エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

文字の大きさ
上 下
280 / 375
第11章

第280話

しおりを挟む
「おいっ! また殺られたらしいぞ」

「またか?」

 木の杭を打ちつけただけの壁が周囲に張り巡らされた場所で、魔物の出現に警戒している人族の兵が2人話し合っていた。
 魔人大陸へ拠点となる場所を密かに確保すべく送ったエヌーノ王国の第2陣の兵たちは、前回とは違い上手くいっていた。
 拠点となる場所を確保し、そこに魔物を寄せ付けないよう簡易的な木の杭による壁を作り上げた。
 それにより、本国からは第3次、4次と兵が送り込まれ、侵攻拠点の拡大が順調に進んで行った。
 すでに1000人近くの人族兵が住み着き、更なる増員を受け入れる準備にかかっている。
 1ヵ月後には、西にあるエナグア王国へ攻め込むことが計画されているのだが、最近彼らの間で異変が起きていた。
 どういう訳か、死人の数が増えているのだ。
 本国からは十分な分の食料は持ってこられないため、現地調達として食料となる魔物の捕獲に向かう部隊が幾つか編成されている。
 その食料調達部隊の者たちが行方不明になり、遺体となって発見されることがここ数日続いていて、今日もそれが起きたそうだ。

「また魔物のようだ」

「あれほど探知に気を配れって言われていたのに……」

 この大陸に来て、エヌーノ王国の兵たちは魔物の強さに驚かされた。
 強いとは聞いていたが、さすがに高ランク驚異の魔物が頻繁に出現すれば仕方がない。
 とは言っても、人数と連携によって戦えば何とか倒せるレベルだったため、作戦は成功に向かった。
 中には魔物に深手を負わされた者や死人も出たが、それは極少数。
 最近のように、数人が一気に殺されるようなことはなかった。
 なかなか帰って来ないことを心配して捜索に向かうと、魔物の死骸と共に調達部隊の者たち数人の遺体と武器や装飾品が発見された。
 全員ではなく、数人の遺体しか発見されなかったのは、恐らく魔物に食料として持って行かれたのだろうと判断された。
 あまりにも頻繁にこのようなことが起こるので、人数を増やし、警戒を強めるように総員に告げられたのだが、それでも今日も起こり、誰もが言い知れぬ恐怖を感じていた。

「ここの魔物は本当に何が出るか分かんねえな」

「全くだ。警戒を強めないとな」

 調査も行っているが、ここの魔物は本当に何が出てくるか分からない。
 まだ未知の魔物が潜んでいる可能性が高い。
 警備をしている2人も、いつそんな魔物が襲い掛かって来るか分からないため、警戒を強めるのだった。






「あそこですね……」

「ケイ殿の言っていた通りです」

 着々と拠点の建築を進める人族たちに眉をひそめながらも、数人の魔人たちがその拠点を密かに眺めていた。
 人族の者たちは、食料調達に向かった者たちのことをいまだに魔物のせいだと考えているようだ。 
 しかし、実のところは魔人の者たちのよる殺害だ。
 ある程度の拠点を作り上げるまでは、エナグアの調査は後回しにするだろうとケイが言っていたが、その通りに事が進んでいる。
 そっちが調査をしなくても、こっちが調査してくると考えないのだろうか。
 たしかにここの魔物は強力だが、探知ができるようになった彼らからしたらそこまでの脅威ではない。
 探知のできない時からのデータから、強力な魔物が出現する範囲はある程度分かっている。
 その安全ルートを使ってエヌーノ王国の者たちを観察していたら、数人の者たちが定期的な時間に魔物を狩りに出かけることを突き止めた。

「国からの食料が少ないのかもしれないな……」

 ケイのいったこの発言がもっともだと、魔人の兵の皆が思った。
 捕虜からの情報だと、エヌーノ王国が領土を拡大する目的は、資源だけでなく食料の調達を目的としてのこともあるらしい。
 山に囲まれているせいか、日照時間が少なく作物の発育が良くない。
 最近では食肉に適した魔物も減り、慢性的な食糧不足に陥り始めている。
 このままだと2、3年後には餓死者が多く出てもおかしくないとのことだ。
 そんな状態だから、船に乗せて持ってこられる食料も少ないはず。
 足りない分は現地調達をするしかない。
 こちらとしてはそこが狙い目だ。

「食料調達に出た者たちを密かに仕留める」

 バレリオは悩まなかった。
 元々上手くいっていると思わせておいて、潰しにかかるという予定だった。
 一気に潰すのもいいが、少しでも数を減らしておいた方が危険性が下げられる。
 ケイは基本力を貸さないとは言っていたが、最初に上陸してきた斥候の者たちを捕まえて来てくれた。
 半年近くの付き合いから、ケイは自分たちに無理なことをさせようとしないということが分かっている。
 バレリオが暗殺することを言い出した時、特に何も言わなかったところを見ると、ケイは自分たちならできると踏んでいるのだろう。
 それに、この作戦が成功すれば、上陸している人族たちを飢餓状態に貶められる。
 ケイの言う一掃作戦もやりやすくなるはずだ。
 指導によって、今となってはほとんどの者が探知ができるようになっている。
 魔物を避けて人族たちの拠点付近に隠れ、調達に出た者たちを仕留めることは難しくなかった。

「今回も成功だ! このまま続けよう!」

「はい!」

 少しづつ調達に出る部隊の人数が増えてきている。
 しかし、まともな食事ができていないのか、抵抗力はたいして変わらない。
 バレリオはこの作戦の続行を指示したのだった。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

神々に見捨てられし者、自力で最強へ

九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。 「天職なし。最高じゃないか」 しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。 天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...