エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

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第11章

第276話

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「右に一体いますね?」

「了解!」

 ケイが魔人たちに指導を始めてから3か月の月日が経った。
 彼らの魔力の操作技術は、だいぶ上達してきている。
 しかし、まだ魔闘術が使いこなせるようになるには遠いように見える。
 それでも、魔力操作を応用した技術を会得し始めたのは良いことだ。
 ケイの言いたいことが、身をもって分かってもらえたからだ。
 今も、バレリオを中心とした4人組で魔物を捜索をする訓練を行っている。
 探知範囲がケイほど広くないので、集団で担当方角を探知しながら進んでいる。
 ケイは念のための付いてきているだけで、何の口出しもしていない。

「前方に一体確認しました。このままでは遭遇する可能性が高いです」

 4人は前後左右で探知する範囲を分けており、もしも探知できなかった魔物が出現してきたら一番危険な後方をバレリオが担当している。
 トランプのダイヤ型のフォーメーションで進む中、前方の青年がストップをかける。
 ケイの魔物討伐に参加したエべラルドだ。
 彼もあれから訓練を真面目におこなったからか上達し、この訓練に参加している。

「……さっきの一体もいるし、これ以上は危険だ。退くぞ!」

「「「はい」」」

 これまでに探知できた魔物の位置から、これ以上進むと魔物の方にも気づかれ、戦闘することになってしまう。
 今回のケイが課した訓練は、魔物を探知し、戦うことなくどこまで森を進めるかというものだ。
 魔力の操作が上手くなったとは言っても、はっきり言ってそれほど強くなったわけではない。
 まだ少数でここの魔物と戦う訳にはいかないので、危険と分かれば撤退するように言ってある。
 流石に、バレリオは状況を見て指示を出すのが上手い。
 深追いをして、仲間を危険にさらすようなことはせず、撤退の合図を出す。
 他の3人も危険だと分かっているので、素直にその指示に従う。
 いいタイミングで撤退の合図を出したため、魔物と遭遇することなく町へ戻ることに成功した。

「4人とも上手かった。バレリオの状況判断は元々だから言うことはないが、これで探知の方は大丈夫そうだな?」

「「「「ありがとうございます!!」」」」

 今回の訓練は、魔人の兵たちの中で、一番魔力の操作が上手い者を選抜して行った実験的な訓練だった。
 理想を言えば、もう兵の全員がこの訓練をクリア出来ていて欲しかったが、出発が全然魔力操作を鍛えないできた者たちだから仕方ないと思うしかない。

「じゃあ、今日は解散!」 

「「「「はい!」」」」

 今日の訓練は終わりにし、バレリオたちは城壁の中へ、ケイは魔物を少し狩って来ると言って、1人森の中へ入って行った。






「ここが魔人大陸か?」

「言われている通り、魔素が濃いな……」

 ケイたちが訓練を終えた頃、魔人大陸の南東にある海岸から密かに侵入する者たちがいた。
 見た目からいって、人族なのはわかる。
 総勢8人が2隻の小舟から降り、静かに行動を開始した。
 見て分かるような物ではないが、肌に触れる感覚などから人族大陸とは違う魔素の濃度を感じる。
 危険な魔物が多いという話も、来るまでは少し舐めていた感があったが、気を引き締めなければならないと全員が思っていた。

「お前ら何してんの?」

「「「「「「「っ!?」」」」」」」」

 上陸し、魔素の感覚から魔物に注意しようと、彼らも探知はしていた。
 しかし、いつの間にか一人の人間が彼らの側に立っていた。
 
「エルフだと!? いつの間に……!?」

 立っていたのはケイだ。
 魔物を狩ると言うのは嘘で、この人族たちの存在に気付いたケイは、バレリオたちを町の中に帰して安全を確保してからすぐさまこちらへと向かって来たのだ。
 エナグアからは結構離れていたが、転移してきたのであっという間だ。
 魔人大陸に来たと言うのに、初めて遭遇した人種が最近は危険な種族という噂が流れ始めているエルフだった。
 予想外の者との遭遇に、8人がそれぞれ驚いている。

「何だ? 潜入捜査でもしに来たのか?」

「チッ!」

 当てずっぽうでケイが問いかけると、図星だったのか8人はすぐさま行動を開始した。
 連携をとってケイへと攻撃をしてきたのだ。

「馬鹿な!!」「消えた!?」

 左右から短剣で攻撃をしてきたが、ケイはそれを跳び上がって回避し、そのまま近くに立っている樹の枝に着地する。
 その回避速度があまりにも速かったからか、侵入者たちはケイの姿を一瞬見失う。

「ハッ!!」

 樹の枝に乗ったままケイは攻撃を開始する。
 2丁の銃を抜き、8人に向けて一発ずつ放つ。

「ぐっ!?」「がっ!?」

 8人の内、最初に攻撃をした2人が一番近かったからか、防御が間に合わず銃弾が胸に直撃して動けなくなる。
 場所が場所だけに即死だろう。
 他の6人は、何とか魔力障壁が間に合い銃弾を防いだ。

「2、3人生かしておけば十分だろう……」

 彼らからは、生かして狙いを吐かせないといけない。
 とは言っても、 連れ帰るのも無理なので、全員生かしておく必要はない。
 そのため、生かしておくのは2、3人。
 取り合えず、戦いながら成り行きで残す者を決めることにした。

「このっ!!」「ハッ!!」

 全員黒ずくめの恰好をしている所を見ると、斥候部隊のものななのかもしれない。
 バランスが良いタイプを集めたのか、樹の上のケイに向かって2人が威力のある魔法を放ってきた。

「タメが遅い!!」

 たしかに威力のある魔法だが、ケイからすると魔力を手に集める速度が遅く、バレリオより少し速いくらいでしかなかった。
 これでよく斥候を任されているものだ。
 飛んできた火球と岩弾を躱し、ケイは魔法を放った二人の懐へと飛び込んだ。

「うっ!?」「ごっ!?」

 この2人に対し、ケイは腹へ肘と膝を打ち込む。
 攻撃を受けた2人は、反射的に腹を抑えて蹲る。

「野郎!!」「こいつっ!!」

 仲間がどんどんやられていることに腹を立てたのか、攻撃したばかりのケイに向かって2人が短剣で突き刺そうとしてくる。

「ほいっ! ほいっ!」

「なっ!?」「わっ!?」

 腹を抑えて蹲った2人を、攻撃してくる2人に向かって蹴り飛ばすことで、無理やり攻撃を中断させる。
 同士打ちをしないように攻撃を止め、飛んで来た仲間を受け止めた2人。
 その選択のせいでガードがガラ空きだ。

「フンッ!!」

「っ!!」「ヒュっ!?」

 そのガードがら空きの2人の頭部に、銃弾を撃ち込む。
 抵抗することも出来ずに、2人は頭部へ穴を開けて絶命した。

「っ!!」「強すぎる……」

 まだ無傷の2人は、あっという間に6人やられたことで腰が引けている。
 ケイに攻撃するという気持ちはもう薄れていた。

「お前らだけでいいか?」

「「っ!!」」

 残った2人に聞こえるように一言呟くと、ケイは腹へ受けた攻撃で動けないでいる2人の頭へ銃弾を撃ち込んで殺害する。
 
「ヒイィー!!」「うわー!!」

 何も出ずにあっさりと仲間を殺され、ケイへの恐怖が一気に沸き上がった。
 もう戦うという心は砕かれ、2人はケイに背を向けて走り出した。

「逃がす訳ないだろ?」

 顔面を恐怖の表情に変え、無様に逃げる2人を、当然ケイは逃がさない。

「「っ!!」」

 すぐに追いかけ、追いついたケイは2人の首に手刀を落とす。
 逃げることに必死だった2人は、何の反応も出来ず気を失って倒れ込んだ。

「さて、帰るか……」

 気を失った2人を捕縛し、殺した6人を魔法の指輪に収納する。
 死体からも何か得られるかもしれないので、魔物の餌にする訳にはいかないからだ。
 それが済むと、ケイは転移の扉を開いてエナグアへと戻っていったのだった。

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