文化研究部

ポリ 外丸

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第15話

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「チッ!」

 瀬田の決定的なパスで得点をしたサッカー部の面々がハイタッチをしているのを目にしながら、ボールをセンターマークへセットする善之は悔しそうに舌打ちする。
 あまりにも見事に瀬田のフェイントに引っかかったのが気に入らないのだ。

「……完全にやられたな?」

「しょうがねえって、あんなのいきなりやられたら」

「……切り替えろ!」

 自分が同じようにやられたらと思うと、善之の心情は良く分かる。
 そのため、海・竜一・優介は、順々に善之を励ますような言葉をかける。

「あぁ……」

 あまりにも見事にやられたが、瀬田がかなりのドリブル技術を持っていることは理解した。
 次は同じようには行かせないつもりだ。

“ピッ!!”

 善之が悔しさから怒りが込み上げている所で、試合が再開された。

「ヘイ!」

 ゴールを背にした善之が、海にボールを出すように呼び込む。
 その背後には、瀬田がピッタリくっついている。
 ボールを受けた所で善之がシュートを打てる状況ではない、
 しかし、海は要求通りに善之の足下へとパスを出す。

「右っ!」

 パスを出した海は、善之へ右側を指を差す。
 海が指さした方向へ善之が目を向けると、マークを振り切った竜一が走り込んでくる。

「あっ!?」

 しかし、善之が竜一へパスを出した瞬間、それを読んでいたかのようにパスカットされた。
 石澤と言うさっき得点を決めた先輩だ。
 ボールをカットした石澤は、すぐさま走り出している西尾へパスを出す。

「このっ!」

「っと!」

 ボールを受けようとした西尾に、海が足を伸ばす。
 海の足先がギリギリボールに触れ、何とかタッチラインに出すことに成功した。

「善之に狙いを付けてきたか?」

「かもな……」

 先程、善之が竜一にパスを出すタイミングを待っていたかのように吉田は動いた。
 たまたまかもしれないが、タイミングが良すぎた。
 そのため、警戒した方が良いだろう。

「確かに俺たちは善之が攻撃のかなめになっているからな……」

 竜一の言うように、こっちの攻撃は大体が善之を経由しいていて、この試合のここまでの得点も善之が全部絡んでいる。
 だから善之に狙いを付けるのも納得できる。 

「球離れを速くして崩れた所を狙った方が良いかもな」

「あぁ……」

 ルールを把握したため、サッカー部の連中はカウンターへの対処をしている。
 そのため、なかなか善之たちに得点チャンスが生まれなくなってきている。
 今のままではかなり分が悪いので、攻撃の方法を少し変えないといけない。
 カウンターによる攻撃が駄目ならば、速いパス回しでチャンスを作る。
 善之たちはそっちの方向で攻めることにした。

「っ!!」

 サッカー部の攻撃は西尾と瀬田が起点となっていて、西尾はパスによる崩し、瀬田はドリブルによる崩しで攻めてきている。
 西尾の方は他の選手をキッチリマークすることで何とか抑えているが、問題は瀬田の方だ。
 瀬田はドリブルが得意なのが分かっているが、対処している善之は僅かに反応が遅れている。
 今回も出した足にギリギリ当たり、タッチラインへ逃れることができた。

「まずいな……」

「瀬田をどうにかした方が良いかもな……」

 西尾の方は何とか抑えているが、瀬田の方が問題になってきた。
 このまま勢いに乗せたら、失点して逆転されてしまうかもしれない。
 どうにか瀬田を止めて流れをこっちに持ってきたいところだ。

「……俺が付く」

「……そうだな。そうしてくれ」

 どうしたものかと悩んでいた所で、いつも無口な優介が手を上げる。
 珍しくやる気を出している優介を意外に思いつつ、善之はその申し出を受け入れる。

「じゃあ、俺が先輩に着くよ」

「了解!」

 これまで海と共に西尾をマークすることが多かったが、今は瀬田の勢いの方を止めた方が良い。
 なので、瀬田をマークすることになった優介の代わりに海がマンマークで西尾に付くことにした。





「カウンターだ!!」

 パスを回して敵の守備を崩す戦法に変えたことで、善之たちはシュートまで持って行くことができるようになった。
 しかし、守備を崩したと言ってもシュートコースが狭く、竜一の放ったシュートは敵のゴレイロの真正面に飛んでしまう。
 シュートをガッチリキャッチしたゴレイロは、すぐに攻撃に転じる。
 すっかりフットサルのことを理解してしまったようだ。
 攻めたら守れ、守ったら攻めろがフットサルだ。
 竜一のシュートのが飛んで行った方向を見ただけで、すぐさま守り切ったと判断した瀬田が、我先にと走り出している。

「瀬田!」

 ゴレイロの吉田からボールを受け取った瀬田は、そのまま一気にゴールへ向かってドリブルを開始する。

「うっ!!」

 しかし、そのままゴールへ向かおうとする瀬田に、優介が並走する。
 走る速度は優介の方が早く、このままでは勝也との1対1に持ち込むことはできない。
 そう判断した瀬田は、優介に前に入られる前にシュートを打とうとシュートモーションに入る。

「っ!!」

 そのシュートをさせないように、優介は足を伸ばす。
 だが、瀬田の方は優介がそうするのを待っていたため、シュートするのをやめて雄介が出した足の反対側へボールを動かす。
 いわゆるキックフェイントによって、優介のことを躱そうとした。

『よしっ!!』

 優介が完全にフェイントに引っかかったと思った瀬田は、勝也が経っている位置を確認する。
 すると、勝也はゴールの左に寄っていたため、右側にシュートコースが空いていた。
 そのコースを狙おうと、躱してそのままシュートを打つことにした。

「えっ?」

「甘い……」

 しかし、シュートを打とうとした瀬田の足下にあったボールが、いつの間にか優介に取られていた。
 そのことに気付いた瀬田に対し、優介は一言呟いた。
 そして、取ったボールを海へと渡した。

「完全に躱したと思ったのに……」

 キックフェイントで躱されたように見せた優介は、出した足でそのまま地面を蹴って、ボールが動いた方へ逆の足を出して止めたのだ。
 その動きは、キックフェイントが来ると分かっていたかのような動きだ。
 止められたこともだが、フェイントを読まれていたことの方に瀬田はショックを受ける。
 しかし、そのまま足を止めることはできないので、すぐさま守備をするため自陣へ戻る。

「優介に騙されたな……」

「あいつは守備の天才だからな」

 パスを回しながら、善之と竜一は止められた瀬田へ同情気味に話しかける。
 優介と違うチームで試合をした時、善之と竜一は高確率で止められる。
 なので、優介と勝負することに苦手意識を持っている。
 瀬田もその餌食になることに、嬉しく思いつつも可哀想に思ったのだ。

「……天才は言い過ぎ」

 褒められて若干嬉しそうな表情をしながらも、優介は2人の言ったことを否定した。





「くっ!!」

 善之たちの攻撃が不発に終わり、サッカー部側が攻めることになったのだが、パスを受けた瀬田がドリブルで切り崩そうにも優介がそれをさせない。
 細かいフェイントをしても優介が全然引っかからないため、一気に抜き去るというタイミングが掴めない。

「ムリすんな、淳」

「すいません!」

 瀬田がドリブルで優介を抜くことが難しくなり、サッカー部の勢いは抑えることができた。
 しかし、こういう時に西尾は冷静にパスを回すことを指示する。
 ボールを取られてカウンターを受ける訳にはいかないので、瀬田も優介を抜くことを一旦諦めてパスを回し始めた。 

「よしっ!!」

「……打たせない」

 パス回しを始めたサッカー部だが、陸たち大学生を相手に試合をすることが多い善之たちからすると、付いていけるレベルのパススピードだ。
 とは言っても、完全にシュートを打たせないということは不可能。
 サイドから走り込んだ瀬田にパスが渡り、そのままシュートを打とうとする。
 しかし、マークについている優介を完全に躱したわけではないので、すぐにシュートコースは防がれた。

「お前が来るのを待ってたんだよ」

「っ!?」

 ドリブルは止められても、足が届かない所に出されたパスを止めることはできない。
 瀬田は来たボールをそのまま石澤へパスを出す。

「もらった!!」

 逆サイドに出されたそのパスを、石澤はそのままシュートする。
 ゴレイロの勝也も瀬田のシュートを警戒していたため、シュートコースは大きく空いている。
 吉田が打ったシュートは、その空いているコースへと飛んで行った。

「ぐっ!!」

「なっ!?」

 そのシュートを竜一が止めに入る。
 至近距離のシュートを腹に受けて顔を歪めた竜一だが、何とか得点を阻止できた。

「黒!!」

 竜一に当たって転がったボールを勝也が拾い、すぐに敵陣へと放り投げる。
 思っていた通り善之が走っており、そのボールが善之の足下へと収まる。

「っ!!」

 善之の反応に気付いたのか、瀬田が戻ってきた。
 追いつかれそうになった善之は、そのままボールを切り返す。

「行かせない!!」

 切り返したボールを取ろうと、瀬田は足を出してくる。
 しかし、善之の狙いはその瞬間。

「なっ!!」

 切り返したボールをすぐさま蹴り、瀬田の股下へと転がす。
 それによって完全に瀬田を抜いた善之は、ゴール右上隅へシュートを放ち、ゴールネットを揺らした。

「やられたらやり返せだ!」

「……ヤロウ」

 善之がやったのはダブルダッチというフェイントだ。
 完璧にやられたことを根に持っていた善之は、瀬田にやり返すことができて上機嫌に呟く。
 言われた瀬田も、股下を抜かれる屈辱に悔しそうに呟いた。
 若干憂さ晴らしともいえる善之の個人技による得点によって、また試合を2点差に戻すことができたのだった。

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