上 下
319 / 375
第12章

第319話

しおりを挟む
「お久しぶりです。エナグア王」

「こちらこそ。今回も助力頂きありがとうございます」

 魔人大陸南にあるエナグア王国の王、アンセルモ・デ・エナグア。
 昨日のギジェルモとの戦闘の疲労も回復しないまま、ケイはラウルと共に今回の依頼達成を報告をしに王城へと向かった。
 もう依頼の達成は告げられていたらしく、王からは感謝の言葉を受けた。
 他にも色々話し、これからも魔人とエルフ両国の良好な関係の継続を約束することになった。

「エナグア殿、実は1つお願いがございまして……」

「おぉ、我々はケイ殿に世話になっている身。できる限りのことは致しましょう!」

 今回エナグア王に会いに来たのは、依頼達成の他に目的があったため、ケイはその話に移ることにした。

「この国にいるラファエルという少年なのですが、彼を一時的に私どもにお預けいただけないだでしょうか?」

「……それは、どういうことでしょうか?」

 いきなりのことなので、当然エナグア王はケイの目的が理解できない。
 レオの目的は、ラファエルのことだ。
 魔人たちも魔闘術が使える者も増えてきているので、魔物による被害は減りつつあるという話しだ。
 それでもこの先に不安が残る。
 今回の魔族との戦いで、魔王とか言われる更に危険な存在がいるということが分かった。
 それが魔人大陸に攻め込んで来た時のことを考えて、魔人のなかに突出した人間を生み出そうとケイは考えたのだ。
 そうするとなると、才能のあるラファエルが一番適任のように思える。
 そのことを、ケイは魔王という存在を隠してエナグア王へと話した。

「確かに毎回ケイ殿やドワーフ王国の手を借り続けるのも良くないですな……」

 エナグアはドワーフの道具によって守られて来た歴史があり、最近はケイに頼ることが多くなってきた。
 このままでは、いつまでも他の国に世話になり続けることになる。
 そうなると、国と名乗っている意味がない。
 大抵の自分たちのことは、自分たちで解決できるようにならないといけない。
 ケイの言うように、誰か象徴となるべき人間が欲しいところだ。

「しかし……、ケイ殿もご存じだと思うが、」

 ケイの提案はもっともだが、そこで出てくるのが魔人領の暗黙のルールだ。
 20歳を越えない者は国の外へと出ることは禁止されている。
 以前きた時にも説明したのでケイも知っているはずだ。

「分かってはおります。しかし、ラファエルなら今後の魔人たちを導く人間に必ずなると思われます。彼を数年お預けいただけないでしょうか?」

 魔人の中ではケイが見た中で、ラファエルは飛びぬけた存在だと思っている。
 今でも魔人の中では上位に存在しているが、数年ケイの下で訓練すればもっと伸びると思える。
 そう考えると、どうしてもエルフの国に連れていきたい。

「ケイ殿がそこまで言うのであれば、ラファエルとやらは相当な才の持ち主なのだろう。しかし、ここで鍛えることはできないのだろうか?」

「私どもの島も人族からの脅威にさらされています。私がここに住むという訳にはいきません」

 エルフの国はケイがいなくても、2人の息子を中心として人族のどこかの国から攻め込まれても追い払うだけの強さは持てるようになったとは思う。
 しかし、今後は魔王というどこまでの強さを有した者と戦うことになるか分からない。
 そのために、ケイは自身を強化すべく訓練を開始する予定だ。
 その訓練にラファエルも特別に加えようと思っている。
 なので、魔人領にいることはできないため、ケイはエナグア王の言葉に返答した。。

「このままでもラファエルなら魔人の中でトップを取ることができるようにはなると思われます。しかし、成長期の時期に私の指導がプラスされれば、きっと魔人族最強の名を名乗れる人間にして見せます!」

「……了解した! 特例としてラファエルをお任せしたいと思います」

「ありがとうございます!」

 ここまでいってまだルールは破れないと言うようだったら、もしかしたらケイは魔人を見捨てていたかもしれない。
 やはり昔のエルフのように、おかしなルールに縛られているのが納得できなかったのかもしれない。
 しかし、エナグア王は特別とはいえそのルールを破ることを決めた。
 そういった人間には、自分のように何かしらの結果を提供するのが一番だろう。
 自分で言ったことなのだから、ラファエルを魔人最強にして戻すしかなくなったようだ。
 エナグア王の英断に感謝し、ケイはその場から去っていったのだった。

「オシアス!」

「ケイ様? どうなさいました?」

「実は……」

 王の許しも得たし、後は兄であるオシアスの許可だけだ。
 全は急げと、ケイは転移魔法でオシアスの所へと向かった。
 昨日の戦闘で魔力を消費したため完全回復していないが、ここまでの転移は苦ではない。
 避難してきた人族を送り返すことが済んでいなかいため、オシアスは予想通りまだ北東の村にいた。
 すぐに会うことができたケイは、ラファエルを連れていくことの許可を、ラファエルの兄であるオシアスに求めた。

「……分かりました。ラファエルのことをケイ殿にお任せします」

「……本当にいいのか?」

 説明を受けたオシアスは、少し悩んだのちにケイの提案を受け入れることにした。
 このままエナグアに戻って、そのままラファエルを連れていくつもりだということも言ったため、もう少し考えたり時間を求められたりするかと思ったが、そこまで時間がかからなかったのが意外だ。
 ケイも思わず聞き返してしまった。

「えぇ! 陛下のご許可も得られたのだし、ケイ様ならきっと大丈夫でしょう」

「その通りだが……」

 たしかに未成年の子供を預かるのだから、なるべくフォローはするつもりだ。
 しかし、訓練のために連れて行くので、死にはしなくても怪我を負うことはあるかもしれない。
 なので、そこまで信頼されるとそれはそれで困ってしまう。

「弟のことを、お願いします!」

「あぁ! 任せておけ!」

 両親を亡くし、2人きりの家族。
 きっと、心配で仕方がないだろうが、それでも大事な弟のために送り出そうという決意をしたようだ。
 そのオシアスん思いを受け、ケイも気合いを入れて返事をした。
 そして、とんぼ返りするようにエナグアへと戻った。
 こんな時まで、子供を町から出してはいけないというルールが適用されるのは正直しんどい。
 どうせならラファエルも連れていき、オシアスとのしばしの別れをさせてやりたかったところだ。

「オシアスからの許可も得た。早速だが、エルフの国に向かう準備はいいか?」

「はい!」

 まだ許可をもらっていないのに、どうやらラファエルは昨日のうちに用意をしていたようだ。
 着替えなどは、ケイが持つ魔法の指輪に入れていくので問題ない。
 バレリオなどの知り合いたちにも、王からの許可証を持って説明に行ったので、激励の言葉をもらえたらしい。
 何だかやる気に満ちた目をしている。

「ラファエル! 頑張れよ!」

「うん! みんな元気で!」

 今生の別れでもないので見送りはいらないとラファエルは言ったのだが、バレリオや戦闘部隊の隊長になったエべラルドなどが見送りに来てくれた。
 兄のオシアスがいないのが少し寂しいが、急に決まったことなので仕方がない。

「じゃあ、ドワーフの国に寄って帰るか?」

「うん!」

「ドワーフ王国ですか?」

「今回の依頼達成の見返りに、魔道具をもらうことになっているんだ」

「そうなんですか……」

 エルフの国に帰るのだが、その前にドワーフの国に用がある。
 今回の依頼の達成をした見返りとして、魔道具をもらうことになっている。
 転移の魔法も見せる訳にもいかないので、ケイたちは少しの間歩きで南へと向かっていった。

「何をもらうの?」

「精米機っていう魔道具だ」

「精米機? 水車があるのに?」

 もらう魔道具を聞いて、ラウルは何故それなのかということが頭に浮かぶ。
 精米なら水車を使えば自動でできる。
 それをわざわざ魔道具でする意味があるのだろうか。

「水車は時間がかかるだろ? それがあっという間にできるんだ。精米したての米は上手いんだぞ!」

「出たよ! じいちゃんの米のこだわりが……」

 日向へ行った時に持ち帰ったので、エルフの国の米は前世の白米に近いものになっている。
 以前からケイは、水車だと精米に時間がかかっていたのが気になっていた。
 精米したての米は、ほぼ前世の米と同等の味になるはずだ。
 やはり日本人ならお米だと、ケイがドワーフたちに開発するように頼んでいたのだ。
 昔から米にうるさいケイに対し、ラウルはうんざりしたように声を漏らしたのだった。

「つべこべ言わずに行くぞ! ラファエルも付いてこい!」

「あぁ!」「はい!」

 何だか今回の危険度に比べて、たいしたことない魔道具が見返りになったとラウルは思う。
 しかし、ケイは真面目にすぐに精米できる魔道具が欲しかったので、今から貰えるのが楽しみな様子だ。
 ドワーフ王国から魔道具をもらい、嬉しそうなケイと共にラウルとラファエルも一緒にエルフ王国へと帰還したのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

強制無人島生活

デンヒロ
ファンタジー
主人公の名前は高松 真。 修学旅行中に乗っていたクルーズ船が事故に遭い、 救命いかだで脱出するも無人島に漂着してしまう。 更に一緒に流れ着いた者たちに追放された挙げ句に取り残されてしまった。 だが、助けた女の子たちと共に無人島でスローライフな日々を過ごすことに…… 果たして彼は無事に日本へ帰ることができるのか? 注意 この作品は作者のモチベーション維持のために少しずつ投稿します。 1話あたり300~1000文字くらいです。 ご了承のほどよろしくお願いします。

薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ

柚木 潤
ファンタジー
 実家の薬華異堂薬局に戻った薬剤師の舞は、亡くなった祖父から譲り受けた鍵で開けた扉の中に、不思議な漢方薬の調合が書かれた、古びた本を見つけた。  そして、異世界から助けを求める手紙が届き、舞はその異世界に転移する。  舞は不思議な薬を作り、それは魔人や魔獣にも対抗できる薬であったのだ。  そんな中、魔人の王から舞を見るなり、懐かしい人を思い出させると。  500年前にも、この異世界に転移していた女性がいたと言うのだ。  それは舞と関係のある人物であった。  その後、一部の魔人の襲撃にあうが、舞や魔人の王ブラック達の力で危機を乗り越え、人間と魔人の世界に平和が訪れた。  しかし、500年前に転移していたハナという女性が大事にしていた森がアブナイと手紙が届き、舞は再度転移する。  そして、黒い影に侵食されていた森を舞の薬や魔人達の力で復活させる事が出来たのだ。  ところが、舞が自分の世界に帰ろうとした時、黒い翼を持つ人物に遭遇し、舞に自分の世界に来てほしいと懇願する。  そこには原因不明の病の女性がいて、舞の薬で異物を分離するのだ。  そして、舞を探しに来たブラック達魔人により、昔に転移した一人の魔人を見つけるのだが、その事を隠して黒翼人として生活していたのだ。  その理由や女性の病の原因をつきとめる事が出来たのだが悲しい結果となったのだ。  戻った舞はいつもの日常を取り戻していたが、秘密の扉の中の物が燃えて灰と化したのだ。  舞はまた異世界への転移を考えるが、魔法陣は動かなかったのだ。  何とか舞は転移出来たが、その世界ではドラゴンが復活しようとしていたのだ。  舞は命懸けでドラゴンの良心を目覚めさせる事が出来、世界は火の海になる事は無かったのだ。  そんな時黒翼国の王子が、暗い森にある遺跡を見つけたのだ。   *第1章 洞窟出現編 第2章 森再生編 第3章 翼国編  第4章 火山のドラゴン編 が終了しました。  第5章 闇の遺跡編に続きます。

あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活

mio
ファンタジー
 なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。  こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。  なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。  自分の中に眠る力とは何なのか。  その答えを知った時少女は、ある決断をする。 長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

余命半年のはずが?異世界生活始めます

ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明… 不運が重なり、途方に暮れていると… 確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。

兎人ちゃんと異世界スローライフを送りたいだけなんだが

アイリスラーメン
ファンタジー
黒髪黒瞳の青年は人間不信が原因で仕事を退職。ヒキニート生活が半年以上続いたある日のこと、自宅で寝ていたはずの青年が目を覚ますと、異世界の森に転移していた。 右も左もわからない青年を助けたのは、垂れたウサ耳が愛くるしい白銀色の髪をした兎人族の美少女。 青年と兎人族の美少女は、すぐに意気投合し共同生活を始めることとなる。その後、青年の突飛な発想から無人販売所を経営することに。 そんな二人に夢ができる。それは『三食昼寝付きのスローライフ』を送ることだ。 青年と兎人ちゃんたちは苦難を乗り越えて、夢の『三食昼寝付きのスローライフ』を実現するために日々奮闘するのである。 三百六十五日目に大戦争が待ち受けていることも知らずに。 【登場人物紹介】 マサキ:本作の主人公。人間不信な性格。 ネージュ:白銀の髪と垂れたウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。恥ずかしがり屋。 クレール:薄桃色の髪と左右非対称なウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。人見知り。 ダール:オレンジ色の髪と短いウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。お腹が空くと動けない。 デール:双子の兎人族の幼女。ダールの妹。しっかり者。 ドール:双子の兎人族の幼女。ダールの妹。しっかり者。 ルナ:イングリッシュロップイヤー。大きなウサ耳で空を飛ぶ。実は幻獣と呼ばれる存在。 ビエルネス:子ウサギサイズの妖精族の美少女。マサキのことが大好きな変態妖精。 ブランシュ:外伝主人公。白髪が特徴的な兎人族の女性。世界を守るために戦う。 【お知らせ】 ◆2021/12/09:第10回ネット小説大賞の読者ピックアップに掲載。 ◆2022/05/12:第10回ネット小説大賞の一次選考通過。 ◆2022/08/02:ガトラジで作品が紹介されました。 ◆2022/08/10:第2回一二三書房WEB小説大賞の一次選考通過。 ◆2023/04/15:ノベルアッププラス総合ランキング年間1位獲得。 ◆2023/11/23:アルファポリスHOTランキング5位獲得。 ◆自費出版しました。メルカリとヤフオクで販売してます。 ※アイリスラーメンの作品です。小説の内容、テキスト、画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...