上 下
215 / 375
第10章

第215話

しおりを挟む
「魔闘術も使えないのに1人で来たのか?」

 魔闘術の使い方を教えてほしいと言われたケイは、思ったことを善貞に尋ねることにした。
 猪の魔物は、ケイは簡単に倒しているが、普通の人だと戦うのはかなり危険だ。
 その数が増えているような所に1人で来るなんて、考え無しも良いところだ。

「1対1なら何とかなるかと思って……」

「考えが甘いな……」

 魔闘術が使えなくても猪を倒せる人間はいるだろうが、安全を期すためには集団で戦うのが1番だ。
 善貞の実力がどんなものか分からないが、変な自信だけで挑もうなんて考えが甘すぎる。
 一人で戦って、怪我でもしたらただでは済まないだろう。
 そのことも考えないなんて、浅はか過ぎる。

「じゃあ、やって貰おうか?」

「えっ?」

 その自信が本物かどうか確認しないと、まずは判断できない。
 本人も戦う気で来たのだろうし、とりあえずやらせてみるのが手っ取り早い。
 なので、ケイは善貞の実力のほどを見るために、猪と戦わせてみることにした。

「この方向から猪が来ている。お前が相手してみろよ」

「わ、分かった」

 ケイの探知に、また猪の反応が引っかかった。
 丁度いいので、ケイは反応のあった北の方角を指さし、善貞に戦うように指示した。
 本当なら自分で見つけて退治するのが普通なのだが、それは一先ず置いておく。
 単純に善貞のレベルを見るためだ。

【大丈夫かな?】「ワウッ?」

 キュウとクウは、善貞が怪我をしないか気になるようだ。
 匂いなどから善貞は悪い奴ではないように思えるが、猪を倒せるほど強いかは微妙な気がする。 

「危なくなったら助けるよ」

【じゃあ、大丈夫だね!】「ワフッ!」

 ケイが見ているなら大丈夫だろう。
 安心したキュウとクウは、落ち着いて見ていることにした。
 流石に知り合いが死ぬのを、ただ黙って見ているほどケイは冷酷ではない。
 多少の怪我なら治せばいい。
 大怪我しそうな時だけ助けるつもりだ。

「で、でかっ!」

「……バカ!」

 静かに樹々の中を進んで行くと、先程ケイが指さした方角に猪の姿を発見した。
 緊張感が足りないのか、その瞬間善貞は声を出してしまう。
 見つからないように接近して初撃を与えるのが基本なのに、それすら知らないかのようだ。
 案の定善貞の声に反応した猪は、こちらに向けて突進し始めた。
 ケイは単純なミスをした善貞に、一言ツッコむ。

「くっ!?」

 ケイたちは離れた所にいるからか、猪が向かってくることはないが、善貞は完全にターゲットになったようだ。
 向かってきた猪の突進を、善貞は上手く横に跳んで回避する。
 通り抜けた猪は、ターンしてまた善貞へと突進する。

「ハッ!」

「プギッ!?」

 何度か猪の攻撃を回避した善貞は、抜刀して猪の側面を斬りつける。
 善貞の斬撃は、浅くだが猪に傷を付ける。
 斬られた方の猪は、悲鳴を上げて鼻息を荒らげる。
 そして、血走った目で善貞へ襲い掛かる。

「はっ!!」

「避けるのは上手いみたいだな……」

 猪の攻撃はたしかに早いが、善貞はその速度に慣れたのだろう。
 攻撃を躱してから刀で攻撃するを繰り返す。
 すると、多数の斬り傷によって、大量の血液を失った猪が横倒しになって動かなくなる。

「ハァ、ハァ、ハァ……」

 止めを刺して勝利を治めたが、攻撃を躱すのに集中し、ほとんどずっと無酸素運動をしていた善貞は、息切れをして座り込む。
 体力の限界に来たのだろう。

「もう、だめ、だ……」

「確かに1対1なら何とかなったが、しばらく動けないみたいだな……」

 息を切らしながら言葉を発する善貞。
 有言実行を果たしはしたが、これでは次の猪を倒せそうにない。

「ったく。こんなんでよくここに来たな」

 今のように、戦い終わった後にもう1頭が近寄って来たらどうするつもりだったのだろうか。
 剣術は指導を受けていたのか、しっかりしている。
 しかし、それ以外が良くないが、一応及第点といったところだ。

「キュウ! クウ! 善貞を見ててくれ」

【うん!】「ワウッ!」

 近寄ってくる猪の相手は、ケイがすることにした。
 体力切れで座り込んでいる善貞は、キュウたちに保護をしてもらうことにした。
 ケイの指示を聞いたキュウたちは、素直に返事をした。

「おっ!?」

 ケイが見事な隠形を行ない、猪の視界に入らないように接近する。
 しかし、猪は魔物の勘とでも言うのだろうか、ケイがいることに気が付いたようだ。
 すると、有無を言わずにケイへと接近してくる。

「っと!」

 突っ込んでくる猪を、ケイはジャンプして躱す。
 そしてそのまま腰から1丁銃を抜く。

「食らえ!」

“パンッ!”“パンッ!”

「プギャーー!!」

 銃口を向けられても、猪にとっては何をしているのかは分からない。
 怯むことなくケイに突っ込んで来た猪だったが、ケイの2発の銃弾を食らって脳天に風穴を開ける。

「これで今日は大丈夫だろう」

 探知を広げてみるが、猪の反応はない。
 今日の所はこれで終わりにしても良いようだ。

「お前、野宿する準備はしてきたのか?」

「……持ってない」

 食料を持ってこなかった上に、テントなども用意していなかったようだ。

「仕方がない。こいつを使え」

 別にこんな時のためではないが、古くなり予備にとっておいたテントを、ケイは善貞に渡した。

「ありがとう!」

 そのテントを受け取り、作り上げた善貞はすぐに中に入って大人しくなる。
 いつの間にか眠りにはいってしまったらしく、起こそうとしても全然起きないから、ケイたちが見張りを行なうことになってしまった。
 猪など、魔物は何も出なかった。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸
ファンタジー
高等魔術学園に入学した主人公の新田伸。彼は大人しく高校生活を送りたいのに、友人たちが問題を持ち込んでくる。嫌々ながら巻き込まれつつ、彼は徹底的に目立たないようにやり過ごそうとする。例え相手が高校最強と呼ばれる人間だろうと、やり過ごす自信が彼にはあった。何故なら、彼こそが世界最強の魔術使いなのだから……。最強の魔術使いの高校生が、平穏な学園生活のために実力を隠しながら、迫り来る問題を解決していく物語。 ※主人公はできる限り本気を出さず、ずっと実力を誤魔化し続けます ※小説家になろう、ノベルアップ+、ノベルバ、カクヨムにも投稿しています。

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。 不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。 その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。 彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。 異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!? *小説家になろうでも公開しております。

大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-

半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。

器用さんと頑張り屋さんは異世界へ 〜魔剣の正しい作り方〜

白銀六花
ファンタジー
理科室に描かれた魔法陣。 光を放つ床に目を瞑る器用さんと頑張り屋さん。 目を開いてみればそこは異世界だった! 魔法のある世界で赤ちゃん並みの魔力を持つ二人は武器を作る。 あれ?武器作りって楽しいんじゃない? 武器を作って素手で戦う器用さんと、武器を振るって無双する頑張り屋さんの異世界生活。 なろうでも掲載中です。

処理中です...