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第10章
第211話
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「到着……」
【ワ~イ!】
「ハッハッハッ……」
長い時間の船旅にテンションガタ落ちしているケイと違い、キュウとクウは目的地到着を喜び、ケイの周りを走り回る。
転生して50年以上の月日を過ごしたというのに、ケイはいまだに海は苦手だ。
前世の死因だからなのかどうしても慣れない。
「ここが日向か……」
日向に着いて最初の町は、反倉という港町だ。
一息ついて落ち着いたケイは、顔を左右に動かして、改めて周囲の様子を見渡した。
この世界では日向語というようだが、久々の日本語に感動する。
女性は色々な髪型をしており決まった形はないようだが、やはり綺麗な黒髪が自慢らしく、結っている人も下ろしている人も長いのが特徴的なようだ。
男性の方は髷を作っている人も多いが、月代を剃らずに前髪を後ろに撫でつけたいわゆる総髪と呼ばれる髷で、大体年配の人が多い。
若者たちは総髪の者もいれば、好き勝手な髪型をしている者もいてバラバラだ。
月代とは、丁髷をした時、剃っている部分のことだ。
『江戸時代末期から明治初期解いたところかな?』
髪型を見ただけの感じだと、これがケイの印象だ。
前世で日本史は得意とは言わないが、好きな方の科目だった。
特に明治維新の所が好きだったため、そう思ったのかもしれない。
【みんなかみがくろいね?】
たしかに、男性も女性も綺麗な黒色で、まるでみんな髪を強調しているようにさえ見える。
「美花と一緒だな……」
【そうだね……】「クゥ~ン……」
綺麗な黒髪女性を見てしまうと、ケイはどうしても美花のことを思いだしてしまう。
そして、ケイは美花の形見となる刀に目を落とす。
日向に着いてすぐ、美花に見せるという意味で魔法の指輪から出して、腰に差したのだ。
思わず呟いたケイの言葉に、美花との付き合いが長かったキュウとクウも少し落ち込む。
自分の呟きで、2匹にも哀しい思いをさせてしまったことに気付いたケイは、2匹を優しく撫でてあげる。
「さてと……、町中を見て回ろうか?」
【うん!】「ワンッ!」
ケイに撫でられ、2匹は元気を取り戻した。
それを見たケイも、気持ちも新たに町の様子を見て回ることにした。
「らっしゃい!」
最初に目が入ったのは魚屋だ。
ここが港町だからなのか、色々な魚がならんでいる。
威勢のいい掛け声をしていた店主に釣られたのもあるが、気になる文字が目に入る。
「……刺身?」
「あぁ、お客さん大陸の人だから知らないかもしれないけど、この国では魚を生で食う習慣があるんだ」
どうやら、魚を刺身にしてくれるサービスをしているらしい。
顔が完全に日向人とは違うので刺身が何か分からないのだと思ったのか、店主が丁寧に刺身の説明をしてくれた。
心の中で刺身は知ってますと思うが、とりあえず聞き役に徹する。
これまで世界が違うので生で食うのは控えてきたが、どうやら生でも食べられるようだ。
「寄生虫とかは大丈夫なのですか?」
「川魚の方は火を通さないとだめだが、海の魚は大体大丈夫だよ」
川魚と海魚の扱いは、どうやら前世の時同様で良いようだ。
海の魚でも危険な寄生虫がいるにはいるようだが、新鮮な魚の内臓を適切に処理すれば食中毒になることはないらしい。
「待てよ……」
前世同様の扱いと聞いて、いまさらながらに思いついたことがある。
目に見えない寄生虫がいても、それを除去できる方法だ。
「もしかして、魔法の指輪に入れると、寄生虫は自然と除去されるんじゃ?」
「っ!?」
魚たちをじっと見つめ、小さい声で呟いたケイの言葉に、魚屋の店主が目を見開いた。
まるで、雷に打たれたような反応だ。
「兄ちゃん! それ本当か!?」
「いや、試したことないっすけど……」
生物を収納できない魔法の指輪。
死んだ魚を収納しようとすると、体内で生きている寄生虫は収納されないのではないだろうか。
そう思ったのだが、どうやら店主も知らなかったようだ。
そんな方法で寄生虫が除去できるなら、魚屋だけでなく他の飲食店でも使えるのではないだろうか。
食中毒による被害もなくなり、売る方も買う方も、安心してどんな食材でも食べることができるようになるかもしれない。
食にとって大発見だ。
それを不意に発見したケイに、店主は実証済みのことなのかを、掴みかかるが如く迫りながら尋ねてきた。
しかし、ケイも今思いついたことなので、確実とは言い難い。
「これで試してみてくれ!」
そう言って、店主は解体していない数匹のサバを持って来た。
「こいつにはミミズに似た2mmくらいの寄生虫がいることがある。あんちゃんの言う通りに除去出来たら、目に見えるはずだ」
「わ、分かりました」
ミミズみたいな寄生虫と聞いて、ケイは前世の知識にある寄生虫を思いだした。
アニサキスだ。
有名人がこの寄生虫で腹痛を起こしたと、ニュースで大きくやっていたのを見たため覚えていたのだ。
自分としても思い付きの成否を知りたかったので、店主に言われるまま試してみることにした。
「……出ない。……出ない。……あれ!?」
木桶の上でサバを魔法の指輪に収納していくケイ。
予想通りになるのなら、サバが収納される瞬間に寄生虫だけが木桶の中に落ちるのではないだろうか。
そう思って試したのだが、3匹目で変化が起きる。
死んでいるサバなのにもかかわらず、魔法の指輪に収納されない。
「どういうことだ?」
「……もしかして、体内に生きている寄生虫がいるけど、収納時に除去してくれるという訳にはいかないのかも……」
収納されない原因が分からず、首を傾げる店主。
ケイも疑問に思ったが、すぐに理由が思いついた。
魔法の指輪に収納する時に、瞬間移動のように体内の寄生虫が取り除かれるのではなく、取り除かれたのを確認するために収納するのが正しい考えなのかもしれない。
今までよりも手間が増える結果が出てしまったようだ。
「それでも寄生虫がいないって証明になる。大発見は大発見だ!」
ちょっと残念に思ったケイだったが、店主の方はそうではなかった。
食の安全が確保されるなら、ひと手間増える程度のことはたいした苦にならない。
長年の経験から、そう考えた店主は、この結果でもとても嬉しそうだ。
「あんちゃん! その情報を他に広めてもいいか!?」
「えぇ……、むしろ広まった方が良いかもしれないですね……」
この程度のことが今まで思いつかなかったことに、何だか今まで損した気分になるケイ。
ケイは転生した時にすでに手に入っていたが、魔法の指輪は高価な代物だ。
持っている人間は少ないうえに、大半が冒険者だろう。
粗野な人間の多い冒険者では、このことを思いつくような者がいなかったとしても仕方がない。
店主は貴重なことのように思っているようだが、これで資金を得ようなんて思わない。
むしろ、広まってくれれば安全な食文化を築けるので、ケイとしても嬉しいことだ。
そのため、ケイは店主の頼みを受け入れたのだった。
「ありがてぇ! そうだ! たいした礼はできねえが、何匹かタダで持って行ってくれ!」
貴重な情報を教えてもらったことに上機嫌になったのか、店主はケイに魚を幾つか見せてきた。
どうやら、店の中でも上等な魚を見せてくれたようだ。
その中から、タダでくれるとのことだ。
「えっ!? いいんですか!?」
「おうよ! 男に二言はねえ!!」
まさか、たまたま思いついたことを呟いただけで、新鮮な魚がもらえるとは思わなかった。
ケイもだが、キュウとクウも魚は好きで良く食べている。
1人と2匹で1匹ずつというように、ケイは合計3匹の魚をもらうことにしたのだった。
【ワ~イ!】
「ハッハッハッ……」
長い時間の船旅にテンションガタ落ちしているケイと違い、キュウとクウは目的地到着を喜び、ケイの周りを走り回る。
転生して50年以上の月日を過ごしたというのに、ケイはいまだに海は苦手だ。
前世の死因だからなのかどうしても慣れない。
「ここが日向か……」
日向に着いて最初の町は、反倉という港町だ。
一息ついて落ち着いたケイは、顔を左右に動かして、改めて周囲の様子を見渡した。
この世界では日向語というようだが、久々の日本語に感動する。
女性は色々な髪型をしており決まった形はないようだが、やはり綺麗な黒髪が自慢らしく、結っている人も下ろしている人も長いのが特徴的なようだ。
男性の方は髷を作っている人も多いが、月代を剃らずに前髪を後ろに撫でつけたいわゆる総髪と呼ばれる髷で、大体年配の人が多い。
若者たちは総髪の者もいれば、好き勝手な髪型をしている者もいてバラバラだ。
月代とは、丁髷をした時、剃っている部分のことだ。
『江戸時代末期から明治初期解いたところかな?』
髪型を見ただけの感じだと、これがケイの印象だ。
前世で日本史は得意とは言わないが、好きな方の科目だった。
特に明治維新の所が好きだったため、そう思ったのかもしれない。
【みんなかみがくろいね?】
たしかに、男性も女性も綺麗な黒色で、まるでみんな髪を強調しているようにさえ見える。
「美花と一緒だな……」
【そうだね……】「クゥ~ン……」
綺麗な黒髪女性を見てしまうと、ケイはどうしても美花のことを思いだしてしまう。
そして、ケイは美花の形見となる刀に目を落とす。
日向に着いてすぐ、美花に見せるという意味で魔法の指輪から出して、腰に差したのだ。
思わず呟いたケイの言葉に、美花との付き合いが長かったキュウとクウも少し落ち込む。
自分の呟きで、2匹にも哀しい思いをさせてしまったことに気付いたケイは、2匹を優しく撫でてあげる。
「さてと……、町中を見て回ろうか?」
【うん!】「ワンッ!」
ケイに撫でられ、2匹は元気を取り戻した。
それを見たケイも、気持ちも新たに町の様子を見て回ることにした。
「らっしゃい!」
最初に目が入ったのは魚屋だ。
ここが港町だからなのか、色々な魚がならんでいる。
威勢のいい掛け声をしていた店主に釣られたのもあるが、気になる文字が目に入る。
「……刺身?」
「あぁ、お客さん大陸の人だから知らないかもしれないけど、この国では魚を生で食う習慣があるんだ」
どうやら、魚を刺身にしてくれるサービスをしているらしい。
顔が完全に日向人とは違うので刺身が何か分からないのだと思ったのか、店主が丁寧に刺身の説明をしてくれた。
心の中で刺身は知ってますと思うが、とりあえず聞き役に徹する。
これまで世界が違うので生で食うのは控えてきたが、どうやら生でも食べられるようだ。
「寄生虫とかは大丈夫なのですか?」
「川魚の方は火を通さないとだめだが、海の魚は大体大丈夫だよ」
川魚と海魚の扱いは、どうやら前世の時同様で良いようだ。
海の魚でも危険な寄生虫がいるにはいるようだが、新鮮な魚の内臓を適切に処理すれば食中毒になることはないらしい。
「待てよ……」
前世同様の扱いと聞いて、いまさらながらに思いついたことがある。
目に見えない寄生虫がいても、それを除去できる方法だ。
「もしかして、魔法の指輪に入れると、寄生虫は自然と除去されるんじゃ?」
「っ!?」
魚たちをじっと見つめ、小さい声で呟いたケイの言葉に、魚屋の店主が目を見開いた。
まるで、雷に打たれたような反応だ。
「兄ちゃん! それ本当か!?」
「いや、試したことないっすけど……」
生物を収納できない魔法の指輪。
死んだ魚を収納しようとすると、体内で生きている寄生虫は収納されないのではないだろうか。
そう思ったのだが、どうやら店主も知らなかったようだ。
そんな方法で寄生虫が除去できるなら、魚屋だけでなく他の飲食店でも使えるのではないだろうか。
食中毒による被害もなくなり、売る方も買う方も、安心してどんな食材でも食べることができるようになるかもしれない。
食にとって大発見だ。
それを不意に発見したケイに、店主は実証済みのことなのかを、掴みかかるが如く迫りながら尋ねてきた。
しかし、ケイも今思いついたことなので、確実とは言い難い。
「これで試してみてくれ!」
そう言って、店主は解体していない数匹のサバを持って来た。
「こいつにはミミズに似た2mmくらいの寄生虫がいることがある。あんちゃんの言う通りに除去出来たら、目に見えるはずだ」
「わ、分かりました」
ミミズみたいな寄生虫と聞いて、ケイは前世の知識にある寄生虫を思いだした。
アニサキスだ。
有名人がこの寄生虫で腹痛を起こしたと、ニュースで大きくやっていたのを見たため覚えていたのだ。
自分としても思い付きの成否を知りたかったので、店主に言われるまま試してみることにした。
「……出ない。……出ない。……あれ!?」
木桶の上でサバを魔法の指輪に収納していくケイ。
予想通りになるのなら、サバが収納される瞬間に寄生虫だけが木桶の中に落ちるのではないだろうか。
そう思って試したのだが、3匹目で変化が起きる。
死んでいるサバなのにもかかわらず、魔法の指輪に収納されない。
「どういうことだ?」
「……もしかして、体内に生きている寄生虫がいるけど、収納時に除去してくれるという訳にはいかないのかも……」
収納されない原因が分からず、首を傾げる店主。
ケイも疑問に思ったが、すぐに理由が思いついた。
魔法の指輪に収納する時に、瞬間移動のように体内の寄生虫が取り除かれるのではなく、取り除かれたのを確認するために収納するのが正しい考えなのかもしれない。
今までよりも手間が増える結果が出てしまったようだ。
「それでも寄生虫がいないって証明になる。大発見は大発見だ!」
ちょっと残念に思ったケイだったが、店主の方はそうではなかった。
食の安全が確保されるなら、ひと手間増える程度のことはたいした苦にならない。
長年の経験から、そう考えた店主は、この結果でもとても嬉しそうだ。
「あんちゃん! その情報を他に広めてもいいか!?」
「えぇ……、むしろ広まった方が良いかもしれないですね……」
この程度のことが今まで思いつかなかったことに、何だか今まで損した気分になるケイ。
ケイは転生した時にすでに手に入っていたが、魔法の指輪は高価な代物だ。
持っている人間は少ないうえに、大半が冒険者だろう。
粗野な人間の多い冒険者では、このことを思いつくような者がいなかったとしても仕方がない。
店主は貴重なことのように思っているようだが、これで資金を得ようなんて思わない。
むしろ、広まってくれれば安全な食文化を築けるので、ケイとしても嬉しいことだ。
そのため、ケイは店主の頼みを受け入れたのだった。
「ありがてぇ! そうだ! たいした礼はできねえが、何匹かタダで持って行ってくれ!」
貴重な情報を教えてもらったことに上機嫌になったのか、店主はケイに魚を幾つか見せてきた。
どうやら、店の中でも上等な魚を見せてくれたようだ。
その中から、タダでくれるとのことだ。
「えっ!? いいんですか!?」
「おうよ! 男に二言はねえ!!」
まさか、たまたま思いついたことを呟いただけで、新鮮な魚がもらえるとは思わなかった。
ケイもだが、キュウとクウも魚は好きで良く食べている。
1人と2匹で1匹ずつというように、ケイは合計3匹の魚をもらうことにしたのだった。
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