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第23話
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「えっ? ミスキッ……」
善之たちのコーナーキック。
キッカーの海に向かって竜一・優介・善之が走り出した。
その3人にマンマークに付いているサッカー部のメンバーは、釣られるように追いかけて行く。
3人の誰に出すのか分からないが、誰に出されてもシュートを撃たせないつもりだ。
しかし、海が蹴ったボールは、3人の誰かどころかマークに付いているサッカー部員の頭を越えて飛んで行った。
そのボールに目を向けながら、瀬田だけでなく他のサッカー部員も体力切れの海がミスキックをしたのだと考えた。
「「「「「っ!!」」」」」
誰もいない所へ飛んで行ったボールに、1人走り込んでくる者がいた。
善之たち3人はすぐ側にいるので、他の誰がいるというのか。
しかし、その人間を見て、サッカー部の者たちは目を見開いた。
「キーパー!?」
走り込んできていたのは勝也。
善之たちの最後の策はゴレイロ勝也のオーバーラップによるパワープレイだった。
フットサルの場合、ゴレイロへのパスは少し制限がある。
ゴレイロがボールをプレーした後、相手競技者がプレー、または触れていないにもかかわらず、味方競技者によって意図的にゴレイロへ出されたボールに触れた場合反則になってしまう。
つまり、ゴレイロが自陣で触れていいのは1回だけというルールがある。
そのため、自陣でのパス回しに参加することはできないが、敵陣内へ入った時は話が別。
何回触ろうが反則になることは無い。
「くたばれ!!」
予想外のオーバーラップによって、ノーマークで敵も味方もコートの左側へ集まっている状態。
元々勝也は中学時代は空手部だった。
小学校からやっていたため、そのまま中学に入っても続けたのだが、指導と称して後輩へ暴力を振るって来る先輩が許せず、組手の練習の時に少々やり過ぎてしまった。
稽古なら文句はないだろうと、本気の蹴りで相手の足の骨を折ってやったのだ。
しかも、両足を折ってしまったのでさすがに問題になり、退部することになってしまった。
他行でも知り合いだった優介の誘いによって、善之たちとフットサルをやるようになったのだ。
空手によって根性なら誰にも負けないという理由から、自分からゴレイロに立候補した。
ゴレイロなら足元の技術が下手かと言うとそうでもなく、キック力で言うと空手をやっていたのが理由なのか、善之たちの中で一番あると言って良い。
フリーの状態でボール受けた勝也は、空手仕込みのキック力を利用した弾丸シュートをぶっ放した。
「させない!!」
「西尾っ!?」
勝也の足からボールが離れた瞬間、コースを切るように西尾が動く。
サッカー部の方も勝つためのチャンスを窺っていた。
狙いはコーナーキックをカットしてのカウンター。
そのため、善之たちにマンマークに付かないで余っていた一人はキャプテンの西尾。
マークに付いていない分、他のメンバーよりも速く勝也に気付いて動いていた。
このまま飛んでいたら西尾に止められ、カウンターを食らってがら空きのゴールへ決められて終わってしまう。
コースの狙いをずらそうにも、もうボールは勝也の足から離れている。
『少し足下からずれても蹴れる位置にボールを落とせばこっちの勝ちだ!』
キーパーが出ていて敵ゴールは完全に空っぽ。
威力のあるシュートを完璧に止めるのは、どんなに訓練していてもかなり難しい。
しかし、今は完璧に止める必要はない。
自分の足が届く範囲にボールを落とすという条件なら難易度が下がる。
シュートを止めて敵のゴールの枠内に蹴れば良いだけだ。
これまでの経験を生かせば不可能じゃない。
周りが見えなくなるほど集中し、西尾は迫り来るボールが来るのを待ち受けた。
“バッ!!”
「っ!? 黒……」
そのままボールが来ていれば、西尾は止めてカウンターを決めていただろう。
しかし、そのようにはならなかった。
自分についてきたマークは高田、優介には瀬田、竜一には石澤。
余っているのが西尾と言うだけで、嫌な予感がしていた。
だからもしものことを考えて、善之は一人動いていた。
海のボールにが行っている間に高田のマークを外し、コースに入りシュートの飛んで来るのを待つ西尾の前に体を滑り込ませる。
西尾の視界に入っていたボールが、善之の体で見えなくなる。
集中していた分、それが消えて西尾は焦る。
“パサッ!!”
「あっ……」
真っすぐ飛んで来ていたボールを、ゴールを背にしたまま僅かに右足のアウトサイドで触れ、コースを少しずらす。
視界から消えたボールが、自分の足の横を飛んで行く。
西尾はそれに反応できなかった。
善之の至近距離でのコース変更。
それに気付いた時にはゴレイロ共々反応できず、ゴールの枠に入ったボールを眺めることになった。
“ピピー!!”
「これで勝利は俺たちの物だ!!」
審判がゴールの笛を吹く。
最後に取っていた策が成功し、善之たちはこれまで以上に喜びハイタッチを交わす。
残り1分もないだろう。
勝利を確信したハイタッチだ。
“ピピ―!!”
試合終了の笛を審判が吹く。
長いようで短い戦いもようやく決着がついた。
◆◆◆◆◆
「あ~ぁ……」
いつもの集合場所とかした屋上前の階段。
サッカー部との試合でなった筋肉痛が残る中、そこで横になりつまらなそうな声をあげる善之。
「「「…………」」」
その近くには竜一・勝也・海が座っている。
彼らも同様にボ~として黙り込んでいる。
「あぁっ!! あんなんありかよ!!」
「全くだよな……」
試合のことを思いだして、善之は納得がいかないように文句を言う。
それに同意するように、勝也がため息交じりに答えを返す。
「何で俺たちが負けんだよ!!」
「運がなかったな……」
善之と同じく納得いかない竜一は、思わず大きな声で叫んでしまう。
それに対し、海は落ち込んだように同意する。
サッカー部との試合。
残り1分もない時間で逆転した善之たち。
これで勝ったと思っていたが、最後の最後に思わぬことが起きた。
守備をガチガチに堅め、善之たちはそのまま逃げ切って勝つ予定だった。
しかし、
「あっ!!」
試合再開して、サッカー部も意地で最後の攻撃を仕掛けてきた。
しかし、きっちりマークに付き、善之たちは何としても守り抜こうとした。
海も残り僅かの体力を使い切るつもりで動き回る。
その時、珍しく西尾がパスをミスして声をあげた。
体力を消耗していたし、さっきの善之のゴールを引きずっていたのかもしれない。
しかし、そのミスが善之たちを地獄に落とした。
「えっ!?」
「マジか!?」
一番ミスするはずが無いと思っていた西尾がミスをし、サッカー部どころか善之たちも反応できなかった。
そのパスがサッカー部の石澤の膝に当たり、ゴールへ飛んで行った。
石澤本人も意識しないシュートに、勝也は焦りつつも反応する。
しかし、勝也の伸ばした手にボールは届かず、ゴールするかと思った。
「危……」
勝也の手には届かなかったが、ボールはポストに当たって弾かれた。
それに勝也が安堵したのだが、
「「「「「あっ!!」」」」」
ポストに弾かれたボールが、瀬田の足下に転がっていた。
その結果に、善之たちはみんな思わず声が出た。
思わぬボールに、守備が上手い優介も反応できず、そのまま瀬田に蹴り込まれ、試合終了間近で同点にされてしまった。
同店は延長勝負。
しかし、40分で決着をつけるつもりでこれまで動いていた善之たちは、完全に体力切れ。
それに引きかえ、交代を使ったサッカー部は動きまわってマークを外し、好き勝手に攻撃を開始する。
それに付いて行けず、延長で3点取られて善之たちは負けてしまった。
「……これからどうしようか?」
「どうするか?」
試合前に負ける可能性も考えていたが、あそこまで順調に行っての敗北は想定していなかった。
そのせいで精神的ショックが大きく、善之たちは今後どうするか考えていなかった。
「……よっ!」
「あぁ、優介……」
4人が昼食を食べてボ~っと今後を考えていた頃、ここにいなかった優介が顔を出した。
「……これに名前書いて」
「ん~何だ?」
何をしていたのか分からないが、昼食の時間は残り少ない。
時間は間に合うのかと思っていたら、優介は紙を渡して名前を書くように言ってきた。
ボ~っとしていたせいか、善之たちは何も書かれていない紙の枠内に言われた通りに名前を書いていく。
「……じゃ!」
「もう行くんか?」
どうやら昼食を食べに来たのではないらしく、4人が名前を書いたら紙を持っていなくなってしまった。
何がしたかったのか分からず、善之たちはチャイムが鳴るまでまたボ~っとすることになった。
「優介! どこ行くんだ?」
「……もうすぐ」
その日の放課後、優介から集合のメールを受けた善之たちは、付いてくるように言われてそのまま優介の後を付いて行く。
しかし、どこに向かっているのか分からず、堪らず善之が問いかける。
その問いに、優介は言葉少なに足を進める。
「……ここ!」
「「「「……文化研究部?」」」」
着いた場所は文化系の部活が使っている空き教室の一角。
その中でも小さな教室の前で止まり、優介は扉を指差す。
その扉には、優介以外が声をそろえて言ったように文化研究部と書かれていた。
「……3年生の先輩が1人いるけど、受験で余り来るか分からない」
何でここに連れて来たのか分からない善之たちは、首を傾げて呆けている。
そんな彼らを気にせず、優介は説明しながら扉の鍵を開ける。
「……全員ここに入部した」
「「「「はっ?」」」」
鍵が開き、扉を開けた優介は、そのままみんなここに入部したということを伝えてきた。
訳の分からない発言に、4人は目を見開き固まった。
「……文化の研究。だからフットサルの文化を研究する」
「それって……」
優介の説明に勝也が何を言っているのかすぐに理解する。
一番付き合いが長い故のレスポンスだ。
「文化研究と言う名の隠れ蓑ってこと?」
「……ん!」
勝也に続いて、海もすぐに理解した。
つまりはフットサルという文化を研究するという名目で、ただフットサルをして楽しもうという話だ。
学校の部活としてなら、色々な大会に参加することも可能になる。
そのため、名目上は文化研究部で、やってることはフットサル部ということだ。
「流石腹黒優介!!」
「……失礼な!」
フットサル部の創部失敗で何も考えもつかなかった4人と違い、優介は名前こそ違うが自分たちの居場所を作ってしまった。
揚げ足取りの屁理屈と言う感じは否めないが、元々ある部に入部することに文句を言われる筋合いはない。
問題児と見ている教師に一杯食わせてやった気がしてくる。
功労者の優介に、竜一は褒めているのか貶しているのか分からないような言葉をかける。
自分でも自覚がある分、面と向かって言われると若干不愉快そうに優介は反論する。
「何でもいいよ。ここを有効利用しつつ、何なら全国大会優勝するか?」
「ハハ、面白そうだな……」
「……賛成!」
「全国は気が大きいな……」
「いいね!」
部の名前は違くても、やりたいことができれば文句はない。
この小さな部室から、善之たちは高校生活を楽しむことに決めたのだった。
その後、文化研究部という名のチームが、全国大会を優勝したかは誰もわからない。
善之たちのコーナーキック。
キッカーの海に向かって竜一・優介・善之が走り出した。
その3人にマンマークに付いているサッカー部のメンバーは、釣られるように追いかけて行く。
3人の誰に出すのか分からないが、誰に出されてもシュートを撃たせないつもりだ。
しかし、海が蹴ったボールは、3人の誰かどころかマークに付いているサッカー部員の頭を越えて飛んで行った。
そのボールに目を向けながら、瀬田だけでなく他のサッカー部員も体力切れの海がミスキックをしたのだと考えた。
「「「「「っ!!」」」」」
誰もいない所へ飛んで行ったボールに、1人走り込んでくる者がいた。
善之たち3人はすぐ側にいるので、他の誰がいるというのか。
しかし、その人間を見て、サッカー部の者たちは目を見開いた。
「キーパー!?」
走り込んできていたのは勝也。
善之たちの最後の策はゴレイロ勝也のオーバーラップによるパワープレイだった。
フットサルの場合、ゴレイロへのパスは少し制限がある。
ゴレイロがボールをプレーした後、相手競技者がプレー、または触れていないにもかかわらず、味方競技者によって意図的にゴレイロへ出されたボールに触れた場合反則になってしまう。
つまり、ゴレイロが自陣で触れていいのは1回だけというルールがある。
そのため、自陣でのパス回しに参加することはできないが、敵陣内へ入った時は話が別。
何回触ろうが反則になることは無い。
「くたばれ!!」
予想外のオーバーラップによって、ノーマークで敵も味方もコートの左側へ集まっている状態。
元々勝也は中学時代は空手部だった。
小学校からやっていたため、そのまま中学に入っても続けたのだが、指導と称して後輩へ暴力を振るって来る先輩が許せず、組手の練習の時に少々やり過ぎてしまった。
稽古なら文句はないだろうと、本気の蹴りで相手の足の骨を折ってやったのだ。
しかも、両足を折ってしまったのでさすがに問題になり、退部することになってしまった。
他行でも知り合いだった優介の誘いによって、善之たちとフットサルをやるようになったのだ。
空手によって根性なら誰にも負けないという理由から、自分からゴレイロに立候補した。
ゴレイロなら足元の技術が下手かと言うとそうでもなく、キック力で言うと空手をやっていたのが理由なのか、善之たちの中で一番あると言って良い。
フリーの状態でボール受けた勝也は、空手仕込みのキック力を利用した弾丸シュートをぶっ放した。
「させない!!」
「西尾っ!?」
勝也の足からボールが離れた瞬間、コースを切るように西尾が動く。
サッカー部の方も勝つためのチャンスを窺っていた。
狙いはコーナーキックをカットしてのカウンター。
そのため、善之たちにマンマークに付かないで余っていた一人はキャプテンの西尾。
マークに付いていない分、他のメンバーよりも速く勝也に気付いて動いていた。
このまま飛んでいたら西尾に止められ、カウンターを食らってがら空きのゴールへ決められて終わってしまう。
コースの狙いをずらそうにも、もうボールは勝也の足から離れている。
『少し足下からずれても蹴れる位置にボールを落とせばこっちの勝ちだ!』
キーパーが出ていて敵ゴールは完全に空っぽ。
威力のあるシュートを完璧に止めるのは、どんなに訓練していてもかなり難しい。
しかし、今は完璧に止める必要はない。
自分の足が届く範囲にボールを落とすという条件なら難易度が下がる。
シュートを止めて敵のゴールの枠内に蹴れば良いだけだ。
これまでの経験を生かせば不可能じゃない。
周りが見えなくなるほど集中し、西尾は迫り来るボールが来るのを待ち受けた。
“バッ!!”
「っ!? 黒……」
そのままボールが来ていれば、西尾は止めてカウンターを決めていただろう。
しかし、そのようにはならなかった。
自分についてきたマークは高田、優介には瀬田、竜一には石澤。
余っているのが西尾と言うだけで、嫌な予感がしていた。
だからもしものことを考えて、善之は一人動いていた。
海のボールにが行っている間に高田のマークを外し、コースに入りシュートの飛んで来るのを待つ西尾の前に体を滑り込ませる。
西尾の視界に入っていたボールが、善之の体で見えなくなる。
集中していた分、それが消えて西尾は焦る。
“パサッ!!”
「あっ……」
真っすぐ飛んで来ていたボールを、ゴールを背にしたまま僅かに右足のアウトサイドで触れ、コースを少しずらす。
視界から消えたボールが、自分の足の横を飛んで行く。
西尾はそれに反応できなかった。
善之の至近距離でのコース変更。
それに気付いた時にはゴレイロ共々反応できず、ゴールの枠に入ったボールを眺めることになった。
“ピピー!!”
「これで勝利は俺たちの物だ!!」
審判がゴールの笛を吹く。
最後に取っていた策が成功し、善之たちはこれまで以上に喜びハイタッチを交わす。
残り1分もないだろう。
勝利を確信したハイタッチだ。
“ピピ―!!”
試合終了の笛を審判が吹く。
長いようで短い戦いもようやく決着がついた。
◆◆◆◆◆
「あ~ぁ……」
いつもの集合場所とかした屋上前の階段。
サッカー部との試合でなった筋肉痛が残る中、そこで横になりつまらなそうな声をあげる善之。
「「「…………」」」
その近くには竜一・勝也・海が座っている。
彼らも同様にボ~として黙り込んでいる。
「あぁっ!! あんなんありかよ!!」
「全くだよな……」
試合のことを思いだして、善之は納得がいかないように文句を言う。
それに同意するように、勝也がため息交じりに答えを返す。
「何で俺たちが負けんだよ!!」
「運がなかったな……」
善之と同じく納得いかない竜一は、思わず大きな声で叫んでしまう。
それに対し、海は落ち込んだように同意する。
サッカー部との試合。
残り1分もない時間で逆転した善之たち。
これで勝ったと思っていたが、最後の最後に思わぬことが起きた。
守備をガチガチに堅め、善之たちはそのまま逃げ切って勝つ予定だった。
しかし、
「あっ!!」
試合再開して、サッカー部も意地で最後の攻撃を仕掛けてきた。
しかし、きっちりマークに付き、善之たちは何としても守り抜こうとした。
海も残り僅かの体力を使い切るつもりで動き回る。
その時、珍しく西尾がパスをミスして声をあげた。
体力を消耗していたし、さっきの善之のゴールを引きずっていたのかもしれない。
しかし、そのミスが善之たちを地獄に落とした。
「えっ!?」
「マジか!?」
一番ミスするはずが無いと思っていた西尾がミスをし、サッカー部どころか善之たちも反応できなかった。
そのパスがサッカー部の石澤の膝に当たり、ゴールへ飛んで行った。
石澤本人も意識しないシュートに、勝也は焦りつつも反応する。
しかし、勝也の伸ばした手にボールは届かず、ゴールするかと思った。
「危……」
勝也の手には届かなかったが、ボールはポストに当たって弾かれた。
それに勝也が安堵したのだが、
「「「「「あっ!!」」」」」
ポストに弾かれたボールが、瀬田の足下に転がっていた。
その結果に、善之たちはみんな思わず声が出た。
思わぬボールに、守備が上手い優介も反応できず、そのまま瀬田に蹴り込まれ、試合終了間近で同点にされてしまった。
同店は延長勝負。
しかし、40分で決着をつけるつもりでこれまで動いていた善之たちは、完全に体力切れ。
それに引きかえ、交代を使ったサッカー部は動きまわってマークを外し、好き勝手に攻撃を開始する。
それに付いて行けず、延長で3点取られて善之たちは負けてしまった。
「……これからどうしようか?」
「どうするか?」
試合前に負ける可能性も考えていたが、あそこまで順調に行っての敗北は想定していなかった。
そのせいで精神的ショックが大きく、善之たちは今後どうするか考えていなかった。
「……よっ!」
「あぁ、優介……」
4人が昼食を食べてボ~っと今後を考えていた頃、ここにいなかった優介が顔を出した。
「……これに名前書いて」
「ん~何だ?」
何をしていたのか分からないが、昼食の時間は残り少ない。
時間は間に合うのかと思っていたら、優介は紙を渡して名前を書くように言ってきた。
ボ~っとしていたせいか、善之たちは何も書かれていない紙の枠内に言われた通りに名前を書いていく。
「……じゃ!」
「もう行くんか?」
どうやら昼食を食べに来たのではないらしく、4人が名前を書いたら紙を持っていなくなってしまった。
何がしたかったのか分からず、善之たちはチャイムが鳴るまでまたボ~っとすることになった。
「優介! どこ行くんだ?」
「……もうすぐ」
その日の放課後、優介から集合のメールを受けた善之たちは、付いてくるように言われてそのまま優介の後を付いて行く。
しかし、どこに向かっているのか分からず、堪らず善之が問いかける。
その問いに、優介は言葉少なに足を進める。
「……ここ!」
「「「「……文化研究部?」」」」
着いた場所は文化系の部活が使っている空き教室の一角。
その中でも小さな教室の前で止まり、優介は扉を指差す。
その扉には、優介以外が声をそろえて言ったように文化研究部と書かれていた。
「……3年生の先輩が1人いるけど、受験で余り来るか分からない」
何でここに連れて来たのか分からない善之たちは、首を傾げて呆けている。
そんな彼らを気にせず、優介は説明しながら扉の鍵を開ける。
「……全員ここに入部した」
「「「「はっ?」」」」
鍵が開き、扉を開けた優介は、そのままみんなここに入部したということを伝えてきた。
訳の分からない発言に、4人は目を見開き固まった。
「……文化の研究。だからフットサルの文化を研究する」
「それって……」
優介の説明に勝也が何を言っているのかすぐに理解する。
一番付き合いが長い故のレスポンスだ。
「文化研究と言う名の隠れ蓑ってこと?」
「……ん!」
勝也に続いて、海もすぐに理解した。
つまりはフットサルという文化を研究するという名目で、ただフットサルをして楽しもうという話だ。
学校の部活としてなら、色々な大会に参加することも可能になる。
そのため、名目上は文化研究部で、やってることはフットサル部ということだ。
「流石腹黒優介!!」
「……失礼な!」
フットサル部の創部失敗で何も考えもつかなかった4人と違い、優介は名前こそ違うが自分たちの居場所を作ってしまった。
揚げ足取りの屁理屈と言う感じは否めないが、元々ある部に入部することに文句を言われる筋合いはない。
問題児と見ている教師に一杯食わせてやった気がしてくる。
功労者の優介に、竜一は褒めているのか貶しているのか分からないような言葉をかける。
自分でも自覚がある分、面と向かって言われると若干不愉快そうに優介は反論する。
「何でもいいよ。ここを有効利用しつつ、何なら全国大会優勝するか?」
「ハハ、面白そうだな……」
「……賛成!」
「全国は気が大きいな……」
「いいね!」
部の名前は違くても、やりたいことができれば文句はない。
この小さな部室から、善之たちは高校生活を楽しむことに決めたのだった。
その後、文化研究部という名のチームが、全国大会を優勝したかは誰もわからない。
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