7 / 23
第7話
しおりを挟む
「黒田!」
「よう!」
サッカー部の顧問の猪原から言質が取れ、サッカー部と勝負をすることになった善之たち。
その翌日、教室に入り朝のホームルームが始まるまでの間ボ~っとしていると、善之の前の席に同じクラスの瀬田が座って話しかけてきたため、善之は返事をする。
津田が嫌いだからと言って、サッカー部の人間全員を嫌っている訳ではない。
特に瀬田はどこか勘のいいところがあるので、サッカー部員だからと言って特に思う所はない。
むしろ、このクラスの中で、海以外で善之に話しかける数少ない人間の一人だ。
「何かウチとフットサル勝負するって話だけど?」
「あぁ、そうなった」
自分たちと勝負をすることを決めた後、顧問の猪原が部活で部員にそのことを報告したのだろう。
瀬田もそこで知ったらしい。
「そうなるように仕向けたの間違いじゃないのか?」
「……お前鋭いな。ちょっとキショイわ!」
「失礼な……」
少し前に話した時、瀬田も津田のことを良く思っていないような口調だった。
勝負することになった経緯を聞いて、もしかしたらそういう風に推理したのかもしれないが、善之の言う通り鋭すぎて気味が悪い。
瀬田も流石にそこまで言われるとは思っていなかったのか、若干眉をしかめる。
「まぁ、がんばれよ」
「がんばれって……お前も一応サッカー部だろ?」
瀬田からのまさかの言葉に、善之は思わず聞き返す。
サッカー部の者たちは、みんな訳も分からない問題児たちの相手をしなければならないことに腹を立てているのだと思っていたからだ。
「たぶん俺たち1年は関係ないだろ?」
瀬田からすると、喧嘩を売ったのは津田だし、押しきられたのは頭が固い顧問の猪原だ。
フットサルだからとはいえ善之たちに負ける訳にはいかないだろうが、そうなると、入部したてでまだ実力が完全に把握できていない1年を使うよりも、2、3年を使ってガチで勝負を勝ちに行くだろう。
だから、試合の時は自分たちは審判なりボール拾いをすることになることが予想される。
蚊帳の外の自分たちには、勝とうが負けようが知ったことではない。
「分かんねえぞ……あの監督のことだから、問題児の相手なんて1年にやらせれば十分だって言うかもしれないぞ?」
「あり得るな……」
善之も津田を相手にして勝利するのが一番気分がいいが、あの猪原がどこまで本気で来るのか分からない。
むしろ、1年を出して来てくれた方が勝てる気がするので、希望としては瀬田たちが出て来てくれるとありがたい。
「まぁ、勝負することになったら勘弁な」
「……お前ら勝つ気なのか?」
若干上から言っている善之の態度に、瀬田はどこからその自信が来るのか不思議に思った。
1年だけのチームだろうが、2、3年のチームだろうが、それがたとえフットサルでの勝負であろうと、自分たちサッカー部が負けると瀬田は思ってもいない。
そのため、善之の自信がハッタリなのではないかと思い、探りを入れた。
「当たり前だろ? むしろお前らの方が勝てると思っているのか?」
「……随分な自信だな?」
「そっちこそ」
善之の反応が全然ハッタリで言っているような態度ではないので、さすがに瀬田もカチンときた。
この高校のサッカー部は、県でもまあまあ強いことで有名で、昔は全国に出たこともあるくらいだ。
そこで毎日練習している自分たちが、まだ帰宅部状態の善之たちに負けるとは思えない。
なのに、自信満々に勝てると思われているとなると、舐められていると思っても仕方がない。
「お~し、席付け~」
若干睨み合う形になりお互いだ待っていると、担任が教室に入って来た。
そのため、瀬田は少し手を上げ、その場から離れる合図をして善之の側から自分の席へと戻っていった。
それに善之も手を上げ返し、瀬田を見送った。
「何? サッカー部と勝負する?」
「そうなんスよ」
その日の放課後、善之はいつものように練習相手を求めていた海の兄である中原陸と話す。
陸は関林学園サッカー部のOBで、善之たちにフットサルを教えてくれた先生でもある。
善之たちの実力からいって、サッカー部に入ってもやっていけると思っていたのだが、今日になってそのサッカー部と勝負すると聞いて首を傾げた。
どうしたらそんなことになるんだという疑問だ。
「サッカー部に最悪な先輩がいて、俺たちじゃ我慢できないから新しく部でも創っちゃおうぜ! ってなって、そいつを罠に引っ掛けて、フットサル部を創部するための勝負をすることになった」
善之が説明してくれるが、陸からするとあの猪原がそう簡単に勝負に乗ってくるとは思えない。
そのため、陸は善之たちのことだから何かしらの罠に引っ掛けたのだろうと思ったら案の定だった。
「誰の発案だ?」
「「「「黒!!」」」」
「っ!? お前らだって賛成しただろ?」
陸の問いかける声が低くなったため、5人はヤバいと思った。
高校に入ったらサッカー部に入るからと教えてもらっていたのに、それを反故にしたからだ。
そのことを怒られると思ったのか、他の4人はすぐに善之のせいにした。
まさかの裏切りに、善之は慌てる。
「勝つのは結構厳しいぞ?」
「……そうかな?」
5人が思ったより陸は怒っていないようだ。
しかし、その表情は真剣で、本気で善之たちへ注意を促しているようだ。
陸も瀬田と同様で、善之たちの方が不利だと思っているみたいだ。
「あいつらミニゲーム感覚で来るだろうし、フットサルのルールの碌に覚えてこないだろうから、慣れる前に点差を広げれば何んとなかなるんじゃないか?」
「……まぁ、面白そうだし、がんばれや」
たしかに、サッカーとフットサルでは細かいルールが違う。
ゼロからそれに慣れるには多少の時間がかかるだろう。
そうなると、善之の言う通り可能性はあるかもしれない。
陸としては、どっちが勝っても複雑な感情だが、何にしても面白い試合になると思い5人のことを応援したのだった。
「よう!」
サッカー部の顧問の猪原から言質が取れ、サッカー部と勝負をすることになった善之たち。
その翌日、教室に入り朝のホームルームが始まるまでの間ボ~っとしていると、善之の前の席に同じクラスの瀬田が座って話しかけてきたため、善之は返事をする。
津田が嫌いだからと言って、サッカー部の人間全員を嫌っている訳ではない。
特に瀬田はどこか勘のいいところがあるので、サッカー部員だからと言って特に思う所はない。
むしろ、このクラスの中で、海以外で善之に話しかける数少ない人間の一人だ。
「何かウチとフットサル勝負するって話だけど?」
「あぁ、そうなった」
自分たちと勝負をすることを決めた後、顧問の猪原が部活で部員にそのことを報告したのだろう。
瀬田もそこで知ったらしい。
「そうなるように仕向けたの間違いじゃないのか?」
「……お前鋭いな。ちょっとキショイわ!」
「失礼な……」
少し前に話した時、瀬田も津田のことを良く思っていないような口調だった。
勝負することになった経緯を聞いて、もしかしたらそういう風に推理したのかもしれないが、善之の言う通り鋭すぎて気味が悪い。
瀬田も流石にそこまで言われるとは思っていなかったのか、若干眉をしかめる。
「まぁ、がんばれよ」
「がんばれって……お前も一応サッカー部だろ?」
瀬田からのまさかの言葉に、善之は思わず聞き返す。
サッカー部の者たちは、みんな訳も分からない問題児たちの相手をしなければならないことに腹を立てているのだと思っていたからだ。
「たぶん俺たち1年は関係ないだろ?」
瀬田からすると、喧嘩を売ったのは津田だし、押しきられたのは頭が固い顧問の猪原だ。
フットサルだからとはいえ善之たちに負ける訳にはいかないだろうが、そうなると、入部したてでまだ実力が完全に把握できていない1年を使うよりも、2、3年を使ってガチで勝負を勝ちに行くだろう。
だから、試合の時は自分たちは審判なりボール拾いをすることになることが予想される。
蚊帳の外の自分たちには、勝とうが負けようが知ったことではない。
「分かんねえぞ……あの監督のことだから、問題児の相手なんて1年にやらせれば十分だって言うかもしれないぞ?」
「あり得るな……」
善之も津田を相手にして勝利するのが一番気分がいいが、あの猪原がどこまで本気で来るのか分からない。
むしろ、1年を出して来てくれた方が勝てる気がするので、希望としては瀬田たちが出て来てくれるとありがたい。
「まぁ、勝負することになったら勘弁な」
「……お前ら勝つ気なのか?」
若干上から言っている善之の態度に、瀬田はどこからその自信が来るのか不思議に思った。
1年だけのチームだろうが、2、3年のチームだろうが、それがたとえフットサルでの勝負であろうと、自分たちサッカー部が負けると瀬田は思ってもいない。
そのため、善之の自信がハッタリなのではないかと思い、探りを入れた。
「当たり前だろ? むしろお前らの方が勝てると思っているのか?」
「……随分な自信だな?」
「そっちこそ」
善之の反応が全然ハッタリで言っているような態度ではないので、さすがに瀬田もカチンときた。
この高校のサッカー部は、県でもまあまあ強いことで有名で、昔は全国に出たこともあるくらいだ。
そこで毎日練習している自分たちが、まだ帰宅部状態の善之たちに負けるとは思えない。
なのに、自信満々に勝てると思われているとなると、舐められていると思っても仕方がない。
「お~し、席付け~」
若干睨み合う形になりお互いだ待っていると、担任が教室に入って来た。
そのため、瀬田は少し手を上げ、その場から離れる合図をして善之の側から自分の席へと戻っていった。
それに善之も手を上げ返し、瀬田を見送った。
「何? サッカー部と勝負する?」
「そうなんスよ」
その日の放課後、善之はいつものように練習相手を求めていた海の兄である中原陸と話す。
陸は関林学園サッカー部のOBで、善之たちにフットサルを教えてくれた先生でもある。
善之たちの実力からいって、サッカー部に入ってもやっていけると思っていたのだが、今日になってそのサッカー部と勝負すると聞いて首を傾げた。
どうしたらそんなことになるんだという疑問だ。
「サッカー部に最悪な先輩がいて、俺たちじゃ我慢できないから新しく部でも創っちゃおうぜ! ってなって、そいつを罠に引っ掛けて、フットサル部を創部するための勝負をすることになった」
善之が説明してくれるが、陸からするとあの猪原がそう簡単に勝負に乗ってくるとは思えない。
そのため、陸は善之たちのことだから何かしらの罠に引っ掛けたのだろうと思ったら案の定だった。
「誰の発案だ?」
「「「「黒!!」」」」
「っ!? お前らだって賛成しただろ?」
陸の問いかける声が低くなったため、5人はヤバいと思った。
高校に入ったらサッカー部に入るからと教えてもらっていたのに、それを反故にしたからだ。
そのことを怒られると思ったのか、他の4人はすぐに善之のせいにした。
まさかの裏切りに、善之は慌てる。
「勝つのは結構厳しいぞ?」
「……そうかな?」
5人が思ったより陸は怒っていないようだ。
しかし、その表情は真剣で、本気で善之たちへ注意を促しているようだ。
陸も瀬田と同様で、善之たちの方が不利だと思っているみたいだ。
「あいつらミニゲーム感覚で来るだろうし、フットサルのルールの碌に覚えてこないだろうから、慣れる前に点差を広げれば何んとなかなるんじゃないか?」
「……まぁ、面白そうだし、がんばれや」
たしかに、サッカーとフットサルでは細かいルールが違う。
ゼロからそれに慣れるには多少の時間がかかるだろう。
そうなると、善之の言う通り可能性はあるかもしれない。
陸としては、どっちが勝っても複雑な感情だが、何にしても面白い試合になると思い5人のことを応援したのだった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

M性に目覚めた若かりしころの思い出
kazu106
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、それをはじめて自覚した中学時代の体験になります。歳を重ねた者の、人生の回顧録のひとつとして、読んでいただけましたら幸いです。
一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。

切り札の男
古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。
ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。
理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。
そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。
その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。
彼はその挑発に乗ってしまうが……
小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
執事👨一人声劇台本
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
青春
執事台本を今まで書いた事がなかったのですが、機会があって書いてみました。
一作だけではなく、これから色々書いてみようと思います。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる