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第9章

第202話

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「おっ? いつも以上にやる気だな?」

「あぁ、最後だからな……」

 今日で最後になるからなのか、アウレリオはいつも以上に気合いの入った表情で、いつもの草原でケイを待ち構えていた。
 いつも通りの時間に来たケイは、軽い準備運動をした後に武器を取り出す。

「全力で行く!」

「あぁ、いいぞ!」

 これまでも本気だったが、今日はケイを殺すつもりでの本気。
 あからさまに殺気を飛ばすアウレリオに、ケイも真面目な顔で答えを返す。

“バッ!!”

「っ!?」

 いつものようにケイが開始の合図をする前に、アウレリオはロングソードを抜いて斬りかかる。

「そう来たか……」

 あからさまにフライングした攻撃に、ケイは両手に持った銃をクロスさせて受け止める。
 そのまま鍔迫り合いのような状態になりながら、ケイは一言呟く。

「お前もいいと言っただろ?」

「あぁ……」

 たしかに、アウレリオが行くと言った後に、ケイも了承の言葉を言った。
 それを、ある意味合図と言えば合図と取れる。
 そもそも、アウレリオが殺気を出した時点でちゃんと警戒はしていたケイは、そんなことで腹を立てるつもりはない。
 通常冒険者の戦いの相手は魔物。
 「よーい始め」で戦うなんてことはまずありえない。
 そうでなくても、冒険者になる者の中には頭がおかしい者も紛れている。
 同じ冒険者を出し抜くためには、何でもするという考えを持っている者もいる。
 何でもするの中には、殺してでもというのも入っている。
 そんなのを相手にしていれば、アウレリオがしてきたことは大したことではない。
 ちゃんとご丁寧に殺気を飛ばしてからの行いなのだから、むしろ奇襲の意味はあまりない。

「ムンッ!」

「っと!」

 鍔迫り合いの状態から、アウレリオがおもいっきりケイを押す。
 それによって、数歩の後退を余儀なくされたケイは僅かに体勢を崩す。

「ハッ!!」

「っ!?」

 体勢を崩したケイの胴に向かって、アウレリオは剣を横に振る。
 その振りの鋭さからいって、当たれば大怪我間違いない。
 だが、ケイはその剣を更に後方へと飛び避ける。

「っ!?」

 そんなケイに対して、アウレリオは更に追いかける。
 まるで、距離を取らせないようにするかのようだ。

『これまでの戦いで、ケイは遠近どちらの状況でも戦える技術を持っている。それでも、近接戦闘の方ならまだ戦える』

 ケイを追いかけながら、アウレリオは頭の中で自分の攻撃が当てられる策を考えていた。
 アウレリオがケイとの距離を離さないようにしているのは、離れて戦うと勝ち目が全然ないからだ。
 離れて戦うとなると、ケイのバリエーションの多い魔法や銃による攻撃によって、躱すことに集中させられて体力を削られ、近付くことが難しくなり降参するしかなくなる。
 それに比べれば、自分の得意分野である近接戦闘に持ち込む方が、一矢報いることができる可能性がある。
 そのため、何としても離れないように距離を詰め続ける。

「っ!?」

「……近接戦が希望か?」

 攻撃の回避で、後退や左右へと追いかけられる立場だったケイだが、急にアウレリオに向かって前進する。
 アウレリオの動きを見る限り、近接戦を求めているようなので、ケイは要望に応えることにしたのだ。
 昨日までの9日間の手合わせでも何度か近接戦を行ったが、たいてい距離を取って遠距離に釘付けにするようにケイは戦ってきた。
 その方が、戦いやすいからだ。
 しかし、思えばアウレリオは近接戦を得意にしているタイプ。
 最後くらいはそれに付き合った戦いをしても良いだろう。

「このっ!」

 急にケイが向かって来たことに、アウレリオは意外に思いつつも剣を振る。
 袈裟斬り・逆袈裟と斬りかかるが、ケイはそれを躱して懐に入り込む。

「ふんっ!」

「うっ!?」

 アウレリオの懐に入ったケイは、腹に向かって蹴りを打ち込む。
 感覚を重視するタイプのアウレリオは、蹴られると分かった瞬間に自ら後方に飛び、攻撃によるダメージを軽減させようとする。
 その動きは、最初の時よりも反応が早くなっている気がする。
 とは言っても、完全にダメージを抑えることなどできない。
 後方に飛んで着地した瞬間、アウレリオは腹を撫でて痛みを紛らわす。

「くそっ!」

 ダメージを減らすためとは言っても、自分から距離を取らせるようなことをしてしまい、アウレリオは思わず言葉を発する。
 そして、すぐさまケイに向かって地を蹴る。
 ケイの方はというと、いつもとは違って銃で距離を取らせるようなことをして来ない。

「ウラララッ!!」

 ケイの表情からいって、別に舐めている様子はない。
 しかし、これはアウレリオにとっては好機。
 全力でケイに連撃を切り出す。

「っ!?」

 これまでの手合わせで最速の攻撃に、ケイは僅かに慌てる。
 アウレリオの攻撃を完璧に躱すことができず、頬や服が僅かに切れる。

「フッ!」

「っ!?」

 自分の攻撃が掠り、このまま連撃を続けようとしたアウレリオだが、ケイは連撃の1つを見極め、左手の銃で受け止める。
 渾身の連撃を止められ、アウレリオは目を見開く。

「ハッ!!」

「うがっ!?」

 攻撃を止められて、アウレリオの動きも一瞬止まる。
 そこにケイのハイキックが襲い掛かる。
 反射的に避ける暇もなく、ケイの攻撃を綺麗に食らったアウレリオは、そのまま気を失った。





「…………? ……あれっ?」

「あっ、起きたか?」

 流石に気を失ったアウレリオを放って置いて村に戻る訳にはいかず、ケイは起きるのを待っていた。

「結局、掠らせる事しか出来なかったか……」

「動きも反応速度も上がってる。ちょっと本気出させただけでも良しとしろよ」

 全力を尽くしても、ケイには全然届かなかった。
 せめてもの救いは、頬に小さな傷を付けることができたくらいだ。
 落ち込むアウレリオを、ケイは慰めるように声をかける。

「ちょっと……、か……」

 慰めてくれているつもりなのだろうが、たいして本気でなかったと言われて、アウレリオはさらに落ち込む。

「じゃあ、これでお別れだな……」

「あぁ……、んっ?」

 ケイに傷を付けられるようになったし、昨日言っていたように、もう十分ブランクの解消はできただろう。
 そのため、ここで別れようとケイが告げ、アウレリオが了承した。
 しかし、アウレリオが何かに気付いたような反応をする。

「何だ?」

 そのアウレリオの反応に引きずられるように、ケイもアウレリオの視線と同じ方向に目を向ける。

「あれっ? あっちは村の方角だよな?」

「あぁ……」

 すると、2人が目を向けた方向には煙が上がっていた。
 その煙が上がっている所に何があるかと言ったら、2人が寝泊まりしていたキョエルタの村だ。

「…………まさか!?」

「あっ!? おいっ!!」

 その煙に嫌な予感を感じたケイは、アウレリオの制止の言葉など耳に入らない様子で、村に向かって走り出したのだった。

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