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第10章

第225話

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「気付いてたのか?」

 驚きからようやく解放されたのか、善貞はケイに尋ねる。
 彼からしたら、仮面をつけてほぼ別人のような顔になっている。
 なので、名乗らなければバレないと思っていたのだろう。

「……逆に気づいていないと思ったのか?」

 善貞の問いに、ケイは呆れたように返事をする。
 たしかに覆面をしているので、顔から織牙家の人間だとバレることはないだろう。
 しかし、長い期間ではないが、側にいたケイには分かりやすかった。
 八坂側も上重側も織牙家の生き残りの話をしていたが、どうやら根拠のない話ではなかったようだ。
 
「反応でバレバレだ」

「そ、そうか?」

 最初に会った時から、何か訳ありだというのは分かっていたし、他にも色々あるが、織牙の名前が出るたびに顔や態度に出ていたので、はっきり言って簡単だった。
 正直者というのか、馬鹿と言ったらいいのか迷うところだ。

「どっちの勢力も言っていたが、正確には織牙家の生き残りの息子が俺だ。話を聞いていたのだから分かるだろ? 俺といたらお前も巻き込んでしまうかもしれない」

「もうすぐここを離れるんだ。それまでバレなけりゃ大丈夫だろ?」

 たしかに善貞が織牙家の生き残りの子だと知られれば、ただでは済まないだろう。
 もしかしたら、隠していたケイも巻き込まれるかもしれない。
 しかし、善貞はケイが作った覆面で顔バレすることはないだろう。
 そもそも、人相書きがある訳でもないようなので、顔を見られたからといったも織牙家の人間とバレるかは分からない。
 
「できれば俺は、このまま八坂様の方に参加したい」

「……なんでだ? バレたら終わりだし、危険を冒して何になる?」

 どっちについても善貞には利益のないこと。
 それなのに、自分から関わっていったとして、正体がバレるリスクを高めるだけでしかない。

「とりあえず、部屋に戻れ。中で話をしよう」

「あぁ……」

 このままここで話していたら、他の人間に聞かれるかもしれない。
 探知で近くに誰もいないことは確認しているが、物音を聞いて従業員なりが起きてくるかもしれない。
 なので、どうせ込み入った話になるだろうし、ケイは部屋で話を聞くことにした。
 善貞も、もう素性もバレているのだからと、ケイの指示に従って部屋に戻ることにした。





「織牙家の者が姫と駆け落ちして、駆け落ちしたのは聞いただろ?」

「あぁ……」

 部屋に戻った2人は、眠っているキュウとクウを余所に話の続きをすることにした。
 そして、善貞は順を追って説明し始めた。

「それは織牙家の嫡男で、俺の祖父の兄だそうだ。そして、姫を唆したとして一族は処刑されたんだが、実はちょっとした裏があった」

「裏?」

 単純な駆け落ちではないということだろうか。
 ケイはそれに少し反応したが、善貞に続きを促す。

「確かに2人は両思いだったが、身分が違い過ぎた。大伯父もそれが分かっていたので、身を引くのが当然だと思っていた。そして、八坂家の先代によって将軍家との縁組が決まったのだが、その頃から姫の周辺で異変が起きる」

「異変?」

「姫の食事に毒が仕込まれた。体調を悪くなり始め、ようやく気付き犯人を捜すとなった時、毒見役の女が死んだ。その者の遺書には自分が毒を盛ったとあったが、誰によるものなのかは書かれていなかった。結局、主犯がそのままうやむやになったが、姫の命を脅かすような事件や事故が続いた。どれも犯人は死亡したが、首謀者は終ぞ見つからなかった」

「上重か?」

「あぁ、それも決定的な証拠がなかった。ただ、八坂が組んだ縁組を潰そうとしてのことだとは思う。このままでは姫の命が危ういとなり、大伯父は姫を連れて逃げ出したらしい」

「その大叔父のことを恨んでいるのか?」

「それは分からない。大伯父に姫を助けるように言ったのは織牙家の総意だったらしいし、それにその大叔父もどうなったか分からないしな……」

 善貞が話し、ケイは聞き役に徹していた。
 どうやら姫の命を救うための駆け落ちでもあったようだ。

「……ところで、どうしてお前の親は助かったんだ?」

 理由はともかく、一族は処刑されたと言っていた。
 しかし、善貞がいるということは、生き残りがいたのは確かだ。
 ケイはその理由が気になった。

「祖父は未婚となっていたが、実は結婚を約束していた者がいて、その女性……祖母は身籠っていた。祖父は処刑されたが、祖母は結婚していなかったから処刑はまぬがれ、処刑後に父が生まれたから上手く誤魔化せたらしい」

「なるほど……」

 どうやら、結婚していない女性まで処刑の対象には入っていなかったのだろう。
 結婚前に身籠っていたというのは、この国では良くないことだったと思うが、一族の血を絶やさなかったということになるのだから、結果的に良かったのかもしれない。

「それで? どうして八坂方に与するんだ?」

「総意とはいえ、一族は上役たる八坂家へ多大なるご迷惑をおかけした。一族の生き残りとして、その汚名を返上するためにも、今回のことで何かご助力できないかと思ってな……」

 母は幼いころに亡くし、先日生き残りである父も亡くなった。
 そこに猪の大繁殖のうわさを聞き、それをきっかけに、善貞は動き出したらしい。
 父の遺品である大容量の魔法の指輪に、拵えの良い刀。
 教育はされてはいたが、常識はあまり教わっていなかったらしく、ケイにバレるきっかけになったようだ。
 流れで八坂に会うことになり、その不遇の原因が織牙家が発端と聞き、善貞は何かせずにはいられなくなったようだ。

「じゃあ、俺も手伝ってやるか……」

「っ!?」

 ケイの言葉に、善貞は目を見開く。

「俺の一族とお前には関係ないだろ?」

 ケイとは道中に知り合っただけの関係でしかない。
 それなのに、善貞を手伝う理由なんてどこにもない。

「面倒に巻き込まれる前にお前は逃げた方が良い!」

「ほらっ! お前は一応魔闘術を教えている弟子なわけだし、最後まで面倒見てやらないと……」

 善貞の忠告に、ケイは取ってつけたような理由を述べる。
 もちろん、本当はそんなことのために手伝うという訳ではない。

「関係ないわけでもないし……」

「んっ? なんか言ったか?」

「いやっ、何でもない……」

 ケイが小声で呟いた言葉は、善貞には聞こえなかったようだ。
 はっきり言って、聞かれなくて良かった。
 話を聞く前から分かっていたことだが、この騒動には実はケイも関係ない訳ではない。
 善貞がこのままここから離れるというのであれば、一緒に離れるつもりでいた。
 しかし、善貞が残るというのであればケイも残るしかない。
 何故なら、善貞の織牙家のことは断片的ながら聞いていたからだ。




 ケイの妻である…………織牙・・美花から……

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