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第10章
第264話
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「えっ? ケイ行っちゃうのか?」
「あぁ……」
宿屋に戻り、数日後に他の地へ向かうことを善貞に告げると、驚いたような声をあげた。
ケイは元々は観光に来たと言うことは、善貞にも以前伝えていた。
色々あったせいか、そのことを忘れていたかのような反応だ。
「そうか……」
この町から出て行くとケイが言うと善貞は、小さい声で呟き、側でおとなしく座っているクウを撫でた。
アンヘル島の住民ならともかく、他の者に撫でられるのを嫌う傾向にあることを考えると、クウは善貞のこと少しは認めているらしく、黙って撫でられている。
「お前も付いてくるんだろ?」
「えっ? 良いのか?」
ケイの言葉に、今度は明るい表情へと善貞は変わった。
てっきり、自分は置いて行かれるのだと思っていた。
それが、なんてことないようにいうものだから、悩んだ自分が馬鹿のように思えてくる。
「一応お前の師匠だからな。旅行しながら魔闘術の他にも色々教えてやるよ」
「あ、あぁ!」
善貞には、魔闘術を教えることを約束していた。
まだたいした時間発動できない状態ではあるが、善貞は一応魔闘術は使えると言って良い。
このまま一人、ここで訓練するだけでも使いこなせるようにはなるだろう。
しかし、それだと日向の欠点である遠距離攻撃を覚えないかもしれない。
どうせなら、善貞には魔闘術の他にも美花が使っていた剣技など教え込みたい。
美花と同じ織牙家の人間である善貞なら、恐らく使いこなせるようになるだろう。
出来れば、がんばって覚えてもらいたいものだ。
「八坂殿、善貞のことなのですが……」
西厚は先に退室し、八坂と2人きりになったため、ケイは善貞のことを聞くことにした。
評判最悪の織牙家の生き残りなどと言う事が知られたら、今の善貞では成す術がない。
ケイの日向旅行に同行させ、その間にどこか住めるところでも探してもらえればと思っている。
「部下の者たちの中にあの時の裏事情のことを知っている者はおりません、織牙家の再興は流石に難しいです」
やはり、今更公にはできないようだ。
織牙家の評判を考えると、それは仕方がない。
もしも再興できるのなら良かったのだが、それは無理そうだ。
善貞が織牙の人間だということは、ケイと八坂のみ。
そのことを知らない者たちは、坂岡との戦いのとき八坂の命を救った善貞のことをケイ同様に良くしてくれている。
それがあっても、織牙の人間だと知られたらすぐに立場がなくなりそうだ。
「善貞は俺の旅に連れて行こうかと思います」
「宜しいのですか?」
普通に暮らすだけなら、善貞が織牙の人間だとバレることはないだろう。
しかし、やたらと面倒ごとに首を突っ込む善貞を置いて行ったら、その内バレてしまう気がする。
だから、連れて行くのが一番いいとケイは判断した。
八坂も善貞のことをどう扱えばいいか分からず、悩んでいたのかもしれない。
善貞を連れて行くということを聞いた時に、ケイに任せてしまうことの申し訳なさがにじみ出ていた。
「どこか他の地で生きる場所が見つかるかもしれないので」
「……そうですね。織牙のことも、他領ではそこまで有名ではないですから……」
美花の両親のことである織牙家の事件も、所詮は西領内で起こったことに過ぎない。
流石に当時は話題になったが、事件のことを覚えている他領の人間はほとんどいないとのことだ。
「それもそうですね。50年以上前の話ですから覚えている方が特殊ですよね」
美花が生まれる1年前くらいの話となると、50年は経っている。
当時の大人は大体老人になっている頃だ。
流石に覚えている人間は少ないだろう。
ならば、善貞が普通に評価してもらえる場所もあるはずだ。
「それに、もしもの時には俺が引き取りますよ」
善貞にはまだ言っていないが、実は最終手段がある。
それがこれだ。
「……それはエルフの国でということですか?」
「えぇ、美花の子も孫もいますから」
綱泉家と織牙家の子である美花。
その血を受け継ぐ者は、アンヘル島で増えつつある。
そこに、織牙の血を受け継ぐ者が1人増えるくらい大したことではない。
ただ、まだできたばかりの国でしかない所に来ても、善貞がどう思うか分からない。
明らかに日向の方がまだまだ国としては上だ。
のんびり暮らすことを求めている人間でないと、アンヘル島では面白味に欠けるかもしれない。
「とりあえず、その選択も含めて善貞を連れて行きますね」
「私が言うのも何ですが、よろしくお願いいたします」
善貞も、恐らくはこの国で織牙家の復興を目指しているのではないかと思う。
そのため、アンヘル島への移住は選択するとは思えない。
旅の途中で、追々それを聞けば良いだろう。
善貞は若いのだし、少しくらい考える時間があっても大丈夫だろう。
こうして、八坂に善貞のことを任されたケイだった。
「さて、行くか?」
【うんっ!】「ワウッ!」
「おう!」
道具は魔法の指輪の中なのでほとんど手ぶらのケイは、キュウとクウと善貞を連れて美稲の町の東口へと向かう。
先程まで、八坂たちに見送られて出発したケイたちは、今は西厚と一緒に残った少しの兵たちと共に東へと歩み始めたのだった。
「あぁ……」
宿屋に戻り、数日後に他の地へ向かうことを善貞に告げると、驚いたような声をあげた。
ケイは元々は観光に来たと言うことは、善貞にも以前伝えていた。
色々あったせいか、そのことを忘れていたかのような反応だ。
「そうか……」
この町から出て行くとケイが言うと善貞は、小さい声で呟き、側でおとなしく座っているクウを撫でた。
アンヘル島の住民ならともかく、他の者に撫でられるのを嫌う傾向にあることを考えると、クウは善貞のこと少しは認めているらしく、黙って撫でられている。
「お前も付いてくるんだろ?」
「えっ? 良いのか?」
ケイの言葉に、今度は明るい表情へと善貞は変わった。
てっきり、自分は置いて行かれるのだと思っていた。
それが、なんてことないようにいうものだから、悩んだ自分が馬鹿のように思えてくる。
「一応お前の師匠だからな。旅行しながら魔闘術の他にも色々教えてやるよ」
「あ、あぁ!」
善貞には、魔闘術を教えることを約束していた。
まだたいした時間発動できない状態ではあるが、善貞は一応魔闘術は使えると言って良い。
このまま一人、ここで訓練するだけでも使いこなせるようにはなるだろう。
しかし、それだと日向の欠点である遠距離攻撃を覚えないかもしれない。
どうせなら、善貞には魔闘術の他にも美花が使っていた剣技など教え込みたい。
美花と同じ織牙家の人間である善貞なら、恐らく使いこなせるようになるだろう。
出来れば、がんばって覚えてもらいたいものだ。
「八坂殿、善貞のことなのですが……」
西厚は先に退室し、八坂と2人きりになったため、ケイは善貞のことを聞くことにした。
評判最悪の織牙家の生き残りなどと言う事が知られたら、今の善貞では成す術がない。
ケイの日向旅行に同行させ、その間にどこか住めるところでも探してもらえればと思っている。
「部下の者たちの中にあの時の裏事情のことを知っている者はおりません、織牙家の再興は流石に難しいです」
やはり、今更公にはできないようだ。
織牙家の評判を考えると、それは仕方がない。
もしも再興できるのなら良かったのだが、それは無理そうだ。
善貞が織牙の人間だということは、ケイと八坂のみ。
そのことを知らない者たちは、坂岡との戦いのとき八坂の命を救った善貞のことをケイ同様に良くしてくれている。
それがあっても、織牙の人間だと知られたらすぐに立場がなくなりそうだ。
「善貞は俺の旅に連れて行こうかと思います」
「宜しいのですか?」
普通に暮らすだけなら、善貞が織牙の人間だとバレることはないだろう。
しかし、やたらと面倒ごとに首を突っ込む善貞を置いて行ったら、その内バレてしまう気がする。
だから、連れて行くのが一番いいとケイは判断した。
八坂も善貞のことをどう扱えばいいか分からず、悩んでいたのかもしれない。
善貞を連れて行くということを聞いた時に、ケイに任せてしまうことの申し訳なさがにじみ出ていた。
「どこか他の地で生きる場所が見つかるかもしれないので」
「……そうですね。織牙のことも、他領ではそこまで有名ではないですから……」
美花の両親のことである織牙家の事件も、所詮は西領内で起こったことに過ぎない。
流石に当時は話題になったが、事件のことを覚えている他領の人間はほとんどいないとのことだ。
「それもそうですね。50年以上前の話ですから覚えている方が特殊ですよね」
美花が生まれる1年前くらいの話となると、50年は経っている。
当時の大人は大体老人になっている頃だ。
流石に覚えている人間は少ないだろう。
ならば、善貞が普通に評価してもらえる場所もあるはずだ。
「それに、もしもの時には俺が引き取りますよ」
善貞にはまだ言っていないが、実は最終手段がある。
それがこれだ。
「……それはエルフの国でということですか?」
「えぇ、美花の子も孫もいますから」
綱泉家と織牙家の子である美花。
その血を受け継ぐ者は、アンヘル島で増えつつある。
そこに、織牙の血を受け継ぐ者が1人増えるくらい大したことではない。
ただ、まだできたばかりの国でしかない所に来ても、善貞がどう思うか分からない。
明らかに日向の方がまだまだ国としては上だ。
のんびり暮らすことを求めている人間でないと、アンヘル島では面白味に欠けるかもしれない。
「とりあえず、その選択も含めて善貞を連れて行きますね」
「私が言うのも何ですが、よろしくお願いいたします」
善貞も、恐らくはこの国で織牙家の復興を目指しているのではないかと思う。
そのため、アンヘル島への移住は選択するとは思えない。
旅の途中で、追々それを聞けば良いだろう。
善貞は若いのだし、少しくらい考える時間があっても大丈夫だろう。
こうして、八坂に善貞のことを任されたケイだった。
「さて、行くか?」
【うんっ!】「ワウッ!」
「おう!」
道具は魔法の指輪の中なのでほとんど手ぶらのケイは、キュウとクウと善貞を連れて美稲の町の東口へと向かう。
先程まで、八坂たちに見送られて出発したケイたちは、今は西厚と一緒に残った少しの兵たちと共に東へと歩み始めたのだった。
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