険な目に遭うとは思わないが、ほぼ初となる魔物の討伐で緊張するであろう綾愛の心理状況を利用しない手はない。
簡単に言えば、つり橋効果を利用して綾愛と伸との距離が縮めることが目的だ。
伸のような強力な魔術師を、柊家に引き入れるため密かな思惑など知る由もなく、綾愛は伸と共に魔物討伐に向かうことを決意した。
「じゃあ、行くか?」
「えぇ」
人が1人通れるくらいの穴から、伸は綾愛を引き連れて魔物の巣の中へと入っていった。
あらかじめ、俊夫から伸のことを伝えられていたからか、柊家の魔術師たちは普通に伸に接してくれた。
綾愛のことも考えて、伸たちは比較的弱い魔物が出現していた坑道の1つを請け負うことになった。
今回魔物討伐で呼ばれたのではなく、強い護衛を付けての綾愛の訓練が目的だったのだろうと、伸は思うようになっていた。
「どんな魔物がいるんだろうな?」
「……そうね」
奥へ進むにつれて光が届かなくなり、真っ暗へとなっていく。
それを強力なショルダーライト明るくしつつ進むにつれ、坑道も少しずつ広がって少し広めの通路のような大きさになった。
その間ずっと無言で行動していたため、何だか重苦しく感じた伸は、綾愛と話をして和らげようと考えて話しかけた。
その伸の問いに対する返答で、綾愛が黙っていた理由が分かった気がした。
「……もしかして魔物の討伐経験少ないのか?」
「当たり前でしょ。高校生なんだから……」
坑道内に入ってから、綾愛はガチガチに固まっているような動きをしていることから、どうやら緊張している様子だ。
何でそこまで緊張しているのか分からず、もしかしたらと思って問いかけてみると、思った通り綾愛は魔物を討伐した経験が少ないようだ。
「柊家の令嬢だから多少は訓練していると思ったんだが……」
「何度か見学はさせてもらったけど、戦おうとすると父が止めるのよ」
「あぁ……」
当主になるのは別に男性でもなくてもいいため、柊家の跡継ぎは今の所綾愛しかいない。
そんな1人娘を溺愛する俊夫は、少しでも危険だと思うと綾愛を魔物と戦わせることができないのだろう。
ただ見学するだけだった綾愛は、今回がほぼ初のようだ。
その時の俊夫の様子が思い浮かび、伸も納得したように声を漏らした。
「でも、そんなんでよく学園に出た魔物に、飛び出していったな……」
「あの時は他のみんなを守らないとって必死だったから……」
「……あっそ」
伸が若干誘導したとはいえ、出現してすぐに綾愛は魔物に向かっていった。
今の緊張しているのが嘘のような行動だ。
綾愛はあの時、咄嗟に自分以外は動くこともできないと思ったため、体が勝手に反応したようだ。
魔物の実力を見抜けない行動だったが、あの行為で他のみんなは反応できるようになり、逃げることができたのだからあながち間違いではなかったのかもしれない。
名門家の娘とはいえ、あの状況でみんなのために行動したことは伸としては好印象だ。
あの時の魔物には通用しなかったが、戦闘技術は元々才能もあることだし、鍛えれば確かに強くなれるかもしれない。
「君のお袋さんの感じだと、君の訓練に俺は呼ばれたみたいだ。だからなるべく君に戦わせる気だからそのつもりでいてくれ」
「わ、分かったわ」
魔物の殲滅は柊家の人たちに任せ、伸は静奈の要望通り綾愛に戦闘訓練をさせることにした。
少し話しながら歩いていたため、綾愛の方も少しは緊張がほぐれたように思える。
魔物との戦闘と聞いて、またも緊張したような反応したが、とりあえず何とかなるだろう。
「……ところで、あなたはいつから魔物を倒しているの?」
先程より緊張は解けた。
そうなると、綾愛には気になることが浮かんできた。
余裕で前を歩く伸のことだ。
自分と同じ年で、父以上かもしれない実力の持ち主。
魔物との戦闘も慣れているように思える。
いつから戦えばそんな風になれるのかが知りたくなった。
「えっ? え~と……魔物は中1の時だったかな?」
「…………かなり早いのね」
小さい頃に自分の魔術師としての能力に気付いた伸は、誰にも気づかれないように密かに犯罪者の逮捕に協力してきた。
その延長で魔物の討伐もおこなうようになった。
それが中学生になってからだ。
魔物以外のことは単なる自己満足だったため、伸としては話すつもりはないが、昔のことを思いだすついでに綾愛との事件のことが頭の片隅で浮かんでいたため、伸は気付かないうちに「は」と言ってしまった。
魔物以外に何かしていたという意味に取れる返答なのだが、綾愛もそのことに気付くことはなかった。
「えぇ、そうよ」
土曜日になり、伸は予定通り柊家の発見した魔物の討伐に参加することになった。
柊家へ向かうと、綾愛の母である静奈が伸へ話しかけてきた。
綾愛をそのまま大人にしたような雰囲気をしていて、伸は初めて会った時に少し年の離れたお姉さんなのかと問いかけそうになった。
その静奈が、伸は綾愛と2人で今回の魔物討伐をして欲しいと言ってきた。
「俺はともかく、彼女はまだ未熟な学生ですよ? 参加させるのは危険では?」
「だからあなたにお願いしたいのよ」
柊家当主の俊夫には実力をある程度見せたため、伸は単独でも危険性はないと判断しているのかもしれないが、綾愛は学園内では優秀だと言っても入学して間もない新入生でしかない。
今回は魔物の巣の殲滅が目標となっていて、結構な数の存在が確認されているという話だ。
洞窟内に造られたいくつもの坑道の1つ1つを潰していくのだが、どんな罠が仕掛けられているか分からない。
魔物との戦闘経験を積ませるにしては少々危険に思えたため、伸はやんわりと止めるような発言を静奈へした。
静奈はその問いが来るのが分かっていたようで、すぐに伸の問いに返答してきた。
「あなたなら綾愛を守りつつ魔物との戦闘経験を積ませることができるでしょう?」
「えぇ、まぁ……」
はっきり言って足手まといだが、別にできないことではないため、伸は静奈の問いに頷く。
綾愛を連れての行動となると、たいして動くことができない。
しかし、柊家の魔闘組合員が主に行動するので、伸は目立たない程度に動くはずだったため、そう考えると別に気にする事でもないように思えてきた。
「あなたを救ってくれた人のためにも、綾愛は今より強くなりたいでしょ?」
「……うん!」
伸の方は渋々ながら納得した。
しかし、綾愛の方も2人での行動というのが分からないでいた。
伸の実力は、意識が薄れ行くだったとは言ってもしっかり見ていた。
そのため、自分の護衛としては適任だが、実力があるからこそより多くの魔物を倒すことに動いてもらった方が綾愛としては良いと思っていた。
そんな綾愛に、静奈はヒソヒソ話のように耳元で問いかける。
母の言い方だと、今回はいつものようなほぼ見学でしかない魔物退治とは違い、実戦をさせるつもりのようだ。
強くなって名を上げれば、誘拐犯から自分を救い出してくれた人が知ってくれるかもしれない。
もしかしたら、名乗り出てくれるかもしれないという淡い期待もしている。
そうなると、実戦訓練は望むところのため、綾魔は頷きを返した。
「ならば、彼と共に行動して、何か掴んできなさい」
「うん、分かった!」
溺愛している俊夫と違い、静奈としてはちょっとくらい綾愛が危険な目に遭うのは仕方がないと思っている。
柊家の娘に生まれたのだから、魔物との戦闘で危険な目に遭うことはこれからいくらでもあるからだ。
今回調査した結果だと、数は多くてもたいした魔物の存在は確認できなかったという話のため、夫の俊夫以上かもしれない実力の持ち主の伸と一緒なら危険な目に遭うとは思わないが、ほぼ初となる魔物の討伐で緊張するであろう綾愛の心理状況を利用しない手はない。
簡単に言えば、つり橋効果を利用して綾愛と伸との距離が縮めることが目的だ。
伸のような強力な魔術師を、柊家に引き入れるため密かな思惑など知る由もなく、綾愛は伸と共に魔物討伐に向かうことを決意した。
「じゃあ、行くか?」
「えぇ」
人が1人通れるくらいの穴から、伸は綾愛を引き連れて魔物の巣の中へと入っていった。
あらかじめ、俊夫から伸のことを伝えられていたからか、柊家の魔術師たちは普通に伸に接してくれた。
綾愛のことも考えて、伸たちは比較的弱い魔物が出現していた坑道の1つを請け負うことになった。
今回魔物討伐で呼ばれたのではなく、強い護衛を付けての綾愛の訓練が目的だったのだろうと、伸は思うようになっていた。
「どんな魔物がいるんだろうな?」
「……そうね」
奥へ進むにつれて光が届かなくなり、真っ暗へとなっていく。
それを強力なショルダーライト明るくしつつ進むにつれ、坑道も少しずつ広がって少し広めの通路のような大きさになった。
その間ずっと無言で行動していたため、何だか重苦しく感じた伸は、綾愛と話をして和らげようと考えて話しかけた。
その伸の問いに対する返答で、綾愛が黙っていた理由が分かった気がした。
「……もしかして魔物の討伐経験少ないのか?」
「当たり前でしょ。高校生なんだから……」
坑道内に入ってから、綾愛はガチガチに固まっているような動きをしていることから、どうやら緊張している様子だ。
何でそこまで緊張しているのか分からず、もしかしたらと思って問いかけてみると、思った通り綾愛は魔物を討伐した経験が少ないようだ。
「柊家の令嬢だから多少は訓練していると思ったんだが……」
「何度か見学はさせてもらったけど、戦おうとすると父が止めるのよ」
「あぁ……」
当主になるのは別に男性でもなくてもいいため、柊家の跡継ぎは今の所綾愛しかいない。
そんな1人娘を溺愛する俊夫は、少しでも危険だと思うと綾愛を魔物と戦わせることができないのだろう。
ただ見学するだけだった綾愛は、今回がほぼ初のようだ。
その時の俊夫の様子が思い浮かび、伸も納得したように声を漏らした。
「でも、そんなんでよく学園に出た魔物に、飛び出していったな……」
「あの時は他のみんなを守らないとって必死だったから……」
「……あっそ」
伸が若干誘導したとはいえ、出現してすぐに綾愛は魔物に向かっていった。
今の緊張しているのが嘘のような行動だ。
綾愛はあの時、咄嗟に自分以外は動くこともできないと思ったため、体が勝手に反応したようだ。
魔物の実力を見抜けない行動だったが、あの行為で他のみんなは反応できるようになり、逃げることができたのだからあながち間違いではなかったのかもしれない。
名門家の娘とはいえ、あの状況でみんなのために行動したことは伸としては好印象だ。
あの時の魔物には通用しなかったが、戦闘技術は元々才能もあることだし、鍛えれば確かに強くなれるかもしれない。
「君のお袋さんの感じだと、君の訓練に俺は呼ばれたみたいだ。だからなるべく君に戦わせる気だからそのつもりでいてくれ」
「わ、分かったわ」
魔物の殲滅は柊家の人たちに任せ、伸は静奈の要望通り綾愛に戦闘訓練をさせることにした。
少し話しながら歩いていたため、綾愛の方も少しは緊張がほぐれたように思える。
魔物との戦闘と聞いて、またも緊張したような反応したが、とりあえず何とかなるだろう。
「……ところで、あなたはいつから魔物を倒しているの?」
先程より緊張は解けた。
そうなると、綾愛には気になることが浮かんできた。
余裕で前を歩く伸のことだ。
自分と同じ年で、父以上かもしれない実力の持ち主。
魔物との戦闘も慣れているように思える。
いつから戦えばそんな風になれるのかが知りたくなった。
「えっ? え~と……魔物は中1の時だったかな?」
「…………かなり早いのね」
小さい頃に自分の魔術師としての能力に気付いた伸は、誰にも気づかれないように密かに犯罪者の逮捕に協力してきた。
その延長で魔物の討伐もおこなうようになった。
それが中学生になってからだ。
魔物以外のことは単なる自己満足だったため、伸としては話すつもりはないが、昔のことを思いだすついでに綾愛との事件のことが頭の片隅で浮かんでいたため、伸は気付かないうちに「は」と言ってしまった。
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