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第14章

第356話

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「さて、行くか……」

【うん!】「ワウッ!」

 魔王を封印した結界内に、強力な魔物が蔓延るダンジョンが出来上がっていた。
 そのダンジョンを放置していると、魔王が復活してしまうことになる。
 まともに戦って勝つのはケイでも手に余るから封印したというのに、復活でもされたら面倒だ。
 そのため、ケイは結界内のダンジョン攻略をおこなうことにした。
 息子のレイナルドやカルロスには、もしものことを考えて自分たちのどちらかが付いて行くと言っていたが、2人とも国のことで色々忙しい身。
 生存確認にたまに来るだけで構わないと断った。
 かと言って、ダンジョンに挑むのは、ケイ1人でおこなうわけではない。
 従魔のキュウとクウを連れて行くつもりだ。
 装備を確認し、魔王を封印した結界の中に入ることにしたケイが話しかけると、キュウとクウは嬉しそうに返事をした。
 これから危険なダンジョンに挑むというのに、何だか2匹とも楽しそうだ。

【ご主人と一緒! 楽しみだね?】

「ワウッ!」

 キュウは、念話でクウに話しかける。
 この何十年も間、ケイと共に長い間出かけるということが無かった。
 しかも、前回ケイたちが調査に行った時も留守番だったので、少し残念だったのだろう。
 島での平和な生活もいいが、ケイと共に新しい場所に向かうという好奇心が、2匹の気分を高揚させているのかもしれない。

「気を付けてくれよ」

「分かっているって」

 国の仕事をするレイナルドを補佐する仕事が多いので忙しいはずなのに、カルロスはわざわざ見送りに来た。
 結界内へ向かおうとするケイが、何だか警戒感が無いので心配なようだ。
 そんな息子の心配をよそに、ケイは軽い口調で返答する。

「じゃあな!」

「あぁ……」

 ケイはカルロスに短く声をかけ、彼の見送りを受けつつ、キュウとクウを連れて魔王サカリアスを封印した結界内へと入って行った。





【えいっ!】

「ガッ!!」

 結界内に入って早々、ケイたちは魔物に遭遇する。
 前回も遭遇したギガンテスだ。
 普通の人間が遭遇したら確実に死をもたらすギガンテス。
 しかも、その変異種となれば、なお強力な魔物である。
 その魔物を、遭遇してすぐにキュウが風魔法で仕留めた。
 風の刃により、上半身と下半身が分かれた状態でギガンテスは崩れ落ちた。

「……明らかにまともなケセランパセランじゃねえな」

【えっ?】

 ギガンテスの変異種を、魔物の餌とも言われるほど弱小のケセランパセランが仕留める。
 常識的に考えて、あり得ない光景だ。
 そのあり得ないことをやってのけたキュウを見て、ケイは今更ながらに異常性を感じた。
 ケイの小さな呟きに、キュウは「何?」と言いたげな視線を送る。

「いや、何でもない」

 どう考えてもおかしいが、今さらそれを言ったところで意味がない。
 魔物を倒して嬉しそうにしているキュウを褒めるように、ケイは頭を撫でてあげた。

「ワウッ!」

「ギャッ!!」

 ダンジョン攻略が目的だが、どれほどの期間ここに滞在するか分からない。
 魔物の強さからいって、2、3日で攻略できるとは思えない。
 そのため、ケイたちは拠点となる場所を探していたのだが、またもギガンテスと遭遇することになった。
 そのギガンテスを、今度はクウがあっさりと倒した。
 身体強化した体当たりによって、巨体のギガンテスを何十メートルも吹き飛ばし、体を大木に打ち付けて絶命させた。
 大木に打ち付けた時、「グシャ!!」と大きな音を立てていたのが印象的だ。

「……よ~し、よし!」

「ハッハッハ……」

 ギガンテスを倒したクウは、「倒しましたよ!」と言わんばかりに近寄ってくる。
 そんなクウを、ケイは褒めるように頭を撫でる。
 撫でられたクウは嬉しそうに目を細めた。

『こいつも異常だよな……?』

 たまたまカンタルボス国王で見つけた柴犬そっくりの魔物のクウ。
 亡くなった妻の美花が気に入り、従魔として一緒に過ごすことになった。
 美花が亡くなったことで、契約が切れたクウはケイと同様に落ち込んでいた。
 その寂しさを紛らわせることができればと、ケイはクウを自分の従魔にすることにした。
 そんなクウは、柴犬と言っても狼らしく、まあまあの強さの魔物と言ってもいい。
 しかし、美花やケイと共に行動しているうちに、いつの間にか強くなっていった。
 キュウが異常過ぎて忘れているが、クウもギガンテスを倒せるような種類の魔物ではない。
 そのことを、ケイは内心で密かに再確認していた。

「ここでいいだろ……」

 結界内を捜索していると、ケイたちは拠点とするのに丁度いい場所を見つけた。
 樹々に覆われている森から少し離れた開けた平原のような場所を拠点とし、少し行った入り口から入り、ダンジョン攻略を開始することにした。

「懐かしいな……」

【何が?】

 拠点にできる場所を見つけ、ケイは小さく呟く。
 それが聞こえたキュウは、呟きに反応する。

「アンヘル島に流れ着いた時も、同じように拠点探しをしたと思ってな」

【ふ~ん……】

 流れ着いた時は名もなき島だったが、今ではエルフ王国の存在する島として一部には知られているアンヘル島。
 そこに流れ着いた時、ケイは前世の記憶を得ることになった。
 容姿と魔力以外にとりえのない生き人形と言われた種族。
 それがその当時のエルフの現状だった。
 しかし、ケイ1人の漂着によって、その状況が変化を起こしていった。
 今では、王国として世界へ少しずつ広まっていっている状況だ。
 国と認められ、一応国王にまでなったが、今また何もないところから行動を始めるという現状に、ケイは昔のことを思いだしていたのだ。
 魔物や人間の存在に怯えながら拠点を探していた幼少期。
 それが今では、特にそんな事気にする必要がないというのだから成長したものだと、我ながら関してしまった。
 出会う少し前のことだったため、キュウはあまりピンと来ていないようだった。

「あっ! 鹿だ!」

 拠点となる場所を決めて早々、ケイは巨大な鹿の魔物を発見する。
 発見して次の瞬間には、銃から魔力弾が飛び出して鹿の息の根を止める。
 とんでもない速度の早撃ちに、巨大鹿も撃たれたことに気付かなかったのか、フラフラ歩いて倒れて動かなくなった。

「昼食食べてからダンジョンへ向かうか?」

【賛成!】「ワウッ!」

 時間的に少し速いが、鹿肉を手に入れたケイは、昼食にすることにした。
 その提案に、キュウとクウも嬉しそうに返事をする。
 たいした容量ではないとは言っても、ケイは魔法の指輪を装着している。
 その中には色々調味料が入っているので、調理するのもそれほど苦になることはない。
 新鮮な鹿肉を味付けして焼き、ケイたちは昼食を楽しんだ。

 キュウやクウが異常だと言うが、実の所、一番異常なのは自分なのではないかということには気付かないケイだった。

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