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第14章
第375話
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「……じゃあな、長生きしろよ。キュウ………」
最後に残ったエルフ、ケイ・デ・アンヘル。
エルフでありながら、100年と数十年の年月しか経たず、その人生は終了を迎えた。
奇しくも、妻である美花と同じ脳の病気によりものだった。
吐き気・頭痛などで苦しんだが、せめてもの救いか記憶は最期までしっかりしており、最期は息子や孫たちに看取られてこの世を去った。
親しき者たちに最後の言葉を残していったケイは、従魔であるキュウにも色々な言葉を残し、最後に別れを告げた。
【ご主人……】
静かに眠りについたケイの姿、その夢からキュウは目を覚ます。
夢とは言え、主人の姿を久々に見ることができたキュウは、悲しそうだがどこか嬉しそうでもある。
「おはようございますキュウ様」
【おはよう】
現国王であるロレンシオが、キュウが目覚めたことに気付き挨拶する。
キュウが1日を過ごす離宮には、もうここ数年王族くらいしか入らない。
多いのは王のロレンシオと息子で王太子のフェルナンドで、毎朝どちらかがキュウに会いに来ている。
「今日のお加減はいかがですか?」
【大丈夫だよ。心配かけるね……】
「いえ、お気になさらず」
ロレンシオは今日の調子を尋ね、キュウはその問いに返答する。
これはいつものルーティンだ。
この離宮には王族しか入らない、のではなく、王族しか入れないという方が正しいかもしれない。
長い年月を生きてきたキュウは、ここ数年体調が良くない
以前、体調不良により体内魔力の制御にミスが起こり、周囲にまき散らしたことがあった。
その魔力に当てられた王城内の多くの者が倒れ、大騒動になる事件が起きた。
その中で正気を保っていられたのがロレンシオとフェルナンドで、魔力量が多い人間だから堪えられたのだと結論付けられた。
その事件があったため、キュウのその日の体調を窺うのが、ロレンシオとフェルナンドの日課になっているのだ。
【…………】
「どういたしました?」
エルフ王国の者にとっての問題は、キュウが自分の魔力を抑えられないほど弱っているということだ。
初代の従魔と言うだけで、この国にとってキュウは現人神ならぬ、現玉神と言った存在になっている。
その神がいなくなることは、この国にとって守り神がいなくなるということ。
もしかしたら、現国王のロレンシオが亡くなるよりも、国民に与える衝撃は強いかもしれない。
ロレンシオにとっても、尊敬すべき初代の従魔として心の拠りどころとなっている所があるため、キュウの体調には常に気を付けている。
そんなキュウの表情だが、今日はどこか嬉しそうに見えたため、気になったロレンシオは問いかけた。
【ご主人の夢を見れたんだ……】
「おぉ、初代様の……」
体調のこともあり、キュウはこの離宮から離れなくなった。
庭園の樹々を眺めて過ごすことは飽きないが、小さい季節の変化を以外、特段面白い発見がある訳でもない。
そんな生活の中での楽しみは、主人だったケイとのことを思い出すことだ。
夢とは言え彼の姿を見ることができ、キュウは気分が良かった。
【随分無駄に長生きしたな……】
「何を仰っているのですか? この国のために、キュウ様にはいつまでも居ていただかないと……」
【そう言ってもらえるのは嬉しいけど……多分もう長くないよ】
「なっ! そんな事仰らないでください」
機嫌が良い表情から、急にしみじみと弱気な発言をする。
その発言に、ロレンシオは慰めるような言葉をかけるが、キュウの機嫌を戻すには至らない。
【元々たいしたことしてないし、この国はもう僕がいなくても大丈夫だよ】
「そんなことはありません。キュウ様が生存して頂けるだけで国民は安心できるのです」
【そうかな……?】
「はい!」
ケイが亡くなった後、キュウは多くの国民を魔物から救ってきた。
しかし、十数年も前から、この離宮で日々を過ごすだけの存在になっている。
ロレンシオもフェルナンドも王として問題ない。
フェルナンドに関しては女癖という問題があるが、それも一応治まった。
ロレンシオが心から心配してくれているのは分かるが、自分の体調が良くなることはないことは、自分がよく分かっている。
それを言うと、ロレンシオの心配を増やすだけなので、キュウはそれ以上弱気なことを言うのをやめた。
【……なんか懐かしかったな】
ロレンシオが王としての仕事をおこなうために離宮から去ると、キュウは先日面会した日向人のことを思いだしていた。
世界の魔王封印の地にあるダンジョンを全て攻略したと聞き、会って見たくなったキュウはロレンシオに面会させてもらえるように頼んだのだ。
面会の場に現れた彼は、名を俊輔と言い、日向人の特徴である黒髪黒目をしていた。
そんな俊輔を見て、キュウはある人物を思いだしていた。
髪や目の色を考えると初代王妃の美花のことを思いだしそうだが、何故か主人であるケイの姿が思い浮かんだ。
醸し出す雰囲気がどこか被り、もしかしてと確認してみたら、案の定彼も主人と同じ転生者だった。
話していると尚更ケイのことばかりを思いだしてしまうが、これでようやく主人からの言葉を伝えることができると、キュウにとってここ数年で一番嬉しい出会いだった。
【ご主人の言葉を伝えられて良かった……】
自分の寿命なんて分からない。
けれど、寿命が尽きる前に俊輔という青年にケイからの言葉を伝えられ、キュウは満足した。
【……】
【…………】
【……………………】
綺麗な夕日を見つめていたキュウは、眠くなったのかゆっくりと目を閉じる。
日向の青年と面会した数日後、エルフ王国初代の従魔キュウは、密かに息を引き取った。
国内のみの国葬がおこなわれ、多くの国民が涙を流して見送った。
その遺体は初代国王と王妃が眠る墓の隣に埋葬された。
「キュウ!」
【……ご主…人?】
「久しぶりねキュウちゃん!」「ワウッ!」
【美花ちゃん!! クウ!!】
「おいで。キュウ!」
【ご主人!! 僕、約束守ったよ! ご主人がいなくなっても長生きしたよ!】
「そうだな。偉いぞキュウ!」
【もうこれからはご主人と一緒にいられるんだよね?】
「あぁ、これからはずっと一緒だよ」
桜の木の側に立つエルフ王国初代国王と王妃の眠る墓。
そして、その隣に立つ従魔の墓。
それらは国によって丁重に管理され、いつまでもエルフ王国の成長を見守っている。
最後に残ったエルフ、ケイ・デ・アンヘル。
エルフでありながら、100年と数十年の年月しか経たず、その人生は終了を迎えた。
奇しくも、妻である美花と同じ脳の病気によりものだった。
吐き気・頭痛などで苦しんだが、せめてもの救いか記憶は最期までしっかりしており、最期は息子や孫たちに看取られてこの世を去った。
親しき者たちに最後の言葉を残していったケイは、従魔であるキュウにも色々な言葉を残し、最後に別れを告げた。
【ご主人……】
静かに眠りについたケイの姿、その夢からキュウは目を覚ます。
夢とは言え、主人の姿を久々に見ることができたキュウは、悲しそうだがどこか嬉しそうでもある。
「おはようございますキュウ様」
【おはよう】
現国王であるロレンシオが、キュウが目覚めたことに気付き挨拶する。
キュウが1日を過ごす離宮には、もうここ数年王族くらいしか入らない。
多いのは王のロレンシオと息子で王太子のフェルナンドで、毎朝どちらかがキュウに会いに来ている。
「今日のお加減はいかがですか?」
【大丈夫だよ。心配かけるね……】
「いえ、お気になさらず」
ロレンシオは今日の調子を尋ね、キュウはその問いに返答する。
これはいつものルーティンだ。
この離宮には王族しか入らない、のではなく、王族しか入れないという方が正しいかもしれない。
長い年月を生きてきたキュウは、ここ数年体調が良くない
以前、体調不良により体内魔力の制御にミスが起こり、周囲にまき散らしたことがあった。
その魔力に当てられた王城内の多くの者が倒れ、大騒動になる事件が起きた。
その中で正気を保っていられたのがロレンシオとフェルナンドで、魔力量が多い人間だから堪えられたのだと結論付けられた。
その事件があったため、キュウのその日の体調を窺うのが、ロレンシオとフェルナンドの日課になっているのだ。
【…………】
「どういたしました?」
エルフ王国の者にとっての問題は、キュウが自分の魔力を抑えられないほど弱っているということだ。
初代の従魔と言うだけで、この国にとってキュウは現人神ならぬ、現玉神と言った存在になっている。
その神がいなくなることは、この国にとって守り神がいなくなるということ。
もしかしたら、現国王のロレンシオが亡くなるよりも、国民に与える衝撃は強いかもしれない。
ロレンシオにとっても、尊敬すべき初代の従魔として心の拠りどころとなっている所があるため、キュウの体調には常に気を付けている。
そんなキュウの表情だが、今日はどこか嬉しそうに見えたため、気になったロレンシオは問いかけた。
【ご主人の夢を見れたんだ……】
「おぉ、初代様の……」
体調のこともあり、キュウはこの離宮から離れなくなった。
庭園の樹々を眺めて過ごすことは飽きないが、小さい季節の変化を以外、特段面白い発見がある訳でもない。
そんな生活の中での楽しみは、主人だったケイとのことを思い出すことだ。
夢とは言え彼の姿を見ることができ、キュウは気分が良かった。
【随分無駄に長生きしたな……】
「何を仰っているのですか? この国のために、キュウ様にはいつまでも居ていただかないと……」
【そう言ってもらえるのは嬉しいけど……多分もう長くないよ】
「なっ! そんな事仰らないでください」
機嫌が良い表情から、急にしみじみと弱気な発言をする。
その発言に、ロレンシオは慰めるような言葉をかけるが、キュウの機嫌を戻すには至らない。
【元々たいしたことしてないし、この国はもう僕がいなくても大丈夫だよ】
「そんなことはありません。キュウ様が生存して頂けるだけで国民は安心できるのです」
【そうかな……?】
「はい!」
ケイが亡くなった後、キュウは多くの国民を魔物から救ってきた。
しかし、十数年も前から、この離宮で日々を過ごすだけの存在になっている。
ロレンシオもフェルナンドも王として問題ない。
フェルナンドに関しては女癖という問題があるが、それも一応治まった。
ロレンシオが心から心配してくれているのは分かるが、自分の体調が良くなることはないことは、自分がよく分かっている。
それを言うと、ロレンシオの心配を増やすだけなので、キュウはそれ以上弱気なことを言うのをやめた。
【……なんか懐かしかったな】
ロレンシオが王としての仕事をおこなうために離宮から去ると、キュウは先日面会した日向人のことを思いだしていた。
世界の魔王封印の地にあるダンジョンを全て攻略したと聞き、会って見たくなったキュウはロレンシオに面会させてもらえるように頼んだのだ。
面会の場に現れた彼は、名を俊輔と言い、日向人の特徴である黒髪黒目をしていた。
そんな俊輔を見て、キュウはある人物を思いだしていた。
髪や目の色を考えると初代王妃の美花のことを思いだしそうだが、何故か主人であるケイの姿が思い浮かんだ。
醸し出す雰囲気がどこか被り、もしかしてと確認してみたら、案の定彼も主人と同じ転生者だった。
話していると尚更ケイのことばかりを思いだしてしまうが、これでようやく主人からの言葉を伝えることができると、キュウにとってここ数年で一番嬉しい出会いだった。
【ご主人の言葉を伝えられて良かった……】
自分の寿命なんて分からない。
けれど、寿命が尽きる前に俊輔という青年にケイからの言葉を伝えられ、キュウは満足した。
【……】
【…………】
【……………………】
綺麗な夕日を見つめていたキュウは、眠くなったのかゆっくりと目を閉じる。
日向の青年と面会した数日後、エルフ王国初代の従魔キュウは、密かに息を引き取った。
国内のみの国葬がおこなわれ、多くの国民が涙を流して見送った。
その遺体は初代国王と王妃が眠る墓の隣に埋葬された。
「キュウ!」
【……ご主…人?】
「久しぶりねキュウちゃん!」「ワウッ!」
【美花ちゃん!! クウ!!】
「おいで。キュウ!」
【ご主人!! 僕、約束守ったよ! ご主人がいなくなっても長生きしたよ!】
「そうだな。偉いぞキュウ!」
【もうこれからはご主人と一緒にいられるんだよね?】
「あぁ、これからはずっと一緒だよ」
桜の木の側に立つエルフ王国初代国王と王妃の眠る墓。
そして、その隣に立つ従魔の墓。
それらは国によって丁重に管理され、いつまでもエルフ王国の成長を見守っている。
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