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第11章
第295話
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「本当にこっちに道があるのか?」
「はい」
ボロの服を着たケイは、スルツ王国の部隊をエヌーノへ向かうための道へと案内する。
ケイの中では、エヌーノ王国から逃れてきた市民という設定にしており、エヌーノへの近道を教えるといって一緒に北へ向けて進んでいる。
スルツの部隊の者たちも、エヌーノの市民というケイのことを信用していないらしく、いつでも斬り殺せるようにとケイの背後で剣をいつでも抜ける体勢でついてきている。
「こちらです。この川沿いに道があります」
「こんな所聞いたことがないが……」
目印となる川を見つけ、ケイはそのわき道を指差す。
山へと向かう入り口付近は、たしかに人が通れる道があるが、その先がどうなっているかは、進んでみないと分からない。
そのうえ、罠が仕掛けられているという可能性も存在しているため、このまま進むのは少し躊躇われるところだ。
「……たしかに川沿いに通れる道があるな」
数人の隊員と共に隊長らしき男が周囲を探知するが、川沿いの道付近に罠らしきものは感じられない。
言っていることが本当なら、この道を進んでみるのも手かもしれない。
「みんな、俺はこの道を通ってみようと思うのだが、どうだ?」
「隊長の考えに賛成します!」
「わざわざきつい山登りしなくて済むんなら、行ってみる価値はあると思います!」
案内されたところには、確かに道のような物が存在している。
元々ここに集まった者たちは、エヌーノ王国へ向かうために編成された山岳部隊の面々だ。
険しい道を想定した装備と荷物で来ているので、もしもこの道が険しくても対処できる。
なので、隊員たちは隊長の男の言うように、案内された道を進むことに賛成した。
「まさかこんなにすんなり山越えができるなんて……」
ケイが舗装した川沿いの道を通ると、3日でエヌーノ王国側へと辿り着いた。
そのことに、隊長の男は何とも呆気なく感じていた。
本来なら2週間近くかかるような行程が何の苦も無く進めたのだから、そう思ってしまうのも仕方がない。
「あそこがエヌーノ王国の王都入り口か……」
「私がいた時は、もう入り口で身元を調べたりすることなどもなくなっております。ですので、王都内へは何の抵抗もなく進入できるはずです」
装備を整え、王都内へ向かうことにしたスツル王国の部隊の者たち。
ケイはエヌーノの人間だということ以外は本当のことを話しているので、特に怪しまれたりすることがない。
それどころか、欲しい情報を教えてくれるので、スツルの者たちは特に警戒もしなくなっている。
「いい情報をもらった。荒事になる可能性もあるので、君は安全な場所に身を隠していてくれ」
これから一気に王都内へと入って行くということになり、隊長の男はここまで案内してくれたケイに対して感謝の言葉を述べる。
そして、王都内に入れば当然揉め事が起こる可能性があるため、巻き添えにならないように隠れているように言ってきた。
「分かりました! どうか市民だけは救ってください!」
ケイとしては、後はどうなるかを遠くで見ているつもりなので、ここで彼らと別れられるのはありがたい。
他の市民のことを気遣うような殊勝なことを言って、ケイはその場から離れて行った。
「行くぞ!」
「「「「「おうっ!!」」」」」
ケイが近くの森に姿を隠したのを確認したスツルの部隊の者たちは、隊長の一声と共にエヌーノの王都内へと進入していった。
「さて……、どうなることだか……」
スツルの部隊が町の中へ入って行ったのを見て、ケイは王都の防壁の上へと跳び上がる。
ここからなら、望遠の魔法を使ってのんびりと眺めていられる。
後はただ眺めて成り行きを見つめるだけだ。
「おいっ!」
「んっ!?」「何だっ!?」
王城を取り囲む市民たちは、武装した兵が近付いてくることに気付き慌て始める。
手には鍬や草刈り鎌などを持ち、警戒感を高めている。
「あの旗は……」
「確か、スツルの……」
市民の中には兵たちが持っている旗の紋章に目が行き、それが隣国のスツルの国旗だということに気付く。
その呟きが伝播していき、市民たちはざわざわとし始める。
そして、持っていた武器を下げ、敵対する気はないという意思表示をした。
「エヌーノの市民の皆! 我々はスツル王国の兵である!」
ケイの案内で来たスツルの兵たちは、整列して集まっている市民の前に立ち止まる。
そして、隊長の男は市民たちに向かって大きな声で話し始めた。
腹から出ている響くような隊長の言葉に、エヌーノ市民の者たちは完全に萎縮して大人しくなった。
「我々は市民の方々に危害を加えるつもりはない! エヌーノの王族を滅ぼすというなら我々に協力を願いたい!」
市民の者たちを相手に戦ってわざわざ疲弊するより、このまま市民と協力してエヌーノの王族を滅ぼすことにした方がすんなりとことが運ぶと判断した隊長の男は、協力を頼むという体で市民を味方につけることにしたようだ。
「やった!」
「スツルの協力が得られるぞ!」
市民たちはスツルの兵たちと戦うつもりはないらしく、むしろ強力な後ろ盾ができたことで喜んでいるようだ。
「この中に代表の者はいるか?」
「私が一応まとめ役のようなことをしております」
市民からしたら、どうやら王族を潰せるなら他国に協力することもいとわないようだ。
それはスツルの部隊の者たちも喜ばしい。
何の苦労もなくエヌーノを潰すことができる上に、その後この地を統治するうえでもすんなりとことを運ぶことができるだろう。
協力をする上で、まずは市民をまとめている人間と話合いたい。
そう思い、隊長の男は周りを見渡してリーダーらしき者に出て来てもらう。
「では、我々とこれからの戦略を話し合おう!」
「分かりました!」
そう言って、隊長の男は市民のリーダーらしき男と共に、近くで会議ができそうな建物へ行くことを提案した。
リーダーの男も、このまま王族が餓死するのをただ黙っているのそうかと思っていたところだ。
そのため、スツルの協力にはとてもありがたい。
言われた通り、隊長の男と主に近くの建物へ案内していったのだった。
◆◆◆◆◆
「その後は、とてもすんなりと片付きましたね。スツルから兵や物資も届き、市民の協力をしてエヌーノの王族が全員捕まりました」
案内したスツルの部隊のその後を見届けたケイは、事の成り行きを伝えにドワーフ王国へ戻ってきた。
そして、王城内へと案内されて、王太子のセベリノに説明をし始めた。
「その後、捕まった王族は市中を引き回され、磔にされてそのまま餓死するまで放置されてました」
「……そうですか」
捕まったエヌーノの王族と言っても、王妃や王女などは苦しまないように服毒死させられ、磔にされたのは男の王族だけだ。
磔にされた王と王太子は、市民から毎日のように石を投げられ、口には猿轡、顔には袋を被せられているため、どんな顔をしているか分からないまま死を迎えることになった。
「死んだことが確認された後は、火葬されて適当な場所に埋葬されていました」
「…………自業自得とはいえ、何と言って良いか分からないですね……」
自分勝手に魔人たちの所へ攻め入った時、彼らはこのような結末になることを想像していなかっただろう。
セベリノもケイも多くの市民を預かる身という意味では、エヌーノの王たちと同じ立場にある。
彼らのように自分勝手に市民を導けば、同じ結末に遭うということを肝に銘じておかなければならない。
「ご苦労様でした」
「いいえ……」
ケイとしても、結末を見れたことで教訓になった。
勝手に日向に行ったりしたことを、内心反省した。
その後、セベリノへの報告が終わったケイは、島のみんなに会いたくなり、早々に島へ転移していった。
「あっ!?」
アンヘル島の自宅へと転移すると、自宅前には2人の息子が立っていた。
たまたま近くの畑を手入れしていた2人は、ケイの姿を見て固まる。
「……おぉ!」「……おかえり」
「ただいま……」
久々の再開に、3人の間には変な空気が流れたが、息子たちと短く言葉を交わしたケイは、一緒になって畑作業を始めたのだった。
「はい」
ボロの服を着たケイは、スルツ王国の部隊をエヌーノへ向かうための道へと案内する。
ケイの中では、エヌーノ王国から逃れてきた市民という設定にしており、エヌーノへの近道を教えるといって一緒に北へ向けて進んでいる。
スルツの部隊の者たちも、エヌーノの市民というケイのことを信用していないらしく、いつでも斬り殺せるようにとケイの背後で剣をいつでも抜ける体勢でついてきている。
「こちらです。この川沿いに道があります」
「こんな所聞いたことがないが……」
目印となる川を見つけ、ケイはそのわき道を指差す。
山へと向かう入り口付近は、たしかに人が通れる道があるが、その先がどうなっているかは、進んでみないと分からない。
そのうえ、罠が仕掛けられているという可能性も存在しているため、このまま進むのは少し躊躇われるところだ。
「……たしかに川沿いに通れる道があるな」
数人の隊員と共に隊長らしき男が周囲を探知するが、川沿いの道付近に罠らしきものは感じられない。
言っていることが本当なら、この道を進んでみるのも手かもしれない。
「みんな、俺はこの道を通ってみようと思うのだが、どうだ?」
「隊長の考えに賛成します!」
「わざわざきつい山登りしなくて済むんなら、行ってみる価値はあると思います!」
案内されたところには、確かに道のような物が存在している。
元々ここに集まった者たちは、エヌーノ王国へ向かうために編成された山岳部隊の面々だ。
険しい道を想定した装備と荷物で来ているので、もしもこの道が険しくても対処できる。
なので、隊員たちは隊長の男の言うように、案内された道を進むことに賛成した。
「まさかこんなにすんなり山越えができるなんて……」
ケイが舗装した川沿いの道を通ると、3日でエヌーノ王国側へと辿り着いた。
そのことに、隊長の男は何とも呆気なく感じていた。
本来なら2週間近くかかるような行程が何の苦も無く進めたのだから、そう思ってしまうのも仕方がない。
「あそこがエヌーノ王国の王都入り口か……」
「私がいた時は、もう入り口で身元を調べたりすることなどもなくなっております。ですので、王都内へは何の抵抗もなく進入できるはずです」
装備を整え、王都内へ向かうことにしたスツル王国の部隊の者たち。
ケイはエヌーノの人間だということ以外は本当のことを話しているので、特に怪しまれたりすることがない。
それどころか、欲しい情報を教えてくれるので、スツルの者たちは特に警戒もしなくなっている。
「いい情報をもらった。荒事になる可能性もあるので、君は安全な場所に身を隠していてくれ」
これから一気に王都内へと入って行くということになり、隊長の男はここまで案内してくれたケイに対して感謝の言葉を述べる。
そして、王都内に入れば当然揉め事が起こる可能性があるため、巻き添えにならないように隠れているように言ってきた。
「分かりました! どうか市民だけは救ってください!」
ケイとしては、後はどうなるかを遠くで見ているつもりなので、ここで彼らと別れられるのはありがたい。
他の市民のことを気遣うような殊勝なことを言って、ケイはその場から離れて行った。
「行くぞ!」
「「「「「おうっ!!」」」」」
ケイが近くの森に姿を隠したのを確認したスツルの部隊の者たちは、隊長の一声と共にエヌーノの王都内へと進入していった。
「さて……、どうなることだか……」
スツルの部隊が町の中へ入って行ったのを見て、ケイは王都の防壁の上へと跳び上がる。
ここからなら、望遠の魔法を使ってのんびりと眺めていられる。
後はただ眺めて成り行きを見つめるだけだ。
「おいっ!」
「んっ!?」「何だっ!?」
王城を取り囲む市民たちは、武装した兵が近付いてくることに気付き慌て始める。
手には鍬や草刈り鎌などを持ち、警戒感を高めている。
「あの旗は……」
「確か、スツルの……」
市民の中には兵たちが持っている旗の紋章に目が行き、それが隣国のスツルの国旗だということに気付く。
その呟きが伝播していき、市民たちはざわざわとし始める。
そして、持っていた武器を下げ、敵対する気はないという意思表示をした。
「エヌーノの市民の皆! 我々はスツル王国の兵である!」
ケイの案内で来たスツルの兵たちは、整列して集まっている市民の前に立ち止まる。
そして、隊長の男は市民たちに向かって大きな声で話し始めた。
腹から出ている響くような隊長の言葉に、エヌーノ市民の者たちは完全に萎縮して大人しくなった。
「我々は市民の方々に危害を加えるつもりはない! エヌーノの王族を滅ぼすというなら我々に協力を願いたい!」
市民の者たちを相手に戦ってわざわざ疲弊するより、このまま市民と協力してエヌーノの王族を滅ぼすことにした方がすんなりとことが運ぶと判断した隊長の男は、協力を頼むという体で市民を味方につけることにしたようだ。
「やった!」
「スツルの協力が得られるぞ!」
市民たちはスツルの兵たちと戦うつもりはないらしく、むしろ強力な後ろ盾ができたことで喜んでいるようだ。
「この中に代表の者はいるか?」
「私が一応まとめ役のようなことをしております」
市民からしたら、どうやら王族を潰せるなら他国に協力することもいとわないようだ。
それはスツルの部隊の者たちも喜ばしい。
何の苦労もなくエヌーノを潰すことができる上に、その後この地を統治するうえでもすんなりとことを運ぶことができるだろう。
協力をする上で、まずは市民をまとめている人間と話合いたい。
そう思い、隊長の男は周りを見渡してリーダーらしき者に出て来てもらう。
「では、我々とこれからの戦略を話し合おう!」
「分かりました!」
そう言って、隊長の男は市民のリーダーらしき男と共に、近くで会議ができそうな建物へ行くことを提案した。
リーダーの男も、このまま王族が餓死するのをただ黙っているのそうかと思っていたところだ。
そのため、スツルの協力にはとてもありがたい。
言われた通り、隊長の男と主に近くの建物へ案内していったのだった。
◆◆◆◆◆
「その後は、とてもすんなりと片付きましたね。スツルから兵や物資も届き、市民の協力をしてエヌーノの王族が全員捕まりました」
案内したスツルの部隊のその後を見届けたケイは、事の成り行きを伝えにドワーフ王国へ戻ってきた。
そして、王城内へと案内されて、王太子のセベリノに説明をし始めた。
「その後、捕まった王族は市中を引き回され、磔にされてそのまま餓死するまで放置されてました」
「……そうですか」
捕まったエヌーノの王族と言っても、王妃や王女などは苦しまないように服毒死させられ、磔にされたのは男の王族だけだ。
磔にされた王と王太子は、市民から毎日のように石を投げられ、口には猿轡、顔には袋を被せられているため、どんな顔をしているか分からないまま死を迎えることになった。
「死んだことが確認された後は、火葬されて適当な場所に埋葬されていました」
「…………自業自得とはいえ、何と言って良いか分からないですね……」
自分勝手に魔人たちの所へ攻め入った時、彼らはこのような結末になることを想像していなかっただろう。
セベリノもケイも多くの市民を預かる身という意味では、エヌーノの王たちと同じ立場にある。
彼らのように自分勝手に市民を導けば、同じ結末に遭うということを肝に銘じておかなければならない。
「ご苦労様でした」
「いいえ……」
ケイとしても、結末を見れたことで教訓になった。
勝手に日向に行ったりしたことを、内心反省した。
その後、セベリノへの報告が終わったケイは、島のみんなに会いたくなり、早々に島へ転移していった。
「あっ!?」
アンヘル島の自宅へと転移すると、自宅前には2人の息子が立っていた。
たまたま近くの畑を手入れしていた2人は、ケイの姿を見て固まる。
「……おぉ!」「……おかえり」
「ただいま……」
久々の再開に、3人の間には変な空気が流れたが、息子たちと短く言葉を交わしたケイは、一緒になって畑作業を始めたのだった。
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