文化研究部

ポリ 外丸

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第4話

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「おっす!」

「……おっす!」

 善之たちが職員室に行き、生徒指導の山田へフットサル部の創部の相談をしてから3日ほど経った。
 そして、登校して教室に入った善之が漫画雑誌を読んでいると、1人の男子生徒が話しかけてきた。
 同じ中学からきた生徒が広めたのか、善之たちが問題児だということを知ったクラスメイトは、あまり話しかけてくることはない。
 その少数の方の1人が彼だ。

「瀬田か……、何か用か?」

「聞いた話なんだが、黒田ってフットサル部を創るって本当か?」

「あぁ……」

 瀬田と呼ばれた彼は、見た目普通の生徒なのだが、物怖じしない性格なのか普通に善之に問いかけてくる。
 その瀬田の問いに対し、善之は短い言葉で返事をする。
 彼はサッカー部に入るようなことを言っていたので、どこからか伝わったのかもしれない。

「何か先輩たちが気に入らないとか話してたぞ」

「はぁっ? 何でだよ?」

 瀬田の話によると、入部したての1年たちは思入れがまだないからか何とも思っていないが、その噂を聞いた先輩たちは機嫌が悪くなったらしい。
 そんな話を聞いても、別に創部できると決まったわけではないし、善之からしたら何でそうなるのか分からない。

「サッカー部があるのにフットサル部を作るなんて、ケンカ売ってるんじゃないかって……」

「……それ言ってんの津田だろ?」

 瀬田の話を聞いていると、善之には一人の人間の顔が浮かんできた。
 別にサッカー部にケンカを売っている訳ではないのに、揉め事に持って行こうとしているような気配を感じる。
 こういった嫌な感覚がした時は、大抵が何か動いていることが多い。
 体験入部の時、善之は相手にしていなかったが、竜一・優介・勝也の3人が話しかけていた。
 津田の反応を見る限り、3人が軽く脅しをかけていたのだろうと分かったが、もしかしたらそれが津田の悪癖が発動するきっかけになったのかもしれない。

「……そういやそうだな」

 言われた瀬田が思い返すと、フットサル部という話が上がる時にはいつも津田がいた。
 3年の中でもムードメーカー的な存在の津田は、話の中心にいることが多い。
 そのため、何とも思わずにいた他の先輩たちを、なんとなく善之たちが悪いように話を持って行っていた気がしてきた。

「お前もサッカー部員なら奴には気を付けた方がいいぞ」

「……もしかして、お前よりあいつの方が危険なのか?」

「さあな……」

 入部して間もない1年たちの感想としては、津田は当たり障りない先輩という印象が強い。
 しかし、1年の中でも彼だけなのかもしれないが、瀬田はなんとなく津田に近付きたくないという思いをしていた。
 笑っていても、どこか目の奥が笑っていないというか、何だかちょっと違和感を感じるからだ。
 入学して、善之たちが中学時代に問題を起こした連中だと聞いた時、他の連中とは違って瀬田はそんなに怖い連中だという印象は受けなかった。
 服装や髪型はちょっと崩しているが、授業は普通に受けているし、特に問題あるように思えない。
 しかも、フットサル部を創ろうとしているという話を聞いた時、単純に感心した部分の方が強く、中学時代悪かったという話が嘘のように思えるほどだ。 
 もしかして、中学時代の話も善之よりも津田の方が何かしたのではないかという風に思えてきた。
 そう思って瀬田が尋ねると、善之は意味深に笑って答えを誤魔化した。

「……演技臭いぞ」

 たしかに、津田はバレないようにムカつくことをしてくる悪党と言えば悪党だ。
 しかし、善之も悪さをしたことがないと胸張って言える人間ではない。
 そう言った意味で悪党っぽく答えたのだが、それが上手くなかったのか、瀬田には嘘っぽく聞こえてしまったようだ。
 意外と、と言っては何だが、物事の本質を見抜く能力が高いのかもしれない。

「速く席戻れよ。担任来るぞ?」

「はい、はい」

 瀬田と話しているうちに、ほとんどの生徒が登校してきていた。
 時間的にも朝のホームルームが始まる時間帯だ。
 演技っぽくしたのを見抜かれたのが恥ずかしかったというのもあり、善之は瀬田を自分の席に戻るように促した。
 瀬田の席は善之の2個左と近い。
 直接話したことで、瀬田はなんとなく善之の性格のことを把握したのか、軽い返しをして自分の席へと向かった。

「そうだ!」

「んっ?」

 席に戻ったとしてもすぐ側なため、話しかけようとすればすぐに声がかけられる。
 何かを思いだしたかのように、瀬田は善之の方へ顔を向けてきた。

「別に俺は何とも思わないぞ……フットサル部! まぁ、がんばれよ!」

「……お、おう!」

 意表を突いたように言われたため、善之は一瞬キョトンとしてしまった。
 高校入学早々に問題児扱いを受けているが、どうやら中学の時と違って、見る目のあるやつにはちゃんと評価されているようだ。
 まさか応援してくれる者がいるとは思わなかったので、善之はちょっと嬉しくなった。

『……しかし、津田が動いているとなると、顧問になってくれるような教師を期待しても難しいかもな……』

 味方とは言いにくいが、応援してくれる者はいる。
 何もしないで高校生活を送っていると、エネルギーを持て余して、喧嘩三昧の日々へ突入していきそうな未来しか想像できない。
 そうならないためにも、発散させるための場所があった方が良いと思い、フットサル部、もしくは軽音部を創ろうかと思っていたのだが、顧問がいなくてはどうにもならない。
 津田は、教師に真面目な生徒と思わせるのが上手い。
 長い時間接しないから、津田の腹黒さを見抜くことができないのだろう。
 津田が教師たちに、善之たちのあることないこと吹きこめば、顧問の獲得は難航するのが目に浮かぶ。

『……まてよ! 関わらないようにするよりも、上手いこと津田を利用すれば……』

 ホームルームで担任が報告をしている中、善之が頭の中で色々と考えを巡らせていたら、ある考えが頭に浮かんできた。
 津田が裏で動くなら、それを利用すればもしかしたら部活を創ることができるかもしれない。
 その考えを、善之は他の4人にメールで集合と送り、昼休みに相談することにしたのだった。

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