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第9話
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「いいか!? お前ら負けなんてあり得ん! 大量得点して勝て!」
「「「「「ハイッ!!」」」」」
試合開始前、サッカー部顧問の猪原は、部員を集めて大きな声で檄を飛ばす。
猪原としても、こんな試合をしなければならないことに不本意な思いがあるのか、絶対に負けることは無いと思っているような物言いだ。
彼だけでもなく、サッカー部員の者たちも同じ思いをしているのは態度で分かる。
猪原の言う通り、どう勝つかを考えているような返事の仕方だ。
「津田! お前は責任取ってしっかり動けよ!」
「ハイッ!!」
どうやら瀬田が言っていたように、サッカー部は2、3年のメンバー主体で戦うつもりのようだ。
試合をする原因になった津田は、責任を取らされる形で出場することになったようだ。
「……こっちにまで聞こえてるんだが?」
サッカー部のベンチは、善之たちのベンチとそれほど離れていない。
そのため、大きな声を出せばこっちにまで聞こえてくる。
「ワザと言ってんじゃね?」
「……そうかも」
なんとなく、あっちのベンチの者たちも聞こえているのは分かっているはずだ。
それを承知で言っているような気もしてきたため、竜一と優介は若干呆れているように呟く。
「あいつ勝ったらほんとに顧問になってくれんのか?」
この試合で善之たちが勝ったら、猪原は名ばかりとは言っても顧問になるということを約束していた。
しかし、今の態度を見る限り、こっちが勝っても本当に顧問になってくれるのか疑わしくなってくる。
「まぁ、俺たちは負けても特に困ることもないけどな」
「あぁ……」
「確かに……」
ハッキリ言って、善之が言うようにこっちは別に何が何でもフットサル部が創りたいという訳でもない。
しかし、何もしないのは不健全という考えがなくもなく、せめて何かの部活に入ってエネルギーを発散したい。
一番いいのが、5人がやっていたフットサルということだけだ。
そのため、猪原をはじめとしたサッカー部の態度を、善之たち5人は何とも思っていないようだ。
しかし、
「でも……」
「「「「「負けるつもりもないけどな!!」」」」」
基本負けず嫌いな5人。
やるからには勝つ。
その思いが共通しているのか、善之の言葉を合図にするように、同じ言葉を合わせて言った。
いつからだったか分からないが、これが5人の気合が入るスイッチのようなものだ。
そのため、この言葉を言った直後、これまでの普通の男子の緩い態度から、一気に戦闘モードのような表情へと変わったのだった。
「審判はちゃんとした人連れて来てるみたいだな……」
試合前のコイントスをして、サッカー部側のキックオフで始まることが決まった。
一応強豪と言われるサッカー部の顧問のとしてのルートがあるのか、猪原はちゃんとした審判を呼んで来たらしく、4人の審判が試合開始の態勢になった。
フットサルの審判はサッカーとは違い、主審、第2審、第3審、タイムキーパーと4人でおこなうことが多い。
サッカーとは違い、主審と第2審が笛を持って判定をする。
第3審はタイムキーパーの補助をすることが多く、タイムキーパーはその名の通り、時間を計ることをするのが仕事だ。
ストップウォッチや試合時間を計るタイマーなどが用意され、試合開始の準備が整った。
“ピー!!”
主審の笛を合図として、サッカー部とフットサル部(仮)の試合が開始された。
「っ!?」
様子見をしようとしていたのか、サッカー部の部員たちは始まってすぐにボールを回し始めた。
しかし、竜一が早々に仕掛け、津田からボールを奪い取る。
「黒!」
ボールを奪った竜一は、すぐさま善之へとへパスを通す。
開始早々に、善之はゴレイロと1対1の状態になった。
“ドゴッ!!”
「ヒッ!?」
ボールを受けた善之は、ワザとゴレイロとの距離を縮めてからシュートを放つ。
そのシュートがサッカー部のゴレイロの顔面スレスレを通り、ゴールネットを揺らした。
「……えぐいな。至近距離から弾丸シュートなんて……」
球拾いをするように言われて、コートの外で試合を見ていたサッカー部1年の瀬田は、善之の容赦のなさに苦笑した。
容赦なく至近距離からシュートを打たれるなんて、サッカー経験者ならその恐ろしさは分かる。
至近距離から撃たれた経験者のシュートなんて、ほとんど凶器のようなものだ。
食らったら痛いで済まない可能性がある。
ゴレイロは2年の先輩だが、あんなの見せられたら思いきった飛び出しを躊躇ってしまうだろう。
「……それが狙いか?」
ゴールしてハイタッチする善之たちを見ると、してやったりといったような表情をしている。
どうやら、至近距離シュートをした狙いは、瀬田の思った通りのことだったようだ。
「チッ! 一点で調子に乗るなよ!」
そもそも、失点へ繋がったのは津田のパスが掻っ攫われたからだ。
それが分かっているからからか、津田は舌打ちして得点を喜ぶ善之に悪態をついた。
「ハイ、ハイ……」
試合前とは違い、始まった今では善之たちからしたら津田のことなんて相手にしていない。
そのため、津田の悪態に対しても何とも思わず、善之はあっさりとあしらった。
“ピッ!!”
ボールが中央に戻され、笛と共に試合が再開された。
さっきの失点のこともあり、サッカー部のパス回しのスピードは一気に上がった。
しかし、この程度のパススピードでは、海の兄である陸たち大学生を相手にした場合通用しない。
日頃その大学生の相手をしている善之たちからすると、まだ甘いと言ってもいい。
フットサルのボールはサッカーのボールより小さい。
サッカーが5号サイズで、フットサルは4号サイズだ。
しかも、フットサルの場合ボールが弾まないようになっているため、サッカー部の面々からするといつもと感覚が違うのかもしれない。
「っ!?」
ボールやフットサルのコートサイズなどにサッカー部のメンバーが慣れてないのは、善之たちにとっては好都合だ。
今のうちに得点を重ねるチャンスだ。
相手のトラップが僅かに足下からズレたのを見逃さず、優介が足を出してボールを蹴る。
それによってルーズボールとなったボールは、敵陣に転がっていく。
「あっ!?」
それに反応したのは海。
一気にスプリントして敵を置き去りにした海は、先程の善之同様にゴレイロとの1対1の状態になった。
しかし、先程よりもゴレイロの距離の詰め方が数歩分遅い。
そのため、距離に余裕があった海は、ガラ空きになったゴレイロの頭上にボールを浮かせ、ループ気味にシュートを打ってゴールへ入れた。
「ナイッシュ!」
開始1分で2得点。
善之たちにとって都合がいいように事が運んだといってもいい。
しかし、ハイタッチする善之たちは気を抜くつもりはない。
ここまではある程度予想していたことだからだ。
「まだ取れるうちに取っておこう!」
「「「「おうっ!」」」」
予想通りに運んでいるのは良いことだが、このまま予想通りに進んで行けばどうなるかも善之たちは分かっている。
それを考えると、今のうちに点を取れるだけ取っておきたい。
そのため、ハイタッチをしたと同時に、善之たちは小声で意識を共有したのだった。
「「「「「ハイッ!!」」」」」
試合開始前、サッカー部顧問の猪原は、部員を集めて大きな声で檄を飛ばす。
猪原としても、こんな試合をしなければならないことに不本意な思いがあるのか、絶対に負けることは無いと思っているような物言いだ。
彼だけでもなく、サッカー部員の者たちも同じ思いをしているのは態度で分かる。
猪原の言う通り、どう勝つかを考えているような返事の仕方だ。
「津田! お前は責任取ってしっかり動けよ!」
「ハイッ!!」
どうやら瀬田が言っていたように、サッカー部は2、3年のメンバー主体で戦うつもりのようだ。
試合をする原因になった津田は、責任を取らされる形で出場することになったようだ。
「……こっちにまで聞こえてるんだが?」
サッカー部のベンチは、善之たちのベンチとそれほど離れていない。
そのため、大きな声を出せばこっちにまで聞こえてくる。
「ワザと言ってんじゃね?」
「……そうかも」
なんとなく、あっちのベンチの者たちも聞こえているのは分かっているはずだ。
それを承知で言っているような気もしてきたため、竜一と優介は若干呆れているように呟く。
「あいつ勝ったらほんとに顧問になってくれんのか?」
この試合で善之たちが勝ったら、猪原は名ばかりとは言っても顧問になるということを約束していた。
しかし、今の態度を見る限り、こっちが勝っても本当に顧問になってくれるのか疑わしくなってくる。
「まぁ、俺たちは負けても特に困ることもないけどな」
「あぁ……」
「確かに……」
ハッキリ言って、善之が言うようにこっちは別に何が何でもフットサル部が創りたいという訳でもない。
しかし、何もしないのは不健全という考えがなくもなく、せめて何かの部活に入ってエネルギーを発散したい。
一番いいのが、5人がやっていたフットサルということだけだ。
そのため、猪原をはじめとしたサッカー部の態度を、善之たち5人は何とも思っていないようだ。
しかし、
「でも……」
「「「「「負けるつもりもないけどな!!」」」」」
基本負けず嫌いな5人。
やるからには勝つ。
その思いが共通しているのか、善之の言葉を合図にするように、同じ言葉を合わせて言った。
いつからだったか分からないが、これが5人の気合が入るスイッチのようなものだ。
そのため、この言葉を言った直後、これまでの普通の男子の緩い態度から、一気に戦闘モードのような表情へと変わったのだった。
「審判はちゃんとした人連れて来てるみたいだな……」
試合前のコイントスをして、サッカー部側のキックオフで始まることが決まった。
一応強豪と言われるサッカー部の顧問のとしてのルートがあるのか、猪原はちゃんとした審判を呼んで来たらしく、4人の審判が試合開始の態勢になった。
フットサルの審判はサッカーとは違い、主審、第2審、第3審、タイムキーパーと4人でおこなうことが多い。
サッカーとは違い、主審と第2審が笛を持って判定をする。
第3審はタイムキーパーの補助をすることが多く、タイムキーパーはその名の通り、時間を計ることをするのが仕事だ。
ストップウォッチや試合時間を計るタイマーなどが用意され、試合開始の準備が整った。
“ピー!!”
主審の笛を合図として、サッカー部とフットサル部(仮)の試合が開始された。
「っ!?」
様子見をしようとしていたのか、サッカー部の部員たちは始まってすぐにボールを回し始めた。
しかし、竜一が早々に仕掛け、津田からボールを奪い取る。
「黒!」
ボールを奪った竜一は、すぐさま善之へとへパスを通す。
開始早々に、善之はゴレイロと1対1の状態になった。
“ドゴッ!!”
「ヒッ!?」
ボールを受けた善之は、ワザとゴレイロとの距離を縮めてからシュートを放つ。
そのシュートがサッカー部のゴレイロの顔面スレスレを通り、ゴールネットを揺らした。
「……えぐいな。至近距離から弾丸シュートなんて……」
球拾いをするように言われて、コートの外で試合を見ていたサッカー部1年の瀬田は、善之の容赦のなさに苦笑した。
容赦なく至近距離からシュートを打たれるなんて、サッカー経験者ならその恐ろしさは分かる。
至近距離から撃たれた経験者のシュートなんて、ほとんど凶器のようなものだ。
食らったら痛いで済まない可能性がある。
ゴレイロは2年の先輩だが、あんなの見せられたら思いきった飛び出しを躊躇ってしまうだろう。
「……それが狙いか?」
ゴールしてハイタッチする善之たちを見ると、してやったりといったような表情をしている。
どうやら、至近距離シュートをした狙いは、瀬田の思った通りのことだったようだ。
「チッ! 一点で調子に乗るなよ!」
そもそも、失点へ繋がったのは津田のパスが掻っ攫われたからだ。
それが分かっているからからか、津田は舌打ちして得点を喜ぶ善之に悪態をついた。
「ハイ、ハイ……」
試合前とは違い、始まった今では善之たちからしたら津田のことなんて相手にしていない。
そのため、津田の悪態に対しても何とも思わず、善之はあっさりとあしらった。
“ピッ!!”
ボールが中央に戻され、笛と共に試合が再開された。
さっきの失点のこともあり、サッカー部のパス回しのスピードは一気に上がった。
しかし、この程度のパススピードでは、海の兄である陸たち大学生を相手にした場合通用しない。
日頃その大学生の相手をしている善之たちからすると、まだ甘いと言ってもいい。
フットサルのボールはサッカーのボールより小さい。
サッカーが5号サイズで、フットサルは4号サイズだ。
しかも、フットサルの場合ボールが弾まないようになっているため、サッカー部の面々からするといつもと感覚が違うのかもしれない。
「っ!?」
ボールやフットサルのコートサイズなどにサッカー部のメンバーが慣れてないのは、善之たちにとっては好都合だ。
今のうちに得点を重ねるチャンスだ。
相手のトラップが僅かに足下からズレたのを見逃さず、優介が足を出してボールを蹴る。
それによってルーズボールとなったボールは、敵陣に転がっていく。
「あっ!?」
それに反応したのは海。
一気にスプリントして敵を置き去りにした海は、先程の善之同様にゴレイロとの1対1の状態になった。
しかし、先程よりもゴレイロの距離の詰め方が数歩分遅い。
そのため、距離に余裕があった海は、ガラ空きになったゴレイロの頭上にボールを浮かせ、ループ気味にシュートを打ってゴールへ入れた。
「ナイッシュ!」
開始1分で2得点。
善之たちにとって都合がいいように事が運んだといってもいい。
しかし、ハイタッチする善之たちは気を抜くつもりはない。
ここまではある程度予想していたことだからだ。
「まだ取れるうちに取っておこう!」
「「「「おうっ!」」」」
予想通りに運んでいるのは良いことだが、このまま予想通りに進んで行けばどうなるかも善之たちは分かっている。
それを考えると、今のうちに点を取れるだけ取っておきたい。
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