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第9章

第195話

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「ここら辺でいいだろ……」

 いつまでも付いてこられるのは不愉快なので、追跡者と一度接触してみることにしてケイ。
 出来ればそうなりたくないが、もしもの場合のことを考えて、村から離れた草原へと連れ立ってやってきた。

「とりあえず、名前は?」

「アウレリオだ」

「そうか……、俺はケイという」

「ケイ……」

 簡単な自己紹介をし、ケイはすぐさま本題に入る。

「俺たちを追って来る理由を聞こうか?」

 向かい合った状況で、ケイは男に尾行をしてくる理由を問いかけた。
 追跡される理由はいくつか思いつくが、今一番有力なのはキュウの件だ。
 キュウを捕獲するために手配書が出回り、マスクを着けて行動する前まではしょっちゅう冒険者がちょっかいをかけてきた。
 マスクをしてからはそれもなくなったのだが、このアウレリオという男だけは違うようで、この村まで付いてきた。
 手配書の件である可能性が高いが、他の件の場合もある。
 ケイとしては、もしもキュウを寄越せと言うのなら断るが、何か他の理由があるなら聞いてやらなくもない。
 そのための問いかけだ。

「ケセランパサランに異常に反応している金持ちがいてな……」

「それと俺に何の関係がある?」

 どうやらこのアウレリオという男も、これまでの冒険者たちと同じだった。
 今のケイはマスクをしているので、手配書に描かれた顔とは違っているはず。
 そのため、ケイには関係ないことだという言い訳ができる。

「……どうやら人違いのようだ」

 マスクを作ったのは正解だったと、今回も思う。
 前にケイたちにちょっかいをかけてきた冒険者たちが持っていたのと同じ手配書を出し、アウレリオはマスクをしたケイと見比べるが、当然ながら似ていない。

「そうか……ならばもうついてくるなよ」

 これでもう、ついてくることはないだろう。
 そう思って、ケイはアウレリオの前から立ち去ろうとする。

「ちょっと待ってくれ!」

「んっ? 何だ?」

 立ち去ろうとするケイの前に、アウレリオは待ったをかける。
 手配書の件は人違いで済んだはずだ。
 これ以上関わり合う理由がない。
 さっさと戻って、キュウたちを愛でてのんびりしたいところだ。
 進行方向を立ち塞がれたケイは、ちょっと不機嫌そうに首を傾げる。

「勝手なことで悪いのだが、ちょっと手合わせしてもらえるか?」

「…………はっ? 何で俺が?」

 本当に勝手なことだ。
 頭の中で変換するのに少し時間がかかり、ケイは聞き返すのに一瞬間が空いてしまった。
 もう関係ない赤の他人なのだから、はっきり言って関わらないでほしい。
 何でそんなことを言って来るのか訳が分からない。
 断りとも取れる言葉と共に、ケイはまたも村へと足を進める。

「ちょ、ちょっとだけ俺の話を聞いてくれ……」

「え~……、もういいだろ?」

 相手にしてくれないケイに、アウレリオは足を止めてもらおうと、またも前に対塞がり理由を話そうとしてくる。
 ちょっと手合わせしたら、もしかしたらアウレリオがどうやって自分を追跡できたのか分かるかもしれない。
 しかし、無駄に疲れるだけで、はっきり言って面倒くさい。

「実は、俺には妻がいてな……」

「いや、お前の家庭話なんて……」

 もう関係のない相手の家庭話なんて全く興味が無い。
 許可をしてもいないのに話し始めるアウレリオを、ケイは無視するようにまたも足を進め始める。

「不治の病にかかっているんだ!」

「…………それで?」

 アウレリオの言葉に、ケイは何でだか足が止まってしまった。
 そして、アウレリオが話が何故か気になり、思わず話の続きを聞きかえしてしまった。

「……という訳で、彼女の病を治すためにも、この手配書の男を探し出したいんだ!」

『目の前にいるけどな……』

 アウレリオの話を最後まで聞いて、何だか可哀想に思ってしまった。
 話のリアリティーから、彼の語ったことは嘘や作り話と言ったようには思えない。
 ここでアウレリオと別れれば、もうケイを追ってくることはなくなり、二度と会うこともなくなるだろう。
 そうなると、彼の奥さんの病は治らずじまいになってしまう。
 「関係ない!」で済ませたいところだが、ケイも亡くなった妻の美花を救おうと悩みに悩んだ経験がある。
 まるでその時の自分を見ているような気がしてならない。
 妻を救うことができるなら、したくもない仕事だろうと、何だろうとやってやると言う気合いがアウレリオからにじみ出ている。
 その妻を救う情報を手に入れるためにも、ケセランパサランを捕まえたいというのは分かった。
 しかし、キュウを渡すわけにはいかない。
 手配書に描かれている男が自分だと言うに言えない状況に、ケイは悩ましい表情で固まる。

「ここに来るまでに体を動かして確認したが、俺には冒険者としてのブランクがまだある。あんたほどではないと思うが、手配書の男も結構な使い手だと思う。せめてブランクがなくなるまで、協力してもらえないだろうか?」

『いや、それ俺だし……』

 冒険者をあっさり返り討ちにしていたことで、余計に警戒されてしまったのだろうか。
 手配書の男の相手をする時の事を考えて、アウレリオのブランク解消を手伝うように頼まれてしまった。
 手配書の男も自分だし、何だかおかしなことになってきた。
 奥さんの話を聞いてしまった以上、関係ないで済ませるのはまともな人間ではありえない。
 ブランクを解消する手伝いだけなら、別にバレないようにできる。
 しかし、そうすると彼は奥さんを救う手立てを手に入れられない。
 正体がバレても、バレなくても、どっちも面倒くさいことになってしまった。

「べ、別にいいぞ……」

 結局こう言うしかないことになってしまったケイだった。

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