エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

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第10章

第219話

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「……なんか来たな」

「えっ?」

 異常発生した猪の群れを退治し、ケイたちは奧電の町へと向かって緒伝山を登っていた。
 街道の両端の景色は、ずっと樹々が生い茂っているだけで、いつまで立ても変わり映えしない。
 ケイやキュウたちも、疲労はそれ程でもないが、さすがに飽きてくる。
 そう思っていたところへ、ケイたちが向かう方向から何かが迫って来る気配を感じた。
 坂道が続いて疲労の色が見える善貞は、そんなこと気が付かなかったようだ。

“ザッ!!”

「異人か……。お主らこの先に異変があったと聞いたが何か知っているか?」

 人を背に乗せた馬が迫ってきて、ケイたちの蕎麦へ来ると馬を乗せて男が尋ねてきた。
 その内容と腰に帯刀している所を見ると、月和村と官林村が出した嘆願書によって来た剣術部隊の者なのだろうとケイは理解する。

「あぁ、それなら解決しました」

 そのため、ケイは自分たちが問題を解決したと告げ、説明をしようとした。

「何っ!? ということは、たいしたことないことで我々を呼んだということか?」

「えっ? いや……」

 続けて説明しようとした言葉を聞く前に、その男は自分勝手に変な解釈をしたようだ。
 何故そんなことになったのか分からず、ケイは慌てて訂正しようとする。

「戻って隊長に知らせなくては……、ハッ!」

「あっ!? おいっ!?」

 訂正しようとしているのも無視して、男は馬の踵を返す。
 そして、馬に合図を送り、ケイが止めるのを気付かず、来た道を戻っていってしまった。
 
「全然話を聞かない奴だな……」

「………………」

 そもそも馬に乗ったまま上から目線で話しかけて来たのにもイラッと来たが、人の話を聞かないとは不愉快な男だ。
 勝手に解釈して行ってしまったので、自分には落ち度はない。
 そう判断して、ケイは街道をまた進むことにした。
 男とケイが話している間、善貞は黙って関わらないようにしていたのは誰も気付かなかった。






「何っ? なんでもなかっただと?」

「ハッ! 街道を歩いていた異人が申しますに、そのようなだと……」

 数時間後、先程ケイに話しかけた男は、馬なりで西へと向かって来ている隊と合流する。
 そして、一番後方に控える隊長に、先程ケイと話した内容を伝える。
 しかし、それは勝手に解釈した内容にすり替わっていた。

「そうか……、しかし、嘆願書は切羽詰まったような文章だったのだが……」

 猪の魔物による被害が頻発してきたと、月和と官林の村長から助けを求める嘆願書が送られて来た。
 被害の状況が日に日にひどくなっていることから、ようやく剣術部隊へ事件解決の命令が下った。
 その時、内容を見せてもらうことがあったが、字を見るに焦っているように感じた。
 内容自体もかなり困っているということが書かれていたので、危険な状況かもしれない。
 そう思って準備を整え、西へ向けて山越えをして来たのだが、何でもないということではないように思っていた。
 問題なかったのであれば、それはそれでいいことなのだが、どうも本当に何もなかったとは思えない。

「奴らはたいした事でもないのに我々を呼びつけた模様です。織牙の領地の者は我々を馬鹿にしているのです!」

「おいおい、そんなに熱くなるなよ」

 ケイから話を聞いてきた男は、また勝手な解釈をする。
 彼の境遇から、山から西側の地域の者たちを良く思っていないのかもしれないが、若干行き過ぎているように隊長の男は感じる。
 そのため、暴走する部下を止める。

「ハッ、申し訳ありません」

 自分も少し熱くなっていたと自覚したのか、隊長に向かって部下の男は頭を下げた。

「…………念のため確認に行ってみよう」

「えっ? 向かうのですか?」

 街道を歩いていた人間が嘘を吐いて得するとは思えない。
 しかし、あの嘆願書が嘘だとも思えない。
 思ったより問題の規模が小さかったということもあるかもしれない。
 どちらにしても、確認だけはしに行くべきだろう。

「何もなかったならそれに越したことはない。無駄足だったとしてもここまで来たのだからたいした手間でもないだろ?」

 折角山を2つ越えてここまで来たのだ。
 残りの山も半分もない距離だ。
 東の奧電に戻るにしても、ちゃんと見て確認をしたうえで戻った方が、上に正確に報告できる。
 そう判断し、部隊はこのまま先へ向かうことにした。

「かしこまりました」

 部下の男も恭しく頭を下げ、部隊の戦闘付近へと並んだのだった。





「あっ? また来た」

 坂道を登ったり下ったりして山越えをしようと進むケイたちのもとへ、またも馬に乗った男が向かって来る。
 景色の変化がない分人が来るのは良いのだが、少し前にイラつかされた男の顔が見え、何か嫌な予感がしてくる。

「今度は団体か?」

 しかし、前の時と違い、今度は数十人の馬に乗った団体が列をなしている。
 道の端に避けて通り抜けるのを待とうかと思ったのだが、列の先頭はケイたちの近くで停止した。

「お主らか? 先程この者にたいした問題はなかったと言ったのは?」

「いや、そんなこと言ってない」

 前に聞いてきた男と共に近付いてきた男は、ケイが言ったのとは違うことを聞いてきた。
 そのため、ケイは素直に返答する。
 というか、馬に乗ったまま聞いてくることに若干イラつく。

「何っ?」

「解決したと言っただけだ」

 さっきの男が勝手な解釈をしたまま、それを他に伝えたのだろうとケイはなんとなく察する。
 一度も言っていないことを、言ったとされるのはケイの本意ではない。
 そのため、きっちりと訂正したのだが、

「戯言を抜かすな! 貴様は言ったではないか!?」

「言ってねえよ! てめえが勝手に解釈したんだろ?」

 勝手な解釈をするような奴だ。
 自分の失敗だと理解していないのかもしれない。
 隊のみんなの前で恥をかかされているように思ったのか、少し前に聞いてきた男がケイの言葉に激昂する。

「貴様! そもそも何だその口の利き方は!? 名を名乗れ!」

「いや、てめえが誰だよ!? 馬の上から態度でけえんだよ!」

 この国の武士に対してどう接すればいいかよく分からないが、こんなに態度でかく聞かれても応える気にはならない。
 そのため、敬語を使わずケイは話した。
 そもそも、人に名を尋ねるなら自分から名乗るのは当然だろう。
 そう思って、ケイは男にたいして喧嘩口調で言葉をぶつける。

「貴様!!」

「義尚! やめ……」

 ケイの言葉にカッと来たのか、男は腰に手を近付ける。
 刀を抜くつもりなのかもしれない。
 それを、もう一人の男が止めようとするが、時すでに遅く、刀が抜かれた。

“ドカッ!!”

「うぐっ!!」

「「「「「っ!?」」」」」

 しかし、抜刀したのを確認したケイは、義尚と呼ばれた男を馬の上から蹴り落とした。
 それを、他の剣士たちは見ており、みんな目を見開いて固まった。
 鳩尾にめり込むように蹴りが入り、義尚と呼ばれた男はその一発で行動不能になった。

「おっと! 正当防衛だぜ!」

 自分に向かって注がれる視線に、ケイは主張しておくことにした。
 いきなり剣を向けられて、抵抗しない人間なんてただの馬鹿だ。
 先に剣を抜いたのは義尚と呼ばれた男の方であって、ケイはそれに抵抗しただけだ。
 身分差があるこの国で正当防衛が通用するかは分からないが、念のため言っておくことにした。

「貴様!」

「やめよ!!」

 義尚と呼んだ男の方も、仲間がやられて腹を立てたのだろう。
 今度はこの男が剣を抜こうとして腰に手をかけた。 
 しかし、それが抜かれる寸前、男に対して制止の命令が響き渡る。
 列の後方に位置していた男が、ゆっくりとこちらへ向かって歩いてきたのだった。


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