上 下
222 / 375
第10章

第222話

しおりを挟む
「……聞いていた通り、でっかい町だな」

【そうだね!】「ワンッ!」

「…………」

 奧電の町はかなり発展しており、多くの人でごった返している。
 賑わう人の群れを見つつ、ケイと従魔たちは観光を楽しみ始めた。
 そんな中、善貞だけが浮かない表情をしている。





 坂岡源次郎の誘いを受け、奧電へと辿り着いたケイたち一行。
 馬が引く荷車に乗っているだけで、道中はずいぶん楽をさせてもらった。
 過酷な山越えという話はどこへ行ったのやら。

「そろそろ我々はお暇したいのですが……」

 奧電の番所のようなところへ連れていかれ、一部屋与えられたケイたち。
 待遇としてはありがたいのだが、裏の狙いを知っているだけにあまり居心地がいいとは言えない。
 一応名目としては、事後処理にケイたちの証言を加えたいからと言っていたが、そんなのがいつまでも通用する訳ない。
 数日この邸内で過ごしていたが、証言なんて聞いてくることもなく、全く持っている意味がない。
 流石に飽きたので、そろそろ出て行きたいと思い、ケイはたまたま目通り叶って源次郎に会うことができたため、出て行きたい旨を伝えたのだった。

「いや、すまんな。今回の事件の報告をしたら、お主たちへの褒美を用意するとのお達しが出てな」

『そう来たか……』

 目通り出来たのも、ケイにこれを言うためだったのかもしれない。
 いつまでも事件の証言者で引っ張れるわけがない。
 新たに理由をでっちあげて、ケイたちをここにとどめておきたいのだろう。

「上もどれだけ出すかで揉めて、なかなか決まらないらしい。だからもう少しだけいてもらえるとありがたい」

 「褒美なんていらない!」と言いたいところだが、何か日向に来た記念に貰っておきたい気もする。
 なので、もう少しいてもいいかなとケイは悩む。

「じゃあ、いつまでもお世話になる訳にもいかないので、せめて宿へ……」

「それには及ばん。ここに泊まっていればいい」

 泊っている宿を伝え、褒美が出てからそこから受け取りに来ればいいだけの話。
 だから、この町から出なければいいだろうと、宿への移動を進言しようとしたのだが、話が終わる前に源次郎は言葉を被せて来た。

「えっ!? 宜しいのですか?」

「それほど長期勘になる訳ではないからな。お主たちは気にする事無くここにいてくれればいい」

 つまり、何か起きるにしても、そう遠くない時期だということなのだろうか。

『なんか必死だな……』

 よっぽど相手が面倒なのだろう。
 何だか源次郎の言葉や態度に、必死さが見え隠れしている。

「じゃあ、お世話になります!」

「おぉ、ありがたい!」

 好待遇なのに断ると、源次郎たちの現状を察しているということがバレるかもしれない。
 日向に来てまだたいして日数も経っていないのに、大陸横断時のように追われる立場になるのは嫌だ。
 なので、ケイはまだここにいることにした。

「しかし、せっかく奧電に来たのですから、町の観光に行ってもいいですか?」

「何っ?」

 ここにまだいるというのは受け入れてもいいが、何もせずにじっとしているのもつまらないので、町の中を見て回りたい。
 この邸に向かう途中で、うなぎ屋のいい匂いがしていた。
 ケイも島で釣ったウツボを使って蒲焼もどきを作ったりしたが、匂いを嗅いでしまうとやっぱり鰻のかば焼きが食べてみたくなった。
 それが頭から離れないため、観光もかねて食べに行きたい。

「そうか……、ケイは異国から観光に来たのだったな?」

「えぇ」

 源次郎からしたらケイにはここにいてもらいたいのだろうが、四六時中何もせずにいれば外出をしたいと言い出すのは当然のことだ。
 ここで寝泊まりするのは了承しているのだから、流石にこれは断れないはず。

「この者を付ける。案内役に使うと言い」

「……ありがとうございます」

 源次郎の紹介によって、1人の男がケイに頭を下げる。
 態度の悪い義尚でなかったため、ケイは胸をなで下ろす。
 たしか貴晴たかはるとか言われていた男だ。
 案内役とはいっているが、要するに見張り役ということだろう。
 断ってもいいのだが、これ以上余計なやり取りをして外出できなくなったらつまらない。
 ケイは内心渋々貴晴の動向を受け入れたのだった。





 そして、冒頭に戻る。

「何で奴の思い通りに動くんだ?」

 浮かない表情の善貞は、少し前を歩く貴晴に聞こえないような大きさの声でケイに問いかける。 
 無駄にしゃべって自分のことがバレないように、善貞はあった時とは反対に喋らなくなっていた。
 恐らく、源次郎側とは何かあったのかもしれない。
 ケイもそのことは分かっているので、理由を聞かないでいる。

「あんま気にすんなって! まだ何も命令されていない状況なんだから……」

 善貞の問いに、ケイは軽い口調で返す。
 宿も食事もほぼタダ。
 こんな状況はケイとしても楽でいい。
 お金はあるが、少しの間暮らせるくらいだ。
 魔物を狩れば、資金はすぐに手に入れることはできるが、近隣の魔物はなかなか金になりそうにないものばかり。
 無駄な手間がかからないので、今はこのままでも構わないと思っている。

「まさか、お前は奴らに付くのか?」

「そんなわけないだろ」

 源次郎のことは別に嫌いではないが、別に好きでもない。
 世話になっているので、少しくらいは何かしてやってもいいが、キュウを使って盗み聞きした内容から察するに何かお家騒動のようなことが起きているように思える。
 そんなのに関わり合うのは勘弁だ。

「お前はどっちなんだ?」

「……………」

 ケイに自分がした質問を返され、善貞は無言でうつむいた。
 源次郎たちとの関わり合い方から、恐らく善貞の家も関係しているのだろう。
 家名を隠しているし、豪華な拵えの鞘だとか、かなりの容量を内包できる魔法の指輪なんかを合わせて考え、ケイはそう判断していた。

「確か八坂家とか言ったか?」

「…………………」

 ケイが源次郎が言っていたという家の名前を言うと、善貞は更に黙りこくった。
 そんな反応したら、肯定しているのも同然でしかないではないか。

「まぁ、俺はどっちでもねえな。ただの旅行者だし」

 軽い口調で言うが、これはケイの本心だ。
 今の所、どっちがどうという訳も知らない。
 善貞から密かに聞いた話だと、市民には矢坂の方が人気があるとかという話だが、人気があるから正しいという多数決という名の暴力に従うつもりはない。
 関わるならどっちがどういう理由で動いているのか、理由を知った上で動くつもりだ。

「……バケモンみたいな奴が「ただの」なもんか!」

「失礼な……」

 ケイの出した答えに、善貞も納得した。
 彼は別に関わらないという選択もできる。
 善貞からしたら、関わりたくても関われないという事情があるため、ケイの自由さが羨ましく感じた。

「着きましたよ!」

 2人の会話に気付かない貴晴は、ケイの要望だった鰻屋に案内してくれたのだった。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸
ファンタジー
高等魔術学園に入学した主人公の新田伸。彼は大人しく高校生活を送りたいのに、友人たちが問題を持ち込んでくる。嫌々ながら巻き込まれつつ、彼は徹底的に目立たないようにやり過ごそうとする。例え相手が高校最強と呼ばれる人間だろうと、やり過ごす自信が彼にはあった。何故なら、彼こそが世界最強の魔術使いなのだから……。最強の魔術使いの高校生が、平穏な学園生活のために実力を隠しながら、迫り来る問題を解決していく物語。 ※主人公はできる限り本気を出さず、ずっと実力を誤魔化し続けます ※小説家になろう、ノベルアップ+、ノベルバ、カクヨムにも投稿しています。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。 不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。 その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。 彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。 異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!? *小説家になろうでも公開しております。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

処理中です...