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1学年 前期
第9話
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「あんな手に引っかかるなんて……」
「くそっ!」
「くっ!」
「ハァ……」
勝利を宣告されて、ハイタッチをして喜び合う伸たち。
それとは反対に、渡辺たちは悔しそうに俯いていた。
それぞれクラスで上位の実力にあるという自信があったからか、負けるということを想定していなかったようだ。
「面白い勝ち方だったぞ」
「どうもっす!」
勝利した伸たちの所に、審判役をしていた三門が笑みを浮かべつつ近寄ってきた。
その笑みは、言葉通り最後のパッとしない勝ち法が面白かったのと、自分のクラスの生徒が勝利したことによる嬉しさも混じっているのかもしれない。
その勝利を得るために目立たないように動いていたのだが、やはり似た者同士と思っているのか、伸のこと感心していた。
「俺も何度かやったことある。考え無しに突っ込んでくる人間や魔物には通用するんだよな」
「こんな使い方あんまり考え付かないものですからね」
「思いついても、あんまり実戦でやらんがな」
相手を躓かせるために魔術を使うなんて、結構ふざけた考えだと思う人間もいるだろう。
しかし、相手が気付かないように発動するタイミングが難しいだけで、成功すれば今回のように相手は隙だらけだ。
結構バカにできない魔術の使い方だ。
ただ、今回は成功したから良かったが、失敗したらこっちが危ないため、咄嗟にやるような類の魔術ではない。
三門は忠告のように伸へと告げた。
「うわっ! 鼻血出してる」
「ダサッ!」
「何あの負け方……」
戦いが始まる前は、黄色い声援を出していた最前列の女子たちだったが、あまりにもみっともない負け方を晒したからか、一気に渡辺たちへの熱も冷めてしまったようだ。
白けた眼で渡辺たちへ向けると、すぐに訓練場から退出を始めた。
「奈津希、行きましょう!」
「うん」
決闘に至るまでの一部始終を見ていた柊綾愛と杉山奈津希も、訓練場の観覧席で伸たちの試合を観戦していた。
他の観戦者も帰りだしたので、2人も帰ることにした。
「面白い終わり方だったね?」
「そうね。私たちも関わりがないわけではないから見に来たけど、少し楽しめたわ」
2人が悪いわけではないが、全くの無関係という訳でもなかった。
そのため、とりあえず決闘だけでも観戦しに来たというのが2人の本音だ。
主席入学の綾愛からしたら、レベルの低い戦いを見せられると思って期待していたなかった。
しかし、蓋を開けてみれば、最後は転んで負けるというコントのような結末を見れ、いつもは冷静な綾愛も思わず笑ってしまった。
久々に楽しいものが見れた綾愛は、伸たちを一瞥して訓練場から去っていった。
「そういや、勝ったからって何か意味あったのか?」
「今更かよ……」
ずっこけて鼻血を出した渡辺は、治療のためすぐに訓練場から去っていった。
他の3人も、それに付いて行くようにしていなくなっていた。
攻撃を食らいはしたが、訓練場に張り巡らされているダメージ軽減の魔術によって、たいした痛みを感じていないため、そのまま更衣室へと向かった。
ロッカーから荷物を取り出しながら、了は渡辺たちと戦った意味があるのかを伸たちに問いかけてきた。
そのことに、伸は呆れたように呟いた。
「あいつの鼻を明かせたから良いんじゃね?」
「だな」
了の問いに、石塚と吉井は勝って気分が良いからか、あんまり気にしていないような返答をして来た。
あの時は3人とも、イケメンで騒がれていた渡辺たちに一泡吹かせたかったからバカにしたのだろう。
それができたため、満足そうな表情している。
「一応言っておくと、魔術の評価に加点されることになるらしいぞ」
「「「マジで?」」」
決闘は、学園では学年に関係なく毎年起こるものだ。
審判は教師がおこなうことになっているため、その結果は当然講師たちには知らされる。
何も無しでは意味のないケンカになってしまうからか、勝者には加点、敗者には失点の評価が下されることになるらしい。
三門に聞いていた伸からの言葉に、知らなかった3人は加点と聞いて喜んでいた。
「だからって揉め事ばかり起こしていると、問題児として扱われるからやめろよ!」
「「「おうっ!」」」
実戦に自信のある者なら、決闘ばかりして加点を狙うという考えも起きるだろうが、そいった考えからの決闘だと分かれば教師たちも許可するか分からないうえに印象は悪くなる。
目立ちたくないのに、今回のことで少し悪目立ちしてしまった。
これ以上は勘弁願いたいため、伸は一応3人に忠告しておいた。
「俺たちは帰るけど、2人は?」
「俺は部活!」
「俺は回復薬を作りに行く」
石塚と吉井は実家から通っているため、このまま帰るらしい。
了は剣道部に入っているため、道場の方へと向かうようだ。
伸は、今日から回復薬の作成の小遣い稼ぎに行くつもりだった。
「そうか、じゃあな!」
「あぁ」
4人はそれぞれの方向に別れ、勝利に気分を良くしたまま訓練場から去っていったのだった。
「……さてと」
3人と別れ、周囲に探知の魔術を放ち誰もいないことを確認した伸は、魔術によって扉を作り出す。
その扉を開けて潜り抜けると、その扉が消えてなくなると共に、伸は一瞬にしてその場から姿を消した。
「おっちゃん! いるか?」
「おぉ、伸! 来たか……」
冒険者組合の荷物置き場のような一室。
扉をくぐった伸は、その部屋に姿を現していた。
その部屋から廊下に出て、そのまま隣の部屋をノックして入った。
そこには、スキンヘッドで顎髭を生やした40代後半の男性がおり、執務用の椅子に腰かけて伸を招き入れた。
「お前の制服姿は異様に感じるな……」
「そりゃないだろ」
制服姿のまま来た伸に対し、その男性は冗談交じりに話しかけた。
着替えてから来るのが面倒だったため、制服姿のまま来たのだが、からかわれたと感じた伸は失敗だったと思っていた。
「中坊の時から魔物を倒しているお前が、学生なんて反則だろ」
「仕方ないだろ。資格のためだ」
この男性の名前は紅林陽太郎。
花紡州の魔闘組合の支店の1つで、供応支店の長だ。
先程伸が出した扉は転移魔術で、一瞬にして遠く離れた地元の供応に戻ってきたのだ。
とんでもない魔力を消費するため、転移魔術を使える人間がこの世にいるとは知られていない。
知っているのは、この紅林だけだろう。
伸が中学生の時、魔物の集団によって怪我を負った紅林を助けたことからの付き合いだ。
その時から強さの一端を知っているため、伸が学生というのが信じられないのだろう。
しかし、違和感や目立つことなく魔闘組合に入るには、学園卒業が1番だということから取った選択のため、反則呼ばわりは心外だ。
「いつまでも俺の成果としてしておく訳にはいかんからな」
命の恩人ということから、紅林は伸にできる限りの協力をして来た。
祖父が体調を崩した時、生活費を稼ぐために相談したところ、伸が倒した魔物を紅林が倒したことにして資金を得、その資金から手数料を引いたものを受け取るという手段をとるようにして来た。
そのお陰か、紅林の評価は魔闘組合の中でも高い方だ。
「年齢制限がないからって、お前をそのまま登録したら鷹藤家に気付かれるかもしれないからな……」
「あぁ……」
大和皇国において、最強といわれる魔術師一族。
それが首都に居を構える鷹藤家だ。
八郷の中なら有名な柊家だが、それよりも上の存在と言っていいだろう。
その鷹藤家に目を付けられる訳にいかないため、伸は目立たないようにしているのだ。
「あそこの当主に目を付けられたら、刺客でも送ってくるかもしれないからな」
「あの名門からすると、お前のような存在認めたくないだろうからな」
大和最強の一族と、伸にはちょっとした関係がある。
その辺の事情も知っているため、紅林は渋い表情で伸の言葉に納得した。
「鷹藤のことは置いとくとして、今日は回復薬持って来た」
「おうっ! じゃあいつも通りな」
「サンキュー」
まだ話すことはあるが、今日は回復薬を渡しに来たのだった。
そのことを思いだした伸は、鞄の中から回復薬のビンを数本出した。
回復薬を受け取った紅林は、代価として数枚のお札を伸へと渡した。
「じゃあ、また来るよ」
「あぁ、あんま目立つようなことするなよ」
「分かってるって!」
小遣い稼ぎを終了した伸は、また転移の扉を作りだす。
その扉をくぐろうとしたところで、紅林がして忠告してきた。
それに返答した伸は、軽く手を振ってその場からいなくなった。
「くそっ!」
「くっ!」
「ハァ……」
勝利を宣告されて、ハイタッチをして喜び合う伸たち。
それとは反対に、渡辺たちは悔しそうに俯いていた。
それぞれクラスで上位の実力にあるという自信があったからか、負けるということを想定していなかったようだ。
「面白い勝ち方だったぞ」
「どうもっす!」
勝利した伸たちの所に、審判役をしていた三門が笑みを浮かべつつ近寄ってきた。
その笑みは、言葉通り最後のパッとしない勝ち法が面白かったのと、自分のクラスの生徒が勝利したことによる嬉しさも混じっているのかもしれない。
その勝利を得るために目立たないように動いていたのだが、やはり似た者同士と思っているのか、伸のこと感心していた。
「俺も何度かやったことある。考え無しに突っ込んでくる人間や魔物には通用するんだよな」
「こんな使い方あんまり考え付かないものですからね」
「思いついても、あんまり実戦でやらんがな」
相手を躓かせるために魔術を使うなんて、結構ふざけた考えだと思う人間もいるだろう。
しかし、相手が気付かないように発動するタイミングが難しいだけで、成功すれば今回のように相手は隙だらけだ。
結構バカにできない魔術の使い方だ。
ただ、今回は成功したから良かったが、失敗したらこっちが危ないため、咄嗟にやるような類の魔術ではない。
三門は忠告のように伸へと告げた。
「うわっ! 鼻血出してる」
「ダサッ!」
「何あの負け方……」
戦いが始まる前は、黄色い声援を出していた最前列の女子たちだったが、あまりにもみっともない負け方を晒したからか、一気に渡辺たちへの熱も冷めてしまったようだ。
白けた眼で渡辺たちへ向けると、すぐに訓練場から退出を始めた。
「奈津希、行きましょう!」
「うん」
決闘に至るまでの一部始終を見ていた柊綾愛と杉山奈津希も、訓練場の観覧席で伸たちの試合を観戦していた。
他の観戦者も帰りだしたので、2人も帰ることにした。
「面白い終わり方だったね?」
「そうね。私たちも関わりがないわけではないから見に来たけど、少し楽しめたわ」
2人が悪いわけではないが、全くの無関係という訳でもなかった。
そのため、とりあえず決闘だけでも観戦しに来たというのが2人の本音だ。
主席入学の綾愛からしたら、レベルの低い戦いを見せられると思って期待していたなかった。
しかし、蓋を開けてみれば、最後は転んで負けるというコントのような結末を見れ、いつもは冷静な綾愛も思わず笑ってしまった。
久々に楽しいものが見れた綾愛は、伸たちを一瞥して訓練場から去っていった。
「そういや、勝ったからって何か意味あったのか?」
「今更かよ……」
ずっこけて鼻血を出した渡辺は、治療のためすぐに訓練場から去っていった。
他の3人も、それに付いて行くようにしていなくなっていた。
攻撃を食らいはしたが、訓練場に張り巡らされているダメージ軽減の魔術によって、たいした痛みを感じていないため、そのまま更衣室へと向かった。
ロッカーから荷物を取り出しながら、了は渡辺たちと戦った意味があるのかを伸たちに問いかけてきた。
そのことに、伸は呆れたように呟いた。
「あいつの鼻を明かせたから良いんじゃね?」
「だな」
了の問いに、石塚と吉井は勝って気分が良いからか、あんまり気にしていないような返答をして来た。
あの時は3人とも、イケメンで騒がれていた渡辺たちに一泡吹かせたかったからバカにしたのだろう。
それができたため、満足そうな表情している。
「一応言っておくと、魔術の評価に加点されることになるらしいぞ」
「「「マジで?」」」
決闘は、学園では学年に関係なく毎年起こるものだ。
審判は教師がおこなうことになっているため、その結果は当然講師たちには知らされる。
何も無しでは意味のないケンカになってしまうからか、勝者には加点、敗者には失点の評価が下されることになるらしい。
三門に聞いていた伸からの言葉に、知らなかった3人は加点と聞いて喜んでいた。
「だからって揉め事ばかり起こしていると、問題児として扱われるからやめろよ!」
「「「おうっ!」」」
実戦に自信のある者なら、決闘ばかりして加点を狙うという考えも起きるだろうが、そいった考えからの決闘だと分かれば教師たちも許可するか分からないうえに印象は悪くなる。
目立ちたくないのに、今回のことで少し悪目立ちしてしまった。
これ以上は勘弁願いたいため、伸は一応3人に忠告しておいた。
「俺たちは帰るけど、2人は?」
「俺は部活!」
「俺は回復薬を作りに行く」
石塚と吉井は実家から通っているため、このまま帰るらしい。
了は剣道部に入っているため、道場の方へと向かうようだ。
伸は、今日から回復薬の作成の小遣い稼ぎに行くつもりだった。
「そうか、じゃあな!」
「あぁ」
4人はそれぞれの方向に別れ、勝利に気分を良くしたまま訓練場から去っていったのだった。
「……さてと」
3人と別れ、周囲に探知の魔術を放ち誰もいないことを確認した伸は、魔術によって扉を作り出す。
その扉を開けて潜り抜けると、その扉が消えてなくなると共に、伸は一瞬にしてその場から姿を消した。
「おっちゃん! いるか?」
「おぉ、伸! 来たか……」
冒険者組合の荷物置き場のような一室。
扉をくぐった伸は、その部屋に姿を現していた。
その部屋から廊下に出て、そのまま隣の部屋をノックして入った。
そこには、スキンヘッドで顎髭を生やした40代後半の男性がおり、執務用の椅子に腰かけて伸を招き入れた。
「お前の制服姿は異様に感じるな……」
「そりゃないだろ」
制服姿のまま来た伸に対し、その男性は冗談交じりに話しかけた。
着替えてから来るのが面倒だったため、制服姿のまま来たのだが、からかわれたと感じた伸は失敗だったと思っていた。
「中坊の時から魔物を倒しているお前が、学生なんて反則だろ」
「仕方ないだろ。資格のためだ」
この男性の名前は紅林陽太郎。
花紡州の魔闘組合の支店の1つで、供応支店の長だ。
先程伸が出した扉は転移魔術で、一瞬にして遠く離れた地元の供応に戻ってきたのだ。
とんでもない魔力を消費するため、転移魔術を使える人間がこの世にいるとは知られていない。
知っているのは、この紅林だけだろう。
伸が中学生の時、魔物の集団によって怪我を負った紅林を助けたことからの付き合いだ。
その時から強さの一端を知っているため、伸が学生というのが信じられないのだろう。
しかし、違和感や目立つことなく魔闘組合に入るには、学園卒業が1番だということから取った選択のため、反則呼ばわりは心外だ。
「いつまでも俺の成果としてしておく訳にはいかんからな」
命の恩人ということから、紅林は伸にできる限りの協力をして来た。
祖父が体調を崩した時、生活費を稼ぐために相談したところ、伸が倒した魔物を紅林が倒したことにして資金を得、その資金から手数料を引いたものを受け取るという手段をとるようにして来た。
そのお陰か、紅林の評価は魔闘組合の中でも高い方だ。
「年齢制限がないからって、お前をそのまま登録したら鷹藤家に気付かれるかもしれないからな……」
「あぁ……」
大和皇国において、最強といわれる魔術師一族。
それが首都に居を構える鷹藤家だ。
八郷の中なら有名な柊家だが、それよりも上の存在と言っていいだろう。
その鷹藤家に目を付けられる訳にいかないため、伸は目立たないようにしているのだ。
「あそこの当主に目を付けられたら、刺客でも送ってくるかもしれないからな」
「あの名門からすると、お前のような存在認めたくないだろうからな」
大和最強の一族と、伸にはちょっとした関係がある。
その辺の事情も知っているため、紅林は渋い表情で伸の言葉に納得した。
「鷹藤のことは置いとくとして、今日は回復薬持って来た」
「おうっ! じゃあいつも通りな」
「サンキュー」
まだ話すことはあるが、今日は回復薬を渡しに来たのだった。
そのことを思いだした伸は、鞄の中から回復薬のビンを数本出した。
回復薬を受け取った紅林は、代価として数枚のお札を伸へと渡した。
「じゃあ、また来るよ」
「あぁ、あんま目立つようなことするなよ」
「分かってるって!」
小遣い稼ぎを終了した伸は、また転移の扉を作りだす。
その扉をくぐろうとしたところで、紅林がして忠告してきた。
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