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第19話
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「引き分けだと延長だろ?」
「そうなんだよ……」
竜一の問いに対し、善之は返答する。
サッカー部との対戦が決定した時、勝ったら部にしてくれと言ってしまっていた。
引き分けた時の事を考えていなかったのだが、言ってしまった手前、引き分けは延長によってちゃんと勝ち負けを決定するということになってしまった。
勝つつもりでいたためその時はあっさりと受け入れてしまったが、今になって考えると一応強豪のサッカー部が相手なのなだから、引き分けでも部にしてほしいと言っておくべきだった。
「調子乗って買ったらって言うんじゃなかったな……」
「だな……」
今更ながらに「勝ったら」などと限定してしまったことに後悔している善之たち。
引き分けでも部にできるというなら、もっと違う戦い方をしていたし、もう少し気楽に戦えたかもしれない。
「……言っててもしょうがない」
「そうだな。作戦でも考えるか?」
もしものことを考えるとキリがないものだ。
優介の言うように、決まっていることをいつまでも愚痴っていても仕方がない。
はっきり言ってサッカー部の方の守備が良いのが想定外だったが、同点にされる可能性も考えていた。
そのため、善之たちはそれほど焦っている様子はない。
「……勝てるのか?」
「策はあります!」
善之たちがあまり焦っていない様子なので、勝つ気が有るのか疑わしくなってきた山田は、心配そうに尋ねてきた。
中学時代から知っているこの問題児たちが、不利な扱いを受けるのは教師として納得できないでいた。
そのため、猪原に頭を下げてこの日だけの監督役をすることにしたのだが、これで善之たちが勝つ気がないのでは無駄なおせっかいになってしまう。
それを不安視したのだが、善之からは力強い答えが返ってきた。
「ただ、残り1、2分で同点なら使える手なんですけど……」
試合をすることが決まってから、善之たちは5人で色々と作戦を考えてきた。
予想以上に得点できなかったことは予想外だが、それでもまだ勝つための秘策は残っている。
しかし、最後の手だけあってギリギリまで出したくない。
そう考えると、問題が出てくる。
「それまで、あと3、4分を何とかこのままでいかないと……」
「……無理!」
善之が言い淀むのを引き継ぐように、竜一が試合前に立てた作戦通りに行く場合のことを話す。
しかし、その通りにしようとすると、攻撃もだが特に守備のことが問題になって来る。
はっきり言って、海はまだ体力面で問題がある。
山田がタイムアウトを取ってくれたおかげである程度回復できるだろうが、最後までスタミナを持たせるとなると、攻守において無難なプレーをしてもらうしかない。
そうなると、今のサッカー部の攻撃を防ぎきるのはかなり難しい。
守備の能力の高い優介だからこそよく分かっているため、もう作戦通りには行けない可能性が高いことを伝えた。
「40分で勝負を決めるとなると、守備重視で攻撃はじっくりだな」
「あぁ……」
タイムアウトのおかげで体力は少し回復できたが、所詮交代要員のいない善之たちでは前後半の40分が全力でプレーできる時間だ。
そうなると、40分で勝利を治めないとならない。
そのための作戦は、失点はしないようにしつつ、得点チャンスを探るという方法がベストのように思える。
勝也のその提案に、善之たちは全員賛成したように頷いた。
「海は無茶するなよ」
「ハァ、ハァ……、分かってる」
酸欠で若干顔が青くなっていた海だが、タイムアウト中はただ呼吸をすることに集中していたため、何とか色を取り戻したように見える。
善之は別に海の体調のことを心配して言ったのではない。
もちろんそれも無いわけではないのだが、この試合を最後まで戦うには海に抜けられる訳にはいかないからだ。
5人しかいないのだから、1人でも欠けたら攻守に問題が生じる。
それこそ40分以内で勝利を得るなんて無理な話だ。
善之の言いたいことは分かるため、海は大量の汗をタオルで拭きつつ返事をした。
「マークの確認だ!」
「「「「おう!」」」」
ここからの時間、守備をする時間が長くなることが予想される。
そうなると、誰が誰にマークに付くのかが問題になって来る。
そのため、善之たちはマークの確認をしておくことにした。
「面倒な瀬田は引き続き優介が頼む」
「……了解」
トリッキーなドリブルで好きにさせると手が付けられなくなるであろう瀬田には、守備に置いて一番信頼できる優介についてもらうことにした。
優介も、守備の視点からいって瀬田が一番危険な気がしている。
そのため、善之の言ったことに素直に応じる。
「西尾さんには竜が頼む」
「……俺で大丈夫か?」
瀬田も面倒だが、サッカー部キャプテンの西尾も面倒だ。
海がマークに付くことが多かったが、体力のことを考えると他の誰かが付いた方が好きにプレーをさせなくできるだろう。
そう考えると、竜一が付いた方が良いと判断した。
しかし、その善之の提案に竜一は疑問に感じる。
善之たちの中で守備の技術を考えると一番低いのが竜一だ。
その竜一が、色々な面において高いレベルでバランスの良い西尾を止め切れるか疑問に思える。
「西尾さんは最初から出ているからスタミナが無くなってきているはず。スタミナ自慢のお前なら今の西尾さんいも付いて行けるだろ」
「……分かった。食らいつくよ」
今出場している選手たちがベストのメンバーだと判断しているのか、猪原は他の選手に交代をする様子がない。
今のバランスが崩れることを考えると、確かに交代することは躊躇う状況だろう。
叱ってばかりの嫌な指導者という印象が強いが、見る目があるのは窺い知れる。
特にキャプテンの西尾は主柱として外せないので、交代することは無いはず。
しかし、西尾も40分間前後に休みなく動き回っていては、疲労の色が見えてきている。
それに引きかえ、練習でも毎回平気な顔している竜一ならスタミナ切れの心配がない。
ドリブルなどのボールを扱う技術は低くても、ボールに付いて行く守備においては竜一もそこまで低くない。
なので、そう簡単に抜かれることは無いはずだ。
「……スアレスみたいにマジで噛むなよ」
「当たり前だろ!」
竜一の性格で食らいつくなどと言われると、どうしてもスアレスが浮かんで来る。
ウルグアイ代表のサッカー選手で、スペインリーグのバルセロナでプレーするFWのスアレスは、マークに付いていたディフェンダーに噛みついたことが何度もある。
しかもワールドカップという大舞台で、イタリアの選手の肩に噛みついたことは有名な出来事だ。
竜一も同じように苛立ちから噛みつかないかとという思いから、善之は冗談めかして忠告する。
流石にそんなことする訳ないため、竜一笑いながらツッコミを入れた。
「俺がフィクソの位置で石澤さん。海はピヴォの位置で高田さんを頼む」
「分かった!」
優介が右のアラのポジションに出て瀬田のマークに付くので、最後尾の位置が空いてしまう。
竜一が左のアラへ行くので、必然的に善之が下がってフィクソの位置に入ることにした。
ピヴォなら海も回復するように動けるので丁度いい。
“ビー!!”
「よっしゃ! 行こう!」
「「「「おうっ!」」」」
マークの確認が済んだところで、タイムアウト終了の合図が聞こえた。
一息付けた善之たちは、気合と共に立ち上がってコート内へと戻っていった。
—―—試合時間残り5分——―
“ピピー!!”
審判が得点の笛を吹く。
タイムアウトの時に決めたマークで守備を計っていた善之たちだが、サッカー部の攻撃によって石澤にシュートを決められ、とうとう逆転されてしまったのだった。
「そうなんだよ……」
竜一の問いに対し、善之は返答する。
サッカー部との対戦が決定した時、勝ったら部にしてくれと言ってしまっていた。
引き分けた時の事を考えていなかったのだが、言ってしまった手前、引き分けは延長によってちゃんと勝ち負けを決定するということになってしまった。
勝つつもりでいたためその時はあっさりと受け入れてしまったが、今になって考えると一応強豪のサッカー部が相手なのなだから、引き分けでも部にしてほしいと言っておくべきだった。
「調子乗って買ったらって言うんじゃなかったな……」
「だな……」
今更ながらに「勝ったら」などと限定してしまったことに後悔している善之たち。
引き分けでも部にできるというなら、もっと違う戦い方をしていたし、もう少し気楽に戦えたかもしれない。
「……言っててもしょうがない」
「そうだな。作戦でも考えるか?」
もしものことを考えるとキリがないものだ。
優介の言うように、決まっていることをいつまでも愚痴っていても仕方がない。
はっきり言ってサッカー部の方の守備が良いのが想定外だったが、同点にされる可能性も考えていた。
そのため、善之たちはそれほど焦っている様子はない。
「……勝てるのか?」
「策はあります!」
善之たちがあまり焦っていない様子なので、勝つ気が有るのか疑わしくなってきた山田は、心配そうに尋ねてきた。
中学時代から知っているこの問題児たちが、不利な扱いを受けるのは教師として納得できないでいた。
そのため、猪原に頭を下げてこの日だけの監督役をすることにしたのだが、これで善之たちが勝つ気がないのでは無駄なおせっかいになってしまう。
それを不安視したのだが、善之からは力強い答えが返ってきた。
「ただ、残り1、2分で同点なら使える手なんですけど……」
試合をすることが決まってから、善之たちは5人で色々と作戦を考えてきた。
予想以上に得点できなかったことは予想外だが、それでもまだ勝つための秘策は残っている。
しかし、最後の手だけあってギリギリまで出したくない。
そう考えると、問題が出てくる。
「それまで、あと3、4分を何とかこのままでいかないと……」
「……無理!」
善之が言い淀むのを引き継ぐように、竜一が試合前に立てた作戦通りに行く場合のことを話す。
しかし、その通りにしようとすると、攻撃もだが特に守備のことが問題になって来る。
はっきり言って、海はまだ体力面で問題がある。
山田がタイムアウトを取ってくれたおかげである程度回復できるだろうが、最後までスタミナを持たせるとなると、攻守において無難なプレーをしてもらうしかない。
そうなると、今のサッカー部の攻撃を防ぎきるのはかなり難しい。
守備の能力の高い優介だからこそよく分かっているため、もう作戦通りには行けない可能性が高いことを伝えた。
「40分で勝負を決めるとなると、守備重視で攻撃はじっくりだな」
「あぁ……」
タイムアウトのおかげで体力は少し回復できたが、所詮交代要員のいない善之たちでは前後半の40分が全力でプレーできる時間だ。
そうなると、40分で勝利を治めないとならない。
そのための作戦は、失点はしないようにしつつ、得点チャンスを探るという方法がベストのように思える。
勝也のその提案に、善之たちは全員賛成したように頷いた。
「海は無茶するなよ」
「ハァ、ハァ……、分かってる」
酸欠で若干顔が青くなっていた海だが、タイムアウト中はただ呼吸をすることに集中していたため、何とか色を取り戻したように見える。
善之は別に海の体調のことを心配して言ったのではない。
もちろんそれも無いわけではないのだが、この試合を最後まで戦うには海に抜けられる訳にはいかないからだ。
5人しかいないのだから、1人でも欠けたら攻守に問題が生じる。
それこそ40分以内で勝利を得るなんて無理な話だ。
善之の言いたいことは分かるため、海は大量の汗をタオルで拭きつつ返事をした。
「マークの確認だ!」
「「「「おう!」」」」
ここからの時間、守備をする時間が長くなることが予想される。
そうなると、誰が誰にマークに付くのかが問題になって来る。
そのため、善之たちはマークの確認をしておくことにした。
「面倒な瀬田は引き続き優介が頼む」
「……了解」
トリッキーなドリブルで好きにさせると手が付けられなくなるであろう瀬田には、守備に置いて一番信頼できる優介についてもらうことにした。
優介も、守備の視点からいって瀬田が一番危険な気がしている。
そのため、善之の言ったことに素直に応じる。
「西尾さんには竜が頼む」
「……俺で大丈夫か?」
瀬田も面倒だが、サッカー部キャプテンの西尾も面倒だ。
海がマークに付くことが多かったが、体力のことを考えると他の誰かが付いた方が好きにプレーをさせなくできるだろう。
そう考えると、竜一が付いた方が良いと判断した。
しかし、その善之の提案に竜一は疑問に感じる。
善之たちの中で守備の技術を考えると一番低いのが竜一だ。
その竜一が、色々な面において高いレベルでバランスの良い西尾を止め切れるか疑問に思える。
「西尾さんは最初から出ているからスタミナが無くなってきているはず。スタミナ自慢のお前なら今の西尾さんいも付いて行けるだろ」
「……分かった。食らいつくよ」
今出場している選手たちがベストのメンバーだと判断しているのか、猪原は他の選手に交代をする様子がない。
今のバランスが崩れることを考えると、確かに交代することは躊躇う状況だろう。
叱ってばかりの嫌な指導者という印象が強いが、見る目があるのは窺い知れる。
特にキャプテンの西尾は主柱として外せないので、交代することは無いはず。
しかし、西尾も40分間前後に休みなく動き回っていては、疲労の色が見えてきている。
それに引きかえ、練習でも毎回平気な顔している竜一ならスタミナ切れの心配がない。
ドリブルなどのボールを扱う技術は低くても、ボールに付いて行く守備においては竜一もそこまで低くない。
なので、そう簡単に抜かれることは無いはずだ。
「……スアレスみたいにマジで噛むなよ」
「当たり前だろ!」
竜一の性格で食らいつくなどと言われると、どうしてもスアレスが浮かんで来る。
ウルグアイ代表のサッカー選手で、スペインリーグのバルセロナでプレーするFWのスアレスは、マークに付いていたディフェンダーに噛みついたことが何度もある。
しかもワールドカップという大舞台で、イタリアの選手の肩に噛みついたことは有名な出来事だ。
竜一も同じように苛立ちから噛みつかないかとという思いから、善之は冗談めかして忠告する。
流石にそんなことする訳ないため、竜一笑いながらツッコミを入れた。
「俺がフィクソの位置で石澤さん。海はピヴォの位置で高田さんを頼む」
「分かった!」
優介が右のアラのポジションに出て瀬田のマークに付くので、最後尾の位置が空いてしまう。
竜一が左のアラへ行くので、必然的に善之が下がってフィクソの位置に入ることにした。
ピヴォなら海も回復するように動けるので丁度いい。
“ビー!!”
「よっしゃ! 行こう!」
「「「「おうっ!」」」」
マークの確認が済んだところで、タイムアウト終了の合図が聞こえた。
一息付けた善之たちは、気合と共に立ち上がってコート内へと戻っていった。
—―—試合時間残り5分——―
“ピピー!!”
審判が得点の笛を吹く。
タイムアウトの時に決めたマークで守備を計っていた善之たちだが、サッカー部の攻撃によって石澤にシュートを決められ、とうとう逆転されてしまったのだった。
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