エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

文字の大きさ
上 下
266 / 375
第11章

第266話

しおりを挟む
「あっ!!」

「あっ!!」

 転移魔法を使って、アンヘル島へと戻ってきたケイ。
 戻ってきたはいいが、家出のように姿を消したため、バツが悪いので誰にも見つからないように物陰に隠れながら自宅へ向かっていた。
 しかし、その途中に、たまたま通りすがった孫のラウルと目が合ってしまった。

「お父さん! じいちゃんが返って来たよ!」

「あっ!! ちょっ……ラウル……」

 折角バレないようにしていたというのに、ラウルはあっさりと大声を出してレイナルドを呼びに行ってしまった。
 その声に反応し、島のみんなにも自分が戻って来た事がバレた。
 みんな心配していたため、ケイが戻ってきたことを喜んでくれた。
 しかし、ケイなら死ぬこともないだろうと、そこまで心配していなかったと言う者がほとんどだった。

「「お・帰・り」」

「た、ただいま……」

 皆と挨拶をして自宅に戻ると、息子のレイナルドとカルロスが、仁王立ちして待ち受けていた。
 その背後には、炎のような物が燃え盛っているような錯覚に陥る。
 それだけで、相当腹が立っているんだろうと理解できた。
 そのため、ケイは少し低姿勢で挨拶を返した。

「ったく! いきなり後は任せるとか言っていなくなるなんて、何考えているんだよ!」

「いや~、すまんすまん」

 とりあえず椅子に座ると、ケイはレイナルドから説教を受けた。
 それはそうだろう。
 美花の死で沈んでいた人間がいきなり姿を消したものだから、いくらケイでもどこかで野垂れ死んでいる可能性も考えられたからだ。

「まぁ、まぁ、父さんも無事戻って来たんだし良しとしようよ」

「……そうだな」

 カルロスの方はレイナルドほど心配していなかったようで、ケイが元気そうなので怒りも跳んでしまったようだ。
 こんな時キュウとクウが入ってくれればもっとありがたいのだが、2匹とも島の子供に捕まって外で遊んでいる状況だ。
 ケイとしては、援護がもらえて助かった。
 レイナルドも怒りも治まったようだ。

「……じゃあ、これ返すよ」

 もしもの時に使えるように、ケイは大容量の方をレイナルドに、美花の形見の方の魔法の指輪をそれぞれ2人に渡しておいた。
 それも、ケイが戻って来たので、レイナルドたちは返そうとする。

「いや、それはお前らに渡したんだし、お前らがそのまま使えよ」

「「えっ?」」

 指輪を返そうとする2人を、ケイは止めた。
 ドワーフ特製の魔法の指輪は、この島にもしもの時が起こった時にを必要な物。
 以前から島外へ出る機会が多かったケイが付けているよりも、しっかり者のレイナルドが付けている方が安心できる。
 カルロスでも良いかとも思うが、脳筋な部分が感じ取れるのでやめておいた。
 その代わりと言っては何だが、カルロスには美花の付けていた魔法の指輪を渡すことにした。
 美花の魔法の指輪は、狩りや戦いで使うには十分な容量だ。
 ケイのよりも容量があるので、使い勝手がいいはずだ。

「島のことはこのまま俺らに任せるってこと?」

「あぁ」

 予定はないが、獣人国やドワーフ王国と関わる時、島を離れたケイに代わって島を仕切るのはこの2人が適任だ。
 ケイがいなかった時も何事もなかったようなので、このまま任せることにした。

「……もしかして、面倒だから押し付けたってことないよな?」

「……ないよ」

 何だかまた島からいなくなりそうな気がしたのか、レイナルドは鋭い質問をしてきた。
 それに対し、ケイはすぐに言葉を返すことができなかった。

「今間があったぞ!」

「そんなことないって……」

 カルロスに間が空いたことを突っ込まれたが、ケイは首を横に振って否定する。
 実は図星とは言える訳がない。
 この島は大好きだが、まだまだ心配なことは尽きない。
 以前のように、どこかの人族の国が攻めて来る可能性も完全には否定できないし、北にある火山も時折地震を起こすなどしており、噴火する気配も残っている。
 対策をしてるが、他にも色々と練っておきたい。
 そのためには、ドワーフ王国の力を借りて何か魔道具を開発して貰おうかと思っている。
 決して、以前の魔道具開発が楽しくて行きたいと思っている訳ではない。

「父さんは好きにしてもいいよ」

「本当か?」

 これまでのことがあるからだろうか、レイナルドはケイが島の外で動き回るのも別に文句はない。
 結局それはこの島のためになることばかりだったからだ。
 むしろ、母である美花が亡くなった時、父のケイが相当落ち込んでいたのが心配だった。
 急にいなくなり、更に心配が膨らんだが、今のケイを見る限りもう大丈夫そうだ。
 あの時のように沈んだ父を見ているよりも、どこに行っているか分かった上で好きに動いてもらった方が何倍もマシだ。
 なので、レイナルドはケイの好きにさせることにしたのだ。

「そうだ!」

「んっ?」

 色々と一段落したところで、レイナルドはあることを思い出した。
 どうせケイはここにいたら問題が起こる。
 それ自体は大したことではないのだが、それとは別のことでケイには動いてもらいたい。

「この魔法の指輪で思い出したんだけど……」

「あぁ……」

 レイナルドの付けているのは、ドワーフ王国でもらった魔法の指輪だ。
 ということは、ドワーフ王国のことなのだろう。

「魔人のことで用があるから、家の島からも誰か来てくれないかって話だった」

「魔人……?」

 そう言えば日向を去る時に八坂にも言われていた。
 人族のどこかの国が魔人族の領に侵攻するとかしないとか。
 どうやらそれにドワーフ族が関わっているのかもしれない。
 レイナルドたちからしたら、ケイがこの時に帰って来たのは都合が良かった。

「しょうがない。行くか……」

 折角島に帰ってきたと言うのに、また外へと行けなくてはならなくなった。
 ドワーフ王国にいつか遊びに行くつもりだったとは言っても、急できな臭い話になりどうなことに嫌そうな顔をするケイだった。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ

柚木 潤
ファンタジー
 実家の薬華異堂薬局に戻った薬剤師の舞は、亡くなった祖父から譲り受けた鍵で開けた扉の中に、不思議な漢方薬の調合が書かれた、古びた本を見つけた。  そして、異世界から助けを求める手紙が届き、舞はその異世界に転移する。  舞は不思議な薬を作り、それは魔人や魔獣にも対抗できる薬であったのだ。  そんな中、魔人の王から舞を見るなり、懐かしい人を思い出させると。  500年前にも、この異世界に転移していた女性がいたと言うのだ。  それは舞と関係のある人物であった。  その後、一部の魔人の襲撃にあうが、舞や魔人の王ブラック達の力で危機を乗り越え、人間と魔人の世界に平和が訪れた。  しかし、500年前に転移していたハナという女性が大事にしていた森がアブナイと手紙が届き、舞は再度転移する。  そして、黒い影に侵食されていた森を舞の薬や魔人達の力で復活させる事が出来たのだ。  ところが、舞が自分の世界に帰ろうとした時、黒い翼を持つ人物に遭遇し、舞に自分の世界に来てほしいと懇願する。  そこには原因不明の病の女性がいて、舞の薬で異物を分離するのだ。  そして、舞を探しに来たブラック達魔人により、昔に転移した一人の魔人を見つけるのだが、その事を隠して黒翼人として生活していたのだ。  その理由や女性の病の原因をつきとめる事が出来たのだが悲しい結果となったのだ。  戻った舞はいつもの日常を取り戻していたが、秘密の扉の中の物が燃えて灰と化したのだ。  舞はまた異世界への転移を考えるが、魔法陣は動かなかったのだ。  何とか舞は転移出来たが、その世界ではドラゴンが復活しようとしていたのだ。  舞は命懸けでドラゴンの良心を目覚めさせる事が出来、世界は火の海になる事は無かったのだ。  そんな時黒翼国の王子が、暗い森にある遺跡を見つけたのだ。   *第1章 洞窟出現編 第2章 森再生編 第3章 翼国編  第4章 火山のドラゴン編 が終了しました。  第5章 闇の遺跡編に続きます。

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍
ファンタジー
 "私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。  動けない、何もできない、そもそも身体がない。  自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。 ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。  それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

処理中です...