199 / 375
第9章
第199話
しおりを挟む
「エスペラスか……」
【エスペラス?】
「ZZZ……」
宿屋の部屋で椅子に座り、キュウとクウを撫でてのんびりしていたケイだが、アウレリオから聞いた話を思いだしていた。
彼の妻の病気に関してはよく分からないが、治せる可能性のある実の名前は分かっている。
しかも、ケイが知っている植物の実だ。
その植物のことを思うと、呟きと共に思わずため息が漏れる。
ケイに撫でられて気持ちよさそうにしていたキュウも、その呟きに反応する。
クウの方は気持ち良さで眠ってしまったようだ。
「そう。エスペラスだ」
【あまりおいしくないやつだ!】
ケイといつも一緒にいるキュウも、島の植物は良く知っている。
特にケイが食べられると言った物は、たいてい口にしていた。
「……小さい頃よく食べてたけど、不味かったのか?」
【うん!】
最近では食べなくなったが、確かに子供の頃キュウはちょくちょくエスペラスの実を食べていたような気がする。
てっきり味が気に入っているのかと思っていたのだが、そうではなかったようだ。
「じゃあ、何で食ってたんだ?」
【おなかいっぱいになりたかったから!】
キュウは魔物の餌とまで呼ばれるほど弱小のケセランパサランのため、食べられる物を知っておくことは生き延びるためには重要なことで、味は2の次、3の次といったところだ。
ケイが釣った魚をよく食べていたが、それだけでは物足りない時に摘まんでいたそうだ。
「……そうか。悪かったな……」
【きにしないで】
その頃は、キュウは念話なんて出来なかったので、意志の疎通がうまくいっていなかったようだ。
まさか、空腹を満たすために食べていたとは思わなかった。
そんな思いをさせていたとは思わなかったので、なんとなく申し訳なく思ったケイはキュウに謝る。
謝られたキュウはというと、なんてことないように軽い口調で返す。
「そのエスペラスが、この大陸にはあまり生えていないらしい……」
【しまだったらいっぱいはえてるのにね?】
「そうなんだよな……」
アウレリオの妻がかかっているドロレス病。
その治療に最も有効な治療薬と思われるエスペラスの実。
人族が住む大陸ではなかなか自生していないらしく、手に入れることが困難になっているそうだ。
キュウの言うように、アンヘル島ならばそこかしこに生えているようなものだ。
「探すか……」
【さがす?】
本当は、島に戻って取ってくるのが手っ取り早いが、家出中とも言うべき状態のケイはなんとなく戻りづらい。
見つからないと言っても、多少の情報ぐらいあるはず。
その情報があれば、ケイなら見つけてくることも出来るかもしれない。
「近くにあるならの話だがな」
【キュウもさがす!】
自分の妻が苦しむのを見ているのが辛いということは、ケイも身をもって知っている。
アウレリオのためにそんなことをしてあげなければならないほど、別に仲が良くなったっ訳ではない。
しかし、何故だかその苦しむ奥さんのことを助けてやりたいと思う。
「…………そうか」
【ん? なに?】
「いや……、何でもない」
それが本当に何故だか分からず、ケイはその理由を考える。
すると、その理由に気付いた。
「要は自分のためなのか……」
理由が分かったケイは、1人で納得した。
アウレリオの奥さんを助けたい理由。
それは、美花を救えなかった自分が関係してくる。
妻の美花を救える事が出来ず、自分の無力さを痛感たケイ。
アウレリオの奥さんを救うことで、自分は美花の命を救った気になりたいのかもしれない。
だから、結局アウレリオのために動こうとしているのではないだろうか。
「ハハ……」
【?】
「ZZZ……」
それが分かると、何だか自分が小さい男のように思えてくる。
そのため、ケイは自嘲気味に小さく笑った。
主人のその笑いの意味が分からずキュウは首を傾げ、クウはずっと眠ったままだった。
◆◆◆◆◆
「あそこの山らしいな……」
【エスペラスあるかな?】「ワンッ!」
翌日、エスペラスを探しに行くことに決めたケイは、アウレリオとの手合わせを午前中に済ませると、村の住人からエスペラスの情報を得て、その実の採取に行くことにした。
貴重だと言うので全く期待していなかったのだが、このキョエルタの村から南の方角にある山のどこかに自生しているという噂レベルの話が出てきた。
はっきり言って、普通の冒険者なら行くのに速くて2日はかかる工程を、ケイたちは1時間でたどり着いた。
明日もアウレリオと会う約束をしているので、今日中にキョエルタの村に戻らなければならない。
なので、エスペラスを見つけるにしても、あまり多くの時間を費やすわけにはいかない。
「クウ! 今回はお前の鼻が頼りだ!」
【がんばれ!】
「ワンッ!」
ケイとキュウからの期待の言葉に、クウは任せろと言うように返事をする。
クウもアンヘル島に住んでいたので、エスペラスのことは知っている。
その実のこともだ。
エスペラスの樹や実には匂いがない。
しかし、柴犬そっくりの魔物のクウなら鼻が利くはず。
人では感じないエスペラスの樹や実の匂いを感じ取れるかもしれない。
そのため、ケイはクウに捜索をさせることにしたのだ。
周囲に人がいないので、猫のマスクも外している。
邪魔な物がないので、鼻も万全だろう。
「…………結局、見つからなかったか」
「……ク~ン」
【ゲンキだせ!】
ケイの呟きが聞こえ、クウはシュンとしている。
そのクウを、キュウが慰めている。
日が暮れて村に戻ってきた一行は、いつもの宿屋の部屋へ戻った。
ケイが呟いた通り、クウの鼻を使っての捜索は空振りに終わった。
「本当に貴重なのか、それともあそこに存在しないのか……」
クウの鼻が悪いわけではない。
そのことが分かっているので、ケイもクウの頭を撫でて慰めてあげる。
どうやら、今日探した周囲には存在していなかったのだろう。
最悪は、あの山に存在していないという可能性もあるが、それを考えたら虚しいので考えない。
「明日も探しに行こう」
【うん!】「ワンッ!」
今日は村人からの情報収集という時間がかかったために短い捜索しかできなかったが、明日はそれがない分短縮できる。
今日以上に捜索範囲を広げれば、もしかしたら見つけられえるかもしれない。
明日に期待し、ケイたちは眠りについたのだった。
【エスペラス?】
「ZZZ……」
宿屋の部屋で椅子に座り、キュウとクウを撫でてのんびりしていたケイだが、アウレリオから聞いた話を思いだしていた。
彼の妻の病気に関してはよく分からないが、治せる可能性のある実の名前は分かっている。
しかも、ケイが知っている植物の実だ。
その植物のことを思うと、呟きと共に思わずため息が漏れる。
ケイに撫でられて気持ちよさそうにしていたキュウも、その呟きに反応する。
クウの方は気持ち良さで眠ってしまったようだ。
「そう。エスペラスだ」
【あまりおいしくないやつだ!】
ケイといつも一緒にいるキュウも、島の植物は良く知っている。
特にケイが食べられると言った物は、たいてい口にしていた。
「……小さい頃よく食べてたけど、不味かったのか?」
【うん!】
最近では食べなくなったが、確かに子供の頃キュウはちょくちょくエスペラスの実を食べていたような気がする。
てっきり味が気に入っているのかと思っていたのだが、そうではなかったようだ。
「じゃあ、何で食ってたんだ?」
【おなかいっぱいになりたかったから!】
キュウは魔物の餌とまで呼ばれるほど弱小のケセランパサランのため、食べられる物を知っておくことは生き延びるためには重要なことで、味は2の次、3の次といったところだ。
ケイが釣った魚をよく食べていたが、それだけでは物足りない時に摘まんでいたそうだ。
「……そうか。悪かったな……」
【きにしないで】
その頃は、キュウは念話なんて出来なかったので、意志の疎通がうまくいっていなかったようだ。
まさか、空腹を満たすために食べていたとは思わなかった。
そんな思いをさせていたとは思わなかったので、なんとなく申し訳なく思ったケイはキュウに謝る。
謝られたキュウはというと、なんてことないように軽い口調で返す。
「そのエスペラスが、この大陸にはあまり生えていないらしい……」
【しまだったらいっぱいはえてるのにね?】
「そうなんだよな……」
アウレリオの妻がかかっているドロレス病。
その治療に最も有効な治療薬と思われるエスペラスの実。
人族が住む大陸ではなかなか自生していないらしく、手に入れることが困難になっているそうだ。
キュウの言うように、アンヘル島ならばそこかしこに生えているようなものだ。
「探すか……」
【さがす?】
本当は、島に戻って取ってくるのが手っ取り早いが、家出中とも言うべき状態のケイはなんとなく戻りづらい。
見つからないと言っても、多少の情報ぐらいあるはず。
その情報があれば、ケイなら見つけてくることも出来るかもしれない。
「近くにあるならの話だがな」
【キュウもさがす!】
自分の妻が苦しむのを見ているのが辛いということは、ケイも身をもって知っている。
アウレリオのためにそんなことをしてあげなければならないほど、別に仲が良くなったっ訳ではない。
しかし、何故だかその苦しむ奥さんのことを助けてやりたいと思う。
「…………そうか」
【ん? なに?】
「いや……、何でもない」
それが本当に何故だか分からず、ケイはその理由を考える。
すると、その理由に気付いた。
「要は自分のためなのか……」
理由が分かったケイは、1人で納得した。
アウレリオの奥さんを助けたい理由。
それは、美花を救えなかった自分が関係してくる。
妻の美花を救える事が出来ず、自分の無力さを痛感たケイ。
アウレリオの奥さんを救うことで、自分は美花の命を救った気になりたいのかもしれない。
だから、結局アウレリオのために動こうとしているのではないだろうか。
「ハハ……」
【?】
「ZZZ……」
それが分かると、何だか自分が小さい男のように思えてくる。
そのため、ケイは自嘲気味に小さく笑った。
主人のその笑いの意味が分からずキュウは首を傾げ、クウはずっと眠ったままだった。
◆◆◆◆◆
「あそこの山らしいな……」
【エスペラスあるかな?】「ワンッ!」
翌日、エスペラスを探しに行くことに決めたケイは、アウレリオとの手合わせを午前中に済ませると、村の住人からエスペラスの情報を得て、その実の採取に行くことにした。
貴重だと言うので全く期待していなかったのだが、このキョエルタの村から南の方角にある山のどこかに自生しているという噂レベルの話が出てきた。
はっきり言って、普通の冒険者なら行くのに速くて2日はかかる工程を、ケイたちは1時間でたどり着いた。
明日もアウレリオと会う約束をしているので、今日中にキョエルタの村に戻らなければならない。
なので、エスペラスを見つけるにしても、あまり多くの時間を費やすわけにはいかない。
「クウ! 今回はお前の鼻が頼りだ!」
【がんばれ!】
「ワンッ!」
ケイとキュウからの期待の言葉に、クウは任せろと言うように返事をする。
クウもアンヘル島に住んでいたので、エスペラスのことは知っている。
その実のこともだ。
エスペラスの樹や実には匂いがない。
しかし、柴犬そっくりの魔物のクウなら鼻が利くはず。
人では感じないエスペラスの樹や実の匂いを感じ取れるかもしれない。
そのため、ケイはクウに捜索をさせることにしたのだ。
周囲に人がいないので、猫のマスクも外している。
邪魔な物がないので、鼻も万全だろう。
「…………結局、見つからなかったか」
「……ク~ン」
【ゲンキだせ!】
ケイの呟きが聞こえ、クウはシュンとしている。
そのクウを、キュウが慰めている。
日が暮れて村に戻ってきた一行は、いつもの宿屋の部屋へ戻った。
ケイが呟いた通り、クウの鼻を使っての捜索は空振りに終わった。
「本当に貴重なのか、それともあそこに存在しないのか……」
クウの鼻が悪いわけではない。
そのことが分かっているので、ケイもクウの頭を撫でて慰めてあげる。
どうやら、今日探した周囲には存在していなかったのだろう。
最悪は、あの山に存在していないという可能性もあるが、それを考えたら虚しいので考えない。
「明日も探しに行こう」
【うん!】「ワンッ!」
今日は村人からの情報収集という時間がかかったために短い捜索しかできなかったが、明日はそれがない分短縮できる。
今日以上に捜索範囲を広げれば、もしかしたら見つけられえるかもしれない。
明日に期待し、ケイたちは眠りについたのだった。
0
お気に入りに追加
635
あなたにおすすめの小説
平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~
金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。
そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。
カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。
やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。
魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。
これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。
エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。
第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。
旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。
ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜
墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。
主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。
異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……?
召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。
明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる