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第2話
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―――――春4月―――――
【新入生の皆さん入学おめでとうございます。えー……】
海達5人組はこの日高校の入学式を迎えていた。
バーコード頭の寂しいヘアースタイルが特徴の校長が、新入生に対して祝いの言葉を述べ始める。
「竜がA組で、俺と海がC組、優がD組、勝がF組か……」
掲示板に張り出されていた通りに並べられたクラス毎のパイプ椅子。
その中のC組の列に座った善之は、隣の海に向かって小声で呟いた。
「流石に問題児を全員同じにするわけないか……」
「ひでえな……」
この高校は1学年6学級で、A~Fが進学コースで1クラス38人、Gクラスの1学級が特進コース20人になっている。
入学式会場の右からA・B・C……と並んで行っている。
海が呟いた通り、海以外の4人は中学時代少々問題児として知られていた。
単純に4人ともそれぞれの中学で暴力沙汰を起こした事があるというだけなのだが、高校側もその事を知っており、一緒にしたら良くないと判断したのか、見事にクラスがバラバラになっていた。
それでどうにかできると言うものでもないとは思うが……。
「でも、俺だけツイてるかもな?」
他の3人がバラバラになっているのを確認した善之は笑みを浮かべながら呟く。
「何が?」
言っている事の意味がよく分からなかった海は、善之へ説明を求める。
「宿題忘れても海がいる」
「……ちゃんと自分でやれよ」
善之の自分勝手な意見に、海は呆れたような表情でツッコミを入れた。
◆◆◆◆◆
「お~い! 黒は部活決めたのか?」
入学して少し経ち、少しずつクラス内で仲の良い者たちのグループが出来始めたころ、海が善之に向かって近づいて来た。
「どうすっかな? サッカー部でも見学に行こうかなって思ってたんだけど……」
善之は中学で喧嘩をしたことで問題児扱いされていたが、それは部活内で起こしたものである。
2学年上の先輩にいちいち文句をつけてくる先輩がいて、我慢の限界がきてぶん殴ったというのが問題視されている原因だ。
竜一と優介も同じような原因で、勝は部活で相手に怪我をさせてしまったからだと本人は言っていた。
フットサルをやってる関係で、5人はサッカー部の見学に行ってみることにした。
「おいっ! 黒田じゃねえか!」
「……どうも」
見学しようと、サッカー部が練習している近くに来たの5人だったが、ある部員が目に入った善之は通り過ぎようとした。
しかし、相手の方も善之の姿が目に入ったらしく、防球ネット越しにわざわざ近付いてきた。
無視しても良かったのだが、入学早々揉めたくないので軽い会釈だけした。
「お前もこの学校に入ったのかよ?」
「…………えぇ、まぁ……」
ネット越しに話しかけているサッカー部員は、どことなくにやけた表情をしている。
入学してすぐに新入生に向けて部活紹介の行事があったが、そこには出ていなかったので、こいつがいるとは思わなかった。
こんなことなら、サッカー部には近付かない方が良かったかもしれない。
「津田、そいつのこと知ってんのか?」
善之と彼(津田)の間で不穏な空気が流れていることが気になったのか、もう一人のサッカー部員が近付いてきた。
「あぁ! こいつ中学の時急に俺に殴りかかって来てよ~」
「……まじかよ?」
話しかけられた津田は、善之を指さしながらにやけ顔でその部員に説明をした。
それを受けて、その部員はあまり関わりたくないと思ったのか、善之のことを少し引いた目で見た。
「………………」
その視線には慣れている。
善之は無言で津田への視線を外した。
先程津田が言ったことは事実で、善之が問題児扱いされる原因が今目の前にいる津田だ。
中学のサッカー部時代、ポジション的に右サイドのMFの善之と右サイドDFの津田は連携が上手くいかなかった。
オーバーラップしたら絶対使えと津田はいっていたが、状況に応じてそれを囮に使ったりするのは当然の選択だ。
ある日、たまたまオーバーラップした津田を一回も使わないで終わった試合があった。
それが癪にさわったのだろう。
その日以降、試合や練習で善之がミスしたかのように見えるギリギリのパスを送って来るようになった。
普通に見たらちょっと厳しいパスに見えなくもないが、善之がミスしたかのように大声で注意をすることで周りにもそのように思わせる。
小さい嫌がらせだが、津田はそういった姑息な手が上手かった。
現代でもまだ体育会系の上下関係は多かれ少なかれある。
当時、善之の学校のサッカー部には先輩の注意に口答えするのは良くないと、暗黙のルールがあったのでしばらくは我慢をした。
しかし、その津田の絶妙な嫌がらせでレギュラー落ちしてしまい落ち込んでいた時、善之にしか聞こえない声で津田が「ざまぁ!」と言ったのを聞いて限界が来た。
気付いたら津田の顔面を殴っていた。
「もしかしてサッカー部に入るつもりか?」
その時の事を思い出して黙っていた善之だったが、津田はいまだにやけたまま問いかけてきた。
「勘弁してくれよ~。また訳もなく殴られたらシャレになんねえからよ~」
「あ゛っ?」
軽い口調で、明らかに善之を挑発するように津田は肩をすくめる仕草をした。
善之はくキレやすくないが、我慢強くもない。
黙って聞いていれば、まるで自分は被害者のような言葉や態度をしている津田に、一気に怒りが湧いた。
ネット越しだから調子こいているのだろうと、善之は制服のネクタイを緩めながら津田を睨みつけた。
「ストップ! 落ち着け黒!」
これ以上いくと喧嘩になると判断した海は、善之と津田の間に入り、なんとか怒りを鎮めようとした。
「チッ!」
海が視界に入ったことで少し怒りが収まった善之は、舌打をしてその場から離れて行った。
「今日は帰ろうぜ! 皆も、なっ!?」
成り行きを黙って見ていた竜一たち3人も目付きが鋭くなっている。
特に一番喧嘩っ早い竜一は、拳を握っていて善之より先に殴りかかりそうな雰囲気を出している。
「何だ? 黒田、見て行かねえのか~?」
三人の視線に気付いていないらしく、離れて行く善之の背中へ向けて津田はにやけながら煽る。
「おいっ!!」
「あっ!? な、何だ?」
入学早々に喧嘩沙汰は流石にまずいという気持ちが残っていたのか、竜一は殴りに行くのはどうにか我慢し、こめかみに青筋立てながら津田に話しかけた。
そこでようやく3人の視線に気付いたらしく、津田は軽く腰が引ける。
「てめぇ、調子こいてんじゃねえぞ!」
「…………殺すぞ!」
「おい、行こうぜ二人とも……」
竜一と優介が軽く脅し文句をいって、善之の後を追った。
この中ではまだ冷静な勝也は、殴りかかりそうになるのを抑え、2人の背中を押して善之たちを追うことを促した。
「……な、なんだ? あいつら……」
竜一たちが善之の仲間だと分かっていない津田は、いきなり目付きの悪い新入生に脅しをかけられたことに首を傾げた。
後を追ったのを見て、善之の知り合いだということに気付く。
「そんないい方したら犯人だってバレるかもしれないだろ……ね?」
「っ!?」
最後にそこから離れる時、ここで揉めたところを他の者に見られ、後で密かにボコったら自分たちのせいになるという意味で2人に注意する。
だが、取りようによっては、犯人だと疑われないようにもっと上手いことやろうと言っているようにも聞こえる。
特に最後の「ね?」には本気の殺気がこもっていたようにも思え、実は勝也が一番恐ろしい内容の発言をしていると、5人がいなくなってから少しして気付き、津田は顔を青くしたのだった。
この後、他の部活にも見学に行った5人だったが、終始不機嫌そうな表情をしていたせいで、どこからも入部を遠慮されたのだった。
【新入生の皆さん入学おめでとうございます。えー……】
海達5人組はこの日高校の入学式を迎えていた。
バーコード頭の寂しいヘアースタイルが特徴の校長が、新入生に対して祝いの言葉を述べ始める。
「竜がA組で、俺と海がC組、優がD組、勝がF組か……」
掲示板に張り出されていた通りに並べられたクラス毎のパイプ椅子。
その中のC組の列に座った善之は、隣の海に向かって小声で呟いた。
「流石に問題児を全員同じにするわけないか……」
「ひでえな……」
この高校は1学年6学級で、A~Fが進学コースで1クラス38人、Gクラスの1学級が特進コース20人になっている。
入学式会場の右からA・B・C……と並んで行っている。
海が呟いた通り、海以外の4人は中学時代少々問題児として知られていた。
単純に4人ともそれぞれの中学で暴力沙汰を起こした事があるというだけなのだが、高校側もその事を知っており、一緒にしたら良くないと判断したのか、見事にクラスがバラバラになっていた。
それでどうにかできると言うものでもないとは思うが……。
「でも、俺だけツイてるかもな?」
他の3人がバラバラになっているのを確認した善之は笑みを浮かべながら呟く。
「何が?」
言っている事の意味がよく分からなかった海は、善之へ説明を求める。
「宿題忘れても海がいる」
「……ちゃんと自分でやれよ」
善之の自分勝手な意見に、海は呆れたような表情でツッコミを入れた。
◆◆◆◆◆
「お~い! 黒は部活決めたのか?」
入学して少し経ち、少しずつクラス内で仲の良い者たちのグループが出来始めたころ、海が善之に向かって近づいて来た。
「どうすっかな? サッカー部でも見学に行こうかなって思ってたんだけど……」
善之は中学で喧嘩をしたことで問題児扱いされていたが、それは部活内で起こしたものである。
2学年上の先輩にいちいち文句をつけてくる先輩がいて、我慢の限界がきてぶん殴ったというのが問題視されている原因だ。
竜一と優介も同じような原因で、勝は部活で相手に怪我をさせてしまったからだと本人は言っていた。
フットサルをやってる関係で、5人はサッカー部の見学に行ってみることにした。
「おいっ! 黒田じゃねえか!」
「……どうも」
見学しようと、サッカー部が練習している近くに来たの5人だったが、ある部員が目に入った善之は通り過ぎようとした。
しかし、相手の方も善之の姿が目に入ったらしく、防球ネット越しにわざわざ近付いてきた。
無視しても良かったのだが、入学早々揉めたくないので軽い会釈だけした。
「お前もこの学校に入ったのかよ?」
「…………えぇ、まぁ……」
ネット越しに話しかけているサッカー部員は、どことなくにやけた表情をしている。
入学してすぐに新入生に向けて部活紹介の行事があったが、そこには出ていなかったので、こいつがいるとは思わなかった。
こんなことなら、サッカー部には近付かない方が良かったかもしれない。
「津田、そいつのこと知ってんのか?」
善之と彼(津田)の間で不穏な空気が流れていることが気になったのか、もう一人のサッカー部員が近付いてきた。
「あぁ! こいつ中学の時急に俺に殴りかかって来てよ~」
「……まじかよ?」
話しかけられた津田は、善之を指さしながらにやけ顔でその部員に説明をした。
それを受けて、その部員はあまり関わりたくないと思ったのか、善之のことを少し引いた目で見た。
「………………」
その視線には慣れている。
善之は無言で津田への視線を外した。
先程津田が言ったことは事実で、善之が問題児扱いされる原因が今目の前にいる津田だ。
中学のサッカー部時代、ポジション的に右サイドのMFの善之と右サイドDFの津田は連携が上手くいかなかった。
オーバーラップしたら絶対使えと津田はいっていたが、状況に応じてそれを囮に使ったりするのは当然の選択だ。
ある日、たまたまオーバーラップした津田を一回も使わないで終わった試合があった。
それが癪にさわったのだろう。
その日以降、試合や練習で善之がミスしたかのように見えるギリギリのパスを送って来るようになった。
普通に見たらちょっと厳しいパスに見えなくもないが、善之がミスしたかのように大声で注意をすることで周りにもそのように思わせる。
小さい嫌がらせだが、津田はそういった姑息な手が上手かった。
現代でもまだ体育会系の上下関係は多かれ少なかれある。
当時、善之の学校のサッカー部には先輩の注意に口答えするのは良くないと、暗黙のルールがあったのでしばらくは我慢をした。
しかし、その津田の絶妙な嫌がらせでレギュラー落ちしてしまい落ち込んでいた時、善之にしか聞こえない声で津田が「ざまぁ!」と言ったのを聞いて限界が来た。
気付いたら津田の顔面を殴っていた。
「もしかしてサッカー部に入るつもりか?」
その時の事を思い出して黙っていた善之だったが、津田はいまだにやけたまま問いかけてきた。
「勘弁してくれよ~。また訳もなく殴られたらシャレになんねえからよ~」
「あ゛っ?」
軽い口調で、明らかに善之を挑発するように津田は肩をすくめる仕草をした。
善之はくキレやすくないが、我慢強くもない。
黙って聞いていれば、まるで自分は被害者のような言葉や態度をしている津田に、一気に怒りが湧いた。
ネット越しだから調子こいているのだろうと、善之は制服のネクタイを緩めながら津田を睨みつけた。
「ストップ! 落ち着け黒!」
これ以上いくと喧嘩になると判断した海は、善之と津田の間に入り、なんとか怒りを鎮めようとした。
「チッ!」
海が視界に入ったことで少し怒りが収まった善之は、舌打をしてその場から離れて行った。
「今日は帰ろうぜ! 皆も、なっ!?」
成り行きを黙って見ていた竜一たち3人も目付きが鋭くなっている。
特に一番喧嘩っ早い竜一は、拳を握っていて善之より先に殴りかかりそうな雰囲気を出している。
「何だ? 黒田、見て行かねえのか~?」
三人の視線に気付いていないらしく、離れて行く善之の背中へ向けて津田はにやけながら煽る。
「おいっ!!」
「あっ!? な、何だ?」
入学早々に喧嘩沙汰は流石にまずいという気持ちが残っていたのか、竜一は殴りに行くのはどうにか我慢し、こめかみに青筋立てながら津田に話しかけた。
そこでようやく3人の視線に気付いたらしく、津田は軽く腰が引ける。
「てめぇ、調子こいてんじゃねえぞ!」
「…………殺すぞ!」
「おい、行こうぜ二人とも……」
竜一と優介が軽く脅し文句をいって、善之の後を追った。
この中ではまだ冷静な勝也は、殴りかかりそうになるのを抑え、2人の背中を押して善之たちを追うことを促した。
「……な、なんだ? あいつら……」
竜一たちが善之の仲間だと分かっていない津田は、いきなり目付きの悪い新入生に脅しをかけられたことに首を傾げた。
後を追ったのを見て、善之の知り合いだということに気付く。
「そんないい方したら犯人だってバレるかもしれないだろ……ね?」
「っ!?」
最後にそこから離れる時、ここで揉めたところを他の者に見られ、後で密かにボコったら自分たちのせいになるという意味で2人に注意する。
だが、取りようによっては、犯人だと疑われないようにもっと上手いことやろうと言っているようにも聞こえる。
特に最後の「ね?」には本気の殺気がこもっていたようにも思え、実は勝也が一番恐ろしい内容の発言をしていると、5人がいなくなってから少しして気付き、津田は顔を青くしたのだった。
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