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第11章

第284話

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「フンッ!!」

 魔人たちの魔法によって有利に運ばれていた戦場で、四方から飛んで来る魔法を剣を振って斬り裂き、かき消し、無効化する男が現れた。

「全く……、こんな魔法に手こずるなんて……」

「ハシント様!!」

 その男は、地面に転がる仲間の死体を目にしながら、飽きれたような表情で呟く。
 周囲から飛んで来る魔法によって命を落とした者たちだ。
 これまで魔法に手こずっていた者たちは、強力な援護者の登場に安堵したような表情へと変わった。
 ハシントと呼ばれた彼からしたら、魔人たちの魔法はまだまだ未熟。
 この程度の魔法でやられた仲間に、レベルの低さを感じて仕方がない。

「やっぱり、出て行った方が良かったかな……」

 エヌーノ王国として建国される時、大半の同士たちが他国へと避難していった。
 元々、しがない農家の4男坊として生まれ、何か仕事をしなくてはと始めた冒険者家業。
 魔物に襲われていた所を運よく有名冒険者パーティーに拾われて、彼らに指導を受けたことによって才能が開花した。
 一人立ちしてからは、故郷のエヌーノを拠点にして動いていたのだが、昔と変わらず何も産物のないことに嫌気がさし、仲間と共にハシントも出て行こうかと思っていたが、結構な報酬と地位を与えてくれるらという提案を受け、それにつられて残ってしまったが、現状を考えると失敗だったように思えてくる。

「まぁ、勝ってから考えるか……」

 そう言うと、ハシントは周囲に探知を広げた。
 魔人たちは少しずつ移動しながら攻撃してきているらしく、魔法が飛んで来た方角にはもういなくなっていた。
 しかし、それが通じるのは探知の上手くない普通の兵士たちだけだ。
 ハシントには、どこに隠れているのかが丸分かりだ。

「そこだっ!!」

 ハシントは、探知に反応した方向へ向けて風の魔法を放つ。
 それによって樹々が斬り倒され、隠れていた魔人たちの姿が見られてしまった。

「くっ!? 散開!!」

「逃がすか!!」

 ハシントのみならず、他の人族たちにも場所を知られてしまい、このままでは集中攻撃を受けてしまいかもしれない。
 すぐに姿を隠せと、1人が指示を出す。
 しかし、そんなことはさせまいと、ハシントは魔人たちとの距離を一気に詰める。

「好き勝手やりやがって!!」

「がっ!?」

 逃げようとしていた一人に、ハシントは剣を振り下ろす。
 それを何とか剣で受け止めた魔人の兵。
 しかし、その威力に両手を使わざるを得なく、他がガラ空きになる。
 そこへハシントのミドルキックが脇に入り、鈍い音と共に蹴られた魔人兵は吹き飛ばされた。

「このっ!!」「ハッ!!」

 仲間をやられたことで、頭に血が上ったのか、側にいた魔人たちは武器を手にハシントへの攻撃に移った。

「フッ!!」

 片方は槍、もう片方は剣で攻撃をするが、ハシントは難なく後方へ飛んで攻撃を躱す。
 そして、着地する頃のには剣を鞘に収め、両手が空いた状態になっていた。

「ヌンッ!!」

「ぐあっ!!」「ぐおっ!!」

 空いた両手に魔力を集めると、ハシントはすぐさまそれを先程攻撃してきた二人に向かって放つ。
 たいして離れていない距離からの高速の魔力弾に、2人の魔人は反応できずに直撃を食らってしまう。

「止めだ!!」

 先程蹴り飛ばした者と、今の二人は痛みで動けない状況。
 他の者への攻撃を後回しにし、ハシントはまずこの三人を仕留めに入る。

「放てっ!!」

「ムッ!?」

 三人を仕留めにかかったハシントに対し、周囲から無数の魔法が降り注いだ。
 しかし、数が増えてもハシントには通用せず、全てを剣で斬られ、弾かれ無傷に終わってしまう。

「……良い判断だ」

 しかし、先程の魔法攻撃はハシントを討つためだけの攻撃ではなく、先程攻撃を受けた三人を回収するために時間を作ったというのもある。
 魔法が止んだ頃には、蹲っていた三人はいつの間にかハシントの前から姿を消していた。
 仲間を助けるために注意を反らした攻撃をしてきた判断の良さに、ハシントは敵ながら褒めたくなった。

「しかし……」

 続きとなる言葉を呟くと、ハシントはまたも探知の範囲を広げる。

「そっちか?」

 先程の三人を担いで逃げるには時間が足りない。
 探知に引っかかり、またもハシントが魔人兵たちに接近をしてきた。

「逃がす訳にはいかないな……」

「くっ!!」

 ハシントの剣が届きそうな位置まで追いつかれ、魔人の兵たちは迎撃をすべきか、このまま逃げ回るべきか悩む。
 しかし、その考える時間もなく、ハシントの剣が1人の魔人へと迫り来た。

「させん!!」

“キンッ!!”

「っ!?」

 一人の魔人兵まであと少しと言う所で、ハシントの剣は左から接近してきた魔人の剣によって弾かれた。
 その魔人の迫り来る速度がかなりのものであったために、ハシントは意外な表情をして襲撃者の顔を眺めた。

「…………魔人が魔闘術だと?」

 半年前までは魔法も使えないただの原始人たちという印象があったからか、魔法のみならず魔闘術を使っている者が現れたことに驚きが隠せない。
 魔法だけなら、半年も練習すれば多少なりとも使いこなせるようになるかもいしれないが、魔闘術までとなると信じられない。
 ハシント自身、魔闘術を使えるようになるまで相当な時間を要したものだ。
 それが半年となると、どれだけ効率よく訓練をしたのか逆に興味が湧いてくる。

「しかも二人とは……」

 ハシントの呟きの通り、目の前にいるのは先程剣を弾いた者だけでなく、もう一人いた。
 両人とも魔力を纏った状態でハシントと対峙している。

「やるぞ! エべラルド!」

「はいっ! バレリオ隊長!」

 魔闘術の使い手である二人とは、バレリオとエべラルドのことだった。
 二人は、人族の中にいるであろう魔闘術の使い手が出現した時、対応するために行動していた。
 そして、ハシントが現れたことにより、すぐさまここへ向かって来たのだった。
 バレリオは剣を、エべラルドは槍を手にハシントへ向けて構えを取ったのだった。

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