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第11章

第271話

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「いかがでしたか?」

 バレリオとの手合わせを終えたケイに、セベリノが近付きながら問いかける。
 ケイが、魔人の実力がどんなものかと判断するために挑発に乗ったのが分かっているので、その結果を聞きたいのだ。

「彼が頂点だとするとまずいですね」

「……でしょうね」

 ケイが率直にバレリオの実力の感想を述べると、予想通りの感想だったのか、同意するように呟いた。
 手合わせを開始して、ケイはすぐに魔闘術を発動したが、バレリオは発動しなかった。
 もしかしたら、瞬間的に魔力を使うタイプなのかとも思ったが、それもしなかった。
 魔力を使わず、単純な身体能力でケイに向かって攻撃をしかけてきたのだ。

「そもそも、魔力の使い方がなってないですね」

 ケイに対して手加減しているのかとも思い、瞬間的に魔力を使って移動する方法も試してみたのだが、ついてくるどころか完全に姿を見失っていた。
 姿を見失っても、魔力を使って探知をする訳でもない。
 武器の性能を使う時だけにしか魔力を使っていない状況だった。
 せめて牽制に魔法を放ってくるくらいのことをしていたら良かったのだが、それすら無いとなると、人族よりも魔力があっても何の意味も成さない。
 完全に宝の持ち腐れといったところだ。

「ただ、身体能力はすごいですね」

 良い所をあげるとすれば、開始後の突進はちょっと良かった。
 魔力を使っていないのにあれほどの速度が出せるのは、ケイとしては羨ましいところだ。
 エルフは、魔力の量は莫大だが、身体能力が乏しい。
 生物を倒すことによるレベルアップも、エルフは魔力以外は大したことがない。
 それでもケイは人族の平民よりかは上まで持って来たが、戦闘を生業としている兵や冒険者に比べたら話にならないレベルだ。
 だが、バレリオは高ランクの冒険者たちと同等レベルの速度を出していた。
 魔人大陸の魔物は強力だとよく言われるが、相当な質と数の魔物を倒してきたのだろう。
 それだけに惜しい。

「俺に頼んだ理由はこれですかね?」

「はい。武器を与えたのは良かったのですが、それに頼ってしまい、折角の魔力を使うという考えがなくなってしまっているのです」

 魔物が出た場合、魔人たちは多くの人間で囲んで、ドワーフ製の武器で弱らせていき、倒すという方法を取っているらしい。
 魔力を使うことによって攻撃力の上がった武器なら、たしかに強い魔物にも傷を付けられるだろう。
 魔人と人族は元々は同じ先祖を持つというのに、生まれ育った土地柄なのか魔人は人族と比べて魔力が多い。
 なのに、その魔力を全然利用できていない。
 まるで昔のエルフたちと似ているようにも思えた。
 非戦闘なのは良しとしても、魔力を使って逃走を計るくらいのことをしていれば、もう少し生き残りがいたかもしれない。
 恐らく、セベリノはこのことが分かって自分に頼んだのだろうとケイは思い至った。
 案の定、ケイの問いにセベリノは頷いた。

「魔闘術を使える人間がいるのといないのとではかなり話が変わってくる。少しでも使える人間を増やさないと……」

 ケイとの手合わせでも分かったように、折角の魔力を使わないのでは、攻め込んでくる人族に対抗するのは極めて難しい。
 人族の兵の中には、魔闘術を使える人間も少数ながらいるはずだ。
 そんな者を相手に、身体能力で戦おうなんて危険すぎる。
 魔闘術は使えるようになるまでは時間がかかため、一先ず置いておくとして、せめて魔力を使った戦闘方法を教えないといけないようだ。

「彼らには他にも武器を渡すつもりですが、このままだと人族に搾取されるままではないかと……」

「何故そこまで魔人を助けるのですか?」

 ドワーフ王国は、魔人たち……特に近いエナグア王国のために、武器を渡すというボランティアに近いことをしている。
 それだけでも十分なのに、ケイに訓練を頼んだり、更なる武器の譲渡を考えているなど、随分肩を持っている。
 いくら何でもと疑問に思うのは、ケイじゃなくても当然のことだ。

「……ぶっちゃけると、魔人大陸で取れる金属や多くの魔物の素材が魔道具開発に必要だからです」

「なるほど」

 地球でもそうだが、国によって取れる金属などはまちまちだ。
 魔人大陸には、ドワーフの魔道具開発に必要なレアアースがよく取れるのだろう。
 魔道具開発で名高いドワーフ王国からすると、人族にそれを奪われるのは何としても止めたいと思うのは当然だ。
 それならば、たしかに助力するのも納得できる。

「半年以内で魔闘術を使える者が生まれるかはきついですね」

 日向の国で、善貞が短時間でもあっさりと魔闘術を使えるようになった。
 しかし、あれは日向の文化や善貞自身の努力によるところが大きい。
 魔闘術という物があるということを知っていて訓練した者と違い、魔人たちは魔力に対して全く見識がない。
 ほとんど出来上がっていた善貞と違い、いわばゼロからのスタートだ。
 半年で使える人間を生み出すのは、いくらケイでも難しい。

「頼んでおいて申し訳ないのですが……できますか?」

「……難しいですがやってみます」

 セベリノ自身も、頼んでおいてなんだが難しいのは分かっている。
 ケイに頼むというのも、僅かな可能性に縋る思いだ。
 ドワーフの武器と兵を送り、協力して人族の侵攻を防ごうと考えていたが、出来ることはしておこうと、ケイに無茶ぶりしたのは分かっている。
 それが分かっているので、申し訳なさそうに言うセベリノに、協力を承諾してしまったケイは、悩ましく思いつつもやることにした。

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