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第10章
第237話
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「よしっ!」
上手いことファーブニルの意識がケイに向いたことに、坂岡源次郎は笑みを浮かべた。
これで味方に被害が及ぶことはなくなるだろう。
「俺たちは八坂を追うぞ!」
「かしこまりました!」
崖下で戦っていた剣術部隊の者たちは、ファーブニルとケイたちによってかなりの死人と怪我人が出ている。
逃げる八坂たちを追いかけて殺すにしても、人数が足らないかもしれない。
町に逃げられたら、大名である綱泉家や上重がただでは済まなくなるかもしれない。
部下で実行役の源次郎は当然切腹させられる事だろう。
最終手段として、美稲の町ごとの全滅させるという策もあるにはあるが、一人残らず完璧に始末をしなければならないとなると難しい。
それに、部下には美稲に親族なり知り合いも住んでいる者もいるだろう。
そういった者たちへ疑心を与えることにもなりかねない。
「何としても八坂を殺すぞ!!」
「はいっ!」
丁度いい崖の上に陣取った源次郎たちだったが、場所的に馬が登れなかったのがイタい。
この崖の上から追いかけるとなると、総員全速力で走るしかない。
魔力に暇を付けず、源次郎と30人程の部下たちは崖を駆け下り始めた。
「っ!? あいつ、追いかけ始めやがったな!?」
ファーブニルが迫って来ているのにも関わらず、ケイは源次郎が崖の上からいなくなっていることに気付く。
八坂たちが逃げたのを見ていたのだから、追いかけるのは当然だろう。
しかし、状況的にかなりまずい。
ケイはファーブニルを相手にしなければならないし、源次郎の実力を考えると、八坂につけたキュウだけでは結構つらい。
八坂たちもどれだけ魔力が残っているかも分からない。
もしかしたら逃げ切れない可能性が出てきた。
「魔力を使い切るつもりで行くしかないか?」
「ガアァーー!!」
逃げた八坂に追いつき、源次郎の相手にしなければならないことを考えると、魔力の残量を考えた戦いをしなければならないのだが、そうなるとファーブニルの相手に時間をかけなければならなくなる。
今は時間がもったいないので、迫り来るファーブニルと本気で戦うことに決めた。
「ヌンッ!!」
“ボッ!!”
「ガァッ!?」
本気を出すことにしたケイは、魔闘術に使う魔力を一気に増量した。
その魔力の量に、ファーブニルが一瞬たじろぐ素振りを見せた。
人間が出す魔力の量ではないと感じたからかもしれない。
「止まってて良いのか?」
膨大な魔力に足を止めたファーブニルに対し、ケイは体内から魔力を絞り出しながら問いかける。
ファーブニルに言葉が通じているかは分からないが、そんなことは関係ない。
単純に気分の問題だ。
「食らえ!!」
“ゴッ!!”
2丁拳銃をファーブニルに向け、体に纏った魔力を銃に凝縮して発射するイメージ。
膨大な魔力が1ヵ所に集まり、空気がピりつくような錯覚に陥りながら、ケイは魔弾を発射する。
「っ!? ガッ!!」
“ボッ!!”
ケイが自分に向けて放った攻撃を見て、ファーブニルは慌てて攻撃をしようとする。
口を広げて魔力を集め、それを巨大な水弾として放ってきた。
どうやら、ケイの魔弾を相殺しようという考えらしい。
“ドンッ!!”
「ぐっ!? 魔力を溜める時間もたいしてないのに、すげえ威力だな!?」
ケイの魔弾とファーブニルの水弾がぶつかり合うと、その場で互いに押し合いへと変わる。
その圧力に、ケイは一瞬顔をしかめる。
「でも、舐めんな、よっ!!」
「ガッ!?」
“バシュッ!!”
たしかにファーブニルの攻撃は、咄嗟に出した割にはかなりの魔力が込められている。
しかし、それだけでケイの攻撃は抑えきれない。
少しの停滞の後、水弾を霧散させ、ケイの魔弾がそのまま一気にファーブニルへ向かって飛んでっいた。
「っ!?」
“ザシュッ!!”
「ギャッ!!」
水弾が押し負けたため、慌てて回避しようとしたファーブニルだが、時すでに遅く、ケイの魔弾が体を貫通していった。
強烈な痛みに悲鳴を上げたファーブニルだが、目はまだ死んでいない。
どうやら下半身が動かなくなったようだが、まだ無傷の上半身が残っている。
「ハァ、ハァ……、当たった場所が良くなかったか?」
魔力を一気に消失したケイは、肩で息をしながらファーブニルを見つめる。
水弾を放った顔を目掛けて発射したのだが、ファーブニルの体の方に当たってしまった。
無駄に見えた先程の水弾も、僅かにケイの魔弾をすらすことになったのかもしれない。
それでもかなりの致命傷を与えることには成功したのだが、ケイからするとかなりまずい。
疲労感で座り込むのを耐えている状態で、さっきのような攻撃はしばらくできそうにない。
「ガァー!!」
“ボワッ!!”
「っ!?」
瀕死の状態とはいっても、むしろ魔物はこういう時の方が思わぬ攻撃をしてきたりして面倒だったりする。
そのことを経験上知っているためケイが警戒心を高めていると、ファーブニルは口から変な色の息を吐きだしてきた。
「……毒かっ!?」
エルフの一族に伝わる図鑑には、ファーブニルは水と毒を使うということを思いだしたケイは、その変な色の息を見て咄嗟にそう思った。
島で育うちに、ケイの体には色々な毒の耐性があるが、それは毒による肉体への影響が遅いというだけで、完全に効かないというものではない。
「このっ!!」
毒は毒でも、どのような種類の毒か分からない。
場合によっては、神経毒などで動けなくされるかもしれない。
そんなことになったら、あっという間にあの世行きだ。
そうならないためにも、ケイは風の魔法を発動し、毒の息を吹き飛ばした。
「ガッ!!」
“ボッ!!”
「なっ!?」
ケイの意識を、毒の対処に向けるための攻撃だったらしく、その間に溜めた魔力でファーブニルは先程の水弾をまたもケイへ放ってきた。
「くっ!?」
それによって、今度はケイが攻撃に対応しなくてはならない立ち場になった。
最初に思いついたのは魔法障壁。
しかし、それでは魔力が足りなくなるかもしれない。
魔力障壁よりも魔力を少なく、それでいて頑丈な壁。
“ガガガッ!!”
そうして思いついたのは、土の壁。
しかし、ただの壁ではファーブニルの放った水弾を止められるとは思えない。
ならばと、ケイは攻めの守りを選択した。
「土槍!!」
水弾に突っ込むように、魔力で作った図太い土の槍を生み出す。
しかも、ただ突っ込ませるのではなく、ドリルのような回転付きだ。
少ない魔力で、どうにか威力を高めようとした悪あがきだ。
“ドカッ!!”
「っ!!」
どうにか水弾を抑え込もうとしたが、土槍の魔法では止め切れなかった。
土槍を破壊して、ケイに向かって水弾が襲い掛かった。
「ガハッ!!」
懸命に回避しようと、その場から飛び退こうとしたが、水弾がケイに直撃した。
直撃を受けたケイは、数十メートルもの距離を吹き飛ばされ、地面に数回バウンドした後、うつ伏せの状態で止まった。
「グルル……!!」
攻撃が当たったことで、ケイが死んだと判断したファーブニルは、口の端を上げて笑みのような物を浮かべた。
皮一枚で繋がっているような状態の下半身。
そんな状態にされたことへの怒りが、少しだが晴れたようだ。
「ガアァー!!」
後は、自分に怪我を負わせた小さきものを食べようと、ファーブニルは下半身を引きずりながらケイへと近付いて行った。
「グラッ!?」
しかし、近付いて行っている途中で、ファーブニルは違和感を感じた。
水弾が直撃して殺したと思ったケイの体が、僅かに動いたからだ。
「ぐぅっ……」
「っ!?」
ファーブニルは、驚いた。
死んだと思ったケイが、ゆっくりと体を起こしたからだ。
「……い、痛え……」
口から血を流し、折れているのか左手をブラブラさせながら、立ち上がったケイは小さく呟く。
「まだ、終わってねえぞ、蛇野郎!!」
土槍を出したのは間違いではなかった。
ファーブニルの水弾の威力をだいぶ弱めてくれたようだ。
でなければ、今の一撃でケイは即死していた可能性が高い。
なんとか立ったはいいが、これでケイも大怪我の状態。
その状態で、ケイは精一杯の強がりを言って、ファーブニルを睨みつけたのだった。
上手いことファーブニルの意識がケイに向いたことに、坂岡源次郎は笑みを浮かべた。
これで味方に被害が及ぶことはなくなるだろう。
「俺たちは八坂を追うぞ!」
「かしこまりました!」
崖下で戦っていた剣術部隊の者たちは、ファーブニルとケイたちによってかなりの死人と怪我人が出ている。
逃げる八坂たちを追いかけて殺すにしても、人数が足らないかもしれない。
町に逃げられたら、大名である綱泉家や上重がただでは済まなくなるかもしれない。
部下で実行役の源次郎は当然切腹させられる事だろう。
最終手段として、美稲の町ごとの全滅させるという策もあるにはあるが、一人残らず完璧に始末をしなければならないとなると難しい。
それに、部下には美稲に親族なり知り合いも住んでいる者もいるだろう。
そういった者たちへ疑心を与えることにもなりかねない。
「何としても八坂を殺すぞ!!」
「はいっ!」
丁度いい崖の上に陣取った源次郎たちだったが、場所的に馬が登れなかったのがイタい。
この崖の上から追いかけるとなると、総員全速力で走るしかない。
魔力に暇を付けず、源次郎と30人程の部下たちは崖を駆け下り始めた。
「っ!? あいつ、追いかけ始めやがったな!?」
ファーブニルが迫って来ているのにも関わらず、ケイは源次郎が崖の上からいなくなっていることに気付く。
八坂たちが逃げたのを見ていたのだから、追いかけるのは当然だろう。
しかし、状況的にかなりまずい。
ケイはファーブニルを相手にしなければならないし、源次郎の実力を考えると、八坂につけたキュウだけでは結構つらい。
八坂たちもどれだけ魔力が残っているかも分からない。
もしかしたら逃げ切れない可能性が出てきた。
「魔力を使い切るつもりで行くしかないか?」
「ガアァーー!!」
逃げた八坂に追いつき、源次郎の相手にしなければならないことを考えると、魔力の残量を考えた戦いをしなければならないのだが、そうなるとファーブニルの相手に時間をかけなければならなくなる。
今は時間がもったいないので、迫り来るファーブニルと本気で戦うことに決めた。
「ヌンッ!!」
“ボッ!!”
「ガァッ!?」
本気を出すことにしたケイは、魔闘術に使う魔力を一気に増量した。
その魔力の量に、ファーブニルが一瞬たじろぐ素振りを見せた。
人間が出す魔力の量ではないと感じたからかもしれない。
「止まってて良いのか?」
膨大な魔力に足を止めたファーブニルに対し、ケイは体内から魔力を絞り出しながら問いかける。
ファーブニルに言葉が通じているかは分からないが、そんなことは関係ない。
単純に気分の問題だ。
「食らえ!!」
“ゴッ!!”
2丁拳銃をファーブニルに向け、体に纏った魔力を銃に凝縮して発射するイメージ。
膨大な魔力が1ヵ所に集まり、空気がピりつくような錯覚に陥りながら、ケイは魔弾を発射する。
「っ!? ガッ!!」
“ボッ!!”
ケイが自分に向けて放った攻撃を見て、ファーブニルは慌てて攻撃をしようとする。
口を広げて魔力を集め、それを巨大な水弾として放ってきた。
どうやら、ケイの魔弾を相殺しようという考えらしい。
“ドンッ!!”
「ぐっ!? 魔力を溜める時間もたいしてないのに、すげえ威力だな!?」
ケイの魔弾とファーブニルの水弾がぶつかり合うと、その場で互いに押し合いへと変わる。
その圧力に、ケイは一瞬顔をしかめる。
「でも、舐めんな、よっ!!」
「ガッ!?」
“バシュッ!!”
たしかにファーブニルの攻撃は、咄嗟に出した割にはかなりの魔力が込められている。
しかし、それだけでケイの攻撃は抑えきれない。
少しの停滞の後、水弾を霧散させ、ケイの魔弾がそのまま一気にファーブニルへ向かって飛んでっいた。
「っ!?」
“ザシュッ!!”
「ギャッ!!」
水弾が押し負けたため、慌てて回避しようとしたファーブニルだが、時すでに遅く、ケイの魔弾が体を貫通していった。
強烈な痛みに悲鳴を上げたファーブニルだが、目はまだ死んでいない。
どうやら下半身が動かなくなったようだが、まだ無傷の上半身が残っている。
「ハァ、ハァ……、当たった場所が良くなかったか?」
魔力を一気に消失したケイは、肩で息をしながらファーブニルを見つめる。
水弾を放った顔を目掛けて発射したのだが、ファーブニルの体の方に当たってしまった。
無駄に見えた先程の水弾も、僅かにケイの魔弾をすらすことになったのかもしれない。
それでもかなりの致命傷を与えることには成功したのだが、ケイからするとかなりまずい。
疲労感で座り込むのを耐えている状態で、さっきのような攻撃はしばらくできそうにない。
「ガァー!!」
“ボワッ!!”
「っ!?」
瀕死の状態とはいっても、むしろ魔物はこういう時の方が思わぬ攻撃をしてきたりして面倒だったりする。
そのことを経験上知っているためケイが警戒心を高めていると、ファーブニルは口から変な色の息を吐きだしてきた。
「……毒かっ!?」
エルフの一族に伝わる図鑑には、ファーブニルは水と毒を使うということを思いだしたケイは、その変な色の息を見て咄嗟にそう思った。
島で育うちに、ケイの体には色々な毒の耐性があるが、それは毒による肉体への影響が遅いというだけで、完全に効かないというものではない。
「このっ!!」
毒は毒でも、どのような種類の毒か分からない。
場合によっては、神経毒などで動けなくされるかもしれない。
そんなことになったら、あっという間にあの世行きだ。
そうならないためにも、ケイは風の魔法を発動し、毒の息を吹き飛ばした。
「ガッ!!」
“ボッ!!”
「なっ!?」
ケイの意識を、毒の対処に向けるための攻撃だったらしく、その間に溜めた魔力でファーブニルは先程の水弾をまたもケイへ放ってきた。
「くっ!?」
それによって、今度はケイが攻撃に対応しなくてはならない立ち場になった。
最初に思いついたのは魔法障壁。
しかし、それでは魔力が足りなくなるかもしれない。
魔力障壁よりも魔力を少なく、それでいて頑丈な壁。
“ガガガッ!!”
そうして思いついたのは、土の壁。
しかし、ただの壁ではファーブニルの放った水弾を止められるとは思えない。
ならばと、ケイは攻めの守りを選択した。
「土槍!!」
水弾に突っ込むように、魔力で作った図太い土の槍を生み出す。
しかも、ただ突っ込ませるのではなく、ドリルのような回転付きだ。
少ない魔力で、どうにか威力を高めようとした悪あがきだ。
“ドカッ!!”
「っ!!」
どうにか水弾を抑え込もうとしたが、土槍の魔法では止め切れなかった。
土槍を破壊して、ケイに向かって水弾が襲い掛かった。
「ガハッ!!」
懸命に回避しようと、その場から飛び退こうとしたが、水弾がケイに直撃した。
直撃を受けたケイは、数十メートルもの距離を吹き飛ばされ、地面に数回バウンドした後、うつ伏せの状態で止まった。
「グルル……!!」
攻撃が当たったことで、ケイが死んだと判断したファーブニルは、口の端を上げて笑みのような物を浮かべた。
皮一枚で繋がっているような状態の下半身。
そんな状態にされたことへの怒りが、少しだが晴れたようだ。
「ガアァー!!」
後は、自分に怪我を負わせた小さきものを食べようと、ファーブニルは下半身を引きずりながらケイへと近付いて行った。
「グラッ!?」
しかし、近付いて行っている途中で、ファーブニルは違和感を感じた。
水弾が直撃して殺したと思ったケイの体が、僅かに動いたからだ。
「ぐぅっ……」
「っ!?」
ファーブニルは、驚いた。
死んだと思ったケイが、ゆっくりと体を起こしたからだ。
「……い、痛え……」
口から血を流し、折れているのか左手をブラブラさせながら、立ち上がったケイは小さく呟く。
「まだ、終わってねえぞ、蛇野郎!!」
土槍を出したのは間違いではなかった。
ファーブニルの水弾の威力をだいぶ弱めてくれたようだ。
でなければ、今の一撃でケイは即死していた可能性が高い。
なんとか立ったはいいが、これでケイも大怪我の状態。
その状態で、ケイは精一杯の強がりを言って、ファーブニルを睨みつけたのだった。
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